右も左もわからないシューカツ中の女子大生・つつみともよが会社訪問。第1回はクックパッドで働き始めたばかりの@sora_h。なんと現在15歳の若きRubyコミッターを訪ねました。
(撮影:平野正樹)
「うちで働いてみる?」
ともよ:年齢を知ってびっくりしたんですが、そらはーくん、私より7歳も若い(のに働いてる)なんて……!
sora_h:今は高校に進学せず、クックパッドで働いています。中学にも、最初の半年を除いてほぼ行ってないです。学校に行かず家でコード書いてるか勉強してるか、インターネットしてました。
ともよ:勉強は嫌いじゃなかったんですね。
sora_h:単純になじめなかっただけかなあ。話題が合う相手がいなかったんです。高専進学も考えたんですが、中3の秋に高専カンファレンス[1]行ったあたりから、なんとなく、高専行っても一緒かなと。
ともよ:学校ですからねー。
sora_h:高校進学はやめましたが、どっかのITベンチャーでバイトできたらいいなとは思ってました。今15歳なので、高認[2]で言うところの、高3相当の年齢になったら大学受験しようと思ってます。
ともよ:ITベンチャーでのバイトは中学の頃から考えていたんですね。
sora_h:学校行かない分、時間が余ってるんだから、そもそもバイトしたかったんです。業務としてコードを書いてお金を稼ぐ。そんないい経験ができたら嬉しいなって思って、そういう所を探してました。
ともよ:クックパッドに入った経緯は…?
sora_h:それが偶然なんです。「クックパッドで働きたいなー」とTwitterでつぶやいてたら、技術部長(当時)の@ihara2525さんから突然mentionが来まして。「うちで働いてみる?」って(笑)。3回くらい会社見学を重ね、今年の春から働き始めて今に至ります。
ともよ:インターネット時代ですねぇ。クックパッドではそういう感じで「来てみる?」って声かけが一般的なんですか?普通の社会人の方とかに対しても。
sora_h:普通かどうかはわかりませんが、社内外関係なくエンジニア同士の交流が活発な会社なんだとは思います。
福森匠大[FUKUMORI Shota(sora_h;そらはー)]
1997年、東京都生まれ。最年少Rubyコミッタ。中学を卒業した2012年4月からクックパッドでアルバイト中。
先輩社員からのツッコミ
ともよ:今の環境も組織という意味では学校と変わらなくないですか?
sora_h:中学校に通っていたころは、周りの人と話が合わずなじめなかったんです。会社では一番年齢の近い人で22歳、自分とは7歳差ですが、話が合うのでとても働きやすく感じています。
ともよ:いきなり大人の世界に入っちゃって大変じゃないですか?
sora_h:怖いですねー。大人怖い。入ってすぐに書いてたコードやテストは本当にひどかったので、入社して最初の1週間でけっこう揉まれました(笑)。長年続いてるサービスだと大規模で、どこに何があるのか把握するのに時間がかかりますし、慣れるのは大変です……。
ともよ:入って1ヵ月[3]でコードやテストを書いたりしてるんですね!
sora_h:今は開発基盤グループに所属して、ほかのエンジニアが仕事しやすいよう、基盤を整えるような仕事をしています。ただ、テストはたまに個人のプロダクトで書いていた程度ですから、そもそもどう書いたらいいのかよくわかってませんでした。個人とは全然違うなあと。
ともよ:どんなところが違うんですか?
sora_h:レビューの受けやすさですね。先輩社員にレビューをもらうまで、気づけなかったことが多かったです。みんなが同じプロジェクトに取り組んでる環境なので、ちゃんとしたツッコミををもらえるってところが自分の中では大きかったです。今まで気づけなかったことに気づけたのは貴重な経験でした。
ともよ:今の部署ではどんな業務に携わってるんですか?
sora_h:今は入って間もなく、クックパッドのソースコードに慣れてないので、ひたすらエラーを探してその原因を特定して直す、みたいなことをやっています。社内のテスト環境周りも整理したりしています。
つつみともよ×Ruby
sora_h:自分が業務で使うのはRubyですが、ともよさんは高専でRuby 書いたりしてたんですか?
