こんにちは。グラフィックファシリテーターの、やまざきゆにこです。前回に引き続き、「筆がグイグイ走る!が教えてくれること」の第二弾です。
「筆がグイグイ走る」のは、発言者の発言の中身、例えばその着眼点やわかりやすさのおかげに尽きると日々感じているのですが、その中でも最近特に実感するのは「優秀なリーダーシップを発揮している人の話は、なんて描きやすいんだろう!」ということです。
前回は「いいこと言ってるなあ!」という発言を絵にしてしまう話を書きましたが、今回は「いいこと言ってるなあ!」だけでは終わらせない人たちの絵の話、「いいなあ!」を実現していく力のある人たちが描かせる絵の話、とも言えると思います。
- 「力強いリーダーシップを発揮する人とは」
- 「メンバーや聞き手を動かす人とは」
- 「こういう話ができる人たちなんだ!」
ということに気付かされる日々。今日はそんな私の勝手な確信を私なりに分析し、ご報告したいと思います。
では早速、どんな絵を描いたのか、いつものように実例からご紹介します。
「いいなあ、その例え!」
この絵はオーケストラを指揮する“指揮者”の絵です。
このワークショップのテーマは「“調和”」というちょっと抽象的なテーマでした。
“調和”を体感する方法として用意されていたのは絵の具セット。参加者は3色(赤青黄)の絵の具から様々な色をつくるところからスタート。そうして微妙な違いや相性を感じ取るというわけですが…。
講師は「正確に色をつくることが目的ではなく、全体を見て色の“調和”を感じてほしい」と何度も言ってましたが、参加者は慣れない絵の具を前に正しい割合で色を混ぜることに精一杯!
「“調和”が大事」
私も、この言葉を今日のテーマと知りつつも、その時はなんとなくぼんやりと頭の片隅で捉えていただけでした。しかし、講師は何度も「細かいことは気にせず」「混ぜる割合に神経質にならず」「全体の“調和”を見ながら」と繰り返す中で、こんな<例え>を言ったんです。
「“調和”は英語でいうと“ハーモニー”。あなた達はオーケストラの“指揮者”のような役割ね。いろいろな楽器をうまくリードして美しい“ハーモニー”を奏でるつもりで楽しんで」と。
それまで何も描いてはいなかった私ですが、それを聞いて一気に指揮棒を振るこんな絵を描きました。「いいなあ、その例え!」と。特別工夫を凝らすこともなく講師の言葉“そのまんま”の絵です。
ただ描いた直後の私はまだこれがそのワークショップの鍵となる絵だとは思っていませんでした。みんなも細かい作業に目は疲れ、肩は凝り、今何のためにこの作業をしているのか見失っているようでした。でも、コーヒーブレイクの合い間になんとなくこの絵を眺めます。すると、「なんのために」今この作業があるのかを、この絵が思い出させてくれます。しかもこれを描いたのは5日間のプログラムの初日。その後もずっとこの絵が壁に貼られているので、参加者は次の日もこの絵を目にします。そうして、じわじわと「調和とは…」「大事なことは…」「そういうことか!」という発見が、参加者のみならず私自身の中にも芽生えてきました。
例え話が好きな人は多いかもしれませんが、大勢の人を巧みにまとめるリーダーや講師が語る<例え>はちょっと違うんです。私の分析では、彼らの<例え>にはこの絵のように最後まで持続する力があるんです。目指した[ゴール]へ、大勢のメンバーや参加者を引っ張って行く力がある。聴衆の意識や行動までも変えてしまう絵なんです。優秀なリーダーシップを発揮する人ほど、こんな<例え上手>の方が本当にたくさんいらっしゃいます。おかげで私はとっても描きやすい!
