実践!GTD~一歩先の仕事管理

第8回実行ステップで理想に近づこう

行動すれば自ずと変わる、さてそのためには?

前回までの作業で、GTDの一通りのリストが出来上がりました。もう既にGTDリストに従って、実行し始めている方もいるかと思います。今回はその実行ステップについて、詳細に見直していきます。

実行ステップは何のため?

今さらのようですが、実行ステップは何のためでしょう? これは、自分が理想の状態に近づくためです。そして、これが一番大切なのですが、自分が理想の状態に近づくための唯一の手段でもあります。しかし、この実行することとしないことに、歴然の差があることを自覚している人は、少ないように思います。

勉強にしろスポーツにしろ、ゲームですら、実行しなくては、結果さらには理想の状態を得ることは、決してありません。頭の中だけでは、決して近づくことはできません。だからこそ、実行することが非常に大切になるのです。

繰り返し言いますが、実行ステップは、自分が理想の状態に近づくためのステップです。

実行ステップって実際何をするの?

さて、実行ステップは、実際にはGTDリストを使ってどのようなことをするのでしょうか? ここでは各リストにそれぞれ焦点を絞りながら説明していきます。⁠仕事を成し遂げる技術』では、レビューステップに相当する部分に書かれていますが、今回はウィークリーレビューと区別して説明するため、実行ステップにて説明します。

実行ステップ時に見なくてもよいリスト

実行ステップ時には見なくてもよいリストがあります。以下のリストがそれにあたります。

  • Referenceリスト(資料リスト)
  • Somedayリスト(いつかやろうリスト)

Referenceリスト

Referenceリストは、アクションの必要のないものですから、実行ステップでいの一番に確認する必要なものはないはずです。実行が必要なものがありましたら、それは別のリスト行きです。Referenceリストから取り出して再度処理ステップを実行し、しかるべきリストへ行き先を決めなおしましょう。

Somedayリスト

Somedayリストは、以前の連載でも説明した通り、今はできないけれど時間があったらやってみないな、と未来に託すためのリストです。そのため、今必要ないものと判断したものばかりがこのリストにあるため、特に見直す必要はありません。

Somedayリストに気になるものがある、という場合は、一旦Somedayリストを見直して気になるものを取り出し、⁠物』として処理ステップを実行するようにしてみてください。

これらのReferenceリスト・Somedayリストで説明した作業は、レビューステップ時に実行するのがよいでしょう。

実行ステップ時に見直すリスト

それ以外のリストは、実行ステップ時にも、見直します。

  • Projectリスト(見張りリスト)
  • Calendarリスト(時間割リスト)
  • WaitForリスト(返事待ちリスト)
  • NextActionリスト(実行リスト)

Projectリスト

いくつものプロジェクトが同時に動いて忙しくなると、何がどのような状態なのか、すぐに思い出せなくなってしまいます。それに、自分が知らない間にも、誰かの手でプロジェクトが進んでいたりすることもあります。そこで、Projectリストを見直すことによって、各プロジェクトの現状を一手に確認できるようにします。

私の場合、特にこのProjectリストが有用だったのは、案件を数件掛け持ちしていたような場合です。電話やメールなどで、頻繁に状況が変わりました。それを全部の案件の状況を漏れなく確認するのに、このProjectリストが役立ちました。

Calendarリスト

Calendarリストは、その日までに仕上げなければいけなかったり、その日に必ず実施しなければならないことを、確認するためのリストです。この連載では、手帳をCalendarリストに相当するように説明しています。

Calendarリストは、どのようなタイミングで見ているかというと、毎朝確認します。これは、その日にしなければいけないものを確認しなければいけないからです。そのため、Projectリストが逐次確認する、とやり方ではなく、Calendarリストは毎朝定期的に確認する必要が出てきます。

WaitForリスト

WaitForリストは、人の返答を待つためのリストです。通常は行動は必要ありませんが、待てど暮らせど返事がない場合は、その限りではありません。WaitForリストに記入する前に、相手と返答期限を決めたり、自分なりに返答期限を決めておき、それが過ぎる場合は、WaitForリストに従い、相手に催促します。

NextActionリスト

NextActionリストは、状況さえ揃えば実行に移せるリストです。作業が完了した時に次にやることを見つけたり、手持ち無沙汰な時にできることを見つけたり、あるいは毎朝の時間に、今日優先的に実行する項目を洗い出したりするのに用います。

