パソナテック主催によるセミナーイベント「Pasonatech Conference 2017」が東京において開催されました。イベントは「AI・IoTの流れをキャリアに活かしたいエンジニアに贈る2days」と題し、各種テクノロジーおよびそれらを活用したプロダクトやサービスについて、その世界で関わるキーマン達をお呼びし、エンジニアとして次のキャリアに活かせるヒントを提供するというものです。
AIやIoTの時代に求められるスキルとは
5月13日は「デベロッパDay」として、AIとIoTをテーマに6つのセッションと、全セッションの登壇者によるパネルディスカッションが行われました。
ここでは5月13日に行われたパネルディスカッション「AI/IoT時代におけるエンジニアの資質」の模様をレポートします。
パネリストには、AIトラックから、LINEの松野徳大氏、日本マイクロソフトの畠山大有氏、IoTトラックからCerevoの水引孝至氏、インフォテリアの松村宗和氏の、当日のスピーカーが勢揃いしました。モデレータは技術評論社の馮富久が務め、5つのテーマに対して意見交換が行われました。最初のテーマは「2017年、エンジニアに必要なスキルはこれだ!~AI/IoT/VR、実際のところはどうなのか?」でした。
まず、モデレータの馮より、具体的にチャットボットのフレームワークにおいて、どのようなスキルが必要かを松野氏、畠山氏に聞きました。松野氏は「LINEのボットのフレームワークはSDKを使うのでプログラミングはそれほど重要ではないのですが、サーバサイドの開発は必要ですので、HTTPの知識やサーバの運用、さまざまなストレージを活用できるといったことはベースとなります。また、AIのトレンドを把握して、何ができて何ができないのかを的確に判断できる知識も大事です。メディアなどから情報入手して整理し、理解・咀嚼しておくといいでしょう」と答えました。
畠山氏は「Microsoftもボットのフレームワークを提供しています。開発言語は何でもいいのですが、Webのアプリケーション開発の知識がそもそもないと入っていけないと思います。言語解析はさまざまなベンダが出していますから、それよりもWebアプリ、モバイルアプリを作れることが大事です。また、AIのエンジンを作りたいという話もよく聞くのですが、かなりハードルが高いです。ベースに統計学が必要で、つまり数学を理解していないといけません。どこまで踏み込むかは個人の経験によって判断するといいでしょう」と述べました。
さらにモデレータから、AIに必要なスキルについて水引氏、松村氏にも意見を求めました。水引氏は「AIそのものの理解も必要ですが、便利に活用できるAPIとそのポテンシャルを見極め、使いこなすことがスキルアップにつながると思います」。松村氏は「ほとんど出てしまいましたが、お客様のニーズを正確に汲んで適切な解を出すということもスキルのひとつになると思います。また、APIもフレームワーク化していますから、そこを見極められる抽象化のスキルも重要です。企業などがAIを活用するときにはエンジニアが呼ばれるわけですから、対応できる準備が必要ということですね」と答えました。
次に、同様にIoTについてどうかと松村氏、水引氏に質問を投げかけると、「求められていることは3つあります。センサーとエッジ・コンピュータをどうつなぐかという処理の話、そしてエッジ・コンピュータ自体の話、エッジ・コンピュータからクラウドにデータを上げる際の話です。エッジ・コンピュータはいわゆるサーバですから、エンジニアが担当すべきところです。また、近接の通信の話とエッジ・コンピューティングの話の両方ができると、かなりの強みになります。どういうセンサーをどこに置くか、エッジに何を使うか、そしてどの通信方式でどの情報をクラウドに上げるのか。これを自分でできるエンジニアはまだ少ないと思います」(松村氏)。
水引氏は「IoTは、モノがインターネットにつながることですから、そのときにどういうユーザ体験があるのかを、まず開発者自身が試してみることが必要です。そのためのプロトタイピングツールはRaspberry Pi(ラズパイ)やRDMなど汎用の安価なボードが出ていますから、そういうものを使って素早くプロトタイピングをして、実際に使ってみる。そしてボトルネックになる部分や開発上ハードルになる部分を早期に洗い出して可視化することが重要なスキルです。ここを見誤ると、残念なプロダクトになってしまいます」と答えました。
一方で、畠山氏は「IoTは一般的になりつつありますが、全体を見ることができる人が不足していると思います」と指摘します。まずは小さいことを試してみて、ユーザの意見を聞いてみることも大事としました。松野氏は、LINEでもボットと連携するビーコンを販売していることを挙げ「IoTをやるとなってから勉強するのでは間に合いません。今のうちからラズパイやセンサーなどを自分で触って試すといいと思います」とコメントしました。
これから3年先、5年先を見据えて何をする?
テーマ2「AI/IoTをはじめとした技術に向けて、エンジニアは何を知るべきか、学ぶべきか」について、「ラズパイ以外に試せるものはないか」という問いに対し、松村氏はソニーの「MESH」を挙げました。水引氏は周辺機器やパッケージが充実しており、手軽に始められるラズパイを押しました。一方で、松村氏はレンジャーシステムズの「monoコネクト」が本格的なのに安いと勧めました。畠山氏はこれを受け、ドローンのように、わずかな期間で価格が大幅に落ちるので、常にテクノロジーをウォッチして頭の中でシミュレーションすることが必要としました。それらを組み合わせることで視野が広がるといいます。
テーマ3では「人工知能(AI)は仕事を奪うのか? 創るのか? 何を知るべきか? 学ぶべきか?」に移ります。畠山氏は「結論から言うと、仕事は増える」と言います。その理由に、テクノロジーはなくなるけど、プログラミングはなくならないことを挙げました。専門性の高いところは今まで以上に人が求められるというわけです。松野氏はカスタマーサポートのチャットを例に挙げました。「AIは初めての質問には答えることができません。また、定型化できることとそうでないものがあるので、特にAIに関わる業務に必要とされるエンジニアは増えるでしょう」としました。
テーマ4「IoTを活用しやすい分野、エンジニアならこれができる!」では、「レトロフィット」という言葉が多く飛び交いました。使い慣れたものをIoT化し、機能を追加することで、使い勝手を変えずに新たなことができます。これは少子高齢化の問題にも遊行できると意見が多く出ました。
ここで開場から質問を募りました。内容は、IoTのセキュリティや落とし穴、マイナス面、イノベイティブな発想を磨く方法、自社で制作したIoT製品の他社製品との違いをアピールする方法などの質問があり、パネリストが丁寧に答えていきました。
テーマ5「この先3年、5年のキャリアパスについて」では、さまざまな展望が語られました。「ベンチャーに向いていると思ったが、大企業の方が好き勝手できる。社外のコミュニティに参加することもおもしろい」(松野氏)、「Microsoftは部門が違うと全然違う会社。でも、積み上げたテクノロジーの経験はどこでも役立つ」(畠山氏)、「趣味が本業になった。まずは趣味を楽しんで欲しい。10個のひょかボードでいろいろと試せば、ひとつは自分のキャリアパスになっていくはず」(水引氏)、「株やファイナンスの知識は人生に大きく影響します。やってみるべきだと思います」(松村氏)といった意見が印象的でした。
最後にモデレータの馮が「今回の話を受け、3~5年あればシフトチェンジ・キャリアチェンジができるはず。もし、AIなりIoTなり、自分にとって未知の領域を目指すのであれば、伝聞の情報を集めるだけではなく、自分自身で経験を積んでいくことが大切である」として、パネルディスカッションを締め括りました。