Infinity Ventures Summit 2013 Springレポートその2:スマートフォンからタブレットへ?社会を変えていくサービスと事業づくり

前回の2013年春のIVSのレポート、Infinity Ventures Summit 2013 Springレポートその1:パズドラの次のメガアプリは?IT業界と放送業界のキーマンがIVS初参加に続き、IVS2日目のレポートを紹介します。

恒例のスタートアップや新規サービスの晴れ舞台となるピッチの場「Launch Pad」から始まり、今年は話題のメイカームーブメントに関連した のセッションがあり、最後は社会起業家によるセッションで終了しました。

スマホでよりスマートに課題を解決。BtoC課金が今後の流れ?

今年のIVSのLaunch Padは各メディアでも取り上げられ、すでに目を通された人も多いのでないかと思います。筆者が感じたのは例年以上にレベルが高かったということ、具体的に言えば、よりシンプルでより具体的で現実的な問題解決に取り組み、面白さだけでなくその取り組みの中にマネタイズの仕組みも自然と組み込まれていたサービスが多かったという印象を受けました。

IVS 2013 SpringのLaunch Padで1位に輝いたfreee
IVS 2013 SpringのLaunch Padで1位に輝いたfreee

Launch Padで1位に輝いたのは、freeeというクラウドベースの会計サービス。月額980円で使えるサブスクリプションモデルとなっており、誰でも簡単に会計ソフトが使えるというニーズを手軽に満たしています。

freee
http://www.freee.co.jp/

2位に輝いたのは、次にLINEになるのでは?とも噂されているCocoPPaというiPhoneアプリ。iPhoneアプリのアイコン画面を含めて着せ替えできるようにしてしまったサービスで、750万ダウンロードを達成しておりその半分はアメリカのAppStoreで占められており、海外でも順調に着せ替えサービスが日本からの発信で広がっているようです。

CocoPPa
http://cocoppa.com/

この他にスマートフォンでコンサートのチケットを購入したり、そのまま入場できるようにしたtixee⁠。個人が500円から自分の得意なスキルやサービスを提供できるマーケットプレイス、ココナラ⁠。NPOが社会問題を体験するツアーを企画することで、ユーザの社会問題学習を深めNPOへの収益にもつなげるTRAPRO⁠。チケットを売る側だけではなく、入手困難チケットを買いたい側にも着目したチケット売買サービスチケットキャンプ⁠。限りある時間を意識することで有意義な人生を過ごせるように役立てるためのタイマーアプリライフタイマー⁠。スマートフォンのビデオ通話機能を使って、どこでも簡単に月額3000円で対面通訳を実現するタップリンガルといったサービスが注目を集めていました。

IVS Launch Pad 2013 Springの受賞者
IVS Launch Pad 2013 Springの受賞者

この他にも優秀なサービスが発表されましたが、どれも人に役立ち、社会に役立つサービスで、どのような課題を解決したいが非常に明確になっていました。スマートフォンが斬新で面白いものだったステージから、どのようにこれを役立て、社会を変えていくかという取り組みが模索されてきているようになっていると感じました。

日本の製造業と次世代のメイカームーブメントを繋ぐ融合型イノベーションが起きる?

IVS2日目の「デジタルファブリケーションの未来図」と題したセッションでは今話題のメイカーズムーブメントに関連した動きが紹介されました。PCがメインフレームからノートPCへとよりパーソナルなものになってきたように、製造も大型の工場からよりパーソナルな工作機械となって普及していくのではないか、そしてその一例としてインドの村でのFab Lab(ファブラボ)の一例が紹介されていました。

工作機械もコンピュータと同じように、よりパーソナルなものに?
工作機械もコンピュータと同じように、よりパーソナルなものに?