Inboxリスト

Inboxリストも、実行ステップで必要なものの一つです。家の用事を突然思い出したり、好きな本を買わなきゃ!と思い出したりするのはいつも突然です。そんな唐突な思いつきも忘れず後で確認できるように、Inbox用のリストを用意して、書き留めます。

私が会社で一つのノートを用いている際、ヘッダ部分が空白なので、そこをInbox用の場所として用いています。そして、実際の作業中のメモは罫線の部分を用いることで、一つのノートでInbox用の部分とメモ用の部分とを共有していました。このように、一つの紙でなくとも、どこに書いているのか統一していさえすれば、どこに書こうが問題ないと思います。

実行ステップでよくある問題点

実行ステップは、単純な実行部分ではありますが、つまづきやすい部分でもあります。代表的な問題点について、まとめてみました。

Q1.NextActionリストの数が膨大で怖ろしいです。見たくありません。

A1.リストの意味を見直そう。

NextActionリストで誤解されがちなのは、このNextActionリストを全て終わらせなくてはいけないと、義務感に陥ることです。その心意気は非常に大切ですが、それに振り回されないために作られたのが、このリストです。

NextActionは、次に行動することのみが決まっていますが、いつ実行するかの時間の指定はありません。上司から仕事を言い渡されたけど特に期限が決まっていない場合、⁠特に期限を言われてないので何もやってないもんね」と、言い逃げすることのできるような仕事の状態でもあります。

仕事に忙しい人は、項目を洗い出すのがやっとで、目の前にやってきたすべきことをさばくことで、精一杯です。その「目の前にやってきたすべきこと」がNextActionになるわけですが、いつ実行するかを決めるような時間など、到底ありません。また、仮にいつ実行するか決めても、すぐに別のことがやって来て、やると決めた日にできるとは限りません。

GTDは自分に約束することを大切にしており、約束できないものは約束しないようにしま す。NextActionリストは、次に実行することを約束していますが、いつ実行するかは約束 していません。

NextActionリストの膨大な量に目がくらみそうになった時、今日実行しなきゃいけないと 決めたわけではないことを、思い出すようにしてください。ひとまず気軽に付き合ってい きましょう。落ち着くためのおまじないとして、⁠いつ実行するかは、約束してないもん ね」と唱えるとよいかもしれませんね。

とはいっても、いっぱいあるNextActionリストはうんざりしますよね。だから、その日その日に実行するものをNextActionから選び、どこかに書き出してから実行するというのも、一つの手かもしれません。

ひとまずは、冷蔵庫にある食品リストを見るように、気長に見るように切り替えるとよいと思います。

Q2.Projectのすべきことを細分化し、全てNextActionリストに乗せるとどこから手をつけたらいいのかわからなくなりました。

A2.一番最初に行う項目だけ、NextActionリストに記載しよう。

プロジェクトのすべきことを細分化すると、二つのパターンのすべきことがあります。一つは、旅行の準備など、同時並行でも問題ない場合です。そしてもう一つは、お客様の問い合わせ対応など、順番の決まっている場合です。

一つ目の場合は、同時並行でも問題ないので、全て実行可能です。なので、NextActionリストに全ての項目を載せても問題ありません。

しかし、もう一つ目の順番の決まっている場合は、一番初めに行うことのみをNextActionリストに載せます。

例えば、仕事でお客様から問い合わせがあった場合、問い合わせが終わった後で「内容を確認する→お客様にメールで返答する→お客様より返答を受けとる→[終了]」というような行動の流れになりますが、⁠内容を確認する」前に「お客様にメールで返答する」ことはありえません。これは、⁠内容を確認する」前では実行不可能なことであり、実行可能なもののみがリストアップされているNextActionリストには、不適切な内容です。⁠お客様にメールで返答する」は、⁠内容を確認する」を実行した後の時点で、NextActionリストに記載するのが妥当でしょう。

Q3.膨大なアクションから選び取るのに迷います。

A3.NextActionリストをコンテキスト別に再分割して、その状況下でできるものに絞り込もう。

例えば、100以上のNextActionから、今すべきことを選ぶのは大変です。そもそも、人間は7つ以上の項目から一つを選び取ることに長けていません。GTDでは、コンテキストを使って、NextActionリストを再分割することを提案しています。

コンテキストとは、日本語では「状況」と称されます。NextActionには、⁠自室の片付けをする」など、特定の状況下でのみ実行可能なものがあります。この『特定の状況下』がコンテキストであり、このコンテキスト別にNextActionを分類し、現時点での状況下では実行可能なものと、そうでないものとに分けます。

