GTDを使っての毎日の仕事の仕方は?
前回までは、GTDの各ステップの詳細について説明してきました。しかし、仕事でGTDを当てはめようとすると、どうやったらいいのか分かりにくいものです。今回は、実際にGTDを仕事で活用している方の例を紹介します。
営業系Hさんの場合
私はmixi上で、GTD勉強会のコミュニティを運営しています。最近の勉強会では、GTDを実際に仕事で活用している人に講師を依頼して、その内容について紹介してもらっています。今回説明する実践例は、勉強会で紹介してもらったHさんの内容をまとめています。
Hさんの紹介
Hさん |
年齢 | 40歳 |
職種 | 総合系営業職 |
管理ツール | GTD+R・マインドマップ・超整理手帳 |
現在ツールの使用期間 | 9ヶ月 |
GTDを紹介していたセミナーで知り合ったHさんは、全国各地を飛び回り、海外の赴任経験もある、とても忙しい営業マンです。そんな忙しい仕事を円滑に進めるために、Hさんは最近ではGTDを活用しています。具体的にはGTD+R、それを補助するツールとしてマインドマップと超整理手帳も用いています。
HさんがGTD+Rを実装に選んだのには、職種が大きく関係しています。Hさんは営業職であり、作業場所が社内だけでなく社外など多岐に渡ります。以前にはGTDStyleWikiなどの電子ツールを使ったこともありましたが、破綻してしまいました。電子ツールでタスクを管理すると、項目を反映したり等の管理作業が煩雑になるからです。Hさんは、電子ツールから離れてアナログツールを使うことで、問題を解消しました。また、Calendarリストには、超整理手帳を使っています。超整理手帳の理由は、半年のスパンでもスケジュールを一覧することができるためです。
Hさんの実装内容をGTDのリストにまとめると、次のようになります。
- Inbox ― A4のスタッキングトレー・ロディア
- Referenceリスト ― ファイルボックス+A4封筒
- Somedayリスト ― GTD+R
- Projectリスト ― GTD+R
- WaitForリスト ― GTD+R
- Calendarリスト ― 超整理手帳・43Folders
- NextActionリスト ― GTD+R
以降は、各ツールの詳細と、毎日のサイクルでどのように当てはめて使っているのかを紹介します。
紹介する上での名称について
紹介する前に、名称についてまとめておきます。
GTD+Rについて
GTD+Rは、opakenさんこと太田憲治さんの考えたGTDの実装の一つです。詳しくは(太田さんのサイトのeXtreme GadgetでのGTD+Rの記事やgihyo.jpの太田さん自身の連載の「GTDでお仕事カイゼン!」を参照ください。
ロディアのシート
GTD+Rはロディアを使ってGTDを行うやり方です。このうち、ロディアの一枚一枚の紙を「シート」という名称で統一します。
タスクシート
タスクシートは、形状はロディアのシートで、尚且つタスク項目が記入された状態を示しています。GTDの処理ステップ前かどうかは、特定しません。
ポケット
ポケットは、GTD+R中でタスクシートをGTDリスト別に管理するためのものです。1リスト=1ポケットです。
Hさんを支えるツール
まず始めに、HさんがGTDを行う上で使っているツールを紹介します。
ロディア
ロディアはGTD+Rで使うためのメモ帳です。どんな時でもメモができるように、Hさんはいつも携帯しています。
Hさんの最大の工夫ポイントは、ロディアとペンを常に一緒に持ち運ぶことです。実際に書こうと思った時に、ペンがないとすぐに書けないことがストレスに感じたからです。他には、opakenさんの連載でも紹介されていたスワンタッチを用意することで、すぐに書ける場所にアクセスできるように工夫しています。
A4のスタッキングトレー
A4のスタッキングトレーとは、資料を一時的に保管するためのものです。具体的な形状はこちらのようなものになります。
A4のスタッキングトレーは、Hさんの会社の机の上に用意されています。トレーは5段用意してあり、上から順に、次のような使い道が決まっています。
- 1段目 - Inbox
- 2段目 - 作業中資料(その1)
- 3段目 - 作業中資料(その2)
- 4段目 - Someday資料
- 5段目 - 備品のA4封筒
通常何かあったら、まず1段目のInboxに入れるように使います。また、他の人から受けとった資料もInboxに入れます。
ファイルボックスとA4封筒
資料の保管には、ファイルボックスとA4封筒を使います。GTDでは、資料の管理に個別フォルダを勧めており、HさんはA4封筒で代用しています。各プロジェクトや資料などは、封筒に資料を入れて管理します。これらの資料は定期的に見直し、封筒単位で捨てます。
