MIX11の2日目、今日のキーノートでは、
Windows Phone 7
Silverlight 5
Kinect
と、リッチな表現、ユーザ体験を大きく変えるテクノロジーに関するアップデートが多数行われました。
スマートフォン第三勢力から主役になるための第一歩―Windows Phone 7 Update
キーノートのトップバッターとして登場したのは、Windows Phone Program Management、Corporate Vice PresidentのJoe Belfiore氏。
独特のマシンガントークで、Windows Phone 7の魅力をふんだんに紹介したJoe氏
冒頭でYouTubeの動画 を紹介し、NoDo Updateの遅れに関するお詫びとこれまでのデベロッパーの貢献に対して感謝の意を表明した後、
Opportunity(エコシステム、国、検索性)
Capability(ブラウザ、通話端末、マルチタスク)
Dev Experience(開発環境)
の3つのテーマに沿って、次期Windows Phone 7、コードネームMangoの新機能を発表していきます。
●世界第2位のエコシステム、対応言語の強化、検索性の改善
冒頭のお詫びの際に「私たちがこれまでPCで学んだエコシステムとは異なる、モバイルのエコシステムについて、今後はインフラとの関係やメーカやキャリアとの調整などについて改善できると確信しています」と述べました。これを裏付けるかのように、IDCやガートナーの調査を引用して、Windows Phone 7のエコシステムが世界で2番目に成長していることを紹介しました。
さらに、対応言語が16ヵ国語増え、日本語を含めたマルチバイトの言語もサポートされることが発表されました。
今回の発表で対応言語が35に増えた
また、アプリ数の増加のトレードオフとして生じる検索性の低下についても触れ、「 Search Marketplace」と呼ばれるマーケット専用の検索システムや、「 App Search」というアプリのジャンプ検索といった新機能を実装することで改善したと述べました。さらに検索機能はBingのコンテントサーチと連携することで、検索結果とアプリを連動する、新たなユーザ体験を生み出せるように工夫されています。
Amazonのアプリを例に、検索性の向上を紹介
●Internet Explorer 9を搭載し、表現性を向上
Windows Phone 7には、Internet Explorer 9が搭載されることになりました。これにより、GPUアクセラレーションなどのIE9が持つ強みが、Windows Phone 7でも活かされることになります。今回のデモでは、HTML5動画(Video)の再生の他、iPhoneやAndroid端末と比較して、HTML5コンテンツの描画スピードの比較が行われ、Windows Phone 7が最も早く表示し終える結果が見られました。
HTML5動画の再生。実際にはバックグラウンドで音楽を再生しながらマルチタスク(後述)で動いていた
iPhone(左) 、Android端末(右、Nexus S)とHTML5の描画速度を比較した
●新たなユーザ体験の提供
続いて、通話端末としての新たなユーザ体験の提供に話題が移ります。ポイントとなるのは、フロントエンド側のMetro UIやLive Tilesなどのインターフェース、さらにコアの拡張として、SocketやDatabaseへのアクセスや、Windows Phone 7内のコンタクトやカレンダーデータを他のアプリケーションから相互利用できるようになったことです。
さらに、ハードウェアに対するサポートとして、
Raw Camera Access
コンパス
ジャイロ
など、ユーザにとっても開発者にとっても魅力的な、各種センサー機能が追加されることが発表されました。
Socket通信ができるようになり、Windows Phone 7上でSkypeが利用できるようになった
Windows Phone 7のカメラで書籍バーコードを読み取り、Amazonのデータベースへアクセスしたところ
●センサーが持つ可能性
今回の発表の中でも、とくにインパクトが大きかったのが「Motion Sensor」と呼ばれる機能です。Motion Sensorのデモでは、カメラを使ってARのマーカーを読み込み、Twitterでつぶやいた情報に対して位置情報を付与するといったことが行われました。
●マルチタスクでユーザストレスを解消
もう1つ、今回の発表で注目したいのがマルチタスク対応です。このアップデートにより、先ほども紹介したように、バックグラウンドで音楽を演奏したり、ファイルをダウンロードしたりしながら、他のアプリケーションが、スムーズに利用できるようになりました。
バックで音楽を演奏しながら、スマホアプリとして大人気のAngry Birdsを動かしている。なお、Windows Phone 7版のAngry Birdは5月25日にリリース予定とのこと
Windows Phone 7でマルチタスクを実現するときの肝となるのが、本日発表された「Live Agents」と呼ばれるコア技術。これは、世の中のモバイル端末の永遠の課題でもあるマルチタスクによるバッテリ消費を解決するための仕組みで、マルチタスクで稼働しながらも、消費電力を押さえてバッテリ消費を低減するための機能です。OSに近い部分でタスクを管理することで、それを実現しています。
マルチタスクとMotion Sensorを活用したデモ。バックグラウンドで位置情報を計測しながら、そのまま航空券購入アプリを起動し、現在地に最も近い空港から航空券を購入できる
●開発者必携!Windows Phone 7開発ツール
以上、OpportunityとCapabilityの観点から、ユーザにとってのWindows Phone 7の魅力が紹介されました。次に登場するのは、昨日も登壇したScott Guthrie氏。
2日続けての登場となったScott Guthrie氏
はじめに「公開は来月まで待ってください」と前置きをすると会場からは一瞬ため息が出ましたが、その後の開発版のデモが紹介されるとざわめきに変わりました。
一昨日のBoot Camp午後の部レポート でも紹介しましたが、Windows Phone 7の開発には、Visual Studio 2010 Express for Windows Phone やExpression Blend for Windows Phone 、また現状提供されているWindows Phone Emulatorを利用します。
