後編では、2009年8月6日、RIAコンソーシアム主催のセミナー「第13回RIAコンソーシアム・ビジネスセミナー~明日のWebデザインへのヒント!~」のパネルディスカッションの模様についてお届けする。
(前編はこちら)
Web/広告両方の切り口から、多彩なパネリストが登壇
各社個別のプレゼンテーションの後は、これまで登壇したメンバーに加えて(ワンパク野村氏を除く)、トリプルセブン インタラクティブ福田敏也氏、ビーコン・コミュニケーションズ渡辺英輝氏があらたにパネリストとして参加し、ワンパク阿部氏モデレートによるパネルディスカッションが行われた。
このパネルディスカッションでは「これからのWeb、明日のデザインとは」がテーマとして掲げられ、現状のWebとデザイン、今後の課題と可能性について議論された。
不況下におけるWebとデザイン
阿部:
今回のパネルディスカッションでは、未来を大きなテーマとして考えています。しかし、未来を語る前にまず現状把握も重要です。最初のテーマとして「不況といわれている今の状況をどう捉えているか?もしくはどう捉えて考えていったら良いのか?」についてお話しいただけますか。
渡辺:
私が関わっている広告業界は本当に不況を感じます。中でも、レガシーなビジネスモデルについてはそれ自体を見直す時期に来ていると感じています。その要因の1つは、マスメディアと新しいメディアとが現在進行中で変化をしているからです。実際の動きとしても、TVCMが減って、デジタル中心に考えているクライアントが多くなってきていますし、デジタル発信によるキャンペーンを考えていることが多いですね。
ここで問題なのは予算総額が減っている点です。そのため、大きなコストがかかるTVCMが減少することにも繋がっていますし、また、デジタルに変えるといってもこれまでの(消費者/ユーザに対する)コミュニケーションの取り方とは在り方ががらっと変わっているので、それに対してどう対応するかが重要ですね。
阿部:
なるほど。ちなみにTVが減った分、インターネットに流れると思います?
福田:
そんなことはないですね。発注側にも基本としては「お金を使っていこう」という意識がありますが、今年はやめておこう、という感じです。
阿部:
制作側から見てどのように感じますか?
田中:
私たちの場合、それほどたくさんの本数をこなしていないので、数という点では不況の前から不況でしょうか(笑)。ただ、基本的にあまり断ったりもせず、ちょうど良い仕事の数を受けているように思います。
阿部:
それは仕事の数を求めていないということですか?
田中:
いえ、仕事の数を増やしたいとか増やしたくないというよりも、「不況の時だからこそがんばろう」というような、ややねじ曲がったポジティブさにはあまり乗れないという意識ですね。必要以上にならないというか。私たちとしては、まず創ることに対して一生懸命になります。
また、マスとデジタルという点で見ると、現時点では、(インスタレーションなどは)創り上げたところから最終的にはマスに展開したいという気持ちもあるので、その点ではマスメディアへの依存度が高いのかもしれません。
これからは、もっとインターネットを軸にしたビジネス展開をしなければいけないとは考えています。
吉川:
私たちは、人数的な面からも元々受けれる量が少ないですし、組織自体が立ち上げたばかりでもあるので、これからですね。
コミュニケーションデザインにおけるWeb
阿部:
では、次のテーマに移りましょう。未来という観点で見ると、ここ数年でコミュニケーションデザインを考える上でのWeb(インタラクティブメディア)の立ち位置は変化してきているように感じます。これは、今後どのように変化していくと思われますか?
