ピクシブでは「ポエム」によって開発が駆動しています。前回は、「ポエム」によって気軽な情報共有とそれを題材とした議論が活発に行われるようになった経緯についてお話ししました。現在では、esa.ioは実際の業務ツールとしてもう一段深く利用されるようになってきています。第4回は、現在のプロジェクト進行について、esa.ioがどのようにピクシブ社内で利用されているかについて紹介します。
プロジェクトと共に「ポエム」が書かれる時代
ピクシブではesa.ioというツールを利用しています。導入時におけるエンジニアの尽力や、会社組織の拡大を背景に、esa.ioというツールは社内に受け入れられました。また、idobataという社内チャットツールに投稿した「ポエム」が流れてくることで、開発メンバーだけでなく、社内のメンバー全員に最も読まれ、投稿されるドキュメント共有ツールとして働くようになりました。社内WikiやIssue管理システムと違い、プロジェクトに関わる全てのメンバーが投稿できるツールとなったことで、プロジェクトの進行と共に様々な「ポエム」がesa.ioに投稿されるようになっています。
では社内でのプロジェクトについて、どのような「ポエム」が投稿されているのでしょうか。
プロジェクトの進行フローは大まかに分けると以下の通りです。
各々のタイミングでどのように「ポエム」が活躍しているかについて、その「ポエム」と共に紹介します。
アイディア出しについて
前回書かせていただいたとおり、pixivでは、普段の会話や飲み会などで出た新機能のアイディアや改善点を、自分の業務範囲に関わらず「とりあえずesa」として保存する習慣ができています。アイディア出しの基本は数を出すことですので、メンバー全員がアイディアを出せる「esa.io」は非常に強力なツールと言えます。
また、esa.ioには新機能・改善点以外にも、MTGの議事録・ちょっとした個人のメモ書き・各種勉強会のフィードバック・他社の知見、業務に関する知見など、メンバーが興味を持った様々な内容が投稿されています。もちろん自分の業務範囲外の「ポエム」も読めますので、メンバーが書いた「ポエム」に刺激されて新しいアイディアが生まれることも起きています。
様々な記事が投稿されている背景には、WIPという機能があることも大きいです。esa.ioには「WIP(下書き)」と「Ship it(投稿)」の2つの投稿方法があり、pixivでは「Ship it」することで、社内向けチャットツールに共有されるように設定しています。この機能・設定のおかげでより気軽に、「とりあえずesa」に書いておいてWIPで保存し、後日きちんとまとめたうえで公開する、といった流れが生まれているようです。
企画立案について
企画立案に重要な項目の一つに、「誰のために」「何を解決する」プロダクトなのかをはっきりさせることがあります。この解決に対して「ポエム」は大きな働きを見せています。
そもそもpixivにおいて、「ポエム」とは下記として定義されています。
ビジネス文章としての整合性や第三者からの検証性を必ずしも重視せず、書き手自身の理想であったり熱意だったり危機感だったり、そういう何らかの感情の発露を自分の中で反芻してとりまとめた表現した文章や図面の事。
「ポエム」は自分の想いを人に伝えるものとして投稿されているので、「立案者が何を考えてその提案をしているのか?」があらかじめ文章化されています。一番核となる「プロジェクトの目的」がはっきりしているため、議論がしやすくなります。また画像や表なども自由に投稿できるため、その提案がどんなものなのか? のイメージが共有しやすいといった良さもあります。
企画を詰めていく作業についても、esa.ioは便利です。esa.ioにはコメント機能が存在するため、「ポエム」として投稿された案を詰めていく作業も、esa.io上で行うことができます。感触の良さそうな案・面白そうな案に対してはコメントが多く付く傾向があり、MTGや会議として時間を取らなくてもひとりでに企画が詰まり、ときにはデザイン案まで投稿されているケースもしばしば見られます。
また最近では、顧客調査や社内メンバーへのヒアリング・ユーザヒアリングの結果についても(機密情報に触れない範囲で)投稿されるようになりました。esa.ioに調査結果が投稿されることで、それを火種としてより激しくコメントでの議論が行われ、より良い企画へと発展する流れが生まれています。
さらにesa.ioにはコメント以外にも、watch・スターといった形で「見ている」ことを示す機能があります。この機能は「ポエム」の承認欲求を満たす役割を果たしていますが、同様に、興味のあるメンバーをはっきりさせる役割もあります。会社のどのメンバーがこのプロジェクトに興味があり、また知見があるのかを把握することができるため、プロジェクトを始めるタイミングで、プロジェクトメンバーを選ぶ一つの参考にすることが可能です。
プロジェクトの進行
プロジェクトが開始すると、esa.ioは頻繁に利用されるようになります。チーム内でプロジェクトの目的を共有するための文章や、MTGの議事録に始まり、プロジェクトの進行中に思いついた新しいアイディア、利用している技術的なドキュメント、当日のリリース方法やお知らせの文章まで、プロジェクトに関わる様々な雑記がesa.ioとして投稿されています。
プロジェクトの様々な内容が社内向けに公開されていることで、プロジェクトに興味のある他のメンバーが、気軽に質問やアドバイスを行えるようになりました。また見るメンバーが増えることで、技術的な穴など、起きる可能性のあった問題を未然に防ぐ役割も果たしています。
また、pixivでは毎週、プロジェクトチームごとに振り返り(KPT)を行っていますが、その内容もesa.ioに投稿されています。
進行管理のツールとして利用されるケースもあります。大人数が関わり、また数ヵ月かかるようなプロジェクトの場合、タスク管理ツールなどを利用するケースが多いですが、1~2人で1週間弱くらいで完了するプロジェクトについては、esa.io上で進行管理を行うことも多いです。
また機能開発中だけでなく、リリース後にどのようにユーザに使われているか、といった効果測定や、反響の共有にもesa.ioが使われています。
このようにプロジェクトの最初から終わりまで、esa.ioへ「ポエム」が投稿され続けています。
社内のプロジェクト進行にesa.ioを取り入れることのメリット
以上、pixivの開発において、esa.ioがどのように利用されているかについてご説明しました。社内のプロジェクト進行に、ドキュメント共有ツールとしてesa.ioを導入したことで、プロジェクトの発端となるアイディアが生まれやすい環境ができただけでなく、社内でどんなプロジェクトが、何を目標として生まれ、その達成のために今何をやっているのか? が理解しやすい状態が作られています。結果として、今社内でどのようなプロジェクトが動いているかが分からなくなることがなくなり、社内メンバーがより積極的にお互いのプロジェクトに関わっていけるようになりました。
また、esa.ioにはカテゴリを付ける機能があり、各々のプロジェクトごとにカテゴリを設定して投稿をまとめることができます。pixivでは比較的大きなプロジェクトの場合には、プロジェクト名をカテゴリとして、そのプロジェクトに関わるドキュメントを一括でまとめるようにしています。プロジェクトの情報が、プロジェクトメンバーの言葉で、時時系列で並んでいるため、新しいメンバーがプロジェクトに参加した時など、そのプロジェクトを知りたい場合に、esa.ioにまとまっている文章を読むだけで、プロジェクトの背景まで理解することができるようになりました。リアルタイムでの共有だけでなく、過去のプロジェクトの内容すらも、プロジェクトメンバーの想いと共にしっかり共有できるのが、esa.ioの強みではないかと考えています。
次回
「ポエム」が社内で利用されるようになったことで、プロジェクトの情報共有が進み、社員全員でプロジェクトに関わっていくことができるようになりました。しかし、「ポエム」によって解決できない問題も引き続き残っています。次回はpixivと「ポエム」の未来についてご説明します。