コンテキストには、自宅・職場・PC・電話・メール・外出の用事等があります。他には、上司等の人自体がコンテキストになる場合もあります。例えば忙しい上司の場合、捕まった時に確認する質問事項などをまとめるのに重宝します。

コンテキストを理解する上で、次のような間違われ方があります。例えば、以下のようにNextActionにコンテキストを決めたとします。

NextAction - コンテキスト

  • 文房具の備品確認を文房具屋に電話する ⁠03-xxxx-xxxx)- 家

上記の場合は、⁠文房具の備品確認を文房具屋に電話する」は私用なので、家というコンテキストを設定しました。けれどもこれは一方で不適切です。⁠文房具の備品確認を文房具屋に電話する」は確かに家の用事ですが、携帯がありさえすれば、家でなくとも用事は済ませられるわけです。コンテキストを「携帯」に設定すると、電車の待ち時間でも、携帯を使って、このNextActionを実行することができます。

Q4.NextActionがなかなか実行できないものがあります。

A4.項目を更に細分化しよう。

ある項目を実行に移せるレベルというのは、項目によっても異なりますし、人によっても異なります。どこまで細分化したら実行に移せるかは、実際に自分で細分化していき、自分で実行できそうかイメージが浮かぶかどうかで判断するとよいでしょう。

例えば、私が自宅で掃除機をかける場合、⁠掃除機をかける」というNextActionでは行動ができません。掃除機をかけるには、床に不要なものがない状態であることが必要なので、⁠掃除機をかける」という項目のNextActionは、実は「床の不要なものを片付ける」といったものになります。しかし、主婦業をしている友人に話を聞くと、ここまで細分化すること自体思いつかず、⁠掃除機をかける」というだけで行動に移せるとのことでした。

このように、自分がどれぐらいその行動に馴染んでいるかどうかで、NextActionをどこまで細分化すればかは異なってきます。こればかりは自分で調べていくほかありません。どんどん細分化して、イメージが浮かぶまで、細分化していきましょう。

GTDでは、この部分はよくつまづきます。しかし、何度も作業を繰り返すことで、以前より細分化しやすくなります。自転車に乗るのを練習するのと同様に、訓練することでできるようになるものです。処理ステップで、NextActionを洗い出す作業を毎回することで、段々と馴れるようにしてみてください。

Q5.プロジェクトが進みません。

A5.NextActionリストにそのプロジェクトのためのNextActionがあるか、確認しよう。なければ、NextActionを追加しよう。

プロジェクトが進まないのは、当たり前のことですが、行動していないからです。行動するための項目はNextActionリストにありますから、そのリストに、進んでいないプロジェクトのための項目があるかどうか、確認します。

よく間違われることですが、GTDの処理ステップで、ある『物』がProjectリスト行きになると、そこで処理ステップの作業は完了と勘違いされます。が、ここだけはフローチャートのようには行かない部分で、Projectリスト行きになったことに付け加えて、 NextActionの項目を生成する必要があります。NextActionと言っていますが、場合によってはWaitForリストやCalendarリストの項目になることもあります。

Projectリストは、大上段に立って、全体的に進んでいるか見張るためのリストです。このリスト自体が実行を促すというわけではないことに、注意してください。Projectリストでプロジェクトの状況を確認し、NextActionで、プロジェクトの実行内容を確認します。この二つのリストを使って、プロジェクトを実行しつつ状況を確認します。

Q6.リストと内容がよく不一致に見まわれます。

A6.定期的に行うレビューステップで一致させるので、通常はあまり気にしないでおこう。

私がリストを運用する際に失敗したことの一つに、リアルタイムで実行している項目と実際の状況を統一しなければならない、という誤解がありました。お客様とやり取りした内容を、すぐに何かしらのリストに反映しなければいけない、と思い、進捗の更新に追われて一日のほとんどを費やしてしまったことがあります。

リストの不一致と実際の状況を、どういうタイミングで取ればいいのか迷ってしまいますよね。GTDでは、定期的なレビューステップのタイミングで、GTDのリストの内容と実際の状況とを、一致させます。忙しい仕事になると、毎日レビューすることもよくあります。どれぐらいのスパンでレビューステップを実施するかは、状況に合わせて調節してください。

GTDで本当に仕事ははかどるの?

さて、今回で、GTDの全てのステップについて説明してきました。本当に仕事がはかどるのか、疑問に思う方もおられるかと思います。次回は、実際にGTDを使って仕事をされている人のユースケースを、ご紹介します。

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