滑川海彦の TechCrunch40 速報レポート

TechCrunch40 Summary #5

2日間で40社のプレゼンテーション、100社のデモ、8セッションのパネル討論という中身の濃いカンファレンスも無事終了した。

リリースされた情報は膨大だが、TechCrunch本家サイトにリアルタイムで発表された記事が日本版で読めるので、基本文献として参照していただきたい(タイトルとリンクを一覧にしておいた⁠⁠。

TCの記事に平行するかたちで全セッションの概要を紹介してみよう。

1日目

TechCrunch40、チケット完売間近―さらにニュースも

主催者のマイケル・アリントンがTechCrunch40カンファレンスの概要と特長を紹介。

TechCrunch40、いよいよスタート
開会の挨拶をする凸凹コンビ、TechCrunchファウンダーのマイケル・アリントンとWeblogの元ファウンダー、ジェイソン・カラカニス(TechCrunch)
開会の挨拶をする凸凹コンビ、TechCrunchファウンダーのマイケル・アリントンとWeblogの元ファウンダー、ジェイソン・カラカニス(TechCrunch)
TechCrunch40 セッション1:検索と発見

「打倒Googleか?」と呼び声の高かった自然言語検索エンジンのPowersetなどがプレゼン。バーティカル(特定)やニッチ・マーケットではある程度有望そうな企画が紹介されたが、網羅的な検索ではGoogleの優位性がますます確認されたのが皮肉。

クールにメモをとるマリッサ・メイヤーGoogle上級副社長(TechCrunch)
クールにメモをとるマリッサ・メイヤーGoogle上級副社長(TechCrunch)
Yahoo、「Yahoo Teachers」をTechCrunch40で発表

スタートアップのプレゼンとは別枠の大企業の特別発表の1つ。Yahoo!が小中高の先生のコミュニティー向けに特化したマルチメディアWikiデータベース。マルチメディア素材を簡単にドラッグ&ドロップして資料データベースを作り、さらに教材用プレゼンを作成して共有できる。SNS機能も備えている。

TechCrunch40セッション2:モバイルとコミュニケーション

技術的な問題で壇上で立ち往生するプレゼンター続出。通信関係のライブデモの怖さを再確認。

TC40 基調講演―「Humble Beginnings(始まりはささやかだった)」

デビッド・ファイロ(Yahoo!共同ファウンダー⁠⁠、チャド・ハーレー(YouTube共同ファウンダー⁠⁠、マーク・アンドリーセン(最初のブラウザ Mosaic共同開発者、Netscape共同ファウンダー)という伝説的シリコンバレーの成功者に、セコイア・キャピタル共同ファウンダーで Googleへの初期投資でも有名な、これも伝説的ベンチャーキャピタリスト、マイク・モリッツが話を聞いた。5人の総資産は計算するのもうんざりだが、千億円単位になるはず。マーク・アンドリーセンが「CEOをよそから連れてくるな。食い物にされるかもしれない」と警告していたのが印象に残った。

左からファイロ、ハーレー、アンドリーセン、モリッツ(TechCrunch)
左からフィロ、ハーレー、アンドリーセン、モリッツ(TechCrunch)
TechCrunch 40セッション3: コミュニティとコラボレーション

マルチメディアWikiの一種StoryBlenderとオンライン音楽作成ツールのmusicshakeは韓国からの参加。musicshakeのファウンダーは韓国の8歳の女の子のユーザーが作曲したという曲に合わせて踊りながら登場。満場の喝采を浴びた。韓国勢の元気さが目立った。

StoryBlenderとmusicshake
StoryBlender musicshake
AOLがBlueStringをローンチ

別枠の大企業の特別発表の2つ目。今回全体を通して目についたが、これも広い意味でマルチメディアWikiのひとつ。複数のユーザーが共同してマルチメディア・スライドショーを簡単に作成、共有できる。

TechCrunch40 セッション4:クラウドソーシング

DocStocは文書の共有サービスだが、Scribとかぶるような気がする。TeachThePeopleはマルテメディアWiki機能とSNS機能を組み合わせてユーザー同士が特定の分野について教えあうというもの。アイデアの方向はいいのだが、そういう場合には無数の同じようなことを考えているライバルとの競争に勝ち抜いていかねばならない。PonokoとCrowdSpiritはハードウェアのデザインと製造をユーザー参加型で実現しようというもの。実現までのハードルは高そうだが、ウィキノミクス(マスコラボレーションによるユーザー主導型経済)を次のステップに導く可能性がある。注目。

TC40 Mark Zuckerbergを迎えての基調講演トーク
若々しいのとおり越してビールを買うにも免許証を見せろといわれそうなFacebookのファウンダー、マーク・ザカーバーグ(TechCrunch)
マーク・ザカーバーグ(TechCrunch)
TechCrunch40 初日まとめ

