デスクトップとモバイルをつなぐ新しいクリエイティブワークフロー
Adobe Systems社主催、米国ロサンゼルスにて現地時間10月6日から10月8日まで開催されているクリエイティブカンファレンス「Adobe MAX 2014」には、毎年世界中から多くのクリエイタやデベロッパが参加しています。会場の外観には遠くからでもすぐにわかるAdobeのロゴが飾られています。
今回のAdobe MAX 2014の基調講演では、デスクトップとモバイル端末を繋ぐ新しいワークフローとクラウドとの本格的な統合が目玉となりました。
デスクトップとモバイルの垣根をなくしクラウドでシームレスに連携することで、 昨今ますます重要になってくる「デザインをする」仕事をよりクリエイティブに、少しでも早く、効率的に行うことをサポートしていきたいというAdobeのメッセージを強く感じる基調講演でした。
基調講演が行われたのはお馴染みのNokia Theatreです。
基調講演の最初に登場した最高経営責任者(CEO)のShantanu Narayen氏。
「 モバイル端末用のアプリも積極的に開発していき、デスクトップ環境との垣根をなくしていきたい。クリエイタのためのコミュニティ育成にも力を入れていきたい。Behanceのようなポートフォリオサービスだけでなく、Creative Cloudもまた世界で何百万人ものクリエイタ同士がつながり、お互い学び合って刺激しあう場になっている。良いデザインは良いビジネスに繋がる、デザインイノベーションは大きい会社でも小さい会社でも起きている。我々はそれをサポートしていく」と力強く述べました。
すべてのアセットをクラウド上で管理するCreative Profile
いまやクラウドは単なる巨大なストレージではありません。すべてのユーザ・すべてのデバイスをつなぐプラットフォームになったのです。デスクトップPC、モバイル端末、アセット、マーケット、コミュニティ、これらがすべて、Adobeが提供するCreative Profileで管理し連携できるようになりました。
さらにこのように説明しました。
「 もちろんDropbox、Google Driveといったクラウドストレージは素晴らしいと思います。しかし皆さんのフォルダはこのようにになっていませんか? PSDファイルがファイル名順に並んでいる状態が果たしてスマートと言えるでしょうか」 。
新しいCreative Profileの一番の魅力は、ユーザ目線でデータや環境(アセット)を保存・管理できること。たとえば、共有したいファイルや写真、カラー、ブラシシェイプ、フォントなどを、クラウド上に登録することで、Adobe Creative Cloudのデスクトップアプリ、またはモバイルアプリからすぐに呼び出していつでも利用できるようになるのです。クリック&ドラッグで簡単に瞬時にクラウドのCreative Profileにアセットとして登録され、オンラインでもオフラインでもすべてローカルで同期されます。
さらにこれらのアセットはブラウザからも参照できるのが特徴です。作成したアセットはチーム間で共有可能。さらにCreative Cloud上にある他のクリエイタが作成したアセットをライブラリとして集めることもできます。
現在、Creatibve CloudとBehanceで2万以上のアセットが「Market」に登録されていていて、そのままPhotoshopやIllustratorで使えるそうです。
アップデートおよび新たにリリースされた9つのモバイルアプリ
今回のMAXでは、9つのアプリがアップデートまたは新しくリリースされました。基調講演では、その中から5つアプリのデモが行われました。
「Adobe Shape」でスマートフォンで撮影した写真をベクトルデータにし「Illustrator Draw」でドローイング
「 Adobe Shape」というアプリが新登場しました。
iPhoneで撮影した撮影したものをベクトルデータ化してくれるものです。デモでは、本の表紙をAdobe Shapeで撮影しCreative Profileに登録し、それをiPadの「Illustrator Draw」というiPad向けのドローアプリでデザインに組み込み、そのデザインデータをデスクトップの「Illustrator CC」で仕上げる一連の流れがが紹介されました。
ブラシに特化した新アプリ「Adobe Brush CC」
Photoshop用のブラシを簡単に作成できる「Adobe Brush CC」が新しく登場しました。
iPhone等で撮影した写真をキャプチャしてブラシを作ることができます。たとえば人や花、レゴブロックも、撮影した写真を全てブラシとして編集してCreative Cloudに即アップロード、そのままデスクトップのPhotoshop CCで使うことができるようになります。
Adobe Photoshop Sketch
これまでAdobe Sketchと呼ばれていたツールを、今回のタイミングで「Adobe Photoshop Sketch」としてアップデート。iPad用のビットマップのスケッチアプリで、新しいブラシも登場しています。「 絵画と呼べるクオリティ」でスケッチが可能で、もちろんPhotoshop CCおよびIllustrator CCとワークフローを統合できます。
iPad版Photoshop「Photoshop Mix」
iPad向けのツールもアップデートされています。いわゆるiPad版Photoshopである「Photoshop Mix」は、指による直感的な操作でPSDファイルを編集することができます。たとえば写真を指でなぞって背景を自動選択して消したり、コンテンツに応じて塗ったり、不要なものを選択してそのまま削除したりといったことが可能です。個々のレイヤーまで参照しながらPSDファイルをCreative Cloudで同期し、デスクトップ版PhotoshopCCで編集することができます。
