さて、メモツールをいつも「持って歩く」ことには慣れてきましたか?
ある程度慣れてきたようなら、そろそろポケットやカバンに入れて持ち歩いてもかまいません。でも、できればもうしばらく、持ち歩くことを意識せずに持ち歩けるようになるまでは「持って歩く」ようにした方が、いいんですけどね。
とはいえ、まさかずっと「持って歩く」練習だけ、というわけにもいきませんから、そろそろ実際にメモを取る練習を始めましょう。中にはすでに、持ち歩いている"メモ帳"にメモを取っている人もいるでしょう。それがうまくいっている人は、今回は無理して読む必要はないかもしれません。
練習のために何をするか
通常、「メモを取る練習をする」ということで頭に浮かぶのは、メモを取ることを目的として本を読むとかテレビを見る、といったことでしょうか。
また、何かテーマを決めて、それについて思い浮かんだことを片っ端からメモに残す、という練習方法もあります。たとえば、自分がなぜメモを取ることができないのか、といったテーマでいろいろと考えて、それを考えるだけでなくメモに残す。これはある意味一石二鳥の練習方法です。
しかし、今例にあげた練習方法では、そのためにわざわざ時間を割く必要があります。ちょっと面倒臭いですよね。それに、本を読みながらメモを取ろうとすると、練習なのか実践なのかわからなくなりそうです。
そこで、わざわざ時間を割く必要のない練習方法をお教えします。
テレビを見ながらメモを取る
まずは、家でテレビでも見ながらくつろいでください。見る番組は何でもかまいません。ただし、ビデオやDVDではなく、かならずテレビ番組を見てください。録画してあるものでもかまいませんが、できれば今やっているものを見ていただくのがベストです。
通常、ほとんどのテレビ局で、番組と番組の間や番組の途中でコマーシャル(CM)が入ります。そこで、テレビを見ていて、CMが始まったら、すかさずメモツールを手にとってください。そして、CMの内容をメモするのです。当然、メモツールはいつも持ち歩いているはずですから、手をのばせば届く所に置いてありますよね。
CMをメモをする
CMは短ければ15秒、長くても30秒が普通です。その短い時間の間に、いろいろな情報が凝縮されています。それを片っ端からメモしてください。どんなジャンルの商品か。商品名はなにか。誰が出ていたか。誰のどんな音楽を使っているか。全体の構成はどうなっているか。メモすることはいくらでもあります。
おそらく、最初は商品名や会社名を書き留めるのが精一杯かもしれません。慣れてくれば、出演しているタレントやら、バックに流れている音楽の情報も書き留めることができるようになるでしょう。短い時間に、どれだけたくさんのメモを残せるか、挑戦してみてください。
商品ではなく、番組の宣伝のCMかもしれません。そういう場合はもちろん、番組のタイトルや内容、出演者、いつ放送されるのか、などをメモすればよいのです。とにかく、限られた時間で消えてしまうCMの内容を、可能な限りメモに残してください。
続きもメモする
この練習を続けていると、そのうちあることに気がつきます。それは、あたりまえのことですが、同じCMが何度も流れる、ということです。つまり、最初にメモが取れなかったとしても、次に同じCMが流れたときに、さっきの続きや補足を追加することができる、ということです。
その場合でも、さっき書いたページに追加するのではなく、新しいページにメモを取ってください。もちろん、同じCMですから、同じ情報が詰まっています。その中で「これはさっき書いたぞ」とはっきりわかっていることは、わざわざ書く必要はありません。まあ、練習ですから書いてもかまいませんが。書くべきことは、前回書けなかった、あるいは気づかなかった情報や、「これ書いたっけなぁ?」とはっきりしない情報です。
ただし、何のCMかわかるように、商品名ぐらいはきちんと書いてください。そうすれば、何回かに分けて書いたメモを、あとで見直したときにつなげることができますから。
CMでアイデアメモ
もちろん、CMを使って、「アイデアメモ」の練習をすることもできます。そのCMを見て、頭に浮かんだことをメモすればよいのです。商品に対する考えでもかまいませんし、CMの内容や構成に関することでも、出ている俳優や使用されている土地や建物のこと、何でもかまいません。これは誰だろうとか、ここはどこだろうとか、この商品買ってみようかなとか、こんなCMで買う気が起きる人いるのかなとか、自分だったらこういうCMにするなとか。とにかく、思いついたことをどんどん書いてください。
あるいは、流れているCMから発想して「昔こういうCMがあったなぁ」とか「こういう商品はどうだろう」とか。まったく関係のないことが頭に浮かんでくることもあるかもしれません。当然、それもメモしてください。とにかく、CM中に頭に思い浮かんだことは何でもメモしてしまう。そのぐらいのつもりで練習してみてください。