福田:
まず、今の状況と5年前とではあまり比較にはならないと思います。技術の進化、状況の変化などがありますから。おそらく、変化という点で見る場合、市況が上向きに戻ったときに、どういうお金の使い方をしているか、それを今から見据えられているかどうかが大切です。
TVCMをはじめ、これまでの流れでは確保する形で予算を取ったり、慣習的に使ってしまうメディアがありましたが、今のような不況に陥った結果、そういった慣習が途切れています。今後は、(Webを扱う予算が確保できたとき)どこまでできるか、に寄るのではないでしょうか。
渡辺:
ケースバイケースであるので、一概には言いづらいですが、この不況によって効率化の考えが強くなっています。それは、福田さんもおっしゃったように使える予算が減ってきたからです。今のままではこの流れがさらに突き詰められていくようになります。
僕たちの仕事は、そこをどうにかしてブレイクスルーすることです。半分妄想になってしまいますが、消費者や企業が期待しているところと、実際のところをどのようにつなげるか、そこにWebを活用し、広げていくことが大切だと思います。
阿部:
たしかに、これまでは発注側のオーダーは単に「Webサイトを作ってください」というものが多くありました。結果として、Webにだけお金をかければよいというようにも捉えられてしまいます。しかし、先ほどの各プレゼンテーションを見てもわかるように、Webからはみ出したものが増えています。このあたりは、広告側から見てどうでしょうか?
渡辺:
私もそれはすごく感じます。これまで、クライアントからの発注要件は「カッコイイものを作って」というイメージでしたが、最近は「人を動かすものを作って」というオーダーが主流になってきています。
福田:
実際、クライアント側にも迷いがあるのは感じますね。その中で、今渡辺さんがおっしゃった「人をどれだけ動かしたのか」という指標に対して、クライアントが目を向けてきています。
もう一方で、そうなればそうなるほど、マスの力を考えるようになっている事実もあります。これは、Webが持っているコミュニケーション力の限界、マスメディアの意味、マスメディアの強みというのを改めて実感する時期に来たとも言えますね。
当然、僕らもWebだけで「おもしろいこと」「人を動かすこと」をやってくれと言われても困るわけで、どれだけ人を動かすというオーダーがあればTVを含めたマスを含めて考えていかないと、その約束を果たせないわけです。
阿部:
むしろWebとTVが敵対すると言うよりも、他のメディアを学んでいかなければいけないという時期なんでしょうね。また、そういう流れになっていくことが必要だと感じます。
福田:
そうですね。昔、私たちがCMを作っていた時代は、作ったCMがどのチャンネルで流れるか、いつ流れるかを知らなかったわけですし、そもそも明示するという考え方はなかったわけです。つまり、誰が見ているものがはっきりわからないものを作っていたことにもなります。しかし、本当であれば誰が見ているかまでを意識しないと、人を動かすことはできないわけです。とくにWebのように数字が取れるメディアであれば、その必要性は高まります。
田中:
もう1つ、オーダーのされ方として「普通のサイトを作って」って言われるのですが、このような漠然としたお題が多いことがよくあります。そういうときには、制作側からも「それだったらこうしたほうがいいですね」など、積極的に意見を伝えていくことがあります。これは、Webを作ってきた自分たちだからこそ、わかることでもあるわけです。
菅井:
加えて、最終的には自分たちで考えることは大事ですが、人の意見も大事です。そこで、発注側の意見もしっかり理解しなければいけないですし、そのためには一緒に考えていく必要性があります。一緒に考え、意見を述べ合うことで真意に近づけるからです。
その点で、今テーマとなっているコミュニケーションデザインにおけるWebを作るためには、(発注側との)意見のやりとり、話し合いをする作業が最も多かったりしますね。
Webをやってきた人たちは主役になれるのか?
阿部:
ここまで、現状の振り返りとWebの可能性についてお話しいただきました。実際問題として、Web(インタラクティブ領域)をやってきた人たちは今後、主役になれるのでしょうか?また、主役になるにはどうしていったら良いのでしょうか?