なお、GTDでも指定されている通り、封筒の右上にはラベルライターを使ってインデックスをつけて、何が入っているのかを明確にしておきます。インデックスをつけたら、これらの封筒は、ファイルボックスに横にして入れて保管します。
超整理手帳
Hさんは、Calendarリストの一つとして、超整理手帳を使っています。自作のリフィルをつなぎ合わせ、数ヶ月間を一括して確認できるように工夫しています。半年先のスケジュールも考えなくてはならないHさんならではのやり方です。
43Folders
Calendarリストの中でも周期的に行われるものを、Hさんは43Foldersで管理しています。43Foldersとは、31日+12ヶ月の合計43個のフォルダーを作ることから、この名前になっています。
毎朝実施!レビュー作業
GTDのレビューサイクルは、このサイクル周期で必ずする! などと厳密には決まっていません。個人の状況によって、そんなに忙しくなければ週一回でのレビューで充分です。Hさんの場合、GTD+Rの特性もあり、毎朝レビュー作業を行っています。
Hさんのレビュー作業は、仕事前に実施します。作業時間は約40分で完了します。この40分内の内容について、詳細を紹介します。尚、GTD+Rでは、レビュー作業は戦略フェーズ・戦闘フェーズという名前で説明されていますが、今回はGTDのステップにあわせて紹介します。
Hさんの40分のレビュー作業は、大きくわけると以下のステップで構成されます。
- 収集ステップ
- 処理ステップ
- 整理・レビューステップ
以下にレビュー作業の全体図を用意しましたので、合わせてご覧ください。この図は、物理的な物体に焦点を絞ってまとめてあります。
1.収集ステップ
Hさんの場合、収集ステップで以下のような場所から『物』を収集します。
- 43Folders ― その日付のフォルダに入ってあるタスクシート
- 財布 ― 名刺・レシート
- 名刺入れ ― 名刺
- ロディア ― タスクシート
- Eメール ― 未処理のメール
- 超整理手帳 ― 名刺
これらの『物』は、A4トレーのInboxに収集し、次の処理ステップに向かいます。上記は、Hさんが意識的に集める『物』ですが、A4トレーには、それ以外にも仕事で使う資料などが収集されています。
Hさんが特に意識しているのは、全て物理データにする、ということです。Eメールのような、電子媒体で処理が可能なものであっても、メールを印刷して物理的な『物』に変換し、どんな物理的な『物』を処理するのかを明確にしています。このように、『物』を物理的な『物』に統一すると、どれを処理してどれを処理していないかが明確になります。
収集ステップで、皆さんに注目してもらいたいのは、以下2点です。
- (1)どこから『物』を収集しているのか
- (2)どのような『物』を収集するのか
どこから『物』を収集しているのか、については、ロディア以外にも43Folders・財布・名刺入れ等のいろいろな場所から収集していることがわかります。ごみの収集車のように、自分が後から処理しなければいけないような『物』がある場所を巡回して『物』を収集していることがわかります。
どのような『物』を収集するのか、については、Hさんの場合は営業職ということもあって名刺を毎回収集していることが特徴的です。名刺は、いろんな場所に散逸しがちです。また、受け取ることもさることながら、それを管理する方法も大変です。Hさんの場合は、GTDのステップに組み込むことで、散逸になりがちな名刺を漏れなく収集し、処理するようにしています。
2.処理ステップ
処理ステップでは、先ほどの収集ステップで収集した物理的な『物』を処理していきます。『物』の一つずつについて、どのリスト行きに行くかを決め、具体的な作業を実施します。
Inboxに入ってくる『物』は、一つの『物』に、しなければいけないタスクと、それに必要な資料との二つのものが、入り交ざって入ってきます。Hさんの処理ステップでは、それを処理ステップで分離させるための作業工程が顕著に現れ出ます。これから説明する実際の方法では、『物』から、しなければいけないタスクはGTD+Rのタスクシートに分離しているところに注目しながら確認してみてください。
レビュー作業全体図では、処理ステップでの左側は、収集ステップで収集し、そのリスト先になった『物』を表しています。右側では、実際どんな状態になるのかを示しています。例えば、Somedayリストでは、『物』は資料でしたが、右側ではロディアのタスクシートと、ファイルにまとめられた状態になった、というような意味になります。尚、処理ステップでの『物』は一例ですので、必ずしも同じ状況になるとは限りません。今回は、わかりやすいように、よくある一例のみを取り上げています。
Referenceリスト行き
『物』がミーティング・製品等の資料ならば、それはReferenceリスト行きになります。
