[聴く]を仕事にする女性達との三者座談会。前回語られた“聴くためのマインド”に続き、聴ける力がどのようなもので構成されているか、という話にテーマが移っていきました。
ワタ:「あの人が発言すると何かが違う」という人には、どうすればなれるのか。具体的には、その人が発言することで議論がより深まったり、場の雰囲気がよくなったり、そういう発言には何が必要なのか、どうしたらそのスキルが得られるのか。そういうことが知りたいんですよね。
ゆに:なるほどね。そこで、会議をうまく進める力量の1つとして、これからは[聴ける力量]が問われてくると思うんですが、どうでしょう? [聴ける力量]をスキル分解してみます。
①「本当に言いたいことは何なのか」に戻れる力
ゆに:田中さんのおっしゃった「解決に急ぐのではなく」「じっくりゆっくり」「解決の糸口を探す」という言葉が分かるなあと思って聴いてました。会議を絵にしていると「みんな何をそんなに急いでるの?」と思うことが本当にたくさんある。
奥山:うんうん。
ゆに:先日ミヒャエル・エンデの『モモ』を読んだら、急いでいるときほど実はゆっくり歩かないと進めないという小路で、「もうちょっとはやく歩けない?」というモモに、亀が甲羅でメッセージを送るんです。「オソイホド ハヤイ(遅いほど早い)」って。これを読んだとき、そう!そう!と思って。
田中:メディエーターは、当事者同士のお話し合いを助けていくとき、"解決案"を提示することは目的としていないんです。「本当に双方が言いたいことは何なのか」ということに「もう1回戻ってみる」ことが大事ですね。もしからしたらお二人の糸口が違ったのかもしれない。AさんとBさんの糸口が違っているように、メディエーターである自分もAさんやBさんと糸口が違っていたかもしれない。こういうところを、いかに早く見つけられるか。
ゆに:私が絵を見直して(前の絵に戻って)分析しているときがまさに「もう一回戻る」です。でも「戻ることが大事」であることは、なかなか知られていないと思います。よく「ゆにさんが絵でまとめてくれるんですか」と言われるんですが、私は、最初は拾うので精一杯。まとめながら描くなんてことはできない。けれど、支離滅裂なときほど、後で一気にすごい速さでまとまることがあるから、「慌てないで」とも思います。「まとめる」と言った瞬間に、先を急ぎすぎて、何か大事なものをいっぱい落っことしていっちゃう気がしてならない。結局、会議が増えて、遅くなるかもしれないと思えてならないときがある。
田中:一生懸命何かを言わんとしているところから、その人の「本当に話したいことは何か」を探ってます。その中で、メディエーションでは、「ポジションにあるイシュー」ではなく、「ニーズにあるイシュー」は何か、を拾っていくようにしています。
ゆに:「ニーズにあるイシュー」?
田中:例えば、「2階の洗濯機の音がうるさい」と言ってる1階の人と、「自分は音を出していない」という2階の人がいると、それはポジション(立場)からの発言なので、そこでいくら話をしても、矢印がまったく別の方向を向いたまま。でもお互いの子供同士は仲良くさせたいというのが、二人のニーズかもしれない。2人の共通部分やお互いのニーズがあるとしたら、いかにそのニーズ(要求)に寄ったイシュー(論点)を拾えるかで、メディエーターの技量が試される。ポジションは矢印がバラバラに向いているから、そこのイシューをいくら拾っても進まない。
ワタ:会議も一緒ですね。「うちの立場ではこれはできません」と言い合うのではなく、「お互いどうしたいか」という観点で話がきれば、普段とは違った会議になるのかもしれない。「ポジションではなく、ニーズにあるイシューを拾う」という意識を持って、人の発言を聴いたら、面白い分析ができそう。
ゆに:「ポジションか、ニーズか」を意識するだけでも、ゆっくり聴けるかもね。
②「つまり、こういうことが言いたいんですね」と伝え直す力
田中:最初の受付の段階で相談者に、「こういうことがおっしゃりたいんですね」と言葉を返したときに「そう!それそれ!」とうれしそうに言われると、私もすごく嬉しい。「そうそう、それが言いたかった。よくぞ聴いてくれた」「いままで話を聴いてくれる人がいなくて、やっとここで会えました」と言われる。
奥山:私は、「この人が言いたいのは、(訳出する方の言語で言うと)このフレーズだ!」と、パシッとパズルのピースがはまるときの、「ビンゴ!」という感覚がうれしい(笑)
田中:分かります。その「ビンゴ!」の感覚。相手から「それビンゴ、ビンゴ!」「あなたが言ってくれたのは自分にとってビンゴ」と言われるときは、よかったと思う。
ゆに:3人とも共通して、仕事の中で「あなたは本当は、こういうことがおっしゃりたいんですね」をやっていますよね。聴いてもらっている人が本当に欲しいのは、その「ビンゴ!」なのかも。
