グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。前回に引き続き、 多くの会議で共通して起きている"ちょっと困った現象"をご紹介します。 会議でよく描けてしまうGFあるある第二弾。とにかく「シニア」「高齢者」のみなさんは……怒ってます!
GFあるある① 怒ってます!
GFの現場で年々増えているテーマの一つに、「シニア」をターゲットにした商品・サービスの開発や、少子高齢化の進む日本で「高齢者」をとりまく議論があります。
このような会議では「将来有望な未来のお客さま」として「シニア」「高齢者」が語られています。わたしとしては、絵巻物にはおそらく「シニア・高齢者が喜んでいる絵」が描けてくるであろうと思って、会議に臨んでいます。
しかし実際は「未来のお客さま」の「機嫌をひどく損ねている絵」がたびたび描けてくるという現象が起こっています。
会議ではさらりと「老人」という言葉もよく聴こえてきます。
この場合も当然、絵の上では、そう呼ばれたお客さまからお叱りを受けます。
「シニア」「高齢者」の心をつかむ商品やサービスを開発して、一山当てたい! そんな会議のはずが、絵巻物の上ではハートが描けるどころか、怒らせてしまっている……。みなさんの会議室でも、うっかりこんな議論をしていませんか。
GFあるある② [ポジティブな]ことしか見てない
多くの会議から聴こえてくる「アクティブ」とか「元気な」といった[ポジティブな]形容詞も気になります。「お金を使ってくれそう」「金払いがよさそう」という思惑から、シニアや高齢者にはこうした[ポジティブな]形容詞がよくついてくるのです。
でも、実際にシニアや高齢者と呼ばれる方たちの生の声を聞いたことはありますか?
絵の中では、そんな「ポジティブな気持ちばかりではいられない!」というシニアや高齢者が描けてきます。
こうしたシニアや高齢者の[ネガティブな気持ち]、本当の声、心の声を無視して、彼らの気持ちがつかめるとは思えません……。みなさんの会議室ではどんな議論がされているでしょうか。
GFあるある③ 財布を狙う¥マークの目
シニア・高齢者にまつわる[GFあるある]をもう一枚ご紹介します。ハートとは正反対ともいえる、次のような絵も本当によく描きます。
多くの企業が、シニアや高齢者の「お財布を狙う」という絵です。ポイントは、どの企業の目も「¥マーク」になっているところ。「退職金」や「財産分与」、「孫のためなら財布の紐が緩むのではないか」といった話から描けてきます。
会議室で議論している人たちは、自分たちの目が「¥マーク」になっている意識は全く無いと思うのですが、絵筆がこれまでシニアや高齢者の気持ちを描いてきた記憶からすると──たとえば退職金の使い道について
- 「これから貯金と年金でやりくりしていかないといけないので贅沢はできない」
- 「もしものときにいくら必要なのかまだよくわかっていないから、しばらくは手をつけないで、勉強してから考えます」
といった声を思い出すと──、絵巻物の上には、財布の紐をぎゅっと固く結ぶシニアや高齢者の絵を描かずにはいられません。
「わたしたちはシニア・高齢者への思い=ハートを1番に議論をしているよ」というのなら、なんら問題無いのですが……。企業から「¥マーク」の視線でアプローチされても、未来のお客さまがハートが閉ざしてしまうのは、絵巻物の上では一目瞭然です。
しかも、あまりに数多く「目が¥マークの企業」を描いているので、「一体どれだけの数の企業が、1人のお財布を狙っているの?」と途方に暮れるときがあります。とにかく多くの会議室が陥っている議論の流れです。
なぜこんな議論になってしまうのか
なぜ絵巻物の上でこうした「お客さまが怒ったり」「頑なに財布を閉じる絵」がたびたび描けてしまうのか。そこにはやはり共通点がありました。それは[ポジティブな]側面ばかりみて議論しているということでした。
この連載では何度も紹介していますが、[ポジティブな]側面ばかり議論しても、結果的に「他の会議でも描いたことのある絵」=「どの企業でも使い回せる絵」にしかなりません。本来なら、その会社らしいハートのこもった絵が描けるはずなのに。 ありきたりな[ポジティブな]絵には、なかなか「ハート」(その会社「らしさ」やお客さまへの想い、「何としても実現したい」という社員の方たちの想いなど)は描けてきません。
そもそも、 他と同じような議論をしていて、いいものでしょうか。
圧倒的な差別化を図るためにも、じぶんたちの中に強いハートを目覚めさせるためにも、話し合ってほしいのは、お客さまがどんな[ネガティブな気持ち]を抱えているかということです。第40~44回で紹介してきました[ネガポジ設計]です。
ハートはそう簡単に描けるものではありませんが、お客さまの抱える[ネガティブな気持ち]と向き合い、それを自分事として捉えている時間こそが、すでに他ではマネできない思考ルートです。その会社やその地域でしか生まれてこない独自の道をたどっています。
「ありたい姿がモヤっとしている」「メンバーが腹落ちしていない」と思ったら、ぜひ議論の流れを[ネガポジ設計]に変えてみてください。
GFあるある④ 「誰」を描けばいい?
