前回 、今までの仕事管理が合わないのは、そもそも許容量を超えた大量の仕事の状況にあり、今までの管理方法では合っていないこと、それに対抗する管理方法がGTDであること、そしてそのGTDは大量処理を可能にするような仕事の管理方法であることを説明してきました。
それではいよいよ、GTDの実践方法について説明していきましょう。
GTD5つのステップとGTDのシステムとは
GTDの実際の作業は、下記の5つのステップに分かれています。
収集
処理
整理
レビュー
実行
関係することは全部を集め、仕分けをし、やるべきことを選んでそれを実行する、ただそれだけのことです。GTDのステップ自体は、非常に王道、かつ平凡です。「 こんなこと、わざわざGTDとか言われなくても、いつでもやっているよ。」そう思う方もいるでしょう。
ここで、GTDのもっとも重要な効用について、お話します。GTDとは、あなたが背負っている荷物を代わりに持ってくれる、あなたの第二の脳となるシステムなのです。
GTDは、何でも受け取ってくれる
今までのタスク管理システムは、対象範囲が中途半端でした。システムの範囲は仕事、生活、生活といっても重要なジャンルだけ。でも、動いているのは自分であって、仕事も生活も将来も人間関係も、一切合財があなたに関わる全てです。今までのシステムでその全部について、注目しようとしたシステムは、かつてあったでしょうか?
人生、仕事、友達のこと、単にテレビのCMでみた気になったことも、ジャンル・時系列・重要度・抽象具体レベルに関係なく、あなたが思い出すことはすべて、あなたにとって並べて等しく重要なのです。その気になること一切に、光を差し伸べたシステムが、GTDなのです。
この点が、GTDと今までのシステムとで、大きく異なっていることの一つです。
第二の脳であるGTDは、どんな状態でもどんな内容でも、ありのままで受け取ってくれます。その受け口が、GTDの最初のステップである、収集ステップなのです。
GTDに、記憶を委ねよう
手帳に予定を書き込むのは、手帳を開けばいつでもスケジュールが判るようにするため――つまり、あなた自身は、スケジュールについての記憶を、手帳に任せているといえます。これを拡大解釈したものが、GTDです。ただし、GTDに任す記憶は、手帳に書き込むような簡単な時間予定のスケジュールのみではありません。
そのために、まず何をやるべきか――それは、GTDというシステムを信頼し、思考の一部(ここでは主に記憶)をGTDに委ねるのです。つまり、収集ステップで、頭の中で気にかかることを全て吐き出し、記憶ごと、委ねてしまうのです。
気にかかることは、一度気になると、いつまでも気になるものです。例えば朝、家に出て、窓を閉めたか気になると、一旦家に帰って確かめるまで忘れられません。このような気にかかることは、思った以上にあります。今思い出さなくても、ふとした瞬間、頭の上にのしかかります。場所を移動しても、いつもついて回ってきます。
そこで、GTDに自分の洗いざらいをぶちまけるコトで、気がかりに思っていたことを一旦手放してしまうのです。全部を吐き出します。たったこれだけ、しかしやってみるとこんなにも重要だったのかということを、次に説明する収集ステップの段階で既に実感できます。
収集ステップをやってみよう
収集ステップでは、あなたが気になることのすべてを、一つのテーブルに全部集めてみるのです。気になることって、何でしょう? やりたいこと、やらなければならないこと、気をつけたいことなどです。やりかけの仕事、返事待ちの作業、これから開始されるミーティング、新しい靴を買いたい、旅行に行きたい、頭に浮かんだこと、心に秘めていたことを、すべて集めます。
集めることで、どんな効果があるのでしょうか?
