こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。ここ最近、私のグラフィックの中にも、「不況」「先が見えない」「業績悪化」「人員削減」といった言葉から描く絵が本当に増えました。
そこで今回は(前回の予告では引き続き[リーダーシップ]を発揮する人の絵の世界の楽しみ方=“ポジティブな” 議論の引っ張り方を紹介するつもりでしたが予定変更!)、じつは世の中の会議の大多数を占めているかもしれない“ネガティブな”空気と発言が飛び交う議論の現場で、それを絵にしたときに起きる変化を紹介します。
ここでちょっとこんな会議室を想像してみてください。「社会のせい」「会社のせい」「上司のせい」。[リーダーシップ]とは真逆の立場から、他人のせい、他の出来事のせいにした[他責な発言]が、議論の合間合間に聞こえてくる会議室です。
- 「そうはいっても、こんな景気じゃどうしようもないよ」
- 「会社がどうしたいのか決めてくれないと、ここで何も決められない」
- 「そもそも、上司の意見がバラバラ、ぐらぐら、ハッキリしない」etc.
これが居酒屋での会話ではなく、会議室での会話であったとき、あなたならどんな絵を描きますか?
みんな大好き!「できない理由」「ダメ出し」発言
グラフィックファシリテーションを始めた当時の私は、こうした愚痴まじりの発言を絵にすることをどこかためらってました。そもそもその大半が、議論のちょっとした“すき間”にポロッと聞こえてくる一言です。実際その場で大きく扱われることもなく、流されてしまう言葉。議論をゴールに押し進める発言にも聞こえてこない。「後ろ向きな絵を描いてみたところで、未来を見据えたこの場には必要ないのでは」と思ったり。
でも一方で、そのポロッと聞こえてくる一言が、とっても気になってしょうがない。今思えば、それは、会議の進行や合意形成を大きく邪魔している“何か”を教えてくれる大事な言葉でした。ただ当時は、「こんな暗い絵に囲まれても、だれもうれしくないんじゃないの?」と会議の場に気を遣ってた私もいました。 だって、とにかく絵にすると…“暗い”んです。 だれかの発言を批判したり、会社のせいや世の中のせいにした居酒屋議論。飲んで、くだまいて、解決する気もなく堂々めぐりの会話をしている赤ちょうちんの絵になっちゃうわけです。
でも、その私の思い込みが、じつは違ったんです。その居酒屋の絵は、とってもとってもとっても(!)皆さんにウケました。
「じつは私も…」自分だけじゃなかった、が嬉しい!
どちらかというと、その絵を見せられたみなさんは、とってもうれしそうなんです。
今では私も、拾える限り、すべての愚痴や不平・不満も、何の遠慮もなく描き留めます。そのときの絵は、黒ペンだけで描いた暗く汚い絵になったりもします。人の顔も怒ったり不満げな表情ばかりで、紙面には不平不満のセリフだけがひたすら掃き溜めのように積もることもあります。それでも、その絵を生み出した張本人である皆さんたちは食い入るように見て、また楽しそうに会話を始めるんです。
そして、ある瞬間から、今度は別人のように、みずから自分たちで未来を語り出すんです。さっきまで他人のせい、何かのせいにしいていた人と同一人物とは思えないぐらい。「じぶんたちが」「われわれが」と[自責の発言]に変わってくるんです。
[他責な発言]を散々繰り返していた人たちが、どうして「じぶんたちが」「われわれが」と[自責の発言]に変わってくるのでしょう。[他責な発言]をすること自体は、悪くありません。私だって言ってます。でも、[他責な発言]ばかりが続く議論は避けたいですよね。彼らの中に何が起きているんでしょう。ここで、ある研修で描いた絵をご紹介します。
下の絵は、ある企業の管理職研修で描きました。社内で大量のメールと、会議のための資料作りに追われている様子を描いています。
- 「とにかく忙しい」「時間に余裕がない」
- 「メールがものすごく多い」「CCがやたらと多い」
- 「社内に会話がない」「静か」「雰囲気が暗い」
- 「メールと会話している」「挨拶すらしてない」
続いて下の絵は、みんながパソコンに向かって仕事をしていますが、一人一人に目に見えないバリア(点線)が張られている様子を表したものです。後ろを振り返る人からは、その人が何をやってるかわからなくて声もかけられない。
そんな「不信感」が、この見えないバリア(壁)のせいで、紫色のモヤモヤとなって増幅し、でも行き場を失って、気分の悪い煙となって社内に充満しているイメージで描いています。そんな状態をさらに詳しく描いたのが次の下の絵です。
いつしかお互いの間に立ちはだかる心の壁。きっかけはほんの些細なコミュニケーションの欠落。でも、この壁が、心の中で思ったことを言わないままでいる状態を引き起こし、その思いだけが溜まる一方。空気は紫色に淀み、社内を曇らせて、ますますお互いのことを見えなくしている不健全な状態です。見ていてとっても息苦しそう。
そして、こんなふうに、ムスッとした人や慌てて目を回している人など、辛い表情の人ばかりが登場する絵の前に、皆さんは立ち止まって、指を差し、「そうそう!」とどこか面白がって感想をその絵に重ねていくんです。
