おおよその業務改善の目的・目標などが定まり、改善の対象範囲・部門、初期の中核(コア)メンバーも決まったら、次にやることは業務の実態はどうなっているのか、つまり「己を知る」ということです。
最初に、ドキュメントがちゃんとあるかを調べます。ここで言うドキュメントとは、“規程”“マニュアル”などです。ないところは少ないでしょうが、これが後々、業務改善を進めていくと、意外な鍵になる場合が少なくありません。
規程を調べる
まず規程ですが、押さえておくべきなのは、
- 「業務分掌に関する規程」
- 「組織に関する規程」
- 「決裁権限に関する規程」
の3つです。規程はほかにもありますが、最低限、この3つが初期段階では重要です。この3つは、企業によっては1つの規程に取りまとめられていたり、「決裁、権限に関する規程」は「稟議規程」などのほかの規程に包括されている場合もあります。
「業務分掌」には、一般に部門ごとに何の業務を行うかが明記されています。言い換えれば、仕事の機能定義が内容と範囲として定められているものです。
「組織に関する規程」は、組織構造・組織(部門)の名称・役割が明記されています。
「決裁権限に関する規程」には、承認を誰が行うか、組織のヒエラルキーとして定まっていなければいけないことが書かれています。
マニュアルを調べる
会社によっては、「業務標準」などのマニュアルがあります。開発部門では開発用の「設計標準」や「技術標準」、管理部門では「事務標準」などです。
これらのマニュアルは会社により、標準部門や品質管理部門が管理をしている場合がありますが、部門ごとに管理をしている場合もあります。部門においては、さらに細かな業務の運用マニュアルなどがあります。
つじつまが合わないときのために、規程やマニュアルを調べておく
業務改善の“現状調査”や“現状分析”において、現状業務プロセスを業務フローとしてきちんと書いていくと、次のようなことがわかってきます。
- 規程とのミスマッチがある(業務分掌や組織規程と異なる仕事をしている)
- 承認、決裁が曖昧、あるいはきちんとされていない
- マニュアルどおりに仕事をしていない(マニュアルの形骸化、更新されていない)
これは、なにも業務改善の調査や分析に限ったことではなく、ISOや内部統制でも同じ場面によく出くわします。仕事のやり方が変更になっても、規程やマニュアルが改訂されずにそのままだったり、業務フローも最初に作ったままのそれっきりでメンテナンスされずに時間が経ってしまったなどです。
業務改善のほとんどは、業務プロセスの変更を多く伴います。プロセスを変更すると、組織の役割や権限も同時に変わることが多く、最終的には規程やマニュアルに反映することが必要です。
したがって、まずは“現状調査”に入る前にきちんと、今のプロセスとミスマッチしているかもしれない「規程」や「マニュアル」を、事前にしっかりと調べておくことが求められます。
さて、ここまでは無関心な現場を巻き込まなくても、事務局や改善推進担当者だけでもなんとかなります。問題はその次で、「実態はどうなのか?」ということです。
ヒアリングやディスカッションはやらない
通常、コンサルティング会社が行う“現状調査”は、「ヒアリング」形式で行う、あるいはメンバーを集めて「ディスカッション」をしながら整理をしていくなどの手法や形態がとられます。良い悪いは別として、このやり方はあくまでも社外の中立的な人が入るので、ある程度成り立ちますが、社内だけで行おうとするとインタビュアーと現場担当者の利害関係が災いし、ホンネが出てこない場合も少なくありません。
個別のヒアリングでは、ボロクソ不満が出てくるけれども、自分はちゃんとやっているという主義主張で終わる。全体のディスカッションでは、他人や上司の顔色を伺いながら言葉を選んで発言することもあり、やはりホンネがなかなか出てこない。もっともらしいことを言う人、冷めた目で「別に~」と傍観している人、ひたすら文句をぶちまける人など様々です。
「うちの会社はこんなことはないよ!」と言う人もいるでしょうが、無関心な現場では一筋縄ではいきません。批判者、傍観者は山ほどいるけど、当事者となる人がほとんどいない、改善意欲も問題意識も低い人たちは非協力的です。
