こんにちは。グラフィックファシリテーターやまざきゆにこです。さて最終回の今回は、わたしが日頃、GF現場の事前打ち合わせで使っている[ウラ設計シート]を紹介します。
この[ウラ設計シート]は、300超えの会議に立ちあった経験を通じて、これだけは外せないと思ったポイントを凝縮した3枚のシートです。ファシリテーターの経験がない担当者とワークショップ(以下WS)を開催するときも、「この流れで設計すれば、当日のイメージが湧いてくるはず。とにかくやってみましょう!」と発破をかけて作戦会議をしています。もしWSを設計することになったら、ダウンロードして使ってみてください。具体的な書き込み例と書き方のコツもあわせて紹介します。
ポイントは、参加者から「意見」ではなく、どう「気持ち」を引き出すか。主催者や事務局のみなさんと「どんな問いを立てたら」「どんな場にしたら」絵空事に終わらないか、仮説を立てては「こんな発言が聴こえてきそう」「こんな場になりそう」と何度もシミュレーションを繰り返して、本番に臨んでいます。
「絵空事に終わらせないために WSウラ設計シート①②③」
WSウラ設計シートは以下の3つに分れています。
参加者が1人でも変われば同じ方法が通用しないのがWSです。WSの設計には正解がありません。だからこそ、とにかくこのシートを元に、まずは「仮説」を立てて、そして具体的に「シミュレーション」をして修正・加筆を重ねて、当日に臨んでいます。
WSウラ設計シートの[記入例]
WSウラ設計シートの[記入例]を2つ紹介しておきます。
- 記入例1「ビジョン ワークショップ」
- 記入例2「女性活躍推進 ワークショップ」
実際にシートを見たら「書き込む量が多いなあ」と思う方もいるかもしれませんが、「WSを絵空事に終わらせないポイント」さえ頭に入ったら、いちいち書き込まなくても大丈夫です。
ただ、事務局メンバーが複数人いる場合、経験の差によって頭の中のでイメージしているものが実はまったく違います。「どんな場になるのかよくわかっていません」というまま当日を迎え、ただの傍観者、言われて動くお手伝いさんと化している事務局メンバーによく出会います。もし主催者側のチーム力を高めたいと思ったら、面倒でもシートを出力して、手書きで加筆修正しながら、作戦を練ってみてください。場への姿勢やアイデア、当日の機動力などが格段にアップするはずです。
ちなみに、 WS設計に慣れている方が読むと「他の問いを立ててもよかったのでは」と感じるかもしれませんが、今回はそういう読み方はちょっと横においていてください。見方としては「気持ちというものをどう汲み取り、引き出そうとしているのか」という点や「他のWSでは、ここまで仮説を立ててシミュレーションをしているのか」という点に注目していただけると嬉しいです。
なお、記入例の「② WS当日[ネガポジ]設計シート」は、読みやすさを優先してStep1とStep2の2枚に分れています。
WSウラ設計シートの[記入のコツ]
[WSウラ設計シート]の書き方に「正解」はありませんが、絵空事に終わらせない大事なコツがあります。詳しくはpdfファイル「記入のコツ 解説ドキュメント」をご覧ください。
絵空事に終わらせない一番のポイントは、いかに参加者から「意見」ではなく「気持ち」を引き出せるかです。
多くの参加者は、一般的な会議に慣れています。一般的な会議といえば「感情の共有」よりも「情報の共有」が優先され、「気持ち」の吐露はまずなく「意見」を交わす場です。
しかし、そうした話し合いで、「一向に解決しないことがある」「みんなどこか腹落ちしていない」「分り合えていないモヤモヤがある」からこそ、WSが開催されています。それなのに多くのWSが問いを立てるときに、また普段の左脳会議で聞こえてくるような「意見」を引き出す問いかけをしているのです。
会議に「絵巻物があったら、何かが変わる」と思ってくださる方が増えてきましたが、絵を描けば「気持ち」を汲み取れるというわけではありません。確かに絵があると、バラバラだった認識を共通化できたり、話し合っている内容の分かりやすさは格段に変わります。けれど絵空事で終わらせないためには、絵を描く以前に、絵のもとになる「発言」がじつはとても重要です。その「発言」次第では、いくら絵にしても絵空事で終わる会議も多々あるのです。
この連載では基本のグラフィックツールを紹介しながら、「プレゼン上手」よりも、「気持ちの汲み取り上手」になってほしいと伝えてきましたが、言わんとしていることは同じです。参加者に「何を語ってもらうか」。「意見」ではなく「気持ち」を語り、共有してほしい。組織や地域といった「大勢の人たち」を相手にするときほど、「気持ち」を語ってもらう「事前準備」がとにかく大事な作業になっています。
ただ残念ながら、これらのシートをすべて埋めたからといって必ず成功するわけではないのがWSです。あくまでも「仮説」を立てて「シミュレーション」を徹底するためのシートに過ぎません。生身の人間が相手のWSは参加者の受け取り方によって、当日何が起きるかわかりません。それでもこれで「仮説」と「シミュレーション」を重ねて臨んだWSなら、当日の臨機応変も可能ですし、終わった後には必ず、さらなる改善点が明確に見えてきて進化していきます。
WS開催で問題になっているのは「なんとなく開催」してみて、終わった後も「なんとなくうまくいった」「楽しいだけで終わってしまった」「何をどうすればよかったのかよく分からない」と言って終わっていることです。その多くは準備段階で驚くほど「仮説」が甘く、またほとんどが「シミュレーション」をしないまま当日を迎えています。それでは進化はありません。予定調和の「会議」から脱するには、主催者こそが、正解も答えもない「WS」の設計そのものを楽しんで、「仮説」と「シミュレーション」を重ねてトライ&エラーしてほしいと思います。
WSの本当の成功は、終わったその先にあります。仲間と力をあわせて未来に向かって行動を起こし、実現する。WSとはそのための一部でしかありません。多くのWSは「仮説」や「シミュレーション」だけでなく、この「目標設定」が甘いようです。そもそも何のためにWSを開催したいと思ったのか。[WSウラ設計シート]を使って、ちょっと目線をWSのその先の未来に向けて設計してみてください。まったく違う成果を生み出せるはずです。主催者自身がその先の未来に常に目を向けながら、多様な人たちをワクワクする未来へ連れて行ってください。
さて、これまで連載にお付き合いいただきまして本当にありがとうございました。さいごに、会社(株式会社ユニファイナアレ)の社名に込めたわたしの想い「Unify(1つに)なあれ)」をもってご挨拶とさせていただきたいと思います。
ワクワクする未来のために、多様な「思い」や「知」が「ユニファイナアレ(1つになあれ)」(^^)/