Referenceリスト行きの場合、資料は、封筒に入れてテプラでインデックスを作って保管します。GTDでは『仕事を成し遂げる技術』の中で、資料を個別フォルダでまとめることを薦めています。Hさんは、超整理術も行っていたため、封筒で管理しているとのことでした。
Somedayリスト行き
『物』が、いつかは読まなければいけない資料等の、実行する必要があるけど直近には不要ならば、それはSomedayリスト行きになります。
Somedayリスト行きの場合、タスクシートを作り、資料自体は4番目のトレイに保管します。資料自体は資料で管理しますが、実行しなければならないこと自体は、わざわざタスクシートを作って2つに分けます。資料に含まれる情報を2分割して、作業しなければならないことを管理しやすくします。
Projectリスト行き
『物』が、実行が必要だけれども、複数の作業が発生するようなものならば、それはProjectリスト行きになります。
Project行きの場合、タスクシートを作成し、そのタスクシートに1つ以上のActionを記入します。
『物』が、ロディアのシートだった場合、それがそのままProjectのタスクシートになります。『物』が関係する資料だった場合は、タスクシートを新たに一枚用意します。そして、『物』である資料自体は、2番目もしくは3番目のトレーに保管します。
従来のGTD+Rでは1アクション=1タスクシート、という取り扱いですが、Hさんは、1プロジェクト=1タスクシートとして取り扱っています。つまり、1つのタスクシートの中に、複数のアクションを記入するようにしています。アクションが記入しきれなくなると、タスクシートをホッチキスでつなげて使っています。
Calendarリスト行き
『物』が、実行が必要で、ある特定の日付に実行するならば、それはCalendarリスト行きになります。
Hさんの場合、Calendarリストには超整理手帳と43Foldersの二種類を使っています。月次処理などの定期的に実施するものは 43Folders行きに、飲み会などの1度限り実施するものは超整理手帳行きになります。定期的に実施するかどうかで、超整理手帳と43Foldersを使い分けています。
WaitForリスト行き
『物』が、人に依頼するような項目ならば、それはWaitForリスト行きです。
WaitForリスト行きになる『物』の形状は、ロディアのシートである場合が多いです。『物』がロディアのシートの場合、そのままタスクシートになります。
NextActionリスト行き
『物』が、実行が必要で、一つの作業が発生するものならば、それはNextActionリスト行きになります。
『物』が、ロディアのシートだった場合、それがそのままNextAction用のタスクシートになります。『物』が関係する資料だった場合は、その資料用に、タスクシートを新たに一枚用意します。そして、『物』である資料自体は、2番目もしくは3番目のトレーに保管します。
3.整理・レビューステップ
以下にレビュー作業の全体図を用意しましたので合わせてご覧ください。この図は、物理的な物体に焦点を絞ってまとめてあります。
処理ステップを実行し、しなければいけないタスクは全てタスクシートになりました。Hさんは整理ステップで、以降の実行ステップで実施しやすいように処理を行います。具体的には、各タスクシートについて、具体的な作業を次の行動を書き込んだり、新しい情報に最新化したりします。
- (1)既存のタスクシートをポケットから取り出す
- (2)各タスクシートについてタグ付けをする
- (3)各タスクシートを振り分ける
(1)既存のタスクシートをポケットから取り出す
今までの収集ステップと処理ステップは、新しく出てきたタスクについての処理でした。既存のタスクシートについては、このタイミングから処理対象に入れます。通常は、INBOX,TODAY,WEEK,HOLDポケットからタスクシートを取り出します。毎月1日には、プラスSOMEDAYポケットからタスクシートを取り出します。
(2)各タスクシートについてタグ付けをする
タグ付けとは、具体的な次の行動をタスクシートに書き込む作業のことです。抽象的になりがちなタスクを、この作業で具体的な行動に落とし込みます。
更に、動詞に○をつけたり、タスクシートにコンテキストをつけたりして、Hさんが実行しやすいように工夫します。
(3)各タスクシートを振り分ける
GTD+Rのルールに「だいたい」従って、タスクシートをGTD+Rのポケットに振り分けます。「だいたい」と言ったのは、Hさんの独自ルールがあるからです。
Hさん独自のTODAY・WEEKポケットの使い方
Hさんの整理・レビューステップで注目すべき所は、TODAYポケット・WEEKポケットの使い方です。Hさんの話を聞いていると、どうやら、TODAY・WEEKポケットを実行期限として使っているわけではなく、自分の注目度合いによって使い分けているようです。
