こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。前回に引き続き、絵の世界を楽しむ人たちに共通する要素の一つ、「場」を引っ張っていく[リーダーシップ]について紹介したいと思います。
グラフィックに興味津々に近づいてきて、口火を切る人の多くは「場」のリーダーだと前回お話しました。そして、そんな彼らは共通して、絵の中をまるで歩いているような目線で、グラフィックの世界を遊びだしていくんです。
壁に並ぶグラフィックを見て「この絵、かわいい!」とか「この絵、うまく言い当ててる!」と自由に感想を言っているときは、絵の世界の中に入らず、少し距離をおいて俯瞰している感覚です。その視点から見えることは、これまでの連載でいろいろご紹介してきましたが、今回は、その先の、絵の世界にじぶんが降り立ったときに出てくる発言について考えていきます。
じぶんも絵の世界の登場人物になれる人
たとえば、 下の絵は「イノベーションを引き起こす組織のあり方」を描いた絵です。「みんなで夢やビジョンを共有している場」の状態を、私のイメージではインディアンが火を囲むような神聖な場を思い描いて絵にしています。
この絵は、「イノベーション行動科学」という研究プロジェクト(国際大学グローバル コミュニケーション センター(GLOCOM)主催)で、大学教授陣を招いて議論を交わすとてもアカデミックな場で描いたのですが、議論はまじめな「組織論」「リーダーシップ論」。 場の雰囲気は、プロジェクターに映し出される研究発表資料や配布資料を見ながら、机をコの字型にしてみんなは腕を組みつつ「組織はこうあるべきだ」「真のリーダーはこうあるべきだ」という議論の中にありました。
しかし、それが席を離れて、プロジェクトメンバーの一人が絵に近づいてきたとき、焚火に薪をくべにきた一人の男の人を指差してこう言いました。
「この薪をくべにきた右の男の人はさ、じつは左の女の子を見て『あの女の子かわいいな』っていうだけで焚火に寄ってきててもいいわけでしょ」
私にはその視点はまったくなかったので思わずこの言葉を聞いて笑ってしまいました。「この男の人はさ~」と言った彼の目線は、まさしく彼自身の目線。絵の世界にじぶんが入り込み、彼自身の目線から話をしていますよね。その視線で、絵の世界に立てたとき、あとは本当に自由に、しかも具体的に話が展開していきます。 彼の感覚としては、ただ目に見えることを言っているだけかもしれませんが、他人からみると「想像」が広がっている、「創造力」があるようにも見えます。でも「想像」といってもそれは本当に具体的でものすごく現実性を帯びていて、聞いている側も本当に楽しいんです。
絵の世界に入り込んだ人の言葉は、「場」を呼ぶ
そして、周りも面白がってその世界についていきます。
- 「確かに、『エコで地球を救う』という価値観に共感しているようで、本音は『エコってちょっとオシャレだし』という感覚で焚火に近寄ってくるのもありだよね。そうして実際、活動は広まっていってる」
- 「イノベーションを起こすには、みんなが近寄りやすい大義名分を掲げてあげるってのは大事だね」
- 「そういえば、ビジネススクールに通う大義名分のもと、じつは出会いの場を求めている友人がいますよ~」etc.
