TOKYO FMでは2009年12月21日、iPhoneで放送がリアルタイムに聴取できるアプリケーションを、マルチメディア放送に向けたノウハウの蓄積を目的とした実証実験として提供開始しました。
連載第1回 はこのアプリの開発意図や主な使用技術について、第2回では提供開始後の反響などについてお話しましたが、最終回では少しiPhoneの話から離れて、当社がこれまでに取り組んできたマルチデバイス戦略や、今後の展望についてお話したいと思います。
当社は東京圏のM1(20歳~34歳の男性) ・F1(20歳~34歳の女性)をターゲットにした放送局ですので、少しでもたくさんの方にラジオとの接点を持っていただくべく、Webサイトの充実はもとより、携帯音楽サイト「MUSIC VILLAGE」の運営、サテライトスタジオ(渋谷スペイン坂スタジオ、TOKYO FM Midtown Studio、半蔵門ランナーズサテライトJOGLIS)の展開、フリーペーパーの配布など、さまざまなクロスメディア展開をしています。
そんな中、最近続々と増えているスマートフォンやネット接続機能付き携帯ゲーム機も、ターゲット層が長時間接触するメディアとして注目しており、対応を急いでいます。iPhoneの日本国内発売にあわせて開設した専用サイトの他に、当社が展開している主なデバイス別コンテンツについてご紹介します。放送と通信の融合に関する、ラジオ局なりの取り組みの一例として、ご参考になれば幸いです。
携帯電話との連携
auからはFMラジオが内蔵された「FMケータイ」が発売されています。単にFMラジオが聴けるだけではなく、EZ・FMアプリを使うとオンエア楽曲情報がチェックできたり、そのまま着うたや着うたフルを購入することが可能です。当社は着うた配信や携帯コンテンツの制作を行うジグノシステムジャパン株式会社をグループ会社に有しており、番組連動携帯サイトや関連デジタルコンテンツも自社グループで制作するなど、コンテンツ展開に力を入れています。
また、ソフトバンクやNTTドコモ、イー・モバイルなどで採用されている「NetFront Mobile Widgets」に対応した携帯電話向けウィジェットを、株式会社ACCESSと共同開発いたしました 。こちらはオンエア楽曲情報と最新番組情報がチェックできるのみですが、ブラウザを起動せずに待ち受け画面で気軽にチェックできることから、好評をいただいています。
PSP、“ウォークマン”向けPodcast配信
また、ネットとの融合が進む携帯ゲーム機にも、M1・F1世代に広く普及しているデバイスの1つとして、対応を進めています。PSPには簡易ブラウザ・Podcast(RSSチャンネルと呼称)機能が搭載されており、当社はラジオ局で唯一、PSP専用サイト を開設しています。PSP goの発売でゲーム機でコンテンツをネットからダウンロードする文化は今後ますます広がるものと予想され、ゲームの合間の時間に、音声コンテンツをお楽しみいただけるものと期待しています。
また、“ ウォークマン” Xシリーズにも無線LANが搭載されており、当社をはじめとする3局が、“ ウォークマン” 単体でPodcastをダウンロードできる公式コンテンツとしてプリセットされています。
マルチメディア放送、そして未来のラジオへ
ここまでご紹介したサービスは当社のFMラジオ放送と連動したものですが、当社ではアナログテレビの跡地を使って移動体端末(例えば携帯電話やカーナビ、デジタルサイネージなど)に向けた、今までの放送とはまったく違う「マルチメディア放送」の準備を進めています。
マルチメディア放送の候補となっているのは、現在のチャンネルでいうと、1チャンネルから12チャンネルのいわゆるVHF帯といわれるものです。このVHF帯のうち、4チャンネルから10チャンネルは、自営通信(警察・消防)に利用されることが決まっており、それ以外の1チャンネルから3チャンネルを通称V-Low(ブイ・ロー) 、10チャンネルから12チャンネルは通称V-High(ブイ・ハイ)とよばれています。
現在のアナログテレビの1チャンネルから3チャンネルは、地域密着型の地方ブロック向け放送、10チャンネルから12チャンネルは全国向けの単一放送がはじまる、ということになっています[1] 。
新しく想定されているサービスには「放送波を使ったダウンロード」や「5.1チャンネルサラウンド放送」 、「 緊急地震速報」や「IPDC[2] 」 、「 デジタルサイネージ」など、現在の「放送番組」の概念を越えたまったく新しいコンテンツが揃っています。そして、今、現在も新しいサービスを開発中です。これらのサービスについては福岡ユビキタス特区で現在実証実験を行っており、携帯電話内蔵型の端末を受信デバイスとした試験放送のほか、デジタルサイネージをバスに搭載してマルチメディア放送波でコンテンツを供給するなどの実験も行っています。
[2] IPDC(IPデータキャスト)インターネットの世界で利用されてきたIPを通信、放送の区別なく、あらゆるデジタルインフラでのコンテンツデリバリープロトコルとして利用すること、また、そのプロトコルを利用したサービスのこと(IPDCフォーラムホームページより) 。
今回のアプリ開発ではマルチメディア放送での新たな放送のあり方を摸索する目的があり、マルチメディア放送ビジネスフォーラムの会員社であるフライト社と共に、研究してまいります。
ラジオ局のノウハウを活かしつつ、インターネット時代にどのようなサービスがご提供できるか、今はまさに大きな時代の転換期にあると言えます。今後も放送と通信はますますその境界線を超えて、予想だにしなかった融合を見せることでしょう。今後も続々とサービスを発表してまいりますので、ぜひご期待ください。