こんにちは。グラフィックファシリテーターやまざきゆにこです。
今回は、前回紹介した[9つの表情]を実際の会議で使いこなして、迷走する話し合いから抜け出すキッカケを投げかけたり、会議の流れを本質的な話し合いに変えていけるよう、その練習問題を用意しました。
会議でこっそり、頭で思い描くだけでOKの[絵巻物思考]を使いこなして、これまで以上に一目置かれる人になってみませんか(^.^)
不毛な議論からいち早く抜け出すには
まず最初は、少し前にニュースで話題になったモヤモヤ議論を題材にして練習してみましょう。
「2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメーンスタジアムとなる 新国立競技場の建設計画を白紙に戻して、できる限りコストを抑制し、 現実的でベストな新整備計画を再検討していく」
この議論のどこがモヤモヤしているのか、よくわからない方もいると思います。まずは、上記の議論を絵にしてみてください。あなたなら、だれの、どんな[表情+セリフ]を想い描きますか?
ちなみにここで描くのは「眉間にシワをよせた総理大臣」でも「批判する都知事」でも「生ガキが~」と言った元総理大臣でもありません。話し手を描くのではなく「議論の中身」を絵にしようとしてみてください。
恐らく話題は、建設費が膨らんだ原因を追究したり、新しい体制づくりの話が大半で、「それで、だれが嬉しいの?」のという「だれ」についての話は一向に聴こえてこないでしょう……。
そこであなたが「そもそも、だれを描けばいいのかわからない」と思えたら、[絵巻物思考]ができている証拠です。私も、そのような話し合いに立ち合っていたら「その話、絵に描けませーん」 と手を挙げて叫んでいると思います。
もしも「国民やアスリートから大きな批判があった」という話が聴こえてきたら、即座にその新国立競技場で競技をするであろう「選手」や、彼らを応援する「国民」や「観客」 の[表情+セリフ]を描きたいものです。ただ、どんな声があったのかという話に触れてもらえなければ…描けない…フキダシの中は空欄のままですね。
そして、そんな「絵に描けない話」が延々と続いたら、私の右手は、そこに描きたい人たち =[本当の顧客]を勝手に絵にしてると思います。オリンピック競技種目の選手だけでなく、いろんな国から応援・観戦に来る人たち、車いすや杖をついて来られる方々、また、ここでコンサートを開くであろうアーティストとそのイベントに参加する人などを描くでしょう。そうなると、次のようなセリフも書きたくなってきます。
[本当の顧客]を勝手に描いても、テレビや新聞で何度も目にしたあの屋根やデザインが「だれにとって、どう嬉しいの?」が伝わってこないので、結局はこのような絵しか描けません。[本当の顧客]の[心]はワクワクどころか、まったく動いていない絵です。
[人が集まる]メーンスタジアムの話をしているのに、[人]が描けない[人の心]をつかめていない議論をしている。まずそのことに気付けると、話し合いの次に進むべき方向性は見えてくるのではないでしょうか。
[本当の顧客]のことを話し合っているか
その話を[表情+セリフ]に描こうとする作業は、[本当の顧客]のことを思い出させてくれます。そのときに「そもそも、だれを描けばいいのかわからない」と思えたら、[本当の顧客]については誰も語っていない証拠です。
そんな[だれ(人)]が描けない議論は実際、とても多いです。次の話も、よくある[だれが(人)]が描けない困った議論。ある営業部門長からの相談でした。
- 「新しいサービスをクライアントに提案しても、なかなか成約につながらない」
- 「十分な説明をしているつもりだが、どうもクライアントの心に刺さっていない」
営業パンフレットには次のように書かれていました。
「当社のクラウドサービスで御社のワークスタイルの変革を促進します」
営業部門長のもう1つの悩みは「営業しているメンバーも、サービスの価値を伝えきれていない」「営業しているメンバー自身が言葉では説明できても、そもそも何が本当にいいのか腹に落ちていないようだ」とのことでした。
さて、あなたならどんな絵を思い描いて、どんなアドバイスをしますか? こんなモヤモヤからは早く抜け出して、もっと大事な人[本当の顧客]について語り合ってほしいです。
まず、営業部門長やメンバーの方たちが、なぜモヤモヤしているのか。[表情+セリフ]を描いてみようとしたら見えてきます。ここでも注意点は、商品説明をする営業マンの[表情+セリフ]や営業を受けているクライアントの[表情+セリフ]を描くのではありません。営業パンフレットに書かれている「提案の中身」を絵にしようとすることです。
すると、今の提案のままでは「絵に描けない……」が正解です。「ワークスタイル」という[人]の話をしてるのに、[人]は描けませんね。このサービスの価値を享受する[本当の顧客]はだれか? そのサービスでだれがどう嬉しいのか?