Fab Labとはほぼあらゆるものを創ることを目標とした3Dプリンタやカッティングマシンを備えた施設で、付近の住民が自由に利用できるよう世界中に存在しています。インドの村の事例では、超音波で犬を撃退する装置やWiFiルーターを自作している様子が紹介され、作る人と使う人が近接した今までの量産型製造とは違うスタイルが芽生えてきているといいます。

インドのFab Labで制作されている
インドのFab Labで制作されている

とくに東海岸からこうしたムーブメントが起きているようです。MITを代表とする大学に由来する機械工学の歴史が古くからあり、ハードとソフトの融合が起きやすかったという背景があります。またニューヨークのブルックリン地区では3Dプリンタ関連のプレイヤーが集まり、昔の工場を活用してアーティストとの協業が進んでいます。こうした動きがアメリカからインド、そして今はアフリカへと飛び火しているようです。

日本の製造業でも、こうした取り組みが活かせないかという動きが始まっています。日本の産業に製造業が占める割合はとても高いため、⁠破壊的なイノベーションだけでなく、今ある製造の流れに組み込め自分たちを変えていくことができる融合型イノベーションが産み出されるのではないか?」とセッション中に議論されました。

ITジャーナリストの林信行氏はその一例として、Trinity社のiPhoneケースを紹介しました。この会社はプラスチックでも木や皮のような触り心地を実現したiPhoneケースを販売しています。⁠3Dプリンタで直接こうした最終製品までは作れないが、金型を作るところまで3Dプリンタの技術を活用している」そうです。

木や皮のようは触感を実現したTrinity社のiPhoneケース
木や皮のようは触感を実現したTrinity社のiPhoneケース

日本にしかできないファブリケーション文化、そういった面白い事例が今後続々と出てくるのかもしれません。

すすきのには行かず、深夜まで経営陣で話し込んでいた

「強い経営チームを創る」と題したセッションでは、グリー、サイバーエージェント、ミクシィの経営陣が集まった豪華なセッションとなりました。自然と社長交代が発表されたばかりのミクシィに注目が集まりました。

今月ミクシィ社長に就任予定の朝倉裕介氏はネイキッドテクノロジーで社長を務めており、また同じくCOOに就任予定の川崎裕一氏は創業したKamadoが買収されミクシィ入りしたという経緯があり、買収によって経営陣をうまく取り込んだ事例といえます。

ミクシィ取締役の荻野泰弘氏(中央⁠⁠、ミクシィ執行役員クロスファンクション室長の川崎裕一氏(右)
ミクシィ取締役の荻野泰弘氏(中央)、ミクシィ執行役員クロスファンクション室長の川崎裕一氏(右)

ミクシィ取締役の荻野泰弘氏は、⁠成長はすべてを癒すが、ミクシィの成長は踊り場を迎えていた。成長しているときは何もひずみがおきないが、踊り場を迎えると社内を向き始め、足の引っ張り合いとなる」と社内が内向きになっていたと語ります。そして「外向きに戦える人でトップを構成している。外に向かって戦わないとユーザにも申し訳ないし、社員にも申し訳ない。まだまだ大きくできる」と、今回の経営刷新が攻勢へと転じるためのものと話しました。

会場に集まった多くの他社の経営陣に対しては、⁠トップが本気でやらないと現場もみすかす。スタッフをつめるのではなく、自分たちを変えなくてはいけない」と決意をあらわにしました。

真剣な表情の川崎祐一氏
真剣な表情の川崎祐一氏

こうした荻野氏の話を聞いている間、川崎氏は終始非常に真剣な面持ちでした。その川崎氏は「ミクシィは草食系ととらわれているが、社員がミクシィというサービスが好きなのはあたりまえ。ユーザに満足してもらった対価を意識していく。事業としてはスマートフォンのアプリにいく。すべての人の心地良いつながりを創る。スマートフォンでの大きな成長余地が残されているので、ベタ中なベタをやり抜く」と語り、IVSが開催されている札幌での初日の夜は「すすきのには行かず、深夜まで経営陣で話し込んでいた」と話して会場から笑いを誘いながらも、ミクシィ経営陣の強い想いを会場に伝えていました。

スマホファーストからスマデバファーストに。老眼人口増加でタブレットが来る?