2日目

TechCrunch40 Session 5: 生産性とウェブアプリケーション

このセッションからオンラインパーソナル財務支援サービスのMintが5万ドルのTC40大賞に輝いたことは前に述べた。オンラインアプリケーション作成ツールのApp2Youや、ゲーム感覚で幼児や子供にコンンピュータとインターネットを利用した教育サービスを提供しようとするKapoofもおもしろい試みだが、やはりライバルが多い分野だけに、短いデモでは残念ながら十分に独自性をアピールできなかった。

TechCrunch40 セッション6: 収益モデルと分析

ZocDocは「お医者さんを探すためのクチコミ・ソーシャルサイト」だ。現在は、歯科医の協力を得てのベータテスト中。広告配信サービスなども他のプレゼンもおもしろいものがあったが、セッション5と同様、いささかOne Of Them感が。

Google、TechCrunch40にて「Presently」を公開!

大企業特別発表枠のなかで最大のイベントとなったのがこのPresentlyの発表。Googleがオンライン文書、表計算アプリに続いてマイクロソフトのパワーポイントに対抗するプレゼンテーションを加える、ということは数週間前から既定事実になっていた。その意味では情報そのものに新しさはないが、これほど重要な製品のローンチの公式発表にTC40を選んだということは、TechCrunchとしては大きいだろう。Congratulations, Mike!

Presentlyの紹介にわざわざマイケル・アリントンの写真を利用したデモを用意してきたGoogle(TechCrunch)
Presentlyの紹介にわざわざマイケル・アリントンの写真を利用したデモを用意してきたGoogle(TechCrunch)
TechCrunch40: Jeff Clavierが$12Mベンチャーファンド発表
TechCrunch40 Session 7:リッチメディアとマッシュアップ

複数のSNSのプロフィールをアバターを利用して簡単に管理できるmEgoと、すでに紹介したが、写真からイラストを起こしてアバターなどに利用できる BeFunkyが目立った。BeFunkyはトルコのスタートアップだが、その他いろいろ有望そうな機能が搭載されている。サイトを訪問してみてほしい。これも前に紹介したがウェブカムを利用した3次元モーショントラックエンジンのXTR3Dも注目。

mEgoの女性ファウンダーもかわいらしいダンスを披露。musicshakeの韓国人ファウンダーよりうまい(TechCrunch)
mEgoの女性ファウンダーもかわいらしいダンスを披露(TechCrunch)
写真からこういった似顔絵を簡単に起こせる(BeFunky)
写真からこういった似顔絵を簡単に起こせる(BeFunky)
TC40パネルディスカッション: 資金調達
TechCrunch40 Session 8: あらゆる年代層へのエンターテイメント

Metaplaceは3Dワールドを手軽に構築できるツール。セカンドライフのスクリプト言語のような知識は必要なく、ドラッグ&ドロップとメニューからの選択だけで通販サイトにバーチャル店舗を作るなどできる。

Woomeはオンライン・デート・サービスだが、最初から1対1に限定せず、グループ交際からセッションを始めることができる。いわば「オンライン合コン」なのが面白い。これはいただけるアイデアかもしれない。

Zivityは素人モデルが着衣とヌードの写真を投稿、ユーザーは服を着ている写真を見て気に入ったモデルがいたら有料でヌード写真がダウンロードできる、というのだが。ステージにモデルが登場してきたし、もうプレゼンもあと1つを残すばかりで、みんなくたびれてもいるし、でビジネスモデルへの疑念は当面お預け。

Zivity、華やかなモデルの登場で男性中心の聴衆に大うけ
Zivity、華やかなモデルの登場で男性中心の聴衆に大うけ
Facebook、Accel、Founders「fbFund」発表。Facebookアプリ開発スタートアップ企業に補助金提供へ
TechCrunch40、Kalturaが40番目の企業としてプレゼンの栄光を手に

デモピット会場へ参加企業100社に対してオーディエンスが投票した結果、最多票を集めたのがこのKalturaだった。これもいってみればマルチメディアWiki。どういうわけかエキスパートの中ではMCハマーが気に入ったと発言していた。

TC40 パネルディスカッション:エグジット戦略
元News CorpのM&A副社長、現TechCrunchのCEOヘザー・ハード氏(TechCrunch)
元News Corpの
TechCrunch40、Mintが$50,000の賞金を獲得!

Mintについてはすでにご紹介したとおり

タフなカンファレンスだった

とまあ駆け足で全体をご紹介してみた。帰りの飛行機の中で税関申告用紙を渡されたが頭が集中しない。いちばん上の「航空機(船舶)の名前⁠⁠、⁠出発地」という欄に「エアバス⁠⁠、⁠滑走路」と書いたら怒られるだろうな? キリストが飛行機に乗ると「生年月日:0004/12/25 姓:ベン・ヤコブ 名:イェス」とか書かされるのだろうか?