CMはきっかけにすぎない
場合によっては、次のCMに変わってしまっても、今まで見ていたCMをきっかけに、まだいろいろなことが頭に浮かんでくることもあります。そんな場合も、CMが変わったからと、メモを取るのをやめる必要はありません。CMはあくまでもきっかけにすぎないのです。やるべきことは、頭に浮かんだことを可能な限りメモに残すこと。番組が始まるまで、とにかくメモを取り続けてみてください。
メモし忘れたときは
とはいえ、CMが始まったのにメモを取るのを忘れてしまったらどうしましょう。そういう場合は、あとになってからそのことに気づいたら、気づいたその時に、すかさずペンと"メモ帳"を手に取って「CMが始まったのにメモを取るのを忘れた」と書いてください。最低でも、これだけはきっちりやってください。
今やろうとしていることは、「CMのメモを取ること」ではなく、「何かをきっかけにメモを残す」ことなのです。ですから、本当はきっかけはCMでなくても良いのです。「メモを取るのを忘れた!」と気づいたことをきっかけに、そのことをメモに残す。これもれっきとした「メモを残す練習」になるのです。
きっかけは何でもかまわない
そういう意味では、きっかけは何もCMに限ったことではありません。電車に乗っていて駅で停車したとき。歩いていて赤信号で立ち止まったとき(車の運転中は危険ですので、あまりお勧めできません)。そんなときに、まわりに目を向けて、目に付いたモノをメモに残してみる、というのも練習になります。自分で好きなきっかけを決めて、楽しみながら練習してみてください。
ただし気をつけていただきたいのは、きっかけには練習開始のきっかけと練習終了のきっかけが必要だ、ということです。「誰かがくしゃみをしたらメモを取り始める」などとしてしまうと、練習をやめることができなくなってしまいますから。大事なことは「突然やってくるきっかけ」と「あまり長くない特定の時間」です。
スイッチを入れる
それでもわたしが「CMを使った練習」をお勧めするのには、わけがあります。
この「CMが始まったらメモを取る」に似たような行動をしている人は、実は意外と大勢いるのです。CMが始まったらトイレに行く、CMが始まったら洗い物をする、CMが始まったら裏番組をチェックする。ご自分でも思い当たることはありませんか?
このように、「CMが始まったら」というきっかけで何か行動を起こす、というのは、かなり多くの人が既に実践していることなのです(スポンサーさんごめんなさい)。つまり、CM開始は切替スイッチとして機能しやすい、ということです。そこで、その中のひとつに「メモを取る」という行動を入れてしまうのです。習慣は、新しいものを始めるより、今のものをほんの少し変えるだけの方が、定着しやすいのです。
CMがスイッチになる
つまり、この「CMを使った練習」は、短い時間にメモを取る、という練習をやっているように見えますが、実は他に大きな目的があるのです。
それは、普通に番組を見ている状態から、CMが始まった瞬間に「よし、メモを取るぞ」とスイッチを切り替える練習をする、ということです。普段の生活の中でも、メモを取るべきタイミングというのは、いきなりやってきたりします。それに瞬時に対応する頭と体を作るのには、この練習はうってつけなのです。
連載の第2回で紹介したように、メモを取れない理由には「ついうっかり」と「まあいいか」があります。このどちらも、メモを取るべきタイミングにスイッチが入らない、というのが大きな原因のひとつです。そこで、CMをきっかけにして、メモを取るスイッチを入れる練習をするのです。
絶対に捨てないこと
さて、CMのたびにメモを取っていると、メモがどんどん溜まってきますが、これまでにも何度も言っているように、練習とはいえ、取ったメモは必ず残してください。終わったからといって捨ててしまわないようにしてください。前回、「どんなツールがよいかというところで、バラバラにならないものを使ってください」と書きました。できればノートが良い、とも。そして、最後に「使い終わる快感」の話をしましたね。それを味わうためには、練習の成果は残しておかなければいけません。一冊のノートを使ってメモを取る練習をすれば、いつか必ずそのノートは終わります。ノートを一冊使い切るというのは、意外と達成感のあるものなのです。
なにより、いつか何かの拍子に、そのメモが役に立つことがあるかもしれないのですから。メモというのは、そういうモノです。
では、実際にメモを取る練習の最初の一歩です。今そこにあるペンと"メモ帳"に手を伸ばして、「CMが始まったらメモを取る練習をする」と書いてください。今すぐです。ペンと"メモ帳"はいつも持ち歩いているはずですから、手元にありますよね?