このサービスで本当に喜んでほしい[本当の顧客]は、[ワークスタイルを変革したいクライアント企業の社員]のはずですが、今の提案の言葉だけでは、絵筆は迷います。「御社のワークスタイルの変革を促進します」と言われても「うちの社員の働き方がどう変わるの?」「それで彼らはどう嬉しいの?」という疑問しか出てきません。
具体的な絵に描けない提案は、クライアントにもイメージが湧いていない。「生産性が上がります」と言われても、従業員が喜ぶ姿が思い浮かばない限りは「それイイね!」と即答できないのも想像がつきます。
[本当の顧客]である[ワークスタイルを変革したいクライアント企業の社員]の[表情+セリフ]が描けたら、クライアントの心をつかむ話ができるはずです。そのためにも[本当の顧客]についてもっと具体的に語り合う必要があります。そこで、営業部門のメンバーの方々に次の質問をしました。
- 「クライアントさんは、今現在、社員のみなさんのどんな働き方に困っているのでしょうか」
- 「このサービスで、 社員のみなさんはどんな嬉しい働き方に変わるのでしょうか」
すると、皆さんは「う~ん」「悩みはクライアントによって色々違うから……」と黙ってしまいました。
しかし、個別の絵を描けてこそ、クライアントの心に刺さります。
これまでの営業スタイルは、一方的にシステムや機能の提案をしていたそうです。それを、まずはクライアントさんにヒアリングから始める営業に変えてみてはどうでしょう。
従業員のみなさんが今の働き方で「どんなことにうんざりしているのか/何に困っているのか/イライラしているのか」まずは聞いてみるのです。特に[ネガティブな表情+セリフ]で「感情を共有」してみると、その中には必ずその会社のクラウドサービスで解決できることがあるはずです。そうすれば、これまでの「生産性を上げます」といった一般的な営業トークとは、まったく違う言葉を伝えられるはずです。
[人]の話をしているのに[人]が描けない[絵筆が困る会議あるある]
[人]の話をしてるのに[人]が描けないという現象は、多々会議で遭遇します。でもここまで多いと、正直「描けないのは、それはそれでしょうがない」と思います。それよりも、[人]が描けない議論をしていることに「いち早く気づけて軌道修正できること」がとても大事だと思えてきます。
その「気づける感度」を上げるために練習問題をもう1つ。みなさんの会社でも無意識のうちにやってしまっているかもしれない会議です。[人材]の話をしてるのに[人]が描けない。次はある外資系企業の中長期戦略会議での実話です。
「新規事業を立ち上げるにしてもリソースが足りない」
「じぶんの組織のHC(ヘッドカウント)を確保するのもやっとなのに」
ある役員から新規事業が提案され、それに対して多くの事業部長から反対意見が出た場面です。「リソースが足りない」とはここでは「人が足りない」という意味です。「HC」とは「ヘッドカウント」の略で、つまり頭数、雇える人数の上限を意味します。その会社では全員が当たり前のように「エイチシー」と呼んで使っていました。賛成合意を得られないまま議論は難航していました。
さて、このゴールのみえない話し合いから抜け出すには? [絵巻物思考]を使って、どう話し合いの流れを変えましょうか。まずは、どんな絵を描きますか。事業部長たちが[足りない、確保したいと思っている人]はどんな[表情+セリフ]に描けそうですか?
