※本稿では
- 「お父さん、
いかがですか?」
数人の問いかけに、
- 「ほんといつまでもあきないよね」
美希が両手の中指を立てて笑った。鳳晏は長い吐息を漏らす。
- 「お父さん、
さあ回答をどうぞ」
数人に促されて様也は血の涙をこぼしながら顔を上げた。凛とした光が目に宿っている。何かがいつもと違う。
- 「ケース1は、
満足度についての質問だ。満足度は相対的なものであるため、 1回きりの調査で把握するものではなく、 時系列の変化を追うことが肝要だ。変化を読み、 その要因を探り、 対処し、 その後の変化から対処方法の成果を評価する。一連の流れの中に位置づけるべきものである。したがって、 『満足度は1回ごとに内容を最新のものに変更し、 その都度最新の結果のみで解釈すべきである』 と 『満足度は1回ごとに棒グラフにするとよい』 は誤り」
突如として流れるように様也が解説を始めた。美希と鳳晏が顔を見合わせる。
- 「したがって正解は、
『満足度は1回ごとの評価だけではなく、 過去のものと比較し時系列変化をとらえることが重要である』 『満足度は複数の年次を散布図にして比較するとよい』 『満足度は複数の年次を折れ線グラフにして比較するとよい』 の3つだ。ケース2は当然散布図しかありえない」
数人が目を見開く。
- 「お父さん……合っています。とうとうデータの神に愛されたのですね」
カナリアのような声が震える。その瞬間、
- 「お父さんがいなくなってしまった。これはどういうことです?」
日ごろは神のごとき平常心の数人が迷子の幼子のように取り乱している。白魚の指でつややかな髪をかきむしる姿は、
- 「やっと元にもどった」
鳳晏がほっとしたように息をついた。
- 「ほんとどうなるかと思ったよ」
美希は立ち上がると、
- 「どういうことですか?」
母の熱い抱擁を受けている数人は、
- 「全部は思い出せないか……無理もない」
美希が数人を抱きしめたまま、
- 「なんかお母さん、
いやらしい」
と鳳晏がつぶやく。
六道家の主人である様也は1年前に他界していた。重要な報告書で誤ったグラフを作ったことを苦にしてだった。当時すでにグラフの神童だった数人は父の悩みを解決できなかったことを悩みぬき、
類い希なる頭脳で、
父の仕事を助けることができなかった悔しさを、
だが、
- 「なるほど、
長い間ご迷惑をおかけしました」
数人は、
- 「いいのよ。おもしろかったから、
血の涙とかいう芸も堪能させてもらったし」 - 「全部録画してあるから、
あとで編集してYouTubeにアップする」
鳳晏が笑う。
- 「さすがにそれは止めてくれないかな」
「冗談だって。でも欠陥のない兄貴のダメなところを見られて、 兄妹なんだって実感が湧いてきた」 - 「僕は、
あまりよくない兄だったのかもしれないな」 - 「人生はセックス、
ドラッグ、 ロックンロールだからいいんじゃないの?」
美希が中指を立てると、
- 「明日の一周忌もローリングストーンで行くからね。喪服の背中に
『成仏上等』 って刺繍しておいた」
数人と鳳晏は困った顔で苦笑いする。
不遇の人生を送った様也をよそに、
次回からは、