組込みプレスセミナー直前インタビュー2009年の組込み技術動向を基調講演に登壇する高田広章氏に聞く

2009年3月10日に東京・麹町で行われる組込みプレスセミナー2009 ~最適な組込みソフトウェア開発とは?⁠。ここではさまざまな組込み分野のソフトウェア技術者に向けた講演が、午前中から夕方過ぎまで続きます。その冒頭に基調講演を行うのが、情報処理学会組込みシステム研究会で主査を務める、名古屋大学教授の高田広章氏です。

高田氏は車載機器を中心とした組込みソフトウェアを専門とし、中でも組込みオペレーティングシステム分野では、TOPPERSプロジェクト会長も務めるなど、第一人者として知られています。今回、基調講演を前に、2009 年から数年間の組込み技術動向について、特にソフトウェア開発の視点から語っていただきました。

高田 広章氏
名古屋大学大学院 情報科学研究科附属組込みシステム研究センター センター長・教授情報システム学専攻 教授(集積システム論講座 所属)
高田 広章氏

今こそ組込み業界には大きなチャンス

「組込みソフトウェアは現在大きなチャンス⁠⁠。高田広章氏が現在の組込み業界をこう表現します。しかし、そうはいってもこの不況の中、大きなチャンスとはいったいどういうことなのでしょうか。

「これまで組込み製品は、製品出荷スケジュールがまず決められ、それからハードウェアが規定され、最後がソフトウェア開発でした。そうなると残りの時間で何が何でも仕上げる、というスタイルとなります。やむなく人海戦術をとるわけですが、それは決して効率の良いものではありませんでした⁠⁠。確かに効率より出荷スケジュールを最優先で考えるなら、そうならざるをえないかもしれません。しかし昨今の世界的不況が、こうした状況を変えているというのです。

「コスト削減の圧力が強まると、必然的に効率重視とならざるをえません。一方で開発案件数には、多少の余裕が出てきます。つまり、これまで必ずしも高いとはいえなかった組込みソフトウェアの生産性、あるいはシステマチックとはいえなかったその開発全体スキームを、抜本に立ち戻って見直す絶好のチャンスなのです⁠⁠。

「たとえば、個々のソフトウェア資産の積極的な再利用があります。さらに単品の開発でなく、シリーズ展開や今後のロードマップを見据えて全体構成として最適化させる、プロダクトライン的な観点も非常に重要です⁠⁠。

「そのためには技術者も、実際にプログラミングを行う際に、機能の切り分けを明快にしたりドキュメントを整備するなど、リファクタリングしやすい構造にする必要があります。一方で管理する側は、共有や体系化を進める必要があります。仕事の評価に関しても、とりあえず動作するからいいというのではなく、長期的な視点の中で、最適な作り方をしているかを問う必要があるでしょう。さらに経営レベルでも、その重要性がしっかりと理解される必要があります⁠⁠。

このほかインタビューでは、マルチコア・プロセッサのソフトウェア開発の難しさや、逆にそれゆえの長期的視点の必要性が示されました。また組込みデータベースをはじめとしたミドルウェアの標準化がどう進むべきか、といった話や、車載機器用に作られたCANが、ファクトリー・オートメーション分野でも使われだしているといった興味深い話もありました。乗用車と航空機の安全戦略の違いにも触れられました。いずれもここで詳細に述べることはできませんが、セミナー当日にもこういった具体的な事例のいくつかは聞くことができると思います。

こうした組込み産業におけるソフトウェア開発は、一見違っても実は共通している点を持っています。ソフトウェアをそのまま転用することは難しいものの、もう少し上のメタレベルでは、共有し得る知恵が非常に多いのです。

「たとえば自動車の車体では、すぐに実用化できるよりずっと前から、FRP(炭素繊維などで強度を高めたプラスチック)の材料研究がずっとなされてきました。そういったコア資産が地道に発達してきたからこそ、機が熟した時に、一気に実用化へともっていけるわけです。また、業務系でも銀行統合の例をみてもわかるように、ソフトウェアの完成にどれだけ時間がかかるかが、統合という高次の経営マターのスケジュールを規定するようにもなってきています。ソフトウェアが個々の新製品や製品改良の付け足しだという感覚は、一刻も早く捨てる必要があるのです⁠⁠。

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