「実態はどうなのか?」を検証しようとしても、ホンネが出てこないのでは、その結果は浅いものになります。
無関心な現場では業務改善に聞く耳も関心も持っていないので、社内メンバーへのヒアリングやディスカッションは、得策ではありません。
ハード&ソフト・アプローチ
改善は「継続性」が大事であると同時に、ずっとコアメンバーが旗を振り続けるわけにもいかないので、無関心な現場を自主的・主体的な現場に変えていくことが必要です。それを実際の改善活動を通じて行うことになります。
本来、時間が許すのであれば、まずは「関係性づくり」から始めるのが王道です。改善はきちんと対話をして、信頼関係を構築して、話し・相談し合える関係性ができてからとなります。連載第2回でお伝えした「ソフト・アプローチ」が必要となります。
しかし、関係性の構築には非常に時間がかかるので、関係性ができてから業務改善をしましょうなどとは、企業も世の中も待ってはくれません。そこで、やはり「ハード・アプローチ」と「ソフト・アプローチ」を同時に進めることが必要となります。
自分の業務は自分が一番知っている
無関心な現場でも自分の業務は自分が一番知っています。しかし、自分の所属する部門であっても、他人が行っている業務は意外に知らないものですし、まして、前工程や後工程の部門がどのように行っているかは知らない、もしくは関心が高くないでしょう。自分の担当業務はそこそこできているという思い込みがあると、「業務改善などやっても意味がない」ということになります。
まさしく部分最適、それも自分が思っているだけで、部分最適になっているかも全体からすれば怪しいものです。本人のメンツも立てながら、効率良く“現状調査”を進めるにはどうしたら良いのか考えてみましょう。
自分の業務は自分で書け!
先に述べたヒアリングやディスカッションには、それぞれインタビュアーやファシリテーターの役割をする人がいます。基本的にその場に参画する人のスタンスは受け身です。要は聞かれたことに答えるだけです。言い換えれば、聞かれたこと以外は答えないということです。聞く側のヒアリングスキルやファシリテーションスキルに大きく場が左右され、また、聞き漏れなども発生することもあります。後から問題が発覚した際に、「最初に聞かなかったでしょ?」と開き直られることもあります。
ならば、ヒアリングもディスカッションも行わずに、正しく現状の“業務調査”を進め、“現状分析”まで持っていくためには、最初から本人に業務を書いてもらうことをオススメします。もちろん最初はぶつぶつ反発も出ます。
何を書くかですが、自分の業務を棚卸した「業務の棚卸表(当社では業務一覧表と呼んでいます)」と、各々の業務プロセスを流れで示した「業務フロー」の2つを作ります。
すでに「棚卸表」や「業務フロー」はあると言う人もいますが、「自分の仕事・業務をきちんと書き出せ!」で、まずは書いてもらいます。あくまでも、自分の担当する業務だけです。「やっているんだから、書けるよね?」と、多少の言葉は付け加えながら、多少の強制力も働かせます。
もちろん、何のために自分の業務を書かされているか、業務改善のために現状を知りたいんだなとわかっていても、腹に落ちて納得しているわけではないので、“やらされ感”は残ります。この段階では、どうせ何を言っても“やらされ感”は持っていますので、細かいことは気にしないことです。したがって、出来具合も個々人でバラバラ、細かく書く人もいれば、粗くてさっぱりわからないものもあります。
ここで、次に考えるのが、連載第2回で述べた“自分が困るプロセス”です。
ほかのメンバーに自分の業務をきちんと伝える
先にディスカッションはしないと言いましたが、「共有」は行います。誰と共有を行うかですが、まずは部門内です。それも、先に書いた業務(業務の棚卸や業務フロー)を、ほかのメンバーに伝えることを行います。「そんなこと聞いてない」という声は無視しましょう。