あなたの頭の中にある気がかりなことを、一覧にして、客観的に見直せます。
気がかりなことを、一旦委ねたことで、どれだけ自分が気楽になったかを実感します。
ここまでくると、実際にやる方が速いでしょう。早速実行してみましょう。
紙とペンを用意しよう
GTDはツールを選びません。今回は、手っ取り早く実践するために、紙とペンを用意して、ここに書き出しましょう。書き出すのが面倒な場合は、箱を用意するのもよいでしょう。例えば旅行に行きたいなら、関連したパンフレットを箱に放り込みます。
収集:第1段階 - 自力で思い出そう
とにかく紙に、書き出してみます。繰り返しになりますが、書き出すことは、何でもいいので、あなたのやりたいこと、やるべきことを書くのです。思い出すコツとしては、実際に作業している場所や、関係している人などを具体的に頭に思い浮かべてください。やりたいこと、やるべきことなど、気になることを収集します。しばらくの間は、ポンポンと思い出すことが出てきます。リズミカルに書き出すことができることでしょう。
収集:第2段階 - アイテムから思い出そう
ある程度の時間が経過した頃から、段々とポツポツしか思い出すことができなくなります。ここで、あなたがいつもスケジュール・タスク管理に使っているアイテムを見直してください。手帳・ウェブカレンダー・ToDoリスト・利用しているタスク管理サービス・メール等を確認してください。思い出さなかったことも、いろいろ出てくるのではないのでしょうか。
収集:第3段階 - トリガーリストから思い出そう
またしばらくすると、手帳などを見ていても思いつくことがなくなってきます。ここら辺で、トリガーリストを用意し、連想することで思い出すものを収集しましょう。トリガーリストとは、GTDの収集ステップを行う上で、思い出すためのきっかけとなる、連想の項目や質問のリストです。以下に、ウェブ上で見かけるトリガーリストを集めてみました。
個人的なオススメなのは、『 仕事を成し遂げる技術(David Allen:はまの出版) 』のP.157にあるトリガーリストで、「 今日とは違う明日 - GTDまとめ(2)未整理タスクを収集する 」にまとめられています。キーワードが列挙されており、しかも広範囲の項目に渡ってリストアップしてあります。
収集:第4段階 - イメージから更に思い出そう
さらにしばらくやっていくと、トリガーリストからでも思い出すことがなくなってきます。そうなったら、今度はイメージする範囲を、広げてみましょう。収集ステップの第1段階では、場所や人について思い出すように書きましたが、自分が朝起きてから夜寝るまでどのように活動するのか思い出したり、いつもやっている作業の手順だったり、趣味の時間やそのためにやることを思い出したりと、実際の生活を、思い浮かべるとよいでしょう。
収集:第5段階 - これ以上思い出せない
終段階になってくると、考えても考えても何も思い出さなくなります。もうムリだ!と思ったら収集の終了です。
収集:終了段階
収集ステップの終了段階では、自分の書き出したリストを見直して下さい。どうでしょうか? 思ったより項目数が多かったですか、少なかったですか? 忘れていたことなどもありましたでしょうか? こうやって、改めてリストをみると、いろんなものが頭の中につまっていたことを実感できることと思います。これによって、上記で説明した「1.あなたの頭の中にある気がかりなことを、すべて一覧にして、客観的に見直せる」ことができます。
自分の状態もちょっと、見直してみましょう。収集する前とした後では、どんな風に違いますか? 収集ステップで、自分が作ったリストを見て、どんな気持ちになりましたか? 多少は気楽な気持ち、人によっては、脱力した感じがあるかもしれません。これによって、上記で説明した「2.一旦中身を委ねたことで、どれだけ自分が気楽になったかを実感する」ことができます。
何かピンと来なかった人は、ちょっとエクササイズをしましょうか。肩を上げて歯を食いしばり、両手を握って全身に力を入れてください。そして一気に息を吐いて、力を抜いて下さい。身体が脱力し、リラックスした状態になります。GTDは、このリラックスした状態を、脳にも体験させようとしています。それが、上記にある、気楽な気持ち、脱力した感じにあたります。
GTD・収集ステップまとめ
質問:初級編
収集ステップの段階について説明しました。どんな感じで収集の作業が進むのか、感じは掴めたと思います。GTDを初めて行おうとする人が、収集ステップで、疑問に思ったり、気になって手がとまってしまうのは、次のようなことです。
Q.1 結局どれぐらいの時間したらいいの?
