鈴木たかのりです。2019年の個人的な挑戦として「海外のPythonカンファレンスにトークやポスターを応募しまくって、採択されたら行く」ということを行っています。今回レポートするPyCon Taiwanは7ヵ国目です(6ヵ国目は日本なのでレポートは他に譲ります)。過去のレポートもgihyo.jpに掲載していますので、ぜひ興味のある国のレポートを読んでみてください。
PyCon Taiwanとは
PyConはプログラミング言語Pythonに関する国際カンファレンスです。アメリカや日本をはじめ世界中で開催されています。
PyCon Taiwanは2012年に第1回が開催されました。2014年と2015年にはPyCon APAC in Taiwanとして、アジア太平洋地域のPyConが開催されています。過去の台湾で開催されたPyConの模様は以下のレポートで確認できます。
以下はPyCon Taiwan 2019の開催概要です。
筆者自身は2012年、2013年、2015年に続いて4年ぶりにPyCon Taiwanに参加しました。PyCon Taiwanは2012年に初めて参加した海外PyConであり、2013年に初めて海外で英語でライトニングトークを行った場所でもあるため、個人的に思い出深い地です(2012年から同じ会場で開催されています)。
また、PyCon Taiwanは例年6月に開催されていましたが、今年は9月20日からとなり、9月17日にPyCon JPが終了してすぐに移動というハードスケジュールでした。9月16日週はさながらPyConウィークといった感じで非常にハードでした。
オープニング
PyCon Taiwan 2019のChairであるTaihsiang Ho氏(@tai271828)によるオープニングでPyCon Taiwan 2019が始まりました。説明は中国語でしたがスライドが英語だったので、なんとなく何について話しているかはわかりました。
ちなみに筆者はTaihsiang氏とはフィリピンで開催されたPyCon APAC 2019で初めて会い、その後EuroPython、PyCon JPにも参加していたので、PyCon Taiwanで会うのは4回目です。お互い世界中のPyConに参加していて物好きだなと思います。
「Honey, There is a Python in my Android Phone!」 ―Ing Wei Tang
スピーカーのIng Wei Tang氏はPyCon Malaysia 2019のChairであり、私は今年のマレーシアで初めて会いました。彼がPyCon Taiwanに参加していることを私は全然知らず、この日の朝にエレベーターでばったり会い、今日発表があることを知って聞きに来ました。
発表の内容は古くなったAndroidをどう再利用するかというところで、Java/KotlinではなくPythonでプログラミングをしようという話です。
話は2016年のクリスマスに遡ります。当時Tang氏は自身の蔵書のカタログを作りたいと思っていました。ISBNから書籍に関するメタデータ(価格、著者、出版日等)を取得するPythonスクリプトを書いたが、バーコードスキャナーは持っていませんでした。
Androidにはバーコードをスキャンする機能があるので、これをPythonから呼べないかと調べてみたそうです。すると以下の2種類の方法が見つかったそうです。
これらを使用すると、self._rpc("scanBarcode")
のようなコードでAndroid APIとやりとりができるそうです(プライベートメソッド使うんだ...と個人的には思いました)。このようにしてAndroidでバーコードをスキャンして、蔵書のカタログができたそうです。
次に、QPython3が紹介されました。QPython3はAndroid上で動作するアプリーションで、そのアプリの中で任意のPythonコードを実行できます。QPython3は以下のリンクでGoogle Playストアからインストールできます。
その後はQPython3で作成したアプリケーションの例として、GPSを使用した移動経路のロガーや、ジャイロスコープを利用してAndroidの向きに連動してWeb画面上の立方体が回転するデモを紹介していました。QPython3に付属するandroidhelperを使用すると、Androidのさまざまなセンサーなどの値がとれるようです。
現実のデバイスでプログラミングするとっかかりとしては、手ごろで面白そうだなと思いました。参考までに、iOSにもPythonista 3という似たようなアプリケーションがあります。
興味のある方はこちらもチェックしてみてください。
ランチ
PyCon TaiwanのランチはPyCon JPと同様のお弁当スタイルです。複数種類のお弁当が用意されており、好きなお弁当を取っていくスタイルです(結構余っていたようです)。
簡単にどんな種類の弁当かの漢字の説明で、なんとなく牛か豚か鶏かくらいはわかるのですが、細かい情報がわからずなかなか選びにくかったです。おそらく3日間とも同じメニュー構成だったと思われますが、2、3日目に食べた韓国系の焼き肉弁当がおいしかったです。
「PEP 572: The Walrus Operator」―Dustin Ingram
Dustin氏はGoogleのDeveloper Advocateであり、Python Package Authority(PyPA)のメンバーでもあります。氏はPyCon JP 2019でも「Modern Development Environments for Pythonistas」というタイトルで発表をしていましたが、台湾では異なるタイトルでの発表でした。こちらの内容はUS PyCon 2019でも発表していたようです。
今回は期間が近いということもあり、このようにPyCon JPとPyCon Taiwanの両方で発表している人が結構います。