[ネガポジ設計]で議論する際に、ここでも、よく会議で描ける困った絵があるのでご紹介しておきます。
「わたしたちはすでにネガから語り合っていますよ」とよく言われます。「ネガ」=「課題」というのです。よくある「ネガポジ設計の勘違い」です。
例えば「我々の会議の議題は『高齢化が進む地域の課題』を議論しています」というのです。
しかし、ここでふと絵巻物の前でわたしが困ること。それは
- 「高齢者って…だれ?」
- 「男性?」「女性?」
- 「65歳?」「70歳?」「75歳?」「80歳?」
- 「だれを描けばいいの?」
と筆が止まることです。
多くの会議では「ネガ」=「課題」と捉え、「高齢者」「シニア」という「三文字」のまま議論を進めています。しかし、「だれの」「どんな困ったこと(=ネガティブな気持ち)なのか」が具体的に描けないまま議論しているうちは、本当に大事な問題、本質的な課題は絵には描けてきません。
会議室で語られる「シニア」「高齢者」という三文字の言葉は、どこか「他人事」のように聴こえてなりません。
議論しているのは、20代、30代、40代、50代、60代、70代の方もいらっしゃいます。じぶんたちも、いつか、もうすぐ(すでに!)「シニア」「高齢者」と呼ばれるはずの人たちです。それでも、聴こえてくる言葉から、なかなか具体的な絵が描けません。
医療や介護、リハビリに従事する人たちの集まる会議でも(つまり、高齢者やシニアの方たちと日々接している方達が集まる会議であっても)、同じことが起きています。
「高齢者」って……だれを描けばいい? 「要支援1~2、要介護1~5」のうち、どの認定を受けた高齢者なのでしょうか?
「要支援1」の女性と、「要介護3」の男性では、描ける絵はまったく違ってくるのです。高齢者本人だけでなく、高齢者を支える人たちも[ネガティブな気持ち(不安、不満、心配事、不明、不信など)]を抱えていて、その絵はまた違ってきます。
「高齢者」「シニア」という「三文字」で思考を止めず、もう一歩、具体的に「だれが」というところに参加者が共通の視点を持てると、まったく議論が変わってきます。
[自分事]に思えるか
「だれが」を[具体的な特定の1人]に定めて話ができると、その人が抱える[ネガティブな気持ち]がより具体的になってきます。すると、これまでしてきた「課題解決」の議論とはまったく別の道を辿った話し合いができ、本当の問題とその解決策が見えてきます。ある会議の実例を紹介します。
- だれが
72歳女性が杖をついてリハビリに通う(要支援1)。夫は他界。
↓
- その女性が抱える[ネガティブな気持ち]
-
自立して生活しているその女性が困っているのは、日々の生活で、電球1つが取り替えられずにいること、重たい牛乳やお米や大根は買って帰れないこと、など。
その会議ではそれまで「高齢者を支える」ことを「介護・医療という側面から」議論していました。しかし、「だれが」を[具体的な特定の1人]に定めたことで、その女性が求めているものは「介護や医療ではなかった」ということにハッと気付けることができました。
もしも会議の参加者が「シニアや高齢者の[ネガティブな気持ち]は想像がつかない」というのであれば、ぜひご家族や身近なシニア・高齢者の声を聞いてみてください。
実際、GFの現場では、参加者にそうした取材を事前の宿題にしてもらっています。もしくは会議メンバーにシニア・高齢者の方に参加いただいたり、シニア・高齢者の方と実際に触れ合っている介護や医療現場で働く方たちに参加いただいています。
そして事実、簡単なヒアリングなどを準備して臨むだけで、参加メンバーの意識はまったく変わってきます。
よく起こる現象としては「自分の親のことを考えたら?」「自分がもし年をとったときには?」「他人事ではない」という声が聴こえてきます。それはまさに[自分事]として想いを巡らせた証拠。絵筆が思わずハートを描いてしまう瞬間です。
「おふくろには○○してあげたい」「我々ができることは○○しかない」。そんなハートが描けるところには、実行力を伴います。
成功実例(スライド資料も公開)
最後に、成功実例を一つご紹介しておきます。「高齢化が進む地域の課題」を語り合うのではなく、「だれがどう困っているか」という具体的な話から始めたことで、本来解決したかった問題、本質的な課題に近づけた実例です。主役であるシニアや高齢者の[ネガティブな気持ち]にとことん向き合って、ハート(自責・自分事)が芽生えた好事例です。スライド資料も付属しているため、会議を設計される方にはとても参考になるはずです。
さて次回も、多くの会議で起きている「GFあるある」をご紹介します。他人のふりみて我がふり直せ。「議論がぼんやりしていて…」「みんなも腹落ちしていない…」といった症状への打ち手、絵空事に終らせない会議設計のポイントをご紹介します。