A.1 自分で、時間を決めよう、もしくは項目数を決めよう。
様々なサイトを見かけると、収集ステップにどのくらいの時間で行うのがよいかについて、様々な提案がなされているので、実際どれぐらい時間をかければよいのか、わからなくなってしまいます。それに、実際問題、GTDのために長い時間を割くことが、難しいこともあります。しかし、時間を短くすることばかり気にすると、今度は先述した、収集の第5段階にまで進まないかもしれません。
GTDが提唱された内容を、正式に実施することも大切ですが、それができるのは、実行できる時間があってこそです。不完全でも、前に進むことも大切です。今回は、不完全であっても、前進することを優先しましょう。
収集に必要な時間は、自分で決めてください。自分が確保できる時間を決めて、その中で収集をしましょう。15分、30分、1時間でもかまわないと思います。まずは、時間を決めましょう。そして、時間を計りながら収集してみましょう。また時間を決めるのは苦手だ、という場合は書き出す項目数を決めて、そこまで書き出せたらゴールと決めてしまいましょう。
時間を計るのに役立つサイトを紹介します。タイマーで砂時計になるタイプを紹介します。時間になったら音も出るので便利ですよ。
仕事が忙しくて時間がない場合は15分、生まれて初めてGTDで初めて収集ステップである場合は、仕事に慣れていないこと、頭をからっぽにするという状態をしっかりと体験するためにも、2時間取り組んでみてください。
Q.2 どこまで収集したらいいの?
A.2 自分が、収集したいジャンルに絞ろう。
GTDは何でもかんでも収集しましょうと言っています。しかし、いざ手を取ると、しり込みしてしまうことがあります。
そんな時は、いっそのこと仕事なら仕事、家の用事なら家の用事、どっちも必要ならどっちも、というように、ジャンルを絞って思い出してみましょう。思い出すポイントとしては、先述したとおり、関係する場所を頭に浮かべてみることです。例えば、家の用事を思い出そうとして、トイレを思い出します。そうすると、トイレットペーパーがないことに気がついたりします。一度思ったことについては、このように風景を思い出すとそれに付随して、気になったことも思い出すことができます。
まずは、GTDに慣れるまでは、ジャンルを絞って行いましょう。私も、最初は仕事に焦点を絞り、GTDを始めましたよ。そこから深みにはまって、生活のことなどに、範囲を広げていきました。
Q.3 ジャンルを絞ったら、他のことは思い出しちゃダメなの?
A.3 もちろんOK。思い出したら、書き出そう。
上記で、ジャンルを絞って収集をしようとすすめました。ですが、仕事のジャンルについて思い出してても、"請求書のお金が足りなくて振り込みしなくちゃ!"と、いきなり思い出すこともあります。もちろん、この内容も書き出しましょう。ジャンルは、あくまでやりやすくするために行動を制限しただけです。だからといって、脳がそれをおいそれと従うことは、まずありえません。思い出すのはいつでも突然です。なので、収集している時に思い出したことは、なんでも書き出してください。
Q.4 収集した項目を、カテゴリ分けしちゃってもいいよね?
A.4 カテゴリ分けはしないようにしよう。
収集したものについてカテゴリ分けするかどうかについてです。結論を言うと、収集時では、カテゴリ分けをする必要はありません。収集ステップでは、集める作業に集中するため、GTDは、分ける作業を別のステップで行います。今、分けたとしても、分ける作業のステップでまた分けてしまうので、カテゴリをした内容がそのまま有効になるとは限りません。それに、カテゴリ分けする時間が惜しいです。収集ステップでは、収集する作業に専念してください。
Q.5 収集したことについて後でやることまで出しちゃった! これでもいいよね?
A.5 後にやることなどは、考えないようにしよう。
うーん、よくありません。収集した項目について、何をするかの詳細は、今考えなくても後から考え直すので大丈夫です。今は、安心して思い出すことに集中しましょう。収集ステップでは、収集する作業に専念してください。
質問:運用編
記事を読まれている方には、既にGTDを使っている方もおられることでしょう。GTDを続けていると、いろいろ疑問点も出てきます。GTDを続けると出てくるような疑問点には、次のようなことがあります。
Q.6 収集って、レビューの時に一回すればいいだけだよね?