高度な動画編集アプリ「Premire Clip」
「 Premire Clip」はiOS向けの高度な動画編集アプリです。
iPhoneなどで撮影した動画をその場で編集可能で、シーケンスを変えたり、動画をトリミングしたり、スローモーションにしたり、個別に露出などを変えたり、カラーフィルタの適用も可能で、もちろんCreative Cloudと連携し、Premire Pro 上で編集の続きを行うことができます。
Adobe Creative SDK 1.0のパブリックベータ提供開始
前回の速報 でもお伝えしたとおり、Adobe Creative SDK 1.0のパブリックベータの提供が開始されました。
Creative Cloudと連携するサードパーティ製モバイルアプリの配信を強化する CreativeSDKのパブリックベータも発表、開発者なら誰でも登録してSDKを利用することができるようになりました。Creative Cloudの各種機能やサービスをクラウド経由で利用できるコンポーネントが含まれた開発者キットで、Photoshopの機能やCCのストレージサービスとの連携機能などをサードパーティのアプリに統合できます。またAdobeが買収したAviaryの機能もCreativeSDKに今後含まれるそうです。
すでにいくつかの企業がCreative SDK を採用してアプリを開発していてるそうで、モレスキン社のアプリでは作成したメモをAdobeのアプリにシームレスに取り入れることができるとのこと。
クリエイターとビジネスをマッチングするCreative Talent Search
ツール関係以外にもさまざまな発表が行われています。
オンラインポートフォリオサイトのBehanceでは400万人以上のクリエイタが登録し、毎日2万以上のプロジェクトが集まっています。 企業の担当者は、クリエイタのリサーチにBehanceをチェックする人も多くいます。
今回新たに「Creative Talent Search」機能を搭載し、クリエイタとビジネスをマッチングすることが一層簡単になりました。
たとえばPhotoshopのエキスパート、特定地域に居住するクリエイタ、自動車設計の経験者など、仕事に適した人材を高度な検索ツールを使ってこれまで以上に簡単に見つけることが可能になります。 またCreative Graph というアルゴリズムを新たに開発し、リサーチする側にとってより精度が高い、ニーズにマッチしたクリエイターを提案してくれるようになりました。
デスクトップアプリも進化「Creative Cloud Extract」
PhotoshopでWebデザインを行いそこからスライスツールを使ってアセットを切り出すというのは一般的な作業ですが、今回発表されたCreative Cloud Extractでこの手間を省略、より簡単になりました。
Photoshop上のパネルからレイヤごとに解像度やフォーマットを指定して自動で書き出します。SVGでの書き出しにも対応しています。またレイヤを選択するとそのデザインをCSSに自動変換したコードをプレビューすることも可能で、サイズ計算までしてくれるようになります。
その他、Dreamweaverが64bitに対応し、リアルタイムにPSDファイルからコーディングができるようになりました。
Surface Pro 3(Windows 8)などのタッチスクリーンデバイスをサポート
Photoshop CCも強化。主な新機能としてSurface Pro(Windows 8)デバイスでのタッチインターフェースへの対応が発表されました。
ここで、サプライズでMicrosoftのサトヤ・ナデラCEOと、Adobeのシャンタヌ・ナラヤン氏が登場、Surface Pro 3でのデモを紹介しました。Surface Pro上で、直接ペンタブで描くように描画したり、Photoshopでは指でなぞりながらレイヤを選べるレイヤインスペクタ機能を紹介、Surface Proでより直感的にPhotoshopやIllustratorを操作できる様子を紹介しました。
極めつけは、Microsoftのデバイスで可能にする未来のAdobeのアプリケーションのコンセプト動画です。動画が終わった瞬間、会場からは歓声が湧きました。
最後に紹介された「Animal」というコードネームアプリも紹介、タッチ操作や顔認識機能を使ってスクリーン内のキャラクターに自然な動きを与えることができるというもので、Microsoft Kinectの技術が盛り込まれているとのことです。
そして、基調講演の最後にまさかの大サプライズ! Adobe MAX 参加者全員に Microsoft Surface Pro 3がプレゼント! 当然ながら会場は拍手喝采のスタンディングオベーション。
クリエイタの世界を広げ、創造力を高めることを感じさせた基調講演
あっという間の2時間の基調講演でした。
今回のAdobe MAX 2014での基調講演では、各種アプリケーションのアップデートや新たにリリースされた9つのモバイルアプリの紹介、CC(Creative Cloud)の最新動向といったAdobeの中心技術のプレゼンテーションの他、Surface Pro 3(Windows 8)と連携したタッチスクリーンデバイスでの開発・デザインへのアプローチ、クリエイターとビジネスをマッチングする「Talent Search」など、注目トピックが満載でした。