今回紹介された新たな開発ツールは、これらの機能をさらに強化し、開発者の心をくすぐる、非常に素晴らしいツールに仕上がっていました。
まず、注目したいのが「Motion Sensorのエミュレータ機能」です。
開発中のWindows Phone 7の開発ツール。右側の端末ウィンドウを操作することで、ジャイロのシミュレーションが行える
開発中のWindows Phone 7の開発ツール。こちらは位置情報を取得してジオロケーションアプリのシミュレーションしているところ
これは、Windows Phone 7の新機能を盛り込んだアプリを開発するために必要なもので、大変画期的な機能と言えるでしょう。
さらに、品質向上の観点から「パフォーマンス監視機能」も追加されています。
この機能により、ユーザの使用感を意識した開発が行えるようになります。
開発中のアプリケーションについて、実際に動作している状況を時系列で表示し、グラフ化してくれる
どちらも開発者冥利に尽きる、大変魅力的な機能と言えるでしょう。
●Mangoの実力を再確認
ここで、再びMangoの実力を再確認するデモンストレーションがいくつか行われました。たとえば、Nodo(現行バージョンのWindows Phone 7 OS)との比較として、スクロールや入力、イメージデコードスピードの比較、また、ガベージコレクション、メモリ管理の改善比較といったものです。
Facebookアプリを起動してNodoとMangoのメモリ管理を比較している。数字に出ているとおり、Mangoのほうが使用メモリ量が少なくなっている
その他、Socket通信が利用できる例として、WP IRCというIRCのデモやKik Interactiveが開発するKik Messengerのデモが行われました。
最後に、Scotto氏は「Dream. Build. Play.」のメッセージを添えて、Windows Phone 7の発表を締め括りました。
1,500以上の新しいAPI、最高の開発ツール。Windows Phone 7では、これらとともに、夢と開発、遊びが実現できる
リッチメディアのネクストステージ、Silverlight 5ベータ登場!
続いて、内容ががらりと変わって、Silverlightの話題に移りました。まず、U.S. NavyのBlue Angelsに所属するLT Katie Kelly氏が登場し、Blue Angelsのサイトを紹介しました。このサイトは、今回の発表内容でもあるSilverlight 5ベータ版によって構築されているとのことで、映像をふんだんに使い、非常にリッチな表現を実現したサイトになっています。
Blue Angelsのサイト。Silverlight 5により、優れた映像が閲覧できる
引き続いて、John Papa氏が登場し、改めてSilverlight 5について発表しました。Silverlight 5では、
ハードウェアデコード
Trickplay(早送り/巻き戻し)
リモートコントロール
などの新機能が実装されます。
John氏は、3D HOUSE BUILDERと呼ばれる3Dツールを使い、Silverlight 5のデモンストレーションを行った
描画に関する改善に加えて、今回からDataBindingのデバッグ時に、XAMLに対してブレイクポイント打てるようになりました。これは、開発者にとっては大変嬉しい機能改善です。
この後、Windows Phone 7とSilverlight 5のロードマップが発表され、最後のKinectに関するプレゼンテーションに移りました。
Windows Phone 7とSilverlight 5のロードマップ。いずれも2011年内に最新版が正式にリリースされる予定。なお、キーノート後の追加確認によると、Windows Phone 7に搭載されるのは、現状ではSilverlight 4とのこと
“ワクワク”を感じさせたKinectのこれから
Kinectのパートを担当したJeff Sandquist氏
●Kinect for Windows SDK Beta
まずはじめに、Kinect for Windows SDKの発表が行われました。正式リリースは今春内とのことで、本日からベータ版の提供が開始しています。
Kinect SDKでは、C#やVisual Basic、C++を利用した開発が行えます。
Kinect SDKは、実際の動きを確認しながら開発が行える
開発環境が発表された後、Kinectを利用したさまざまなデモンストレーションが行われました。
Kinectのセンサーを利用して操縦する「JellyBean」という名の車いす。実用性があるのか?という疑問がありつつも、登場時に会場から笑いが起きていた
Worldwide Telscopeという壮大なデモ。腕の動きで太陽系を操縦できる
ヘルメットにカメラを付けARのマーカーを認識し、Kinectを連動させてナビゲーションを行うソリューション
ARの認識状態がPCのディスプレイに表示される
Wall Panic 3000。画面に表示された姿と同じように身体を表現し、形がはまるとクリアとなる
今回紹介されたデモンストレーションは、実用性の有無というよりも、“ 楽しさ” “ ワクワク感” を表現するための技術として、Kinectを利用していたのが印象的です。
そして、最後に参加者に向けて大きなプレゼントが発表されました。
You got one.
「You got one.」のメッセージとともに、参加者全員にKinectプレゼントが発表されたのです。会場からは、今日一番の歓声が湧きました。
標準・技術・アイデア・表現・体験――Webの未来に必要なもの
以上、2日間のキーノートがすべて終了しました。初日は、Web標準をはじめとした技術やさまざまなアイデアを中心にした発表が、2日目は表現と体験を中心とした発表が行われました。これらのキーワードこそが、これからのWebを作っていくのではないでしょうか。
残念ながら、Windows Phone 7は日本での具体的な展開についてはまったくアナウンスされていません。それでも、発表内容の1つ1つのが、今後の展開を期待させるものばかりでした。
それから、2日間を通じて共通して感じたのが「デベロッパー・クリエイターへの熱いメッセージ」です。Webの世界において「創る人」を大切にしているMicrosoftの思いが込められたキーノートだったように感じています。今回発表された多くのツールが、無償で提供されていますので、読者の皆さんもぜひ使ってみて、新しいWebの世界を体験してみてはいかがでしょうか?