ともよ:高専でやったのはC言語と、Java、SQLでした。Rubyは3週間ぐらい……。授業とは関係なく趣味で執事BOT作るのに使いました。1年前くらいに。朝学校行く時間をお知らせしてくれるっていう。
sora_h:なにそれなにそれ(笑)。Ruby書けるじゃないですか。
ともよ:えっ、書けないですよー。本見て書いただけです。私がアルバイトでお世話になっているkamado社にRuby の本があったので、やってみただけですー。
sora_h:Rubyと言えば『初めてのRuby』[4]っていう本を読みましょう。Yugui さんが書いてる本ですが、一番良い本ですよ、多分。経験者にはすごく良い本です。
ともよ:メモしとこっと。
最年少Rubyコミッタの誕生
ともよ:今も会社でRuby をバリバリ使うそらはーさんですが、プログラミング自体はいつごろから?
sora_h:PHPは小5から中1ぐらいの間までさわってました。Rubyは小6の頃ちょろっとさわって、本格的に始めたのが中2の頭ぐらい。
ともよ:小5からっていうのがすごい!誰かの影響だったんですか?
sora_h:いやー、誰の影響ということもなく、その頃はほんとにイベントとかに何も出てなくて、「なんかそういう言語があるんだったらやってみるか」程度。たまたまです。
ともよ:今はRuby コミッタとして活躍なさってると。
sora_h:Rubyはテストが遅くて悩んでたんです。知り合いに聞いてみると、どうやら自分のマシンパワーじゃなくてRuby自体が遅いことがわかって、自分はそのへんを直しました。――最近のPCはたいていマルチコアとかマルチスレッドに対応したCPUを積んでいて、何個かの仕事を同時にできるようになってるんですが、Rubyのテストを普通に書くと、1個のCPUしか使わず、それがすごいもったいないなーと思っていて。1個ずつやっていた仕事を複数のところに投げるようにして。
ともよ:あ、そしたら同時に……。
sora_h:そう、同時に進むから速くなる。そんなRubyの高速化をやっていたら、まつもとさんがMLで「コミット権あげるよ」と。
ともよ:すごいですねー。
sora_h:でもここ半年以上、全然コミットしていなくて……。最近ML すらのぞいてなくて何が起こってるのかわかんないし。
ともよ:半年さぼってたらコミット権をはく奪されちゃったりとかないんですか?
sora_h:ないです。基本的に。
ともよ:じゃあ一生モノなんですね。
sinsai.infoとOSS奨励賞
ともよ:3月にOSS奨励賞を受賞されてますよね。それもRubyコミッタとしてのオープンソースへの貢献が大きかったんでしょうか。
sora_h:それもあるかもしれませんが、sinsai.infoにジョインして、オープンソースで活動してたのが一番の理由みたいです。OSS奨励賞の副賞にはラズベリーパイをもらいました。まだ届いてないですけどね(笑)。
ともよ:sinsai.infoではどういうことをされていたんですか?
sora_h:sinsai.infoをGitHubで開発するっていうのを決め、開発のルールを確定したのが自分です。当時、開発者のボランティアがたくさんいまして、普通に開発してGitHubでpushしてるとみんなの編集がかぶっちゃう。そのままデプロイし続けると、エラーを発見したときに混乱してしまうので、開発ルールが必要だったんです。私を含め、リリースマネージャが何人かいましたが、自分でもトピックブランチを切って、変更点をほかのリリースマネージャに投げ、OKをもらったらそれを本体に取り込んでデプロイする、というフローを作成しました。
ともよ:重要なポジションだ!
sora_h:自分がジョインしたのが3・11から1週間くらいでした。sinsai.infoは「Ushahidi」をベースに作られています。災害が起きた時の情報共有ポータルの……WordPressみたいなやつです。最初はそれをメンバーの自宅サーバに設置していたんですが、当たり前のように自宅サーバがパンクしまして。
ともよ:震災直後はアクセスが集中したでしょうね。
sora_h:すぐに自宅サーバからAWS(Amazon Web Services)に移行して今に至ります。自分がsinsai.info開発に主に携わっていたのは、去年の3~6月ぐらいです。
ともよ:……その当時ってばりばり中学生ですよね。まだ。
sora_h:ばりっばりの中学生でしたね(笑)。一時期、ほぼフルタイムでsinsai.infoに参加していました。3・11のときには学校行っていなかったので自宅にいたんですけどね。栃木の自宅は震度6強でした。
ともよ:sinsai.infoにジョインしたときには、やっぱり震災を間近で体験したから、自分が何かやらなきゃ!みたいな正義感があったんですか?