GTD+Rでは、NextActionリストに代替するものとしてTODAYポケットとWEEKポケットが用意されています。TODAYポケット・WEEKポケットはそれぞれ、今日やるタスク・今週やるタスクを振り分けることになっています。Hさんの場合、この意味合いを大きくとらえていました。
Hさんは、TODAYポケットは近々で行う作業を、WEEKポケットは緊急ではないけれども、近々行う作業を割り振るようにしていました。勿論、ポケットに入れる際には、TODAYポケットにはできれば今日行いたいものを入れています。しかし、「できれば」ということなので、必ず守る必要はありません。
GTD+Rが初めて紹介された時、私はTODAY・WEEKポケットの使い方に危惧していました。というのも、GTDでは、その日にできないタスクを持ち越すのがストレスになるのを取っ払うために、実行日を決めていないリストとしてNextActionリストを用意していたからです。一方、 GTD+Rでは、TODAY・WEEKポケットを復活させていました。そんなに仕事が忙しくなければ、GTD+Rの割り振りでも問題ないかもしれません。
しかしHさんはどう見ても、そうではありません。営業職で、突発的な仕事も一杯入ってきます。Hさんは、TODAY・WEEKポケットの捉え方を見直し、うまいこと回避していました。どうやってそれを克服したのか不思議に感じていましたが、話を聞いて合点がいきました。
Hさんは、以上のことを毎朝行ってから、本来の仕事の作業に取り掛かります。このレビュー作業を行うことで、今自分がどのような状況なのかを迷うことなく、作業を漏れなく実施できます。
Hさんの2つの大きな工夫点とは
Hさんは、営業職という変化の激しい状況を乗り切るために、2つの大きな工夫をしていました。
- アナログツールを使ってタスクを一元化して管理作業を軽減する
- 毎朝レビューを実施することで、頻繁に変化する状況をGTDリストに反映する
これらは、Hさんの営業職という職種の特性に合わせての最大の工夫ポイントです。Hさんはこのように工夫をしていますが、これはHさんの状況に合わせてでのことです。また、Hさんと似た職種ならば、考慮すべきポイントであるとも言えます。
仕事管理を見直すポイントは?
Hさんは上記のような点を考慮し、仕事管理の方法を構築しました。翻って、自分の状況はどうでしょうか? 仕事管理を円滑にするのに、どのような点を考えればよいのでしょうか? そのために、次のようなことについて見直し、今の仕事管理方法ではどんな作業が発生し、問題が出てくるのかを確認するのも、いいかもしれません。
- 仕事の作業場所はどうか? ほとんど同じ場所か、それとも頻繁に変わるのか?
- 仕事は頻繁に変わるのか、作業発生は多いのか?
- 仕事が完了する期間(ライフサイクル)は?
GTDでの仕事管理方法でも、そうでない仕事管理方法でも、見直すことはよいと思います。私自身、GTDで仕事管理を行っていますが、仕事の状況が変わるたびに、GTDであっても細かいやり方を毎回変える必要があります。
例えば、私が複数の案件の運用作業を同時に受け持っていた際、仕事管理のツールにFitzNOTEを使用していました。このツールが、その時点において有用だった理由は、以下のようなポイントがあったからです。
- 作業場所がほぼ社内 → 電子ツールにいつでもアクセス可能
- 作業の発生は、2~3日に数個発生等の低頻度 → 電子ツールでも対応可能な範囲
- 作業は数日~数ヶ月間のライフサイクル → ライフサイクルがまちまちでも、実行済アクションを長期的に保管が可能
今現在はFitzNOTEは使っていません。上記のような状況とは全く異なるため、FitzNOTEは有用な状況ではないからです。最近は、以前に紹介したGWeeklySheetを使って、仕事管理をしています。
実際の仕事管理方法は、状況毎に調整していく必要があります。しかしながら、GTDの良い所は、GTDは考え方であって、細かい実装方法はどのように変えてもよいことです。今の自分の状況に合うように、仕事管理の実装方法を積極的に変えていきましょう。
今の仕事状況が落ち着いたら、その先は?
GTDは今の仕事状況を円滑にするための、仕事管理のやり方の一つです。仕事管理ができるようになってくると、多少の余裕が出てきます。そうすると、今度は別のことをやってみたくなります。そんな中でもGTDは活用できるのでしょうか?
一方、自分自身の能力を高めたいという自己啓発的な欲求もあります。そのために、多くの実用書が出版されています。GTDは、これらに相当する能力を身につけられるのでしょうか? また、身につけられるとしたら、どんなことが力が身につくのでしょうか?
GTDは、余裕が出てきた仕事管理のその先についても活用することができます。また、GTDは自己啓発の上でも充分に役立つと、私は考えています。
次回は、そのようなGTDの将来的な可能性について紹介します。