TOKYO FMでは2009年12月21日、iPhoneで当社のFMラジオ放送がそのまま聴けるラジオアプリ「TOKYO FM」を、マルチメディア放送に向けたノウハウの蓄積を目的とした実証実験としてリリースしました。第1回の記事ではこのアプリの技術仕様などについてお話させていただきましたが、今回は、リリース後にいただいた反響から気付いたことなどを、お話したいと思います。
Twitterでのサポート実験
今回のアプリはエリア制限という制約の中でどれだけのニーズがこの種のアプリにあり、どれだけの低コストで提供できるかという実証実験であるため、サポート体制についても最小限のリソース、つまり担当者本人1名で対応を行っています。数万人のユーザーに対してどうやってひとりでサポートをするのか考えた結果、Twitterの当社公式アカウント(@tokyofm)で、メンテナンス情報や、動作不具合のご報告を受けることになりました。iPhoneとTwitterの親和性については今さら言及するまでもありませんが、Twitterとラジオにも、見えるラジオ(JFN加盟各局で展開している文字多重データ放送)開発当時に当社が考えていた以上の親和性があると考えています。
結果として、Twitterのハッシュタグ #tokyofm 上には「アプリに関する有益なご意見」「動作不具合情報」「大変耳の痛いご指摘・ご批判」が大量に集まりました。それだけでも非常に有益なマーケティングですが、さらに「アプリに関する口コミが広がる」「実際にアプリで番組を聴取した感想から番組の口コミが広がる」などの副次的な効果が得られました。アプリ配布前に1800人ほどだったフォロワー数は、原稿執筆現在(2010年1月)、3,000人に迫っており、番組宣伝や、ビジネスマッチングの場としても活用の可能性が高まっています。
現在アプリ上では直接Twitterを閲覧する機能が公式には実装されていませんが、アプリ配布後すぐに、番組表表示用の内蔵ブラウザをうまく利用してTwitterを閲覧することができることを発見されたユーザの方がいらっしゃいます。今後、公式機能としてTwitterクライアント機能を入れるべきか、iPhoneのメモリの節約方法などを検討しつつ、考えていきたいと思っています。
聴取環境の広がり
本アプリはサービスエリアを限定してのご提供となっており、TOKYO FMの放送エリア外での聴取を可能とするものではありません。一方、3G対応としたことで、意外な場所で聴取が可能となったという喜びの声を多数いただいております。代表的なものが地下鉄移動中の聴取です。
ながらメディアであるラジオは通勤中や自動車の運転中に聴取いただく機会が多いかと思いますが、東京メトロの1日の利用者数が600万人を超えることからもわかるように都心では地下鉄を通勤に利用されている方が非常に多く、安定して聴取することが難しい状況にあります。自動車も同様に、トンネルなどでは再送信へ積極的に取り組んでいるものの、すべての区間で再送信ができているわけではありません。
その点、本アプリでは3G回線に最適化された配信を行っており、一部の地下鉄路線では乗車中も音声が途切れずに聴取が可能になったとのご報告をいただいております。もちろん、すべてのリスナーが本アプリでTOKYO FMを聴取すれば回線網に過剰な負担をかけることになってしまいますが、こういった中間的なサービスが補完できる聴取機会が多く存在するということを認識できたのは、大きな収穫だったと言えます。なお、本アプリは権利者保護のため録音機能を有していませんが、まったく電波が受信できない環境では、Podcastなども補完的にご利用いただき、より一層音声メディアの楽しさを体感していただければと考えています。
楽曲マッチング技術について
iPhoneならではの機能ということで今回はもう1つ、オンエア楽曲情報をリアルタイムに提供し、さらにiTunesで購入できる技術を実装しました。当社は「見えるラジオ」の時代から番組と連動したメタデータの開発に力を入れており、FMケータイや一部の HDDコンポなどにオンエア楽曲情報を配信していますが、このデータをXMLして社内ネットワークに送出する改修作業をすでに実施しており、データの送出まではスタジオからサーバまで、すでに準備が整っていました。
また、共同開発会社の株式会社フライトシステムコンサルティングはiTunesのデータベースの扱いについて先進的な取り組みをされており、実装は比較的容易と思われました。しかしながら、放送局が使用している楽曲コード体系とiTunesが使っている国際的なコード体系は互換性がないため、JANコードや楽曲名・アーティスト名を元に該当する楽曲を検索・紐付け処理することとなり、特にCD発売前でJANコードが付番されていない楽曲や、配信限定楽曲などでは苦労することになりました。楽曲名やアーティスト名の表記ブレを吸収し、このマッチング精度をいかに上げていくかは、今後の課題です。
番組告知やタイムテーブルは既存のものを流用
番組表についてはiPhone国内発売時に放送局最速(当社調べ)でMobile Safariに最適化された公式サイトを発表しておりましたので、これをそのまま内蔵ブラウザで表示することとしました。個別の番組サイトのiPhone対応については現在検討中ですが、広告メディアとしての価値をこの機会に評価できると考えており、iPhoneサイト向け広告の導入なども今後検討しています。
TOKYO FMはこの他にも各種携帯ゲーム機や音楽プレーヤ向けに最適化されたWebサイトを複数リリースしています。最終回となる第3回では、当社のマルチデバイス戦略について触れたいと思います。