発表はPEP572の話に入る前に、PythonのGovernance(運営)についての話から始まりました。言語の最終決定者としてBDFLのGuido van Rossum氏がおり、PEPで言語仕様の提案が行われていることの説明がありました。自分の一番好きなPEPはPEP 566 Metadata for Python Sofotware Packages 2.1と言ってましたが、自身が作成者のPEPだからだそうです(笑)。PEPはDraft(草稿)が議論を得てAccept(採択)されるとImplementation(実装)が行われます。また、すべてのPEPの判断をGuido氏が行うことは大変なため、BDFL Delegatesという仕組みで判断をGuido氏が他の人に委任することができます。
次にPEP 572のセイウチ演算子(:=
)をいくつかの例を交えて紹介していました。以下はその一例で、上が既存の書き方で下がセイウチ演算子を使った場合です。
しかし、この演算子は=
とは同じように使えない場合がいくつかあり、それらも実例を交えて紹介していました。この部分は個人的にとても勉強になりました。
このセイウチ演算子の元となったPEP 572ですが、メーリングリスト上で非常に長い議論となりました。またさまざまなコアの開発者が意見を述べました。
そして2018年7月12日に、Guido氏がPEP 572をAcceptし、そのあとにGuido氏がBDFLをやめるというメールを出しました。当然ですがこれはPython界隈に衝撃的なニュースとして伝わり、さまざまな人がツイートしたそうです。
その後Python言語の仕様策定をどのように運用していくかの議論がはじまり、PEP 8000 Python Language Governance Proposal Overviewをベースにいくつかの運営方法が提案され、投票でPEP 8016 The Steering Council Modelが採用されました。2019年1月から2月にかけてSteering Councilメンバーの投票が行われ、5名のCouncilメンバーが決定しました。
この5名のメンバーによるキーノートがUS PyConで行われ、その模様は以下の記事でレポートしてあります。
PEP 572の技術的な話だけでなく、その周辺で起こったPythonの運営体制などについても触れた、興味深いトークでした。
おやつタイム
おやつタイムは午前と午後に毎日提供されていました。甘い物もしょっぱいものもあり、また飲み物は基本的に砂糖入りとデブ活がはかどります……。
この時間に書籍の販売コーナーに寄ってみたところ、私の書いた『Pythonによるあたらしいデータ分析の教科書』の中国語版が置いてありました!! 誰かが購入してくれたらうれしいのですが……。書籍は全体的にディープラーニング系が多いかなという印象でした。
また企業ブースもまわってみましたが、京都に本社があるハカルスさんがブースを出していました。メンバーのニノさんとはPyCon APACのときに挨拶しており、ここで再会できました。CTOの染田さんは2日目に発表予定です。
ライトニングトーク
ライトニングトークはしゃべりたいタイトルと連絡先を紙に書いて受付にある箱に入れて、選ばれた人には連絡が来るというスタイルです。1日目のライトニングトークは申し込んだ人が少なかったのかわかりませんが、5名中4名が日本人(しかもPyCon JPスタッフ)という「お前らちょっと自重しろw」という布陣となりました。ここで「Do you know PyCon JP?」みたいに、全員で同じフレーズをかぶせていったらウケるのでは?という話を日本人の中でしていました。
それぞれ以下のようなタイトルでMinecraftをPythonから扱う話、PyCon JPで使っているツールの話、PyCon JP 2019の振り返り、PyCon JP 2019の準備をPythonで行った話をLTでしつつ「Do you know PyCon JP?」で少しずつウケていました。
- Minecraft Education and Python - Daisuke Saito
- PyCon JP Introduction of useful tools - Shunsuke Yoshida
- Recap PyCon JP 2019 - Naotaka Yokoyama
- Prepare PyCon JP 2019 with Python - Nikkie
すると、この日最後のLTスピーカーであるKeith Yang氏が、急遽用意した「Do you know PyCon JP?」のスライドで全部笑いを持っていかれました。彼は過去PyCon Taiwanや各国PyConでも発表経験があり、さすがだなーと思いました。
スピーカーディナー
1日目の夜はスピーカーを招待したディナーがあったので、そちらに参加してきました。カンファレンス会場から送迎バスで移動して駅のショッピングモールに来ました。SUNRISEという名前のビュッフェスタイルのレストランでディナーです。
入り口で名前を確認され、それぞれ指定されたテーブルに着くというスタイルでした。私の席にはPyCon Taiwanの立ち上げメンバーであるYung-Yu Chen氏や、スポンサーであるShoppyの方などがいました。
スタッフ、スピーカー、スポンサー含めて4、50名はいたでしょうか?宗教によるものベジタリアンなどの食事の制限がある人がいるので、ビュッフェ形式は理にかなっているなと思いました。ただ、当然のようにビールがなかったので、ひとしきり食事を楽しんでいろんな人と話をしたあとは、台湾のクラフトビールの店に移動です。この日はDriftwoodというお店で先に何名か日本からの参加メンバーと飲んでいて、そこにあとから合流しました。
Driftwoodで飲んだあとはホテルに帰るのですが、私と他数名はカンファレンス会場の近くに宿泊しているため、戻る必要があります。Googleマップで検索してみるとまだ電車が動いているようで、西門から台北駅まで歩いて移動して電車に乗りました。台北駅はさまざまな路線が入っているため少し迷いましたが、なんとか電車に乗ってホテルの最寄り駅まで戻ることができました。ちなみに終電でした。南港駅からホテルまで距離があるのでタクシーで帰ろうと思いましたが、乗ってみたタクシーでは全然話が通じず、やむを得ず降りてUBERで帰りました。やっぱり海外だとUBERなどの配車サービスは便利ですね。
こうして、なんとか1日目が終わりました。
終わりに
第1回のレポートは以上です。次回はPyCon Taiwan 2日目と3日目の様子についてレポートします。