伝え方は人により異なりますが、粗いレベルで書いた業務フローを、そのまま粗いままで説明する人がいます。また、フローは粗くても説明は詳細まで及ぶ人もいます。反面、フローが細かくて説明が粗い人、フローが細かくて説明も細かい人など4つのパターンが出てきます。
そこで、伝え方のルールを2つ決めておきます。1つは「書いてあること以外しゃべるな!」です。もう1つは、聞いているメンバーが伝え手の説明でわからなかったら、「ボコボコに突っ込め!」です。
「自分の業務は自分で書く」→「ほかのメンバーに自分の業務を伝える」ということを何回か繰り返すと、きちんと業務が書けていないと自分自身が赤っ恥をかく羽目になります。つまり、“自分が困るプロセス”を改善を行う前に仕掛けたことになります。ちょっとやり方を工夫して、意図的にやらざるを得ない状況をつくるだけで、大きなドライブがかかります。
実はここにはもう1つ、“気づきのプロセス”の要素を入れています。ちゃんと先のルールを守って、ほかのメンバーに伝えるには、日々の業務を思い出すことになります。そこに“思考するプロセス”が伴います。考えることによって、気づくということが生まれます。
さらに、ディスカッションではなく共有と言いましたが、この共有の場それ自身が、自分の書いた業務、ほかの人に説明をして突っ込まれるということを経ることで、実際にはディスカッションと同じ状態になっています。
何もない状態でディスカッションをすることは困難なので、ディスカッションする材料として、自分で書いた業務をアウトプットとして取り上げたというわけです。
さて、こうして出てきたアウトプットがはたして実態に即したものなのか?少なくとも、メンバーの前で話したものなので、おおよその業務は「それなり」に表現できているでしょうが、細かい部分ではどうでしょうか?
属人業務はここまで業務プロセスをバラさないとわからない
正しいのか、正しくないのかわからないこともありますし、同じ業務でも人によりやり方が異なる…いわゆる属人業務を考えてみましょう。
同じ業務をAさんとBさんの2人で行っていて、実際に書かれた業務フローが異なる場合です。
簡単な例を図1に示します。
図中の3つの例は、一見、業務プロセスが粗いフローとして書かれている場合は、違いが見えてきません。「チェックを行う」など日常的に出てくる言葉やプロセスでしょう。
しかし、業務フローをより細分化していくことで、はじめて、実はAさんとBさんはやり方が違うことが見えてきます。
Aさんはベテラン社員でせっかちな性格。細かいことはあまり気にしないし、慣れているので、書いた業務フローも大雑把で細かいところまではわかりません。Bさんは、まだ入社2年目にも関わらず、細かく几帳面です。
- 「チェック業務」では、Aさんは目視チェックだけですが、Bさんはマスターデータと常に照会をしており、そこで間違いがあった場合は差し戻すという処理を行っています
- 「データ入力業務」では、Aさんは随時、リアルタイムで入力を行っていますが、Bさんは上司の指示や実際に入金を確認してからでないと入力処理は行わないようなバッチ処理で行っています。なぜ、Bさんがこういうやり方をしているかと聞いたところ、「都度中断されないし、やるよりもまとめて行ったほうが効率的だから」という答え
- 「見積書の作成」では、Aさんは自分のPCの表計算ソフトで都度作成し、作成後は自分のPCのデスクトップ上に保管しています。一方、Bさんは会社の標準的な共通書式を用いて作成し、作成後はサーバー上に保管し部門として共有しています
いずれの場合も、AさんとBさんの業務フローを見る限りは、とても同じ業務を行っているようには見えないですよね。これがラフに書かれてしまうと、「チェックを行う」「データ入力を行う」となってしまうので、この細かなプロセスの違いが全く見えなくなります。
それぞれ、3つの例は、上から順番に、
- 間違いの発生頻度(差戻しの多さ)
- 一括処理の効率性
- 情報共有
と示すことができます。ここに業務改善のヒントが隠されています。
このような“ほんのちょっとの差、違い”が、現実的にはミスの原因になっているケースがほとんどです。
第6回は「業務フローと問題発見」についてお話をします。