A.6 思い出した時に書こう。書き出すためのツールを用意しよう。
収集は、思い出した時に書いておきましょう。はじめて収集する際には、結構項目が出てくるものですが、だんだん続けていくと、いざ出そうと思っても出てこなくなります。思い出した時は簡単に思い出しているのだけれど、実際それを、レビューステップの時に思い出せるかというと、私自身、正直自信がありません。それで、私は思い出したらその時に書くようにしています。
いつ思い出しても書き留めるために、アイテムを用意することも、忘れないでください。メモ帳を持ったり、Remember The Milkといったような、メールでメモを送れるサービスを用意したり、腰リール、なんてのもありますね。自分に使えそうなツールを使ってみてください。私はB5のノート、Moleskine、Evernoteのインポート用のメールアカウントの三つを、収集用に用意しています。
Q.7 ユビキタス・キャプチャも一緒にやっているけど、それとは別に収集するのが面倒なんだけど、どうしたらいい?
A.7 ユビキタス・キャプチャのツールに収集項目も書き、チェックボックスをつけて他の項目と区別しよう。
収集時に、ユビキタス・キャプチャのツールからチェックボックスの項目を書き出し、書き出したものについてはチェックボックスをチェックしよう。
GTDを使っている人の中には、ZTDで推奨されているユビキタス・キャプチャを、実行している人も多いと思います。ユビキタス・キャプチャとGTDをどのように組み合わせたらいいのか、わからない人もいると思います。ZTDについては、Lifehacking.jpで紹介されているGTDを補完するシステムです。詳細については、以下をご覧下さい。
ここでは、収集ステップの際に、ユビキタス・キャプチャで書き出した項目(以降キャプチャノート)の中からシステムに反映したいことを抜き出してリストアップすることをオススメします。でも、キャプチャノートには、やろうとしていることとそうでないことが混ざっているので、どれをリストアップしたらいいのか抜き出すのは、大変ですよね。
そこで、後から収集したいな、と思ったものにはユビキタス・キャプチャで書き出すタイミングに、キャプチャノートにチェックボックスも一緒に書くのです。そして、レビュー時に、キャプチャノートからチェックボックスの項目を書き出します。一度書き出した項目は、チェックボックスをチェックします。そうすると、次のレビュー時では、チェックした項目は既に収集したことで、重複することなく収集することができるのです。前回どこまで収集したのかが、チェックボックスをチェックすることで記録できるからです。その後の作業は、処理ステップに任せて、ユビキタス・キャプチャのツールからは、今後何も行動を思い出すことはないようにしましょう。
Q.8 収集したら、スッキリした感じになるって聞いてたのに、そんなにスッキリしないけどそれでいいの?
A.8 物理的な物も収集してみよう。収集の範囲を広げてみよう。
ウェブ上では、GTDの概要を知ってもらうために、端的にまとめられて説明されています。そのため、収集ステップでも、頭に浮かんだものについて収集することにまとめられています。今回についても、概要を知ってもらうために、説明する範囲を狭めています。
しかし、『 仕事を成し遂げる技術』では、未処理の手紙や散らばった文房具など、物理的なものについても収集するよう、説明しています。もしかすると、収集してもスッキリしないのは、そんな物理的な収集すべきアイテムが、多いからかもしれませんね。今まで、物理的なものを収集したことがなければ、これを機会に実行してみてはどうでしょうか?
また、収集の範囲はどうでしょうか? 仕事だけ、生活だけということはありませんか? 今まで収集したことのなかったジャンルについても、収集してみてください。
収集ステップを終了して
さて、時間をかけて、あなたの頭の中で気になっていたことを収集しました。収集したことはもう覚えなくてもいいし、気にかける必要もありません。といっても、また、時と場合・状況に合わせて思い出さなきゃいけないことも、このリストにはあります。どうやったら、タイミングよく思い出すことができるのでしょうか。
GTDはできます。GTDは適切なリストを作って、思い出す作業を止めて、リストを見直すことで実現させます。今回収集したリストが、適切なリストになっていくわけです。どうやってリストを作るかは、次回以降のステップに続きます。