奥山:そうですね。聴いてもらった次に「言ってもらいたい」というのはありますよね。
ゆに:グラフィックフィードバック(解説)すると必ずワーって拍手が出るんですね。いつも「ナンダナンダ?この拍手は?」と。愚痴や不満のようなネガティブな絵ほど参加者にウケたりする。きっとそれも、「ビンゴ!ビンゴ!」の拍手だったのかも。
田中:それが、「本当は言いたかった」こと、
ゆに:かもしれないですよね。
田中:あ!「言いたかったこと」というか、「聴いてほしかったこと」。
奥山:「聴いてほしかったこと」!うんうん。
ゆに:なるほどね!「本当に聴いてほしいこと」か。
③「本当に聴いてほしいこと」を探し続ける力
田中:あ-!自分で言ってびっくりしました。その人が「言いたいこと」と「本当に聴いてほしいこと」は違うのかもしれない。
奥山:子供が小学生の頃、帰って来るなり「あれも嫌だ、これも嫌だ」ってひどく当たり散らしたことがあって、よくよく聴いてみると、最初に口にしたこととは全然関係ないことだったんですね。学校で友達ともめたとか、飼ってた動物が死んじゃったとか。
ワタ:確かにいくら自分が話したいことを話してもスッキリしないことがある。逆に、「本当に聴いてほしいこと」を相手に指摘されて自覚するときがあります。
ゆに:「本当に聴いてほしいこと」って本人も自覚してないこと多いですよね。何かを言わんとしてるんだけど、ぐちゃぐちゃもつれていて、その人自身も、「本当に聴いてほしいこと」はわかっていない。
ワタ:研修で教えてくれる、相手の話を聞いて自分の言葉で言い換えるという聞く技術があるけど、自分が話している内容を相手の言葉で言い換えられても何かスッキリしないことがあります。
田中:興味本位でこっちが知りたいことを聞いてしまった時には、やはり話し手から反発的な感情が表されることがあると思います。例えば、洗濯機の音についてメディエーターが先走ってした質問で、「なんでその時間に洗濯するの?」と聞いたとして。その質問が、当事者がその時に「本当に聴いてほしい」または「応えたい」ことなら、その場は自然に和み前に進みます。
ワタ:相手が話しているときに、「言いたいことはなんだろう?」と思って聴いていても、その奥にある「相手も自覚できてない本当に聴いて欲しいこと」までは意識して耳を傾けたことはなかったな。でも、この「聴いてほしいことを引き出す」というのは、仕事だけに限らず、人が生きていく中で、結構、重要なことだと思うんです。
田中:恐らく「言いたいこと」の多くは「ポジション(立場)」で、「本当に聴いてほしいこと」が「ニーズ」。立場はすごい主張したい。でも、本当は「聴いてほしい」ニーズが隠れてる。
奥山:そうかそうか。そうですね!
田中:すごい整理ができました(笑)。
④「第三者」ではなかった?! 「当事者の立場」でアウトプットする[責任感]
タカ:「聴く」というと、「受け身」という印象があったのですが、お話を聴いていると、みなさんは「第三者」ではなく、「話者」・「発言者」に最も近い立場ではないかと。共感できるから分かることがあるのかなと。
ゆに:「第三者」と思い込んでいたので「第三者ではない」とは思ってもみなかったですね。とすると「第二者」?「第一者」?
ワタ:私もそれは思いました。奥山さんが、モヤモヤした発言を、クリアにして訳すのではなくて、モヤモヤしていることが伝わるように訳していることに驚いたんですけど、まさに「話者になりきる」という真髄で、真似できないなあと思いました。
奥山:「話者」ねー。
ワタ:皆さんが口寄せとか「降りてくる~」という状態になるとか、自分の記憶に焼きつくほど理解されているというのは、一度、「話者」の視点で理解・共感したうえで、「一回入れて、出す」からなんだろうなと思って。そのとき、相手の聴いてほしいことを見つけだして投げ返しているんだと思います。だからこそ、聴いてもらった相手は「ビンゴ!」とスッキリする。
ゆに:「あの人が会議で発言すると何かが違う」という人も、「発言(アウトプット)」する前に精一杯「聴いている(インプット)」があるかもね。
ワタ:会議って、別に会議全体のアウトプットを参加者は目的としてない。でも、たとえば研修を受けるときも、ただ行ってくるだけの研修と、自分が次講師やるぞって思って聴くときって、たぶん全然違っていて。
田中:伝達研修。
ワタ:3人のようにアウトプットするために聴く姿勢で参加したら、すごい違うんだろうな。アウトプットをするかしないかで、[聴く]に大きな違いがある。「話者」に近くなれるのは、アウトプットがあるというのが大きいと思う。
タカ:「聞いてる」は受身の状態ですが、一段上のアウトプットするための道具の「聴く」で、皆さんは関わっているお仕事というのを実感しました。
全員:おー!