「いいなあ、その思い!」
次の絵は、ある結婚式の様子を描いたものです。
事業を率いるトップの方の発言「結婚式という場を、家族の絆をもう1度見直す場にしたい」という言葉を聞いて思わず描いた一枚です。この絵の中で注目してほしいのはリボン結びをしているところ(あまり画像を大きくできないんですが見えますでしょうか)。
「“絆をもう一度見直す”」という言葉を聞いて「絆という赤い紐を結び直す」絵が思い浮んで一気に描きました。しばらく疎遠になっていた親戚や友人と結婚式という場で再会し、新郎新婦が感謝しながら、ちょっと緩くなっていた絆という赤い紐を結び直しているという絵です。
ただ、このとき筆がグイグイ進んだのは、描きやすい絵が思い浮んだからではありません。正確には「いいなあ、その思い!」と思って「何か描き留めておかなくちゃ!」と発言者の思いに筆が共感したのが先でした。そこでなんとか絵にした、という順番です。
トップの人ほど<思い>が強いと感じたことはありませんか?“本気度”が違う。本気でその目標を実現しようと思っている。まさにこの絵を描いたとき、私の筆が感じたのもその熱い本気の<思い>だったと思います。
そして、熱い<思い>を語る人の発言が、こうも描きやすいのは、なぜか。
それはこのトップの方の頭の中に、すでにこの幸せな結婚式の[シーン]がしっかり思い描けていたからだと思います。それを頭の中に思い描きながら事業への<思い>を語っているので、聴いている私の頭の中にも自然と(私なりの映像ですが)結婚式シーンがイメージできたんだと思います。だから私の筆は勝手に走り出した。
ちなみに、優秀なリーダーだからといってだれもが表現上手というわけではありません。熱い<思い>がうまく表現できない方もいます。<例え話>が上手くない方もいます。しかし、私の経験上、その人の頭の中に理想的な[シーン]が描けていればいるほど、語られる<思い>は強くゆるぎないものになり、結果として私の筆もグイグイ勝手に走り出します。
「いいなあ、その世界!」
[ゴールシーン]がすでに頭の中に描けているということ。それが優秀なリーダーの共通点なのではないかと思うんです。
「いいなあ、その例え!」「いいなあ、その発想!」「いいなあ、その思い!」すべてはその理想的な[ゴールシーン]を想定して発言されているから、聴いている私は描きやすい。
さいごにもう1つの絵を紹介します。これは「夫婦共働きでも安心して子育てできる社会」についての議論を絵にしました。
このときは議論がとても盛り上がりその熱気に筆が追いつくのもやっとでした。「子育てを終えたお母さんたちに、子供を預かってもらえたら安心だよね」「地元の職人さんと気軽にふれあえたらいいよね」「そんな支援があったらいいね」「そんなサービスがあったら今すぐ利用したい!」などなど。紙面も足りなくなってしまうほど。
一気に描き終わってみると、そこにはみんなが「いいなあ!」と思い描いた<世界>が一枚に込められていました。その後、議論をされていた方たちはこの絵をデジカメに撮って自分達の事業が目指すべき社会[シーン]として掲げてくださいました。「いいなあ、その世界!」が描けると、その絵には目標数字などで語られる[ゴール]とはまったく違った、組織全体を導く力があることを、私自身が教えられた経験でもありました。
「いいなあ」が見えると、変わる
さて、筆が喜ぶ「いいなあ」を前回から振り返ってみると
- 「いいなあ、その疑問!」
- 「いいなあ、その違和感!」
- 「いいなあ、その例え!」
- 「いいなあ、その思い!」
(ほかにもまだまだありますが)どれもが最終的に
「いいなあ、その世界!」
に向って転がっていく様子が見えてきました。
そして、実際、具体的に「いいなあ、その世界!」が描けると、メンバーの意識や行動まで変わってくる。そんな変化を見るにつけ、人はいくら理論を並べて目標を置いたとしても、結局は「いいなあ」と感じる世界に心も体も喜んで動いていってしまうのではないかと思っています。そしてそんな多くの人の共感を呼ぶ<世界>を具体的に思い描いて、みんなに語れるのが、優秀なリーダーたちと言えるのではないでしょうか。
優秀なトップの人ほど、突然思わぬ角度から議論に切り込んでくる。そんな場面に立ちあった経験はありませんか?近くにいる優秀な上司や先輩がどんな[ゴールシーン]を描いているかちょっと頭の中をのぞいてみてください。すると例えば「上司があのときなぜ提出した資料にあんな指摘をしてきたのか」とか「なぜこういうツッコミをしてくるのか」そのヒントが見えてくるかもしれません。
さて次回は、ちょっと趣向を変えて「クライアント座談会」をお届けしようと思っています。実際に私のグラフィックファシリテーションを活用してくださる企業の担当者の方たちに「実際のところ効果のほどはいかに」ということを正直に語っていただく予定です。ぜひ楽しみにしていてください。
ということで今日のところはここまで。グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/