「思いは同じ」がわかると「それならば!」
私からグラフィックダイアログを始めなくても、自由に感想や意見が出てくるので、例えばこのときは「メールを開いて[未読]が並んでるのを見るとうんざりするよね」と聞こえてきたので、それもどんどん描き足していきます。描きながらも、さらに私は「他にもっと描いてほしい絵はないですか?」と聞きます。
先日は、8つぐらいのグループに分かれて議論しているテーブルを回っているとき、あるグループで、ホワイトボードに「上司からの指示や意見がバラバラ」と書かれた言葉を指差して、私に「これも描いて!」と無言で合図を送ってきた方たちがいました。私は喜んで描きました。絵にうまく描けても描けなくても、とりあえず紙面に描く。そしてまた、しつこく「描き残しはないですか?」と聞くのです。
こうして時間の経過と共にいろんな絵がある中で、多くの参加者が大きな共感を示すのは、これらの[現状を最も言い当てた絵]なんです。そしてみなさんおっしゃるんです。
そうして発言が自由に解放されていくうちに、あるときから
- 「もっとこういう職場でありたい」
- 「待っててもしょうがない」
- 「じぶんが変わらないと何も始まらない」
という会話が聞こえ始めてくるんです。議論が未来に向い出す瞬間。[他責な発言]から抜け出す瞬間。先ほどの絵を描いた後には、こんな意見も出ました。
- 「今の会社のイメージカラーは、グレー。じぶんたちのカラーを出していきたい」
これにはドキッとしました。紫色で描いた私ですが、じつは最初に思いついたのが灰色のイメージ。でも「グレーで描いては絵がさすがに汚いないなあ」と無意識のうちに紫色を選んでいたんです。そんな私のヘンな遠慮に気付かされたほど、皆さんが今のじぶんたちの[現状]を見つめて、未来に向かって歩き出す瞬間です。
不平・不満こそ「紙に書いて定着」させるのススメ
さっきまで[他責]という椅子に座って話をしていた人たちが、「じぶんが」と立ち上がり始めるのはなぜか。
「課題の共有」「現状認識」。そんな言葉にしてしまうと、それはとっても“表面的な”「共有」や「認識」のような気がします。「不満を吐き出させればいいの?」「本音を言わせればいいの?」それも大事な要素ですが、それだけなら飲み屋で発散することでとっくに解決していてもよさそうです。
ここで大事なのは「そこに(紙に/ホワイトボードに)書かれている」という共通のものをみんなで見ているという状態だということです。「紙に書いて定着」させてあげるというところなんです。
その言葉を、私は絵にします。その後、また同じように誰かが「メールが本当に多い!」と言いました。でも、それはもう絵になっているので、私は特に描き足しません。ではその発言は、どこへ行くかのというと、すでにある絵の中に落ちていきます。実際、発言した人もその絵を指差して「これこれ」と言いながら話していました。
また別の人が「1日50通以上入ってくる」「出張したらもっと溜まる」と言ってみても、同じです。それらの言葉はその絵に向かって落ちて行きます。同じ人が再び「メール多すぎ、どうにかならないの」と言ったとしても、同じです。
そうしているうちに、言えば言うほどその絵に落ちて行くことを皆さんも感じるんです。そしてそのうち「もうここに描いてあるな」と気付くんです。「いくら言っても、もう描いてあるし」「いくら言ったところでしょうがない」という気になってくる。結果、繰り返さなくなるんです。止まるんです。
そして何より「自分だけじゃなかった」「みんな同じ気持ちなんだ」という安心感を得るんです。それが[自責]に向かう一番の原動力かもしれません。
[他責な言葉]って、もはや口癖のようになっていたりするんですよね。本人は愚痴や不平・不満のつもりはないぐらい、ついポロっと言ってしまう言葉。しかしこの繰り返す言葉こそ、「単なる愚痴や不平、不満」と軽く流すことはできないぐらい、じつは議論の実行や合意形成を邪魔している大きな壁だったりするんです。
それらの発言を何にも書かず、宙に浮かせたままだと、流れてその場では一瞬消えます。しかし結局また、だれかがポロっとつぶやいたりするんです。でも流される。まただれかが発言する、流される、流されてもいいから発言する、また流される…を繰り返す。受け取られてないという感覚が残るからかもしれません。
そこで、愚痴や不平・不満もとりあえず一度「紙面に定着」させてあげる。これは本当に有効です。今日からみなさんも実践できます。私のように絵にしなくても、みなさん自身がホワイトボードや模造紙を使って会議の合間に聞こえてきた一言を、紙面の片隅に書いておく。それだけでいいんです。そしてそれがみんなの見える共通の紙面の中にある。そんなことが、大きく議論を変えて行くんです。
「紙面に定着させる」その効果は遠回りのようにみえてものすごくゴールを引き寄せるパワーを持っています。それについて、もう少し書きたいと思いますが、長くなりますので続きは来年に致します。ということで、今回はここまで。新年も引き続きどうぞよろしくお願いします! グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/