ゆに:今、まさにタカハシさんに、私たちが本当に「聴いてもらった」というのがよく分かった。言って欲しかったことを言ってもらえたという感動がある(笑)!
奥山:(笑)うん。
全員:(拍手)!!!
ゆに:私たちのように[聴くを仕事にする]人が"話し合いに介在する価値"を、高橋さんに今、言い当ててもらったという実感があってうれしいです。まだまだ通訳者をただの翻訳機能としか、私もただの絵の議事メモ係りとしか思われていないことが多いから。私たちの介在価値をどう伝えたらいいか、ずっと課題意識を持っていたので。
奥山:うんうん。
ゆに:私たちが日々「これってこういうことですよね」と言っていたことを、タカハシさんの言葉を借りると、「発言者に近い」「共感の一段高いレベルで言い直している」と言えるのかも。なんだか、この場を企画した私が「本当に聴きたかったこと」かも。
全員:(笑)
ゆに:プロジェクトで、会議の後に、通訳者から話を聴く時間を持つだけで大分違いますよね。
奥山:実際、自発的になさる方たちも居ます。「あそこどうった?ここどうだった?」と聴いてくれる。
ワタ:通訳者さんの場合、両方の言語が分かる人が同席していない限り「ビンゴ」だと分かる人がいないうえに、あえて通訳者さんに「ビンゴ!」と指摘する場面もないですよね。会議が終わった後に、ゆにのグラフィックフィードバックのように、「この会議をこういう風に感じました」と通訳者さんにフィードバックしてもらうと、今まで得られなかったような貴重な気づきや「ビンゴ!」が生まれるかも!
⑤振り返りながら「未来を探し続ける」力
奥山:「こんなつまんない会議ですいませんでした」と謝られることもあるんです(笑)。でも、なんていうか、
ゆに:そう思わないんですよね。
奥山:ちょっとずつでも先に進んでるんですよね。
ゆに:わかります。グラフィックファシリテーションって、左から右に描き続けていくと、その先には未来しかないんです。筆が迷っても、一度は止まっても、結局進む先は未来しかない。だから、価値のない会議なんて一つもないし、無駄な話し合いなんて一つもないって、それはすごい確信があります。
田中:もめごとの場合には、過去に根っこがあることがすごく多いんですが、今の話を聴いて、過去のことをしっかり見つめて将来を考えることが、悪いことではない。あの時があったから今があるわけで(笑)。過去を振り返っている「今」にに意味がある。それは決して後ろ向きなことではないのかなと思いました。
ゆに:うんうん。
田中:過去は否定しようがない。でも、それが何かのきっかけで表明できるということは、ゆにさんの絵の中でいえば、ちょっとでも前に進んでいることであって、ごく幸せなことなのかもしれない。逆に表明できる場がなければ、いつまでも引きずっているという人も、世の中にたくさんにいるわけで。
ゆに:急ぐともつれる、と本当に思います。
田中:「昔のことばっかり言ってもしょうがないじゃない」と言われて切られてしまうこと多いじゃないですか(笑)。「そんな暗いことばかり言って。だから前に進まないんだよ」って。でも、そうじゃなくてもいいのかなって。
ゆに:いいと思います。
田中:相談者に「あのことは無かったことにしたい」と言われる場合もよくあって…。でも人間、そのときの事も気持ちも、無かったことになんてできないですよね。
ゆに:逆に、前向きな発言ばかりが聴こえてくる研修で、筆の進みが悪くて、気持ち悪い経験がありました。どこか、うそっぽい。
田中:会議も、どんなつまらなくても、無かったことにならないわけで(笑)。
ゆに:でも、無かったことにされちゃっている言葉がいっぱいある! 私はそれをすごい目撃していて、それをいつも拾ってるんだろうな。空中に生霊のようにウヨウヨしてるんですよ。拾ってあげないと!
奥山:人って、切ないくらい「私がここにいるのよー!認めてー!」と叫んでいるんだなーって思えてきました。
ゆに:叫んでる!見えます、見えますね。
田中:うんうん。
ゆに:それを私は紙に定着させるということで受け止めているし、田中さんはそれを体全身で受け止めているし。そして、共感の一段高いレベルで「本当はこういうことではないんですか」と言ってあげられたとき、さまよっていた言葉や思いは、パッて消えている感覚があります!
奥山:うんうん、供養してあげた!!
全員:(爆笑)
ゆに: [聴ける力量]を磨いて、お互いが発言している人の「本当は聴いてほしいこと」「本来のニーズ」を見つけ出すスピードが速まると、もつれがほどけて、どんどん会議が進んで行きそう。
([聴ける力量]を磨くには…つづきは次回に)