私の印象として、従来のTVCMなどと比べると、まだまだWebは確立されたメディアではなく、制作に関してもゼロからスキーム作る必要があると思っています。このあたりの捉え方が重要かな、と思っています。
菅井:
私の周りにいるWebをやってきた人を見ると、活動範囲をWebに限定しない人が増えているように感じます。この流れはとても大切だと思っていて、たとえばこれまではWebからの発信を主力にやってきた人がTVCM側に行ったり、扱うメディアを変えていくという流れが必要だと思います。
そして、もっともっと(メディア間が)ボーダーレスになって、垣根取り払ってコミュニケーションできたらいいですね。私個人の興味で言えば、たとえば映像メディアとインターネットメディアが繋がってほしいと思います。
福田:
まず、Web系が主役か、マス系が主役かという点については、私にとってはどうでもよかったりします。ただ、これまでの10年において、企業がコミュニケーションするときは、CMの中でキャラクター開発するなど、ある程度手法が限られてきました。
しかし、Webの場合、サービスの設計段階からとても自由度を高くして取り組めるので、発注者側/制作者側どちらも、想像した枠を広げて実現できます。その点で、Webをやっている人というのは、ただ広告を作ることだけではない形で、いろいろなシミュレーションを行えるという意味があるのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、どっちが主役になるということではなく、マス系でもWeb系でも、自分の足場にこだわらずに、もっと活躍の場を広げていけると信じています。突き詰めていけば、必ずしもWebにする必要はないわけで、どういう手段を取るかを考えることが大事です。
渡辺:
私もWebとTVなどが融合している方向に進んでいるとは思っていますが、正直、まだギャップがあるのが現状だと感じます。そのため、何が主役になるのかという点についてはすごく悩みますね。
それよりも、実際に何かを作るというときに、どういうチーム構成でどのスペシャリストが集まるかが重要です。そのとき、これからのインタラクティブ領域を扱う上では、リードする人自身がインターネットを使ったコミュニケーションをある程度理解していないと厳しいとは思います。
さらに、まだ人によってITやWebのリテラシーは異なる部分もあり、回線を通じた会話として考えたときに、コミュニケーションにおけるインターネットは欠かせないわけです。つまり、インフラとしてのインターネットをどう活用するか考えることが根本として重要になってきますし、そういう点でWebをやっている人の価値はもっと高まりますね。加えて、プラスアルファのスキルとしてクリエイティブな映像やグラフィックデザインなど、表現部分が求められるわけです。
これからの人材の理想像、求められる人材とは?
阿部:
それでは、最後のテーマです。今話されたように、Webに対するスキルや表現力など、求められるスキルが多様化しているように感じます。今後、どういった人材が求められていくと考えますか?
菅井:
私はエンジニアの立場からお話ししますね。まず、デザインとエンジニアリングは、一部相反するところがあるということを前提でお話しさせてください。
通常、Webをはじめとしたインタラクティブメディアを作る場合、表現に関するデザイン、たとえばFlashのようなレイヤに関しては、どんどんクリエイティブになっていますし、もっと増えていっていいと思います。一方で、その裏側、システムのバックエンド寄りにはビジュアルに関する表現力はそれほど必要ないわけで、そもそもビジュアル的にバックエンドを使いたいというニーズはあまりありません。
こうした状況のため、バックエンドを担当するエンジニアが、実はあまり表に顔を出していないのではと感じています。私は、ここに1つの課題を感じていまして、エンジニアと呼ばれる人たちも、もっともっとデザイン寄りの考え方を持って、アンテナを張った方が良いと思っています。
どうしても技術的なスキルを追求すると、見た目とかではなく何をしたいかという欲求を最優先に考えてしまいがちです。しかし、そこに見た目というか、デザイン領域を持つことが出来れば、デザイナーとエンジニアの良いコラボレーションが生まれると信じています。
もちろん、さまざまなタイミングなどはりますが、たとえば今回のようなセミナーを含め、エンジニア、デザイナーとも自分の守備範囲以外の、異なるコミュニティに参加することで必ず視野が広がるはずです。
田中:
今の話の延長で、今度はデザイナーの立場からコメントさせてください。私もエンジニアとデザイナーのコラボレーションは大切だと思います。それをうまく実現するためには、あまり(エンジニア側が)突き詰めすぎずに、また、デザイナーは感覚だけで進めていかないようにしたほうが良いと思います。
渡辺:
私の意見としては、Web領域で求められる人材としては、全員が技術についてみっちりと深くは知る必要はないとは思っています。ただし、Webの領域では技術が占める割合が大きく技術に裏打ちされて作り出されるものがあるため、どういった技術があるのか、最新の技術で何が流行っているのかを知っていることが大切ではないでしょうか。
最近では、コンテンポラリーアートの世界でも、新しい技術を使う人が増えています。おそらくそういった感覚に近いのかなと思います。
デザイナーやエンジニア、また、プランナーといったどの立場にいるにしても、お互いが歩み寄って、それぞれの強みを活かせるようなタッグを組めることが大事ですね。そういった人材がこれからますます求められると思います。
福田:
私がこれまでいたコマーシャルの世界はフォーマットがかっちり決まっていました。たとえば、放送形態であったり、タイムラインの考え方であったり、そこに新しい概念などが立ち入る余地はなかったわけです。
ところが、CMからWebの世界に来たときに、自分でその仕様を決められる感覚があって、それがとても嬉しく思いました。つまり、メディア自体が進化しているため、仕様という考え方が定形なものではないのです。そこをきちんと捉えて行動できることが大切ですね。
阿部:
たしかにWebの世界は自由度が高い部分が多いですが、一方で、技術仕様ががちがちに決まってしまうプロジェクトというのもありますよね。その場合、どうしたら良いかご意見はありますか?