ここでのポイントは、3つあると思っています。1つは彼のストレートさがみんなの本音を引き出すところです。どこか違和感を抱いていたり「そうはいっても」と心の中で思っていたことを、自然と周囲から呼び出してしまうところ。そして周囲の想像力・創造力まで豊かにしていくところです。
もう1つのポイントは、こうして絵の世界で遊んで素直に感じた発言の中に、議論の本質や見落とせない観点が必ず聞こえてくるところです。まさに 絵の世界に降り立った人がその場の[リーダーシップ]を発揮していると言えるゆえんなのですが、このときの彼は
「『ビジョンや価値観に共感してます』と言って仕事している人たちって 実際は、少数派なんじゃないの?」
というのが発言の大元にある考え方でした。「理想論はわかるけど、現実はみんながみんな同じ思いや熱さを持って集まっているとは限らないよね」ということです。
違和感や逆にそっちのほうがいいと何かピンと感じる反応が早いのはリーダーに共通する感覚ですが(ただ、それはみんなも実は心の中では思ってたり感じていたことなのですが)、それをはっきりと口に出して確かな発言として伝えることができるのが、まさに絵の前で口火を切る人たちに共通しているんです。
そして3つめのポイントとして挙げておきたいのが、この発言の受け取られ方の違いです。 同じセリフを言ったとしても、ただ配布資料を目にしてその場で、思いついたこと、気づいたことを発言するストレートさとは違います。絵の前で遊んだ人が発した言葉はストレートに受け取られやすいんです。「想像」「創造」の世界を見て、それを実際見ているかのように話をして発言する言葉には重みがある。[リーダーシップ]を発揮する人に共通する言葉の強さの1つには、こうした状態があるのではないかと感じています。
たとえその場にグラフィックが無くても、[リーダーシップ]を発揮する人の発言の前提には必ず「想像」「創造」があって、その世界を目で見て歩いてそのままを語っている状態。まさにグラフィックの絵の前でその世界に降り立って見える世界を話している状態です。それは聞いている側も映像として思い描きやすく、興味が持てて、しっかり伝わってくる。同じセリフを言ったとしても伝わる相手の数の多さも伝わり具合もその言葉の重さも違うんです。
絵を見て何気なく口火を切った人が、例えばプロジェクトの「場」全体に感じていたお行儀の良い、でも固い空気を、がらりと変えていきます。そして、みんなの頭の中にも、私自身の中にも、最初に思い描いた炎を囲む神聖な場からもっと現実的な世界が見えてきたのです。
[リーダー]の会話の"目線"になってみる
[リーダーシップ]を発揮している人たちの目線を今一度この絵を使ってのぞいてみませんか?さきほどの絵について簡単にグラフィックフィードバック(解説)します。絵の中に登場するだれかの目線になってみてください。何が見えてくるでしょう?じぶんの想像が広がり始めたらそれはその世界に降りた証拠です。
絵の上部には、トップダウンのヒエラルキー組織のイメージを氷河期のように冷たい世界に描きました。ボスが“じぶんの成功体験”という四角い枠に当てはめようとするので、従業員たちはすっかり自分で考えることを忘れ、枠と同じ四角い頭になってしまいました。 言われたことだけのことをする従業員は個性を失い、組織の冷たさに凍え、感情を失ったロボットです。ここにイノベーションは期待できません。
一方、絵の中央には、焚火を囲む温かい世界。ここではリーダーが灯した炎に浮かび上がる「夢」や「ビジョン」、「価値観」に惹かれて、人が次々と「共感」という薪を手にして集まってきています。 焚火を囲んで「夢」や「ビジョン」「価値観」を共有して語り合い、 仲間たちが「共感」の薪をくべるたびに炎は大きくなります。自律型の協創組織のイメージです。
絵の下部では、先ほどの凍り付いていたロボット従業員も炎の温かさに触れて、 感情という火が灯りました。そして、いつしか自ら松明を掲げて歩き始めています。ここは、だれもがリーダーになりうる組織です。焚火から火種を持って新たな松明を掲げた人がリーダーです。
私はこの絵を、実際ポストカードサイズに印刷したものを持ち歩いていて、プロジェクトとはまったく関係ない方にも見せています。そのときの会話をいくつか紹介すると、
- 「焚火囲んで、同じ釜の飯食って、若い頃は飲みながら熱く語ってたけど、最近こういう語らう時間ってないな」
- 「上司の成功体験と似たものしか考えなくなってるかも」
- 「研修をやっていると、本当に場が大切。安心して発言できる場になってないと本音なんて出てこない。きっとこういうあたたかい場が必要なんだろうな」etc.
みなさんの中にも、ご自身が所属する組織やプロジェクトと照らし合わせた方は多いのではないでしょうか?その絵を見てほかに何か思い出したことはありますか?具体的なあるときの出来事がワンシーンとして見えてきた人もいるのではないでしょうか?
ちなみに私は、この絵を眺めていたら、焚火の炎が大きく照らすそばで、みんなで寝っころがりながら、近くに落ちていた小枝を使って地面に絵を描いているじぶんを想像してました。温かい場所でゴロゴロするのが大好きなせいかもしれませんが、夢やビジョンという炎に照らされた中での対話はどこか前向きです。もしだれかが「でも現実は厳しいよ」と言ったとしても、そんな仲間の弱音を小枝でチョイチョイと突ついて、「そう言いながら本当は本気で未来を語りたいくせに~」なんて言いながら、みんなの語る世界を描いているんです。
絵の中に降りて遊ぶ感覚、なんとなくでも感じ取ってもらえたらうれしいです。
ということで今日のところはここまで。 次回ももう少し絵の世界を歩く楽しさを紹介します。 グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/