などとくだらないことを思いついておもわず(不気味な)笑いがこみあげてくる。いやはや毎日こういう取材をこなしている新聞記者のみなさんはたいしたものだ。

朝8時から夜の7時まで2日間ぶっ通しでプレゼンテーションとパネルディスカッションが続き、わずかな休憩時間の間に1日50社のデモを見てまわり、その後には飲み会があるというスケジュールは、いくら能率的なアメリカでもいささか過密ぎみ。

まして主催者側のTechCrunchチームとなると、あらゆる雑務に加えてセッションの要約記事をサイトにリアルタイムでアップロードしつづけたのだから、そのタフさは想像を絶する。

シリコンバレーのジュリア・ロバーツ(と筆者がかって命名しているのだが)ことヘザー・ハードTechCrunch CEO、ファウンダーで主筆のマイケル・アリントン、共同主催者のジェイソン・カラカニスに深く敬意を表する。

同時に膨大なカンファレンス・レポートをやはりリアルタイムで翻訳しつづけたTechCrunch日本版チームのパワーもたいへんなものだ。レギュラー翻訳チームから滑川と市村佐登美さんが会場取材のために抜けたのでますます負担は大きかったはずで、いやご苦労さまでした。

「Web2.0」は依然加速中か

シェラトン・パレス最大のホール「メイン・ボールルーム」に身動きもままならないほど詰め込まれていた聴衆だが、驚くほど集中して聞きいっていた。

このように会場の密度の高さは相当なもの
このように会場の密度の高さは相当なもの

速報の最初でも触れたように、チケットの売れ行きに気をよくして、会場後方に「椅子のみ」の席をしつらえてキャパシティーを確保したのだが、そこも満員。すこしでも前で壇上を見ようと壁際で立ち見組も出ていた。しかしさすがに「椅子のみ」席は疲労が激しく、休憩時間中はコメカミをマッサージしたり、やや放心状態の聴衆が目に付いた。

お疲れの「椅子のみ」席の面々
お疲れの「椅子のみ」席の面々

TechCrunchの一般オーディエンス向けチケットは2500ドル弱(早期予約割引は2000ドルだった)と日本の感覚ではかなり高価だが、何人か参加者に尋ねてみたところでは、アメリカのシリアスな業界カンファレンスではまず普通の値段だという。

とくに壇上でのプレゼンができる40社から金を取らず、優秀な会社だけを選んだところがよいという意見もあった。DEMOなど同種のカンファレンスではプレゼンをしたい会社から1万~数万ドルの出展料を徴収しているということで、往々にしてとんでもないツマラナイ会社が混じることになるらしい。

「プレゼンにはたいして期待していないが、これだけ大きなミーティングだと普段会えない人間に会えるからね」というベンチャーキャピタル関係者もいた。たしかにそこここで日本風の名刺交換をしている参加者の姿が目についた。

全体としてシリコンバレーを中心としたアメリカのウェブサービス業界には依然熱気が充満しているという印象だった。サブプライム問題を何人かに持ち出してみたが、一様に肩をすくめられてしまった。⁠どうなるかわからないが、すぐにパニックが起きるほどの話じゃない。景気が減速して影響が出るとしてもずっと先の話」ということなのであろう。

デモ、壇上を含めてスタートアップの新サービスの内容のレベルについていえば、jig.jpの福野泰介さんがjig.jp経営日記「TechCrunch40に来ています。⁠中略)出展企業は、いろいろ個性的なサービスではあるけど、決してまったく手が届かない感じではないので、ぜひ来年は出展を考えたい。みなさまもぜひ!」と書いているのが的確な評に思えた。

なお、今回プレゼンテーションを行なった40社の情報一覧(英文)はここに。そこからリンクをたどると、TechCrunch企業情報データベース(英文)にジャンプしてさらに詳しい情報(詳しいサービス紹介、住所、スクリーンショット、サイトURLなど)が得られる。

とりあえず最大のトレンドは「マルチメディアWiki」

TechCrunch大賞は、自動的にユーザーの口座からオンラインで情報を収集してパーソナル会計管理をしてくれるサービスMintに決まったことはお伝えしたが、トレンドとして目についたのはなんといっても「マルチメディアWiki」的なサービスだった。画像、動画、音声、テキストなどマルチメディアを素材として複数のユーザーが共同してひとつのページを作成・共有できるサービスである。実はスタートアップ以外の大企業、Yahoo!、AOL、 Googleが発表したサービスもそろってマルチメディアWiki的な方向だった。

次回はTechCrunch40全体を通して見えてきたトレンドと、特に興味をひかれたサービスについて少し詳しくレポートしてみたい。

(続く)

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