この時点では、今回も「絵に描けない」と思えたら正解です。[人]の話をしているのに、主役である[人]についてだれも何も喋っていないのですから、「だれを描けばいいのか」が想い浮かばなくて当然です。
ちなみに実際の現場では、延々と続くやりとりの中、わたしの右手は次のようなこんな絵を描いてしまいました。
もはやイタズラ描きに近いですが、ソース瓶やダルマしか描けず、いつまでも[人]が描けない……。さすがに絵筆が苦しくなり、議論の最中に手を挙げて助けを求めました。「頭数って、……それって、だれでもいいんですか!?」と。
その新規事業に「どんな人材」が必要なのか。「だれが」どんな活躍をしているのが嬉しいのか。そんな話からもう一度議論し直してみてほしい。
無意識のうちに[人]を[人]として扱っていない。こうした議論は本当に多いのです。[人]に共感してもらえないと実行されない話をしているのに、悲しいことに[人]を忘れた[人]が描けない会議。
「議論が迷走しているな」とか、「不毛だな」「辛いなこの議論」と感じたときに、「あれ?[本当の顧客]について話をしていないぞ」ということに気づけることは、今、多くの会議で求められている視点の1つだと思います。そして同時に、議論の中身を[本当の顧客]の[表情+セリフ]が描ける会話に変えていくことは、プロジェクトで求められている未来に導くリーダーシップの1つだと思います。
[人]の心を本気で動かすには[人]の描ける議論を!
[表情+セリフ]を思い描く[絵巻物思考]とは、簡単に言ってしまえば、今の議論を[本当の顧客]の目線や立場になって、彼らの「気持ち」から捉え直しましょう、と言っているだけのことです。それでも同じ社内や業界でいつも議論していると、どうしてもそれを忘れてしまうのです。
そんな実話をオマケにもう1つ。ある業界フォーラムで絵巻物を描いていたときも、こんなことがありました。壇上では5人の業界関係者が、次の事柄を議題としてパネルディスカッションをしていました。
「 CS(カスタマー・サティスファクション; 顧客満足度)を高めるためにVOC(ボイス・オブ・カスタマー; 顧客の声)の分析と活用の未来」
わたしはこの日初めて「VOC」という言葉を知りましたが、ネット業界やコールセンター業界では当たり前ように使われているそうです。パネリストのみなさんが「VOC」を当たり前のように「ヴイオーシー」と呼ぶのに最初は驚きました。先ほどの「HC」を「エイチシー」と呼ぶのと似てますね。ただこの日は[C=カスタマー]の満足度向上のために[C=カスタマー]の声の話をしているのだから[人]が描けるハズ!と思っていました。
しかし、このパネルディスカッションでも結局、同じ状態に陥りました。パネリストの方たちが「ヴイオーシー」「ヴイオーシー」と何度も連呼されるのです。わたしの頭の中はすっかり「Y」「M」「C」「A」とか「L」「O」「V」「E」のような、ただの単語の羅列「V」「O」「C」としか聴こえてこなくなり……、
「日々蓄積されるVOCを~」という話はもはや「ぶぃ」「おー」「しー」……という無機質な箱がどんどん降ってきて溜まって行く絵にしか描けませんでした。
これで[C=カスタマー]の心をつかむ新商品や新サービスが生まれてくるとは思えません。実際、講演内容も一般論に終始しており、具体的な話が聴こえてこない。居眠りする聴衆の方もたくさん見られました。
「お客さまの声」で描けると期待していたのは、例えば「もっとよくならないの?」という[怒った表情+クレームのセリフ]や、「こんなに丁寧に早々に送ってくれてありがとう」と[感謝の気持ちあふれる表情+セリフ]など、とにかく「感情」あふれるものだと思ってました。
それなのに[C=カスタマー]の、電話やメールの向こうから届けられた怒りも感謝の気持ちも、こんな無機質に扱われるているとは……。「カスタマーの1人として悲しい気持ちになりました」と会場のみなさんに伝えたら、パネリストの方たちだけでなく、講演を聴きに来ていた方からも同じことを言われました。「VOCがお客さまの表情ある声だなんて考えたこともなかった!」と。
[人]を[人]として扱っていない会議は本当に多いです。でもそれはもう、ここまで多いとしょうがないと思いましょう。それよりも、そのことにいち早く気づけること。そして、議論の流れを[本当の顧客]がどんな[表情+セリフ]をしているかという話し合いに変えられること。それが、不毛な会議を本質的な議論に変える近道と思うのです。
さて次回は、[本当の顧客]のホンネ、特に[ガティブな表情+セリフ]について語り合えると、もっと面白くキレのある解決策が見えてきますという実例を紹介します。とにかく[人]はキレイゴトでは動かない。顧客の心をつかみ、従業員の心を動かしたければ「ネガ」です。何より「ネガ」は、議論しているみなさん自身もワクワクしてきます。お楽しみにo(^▽^)o