福田:
そういうケースでは、たしかに新しいことを差し込む余地はないかもしれませんが、アウトプットする仕事の意味の中に、お客様の目に触れるという部分があるはずです。いわゆる表現部分に関するところですね。たとえば、その部分に対して、自分のクリエイティビティであったり、デザインの意味を盛り込むということが出来る可能性があります。
そこで(仮に仕様がかっちりとしていたとしても)、何かを創り出すときに+15%の違いを乗せることで、自分たちの仕事がどう変わるか、お客様にとっての価値がどう変わるのかという考え方を持つことが大事だと思います。
阿部:
なるほど、そういった自由度の高さに対して自分自身も合わせていくことがより一層求められるわけですね。では、最後にまとめのコメントとして、これから皆さんがどういったことをしていきたいか、どういう取り組みを目指しているか一言ずつお願いします。
吉川:
私たちBOWでは、DesktopLiveというイベントをやっています。これは、ライブ感覚でどのようにクリエーションをしているのかを見せていくもので、お酒を飲みながらカジュアルな雰囲気で行っています。今後、このDesktopLiveというイベント自体が広告になっていくような、そういう動きに繋がると嬉しいです。
菅井:
たとえば、現在の広告やクリエイティブを考えるとき、時間や場所の制約があります。もし技術的に可能になるのであれば、真っ昼間に光の強いプロジェクションを行ってみたらおもしろそうですね。出来る限り制約のないものを作りたいです。
渡辺:
私の場合、何を作りたいかという前に、誰のために何をしたいのかというところから考えてしまうので難しいところでもありますが、今の菅井さんのお話にもあったように、表示させる場所、プロジェクターの技術が変わってきているように感じますので、たとえば、建物をプロジェクターにするなど、町中でインタラクティブに表現できるようなものを生み出してみたいです。
福田:
私も渡辺さんと同じように、課題解決型の仕事が多いのですが、1つやってみたいものとしては、映像に関わるものについて改めて考えたいです。今の、この変革期でなければ考えられないものがあるはずなので、もう1度、映像やマスを含めた企画について考えていきたいです。
阿部:
私も、最後に述べさせていただきますと、これまで以上にフィジカルを意識したもの、ユーザ自身が体験していけるものを作っていきたいなと思います。また、それができる時代が来ているように感じます。
まとめ
以上、2回にわたりRIAコンソーシアム・ビジネスセミナーXIII~明日のWebデザインへのヒント!~の模様をお届けした。今回のセミナーでは、前編では、各社が、それぞれの事例を用いてWebから展開することの強み、意味について紹介し、その可能性を感じることができた。また、後編のパネルディスカッションでは、Webとリアルという実装例以外に、Webとマスメディアという、さらに大きな枠、また、それを取り巻くビジネス状況の変遷について、各ポジションで活躍する方達の経験をふまえた本音、展望について聞くことができ、今後のWebの可能性を実感できた一日になったのではないだろうか。
今回のセミナーをきっかけに、Webとそれ以外という括りで線引きをしてしまうのではなく、Web、リアル、他メディアなどがうまく連携しあい、RIAを含めて、さらに楽しくおもしろく、ユーザにとって役立つものが生まれてくることに期待したい。
- RIAコンソーシアム・ビジネスセミナーXIII~明日のWebデザインへのヒント!~
- https://www.ria-jp.org/information/20090806.html