sora_h:正義感とかじゃなくて単純にすごい大変そうだなって思って。ボランティア的な意味でも携われたらいいかなって思いでジョインしただけです。幸い、コード書けますし。
ライバル
ともよ:Rubyコミッタ、sinsai.infoとイケイケなそらさんですが、ライバルというか、同年代で「この人飛び抜けてるなー」って方、いますか?
sora_h:一人います。兵庫にある灘高校に通う、矢倉大夢[5]という方です。歳は一緒なんですが、灘高パソコン研究部とかいう突き抜けた人たちの集団で部長をしてる人です。未踏[6]にも最年少で採択されてるんですよ。
ともよ:OSS奨励賞、たしか同じときに受賞されてたんでしたっけ。
sora_h:そうですね。以前から知り合いでしたが、同年代の中では頭一つ抜きん出ている印象です。
ともよ:分野としてはLinux 系で、そらはーさんとは方向性がちょっと違う感じが…。
sora_h:違います。全然違います。
ともよ:違う分野なのに、どういうところがすごいと思うんですか?
sora_h:表立ったものとかあんまり作らない人なんですが、少なくともやっていることは本当に濃いと思います。書いている内容とかあんまり知らないけど、ちらちらGitHubとかに上がっているコードとか見ると、「あーこりゃもうおかしいなー」「すごいなー」としか思えなくって……。
ともよ:2人が同じ日にOSS奨励賞を受けたことにもびっくりです。
はたらくって何?
ともよ:栃木にお住まいと聞きました。
sora_h:新幹線で会社に通ってます。片道2時間、JRの営業キロで120.1キロ。6時に起きて、6時半には駅にいます。
ともよ:すごい生活ですね!移動中何しているんですか?インターネットですか?
sora_h:移動中は本読んで過ごしてます。インターネットはできないです。東京すごいですよねー。パケット混みまくってて新宿駅とかまったくパケット流れなくてインターネットできないし。その分文庫本をかなりの速度で消費できます。車内が混んでいるので技術本は読めないですけどね。
ともよ:大学受験するために家では勉強してるんですか?
sora_h:クックパッドでは週3日、1日7時間アルバイトしているので、残りの日は……勉強することになってます。ここ最近できていないので、この週末ぐらいからちゃんとやる予定!
ともよ:大学に無事入学して、さらに卒業したその先って何か考えてたりしますか?
sora_h:まったく考えてないです。大学を目指しているのも普通にコンピュータサイエンスを勉強したいなと思っているからです。でも、それがこの3年で何がどう変わるかはわかんないですよ(笑)。
ともよ:働くということはどういうことなのか、一足先に社会に出たそらはーさんに伝授していただきたいなと思うんですが。
sora_h:えー。働くって……何なんでしょうね。コードを書くのがこれからの自分の仕事なので、しばらくは楽しく仕事ができて、さらにいい経験を積めればと思ってます。ゆくゆくは自分ができる範囲で会社に貢献したいです。楽しい環境で働けたり、働いて会社のために役立てるんだったらそれが一番いい働き方なのかなって思ってます。
ともよ:そうですよね。なんかこのまま居着いちゃうかもしんない。
sora_h:それもわからないですよね(笑)。でも、たとえば将来的にアメリカとかで働きたいって思ったときには、ビザとるのに学歴が必要みたいで。可能性は捨てたくないので、少なくとも大学やっぱり出とかないとダメかなって思ってます。
ともよ:将来は外資系のIT企業で働きたいとか?
sora_h:特に考えてないんですが、大学には最低限行っといたほうがいいかなあと。
ともよ:ゆくゆくは起業とか考えたり?
sora_h:起業したいって思いはまったくないです。起業するの大変そうですし、自分がコード書けなくなっちゃいます。
ともよ:いつまでも手は動かしていたいんですね。
sora_h:うん。起業すると社長は雑用係みたいな感じらしい……し。やっぱりずっと現場でコード書いていたいですね。
ともよ:今日は貴重なお話、ありがとうございました!就活の参考にさせていただきます。