クリエイティビティやメイカームーブメントに関するセッションが設けられましたが最近のIVSでの話題の中心はスマートフォン、さらにその中でもゲームに関することです。日本ではGoogle Playの売上の80%以上がゲーム、韓国にいたっては90%以上をゲームが占めているといいます。

Google Playの収益構成。青色がゲームアプリの占める割合
Google Playの収益構成。青色がゲームアプリの占める割合

ヤフーCOO川邊健太郎市は、ゲーム以外で注目している分野として、医療とECの2つを挙げました。⁠医療・ハードのところをやっていきたい。スマホとの連動性が高くなるのがこの分野。体重計とか無くなる」と話し、ECでは「日本のEC販売比率はチケットを入れても15%。モノだけだとまだ7%。高齢者など買い物が大変だと感じるようになった人に日用品を定期的に販売していくサービスが伸びていくのではないか。ショールーミングも進むだろう」と語りました。

その川邊氏によると、この半年で急速にPCからタブレットへのシフトが起きてきていると言います。⁠ヤフーで1月から数値がすごく変わっているので、IVSでいろいろな人に話しを訊いてみても1月からPCがすごく落ちてタブレットが非常に伸びてきていると言っている」のだそうです。そのためヤフーでは「スマホファーストからスマデバ(スマートデバイス)ファイストに切り替えていると言います。

インタラクティブな絵本アプリで知られるスマートエデュケーション社の代表取締役の池谷大吾氏によると、スマートエデュケーションの売上の70%がタブレットのものであり、スマートフォンの売上を上回っていると言います。ユーザの動き、利用方法がスマートフォンとはまったく異なるようです。

スマートフォンを利用したタクシー呼び出しサービス、ヘイロー・アジアパシフィック社長の藤井清孝氏は「ビル・ゲイツがPCはテレビに吸収されるんじゃないか、と質問されたときに、テレビは受動的でふんぞり返って使うものでPCは前のめりで使うからそうはならないと答えた」というエピソードを紹介し、⁠タブレットは前のめりにも、受け身になるためにも角度を変えることでどちらの使い方もできる」とタブレットが幅広い使い方を可能にしたデバイスであるとの見方を語りました。

ヤフーの川邊氏はタブレット普及の起爆剤は実は「老眼」にあるのではないかと言います。⁠タブレットだとウェブ画面拡大できるのは老眼の人には凄くインパクトがある。まだ老眼の人も増えるし、日本の人口動態でどんどん普及していくのでは?」と話し、⁠最近よく孫さんにヤフーニュースが拡大できないと言ってくる。老眼が進んでいるんじゃないか(笑⁠⁠」と笑いを交えて語りました。スマートフォンとは異なるユーザ層、利用方法がタブレットを中心に広がってきているようです。

社会をより良くする社会起業家たち。社会を変革する次のリーダーを

今回のIVS最後のセッションは社会起業家によるものとなりました。軽井沢に新たにインターナショナルスクールを作ろうとしている小林りん氏、優秀な若者を困難校に教師として派遣するTeach for Japan代表理事の松田悠介氏、そしてエシカルジュエリーを制作し販売するHASUNA代表取締役の白木夏子氏が、それぞれの取組を始めるにいたった経緯を紹介しました。

小林りん氏はユニセフに勤務しフィリピンで貧困層への教育に取り組んでいましたが、現地であまりの格差と汚職を目にし、自分の仕事に無力感を感じたそうです。⁠自分一人の力では世の中を変えられない。それなら変化を生み出す新しいリーダーを育成する学校を創ればいいんじゃないか?」カナダの全寮制の高校に留学していた経験を活かし、多様性があり、リーダシップを育む場としてのインターナショナルスクールを軽井沢に設立しようと動いています。すでに校舎施設の建設も最終段階に入っているようです。

公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団 代表理事の小林りん氏
公益財団法人インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢設立準備財団 代表理事の小林りん氏

松田悠介氏も同じく教育現場に取り組んでいます。学校を創るというアプローチではなく、優秀な若手を学校に派遣しています。Teach for Japanはアメリカで23年前に立ち上がったNPO、 Teach for Americaから派生しています。Teach for Americaはアメリカの大学生の就職希望ランキングの1位となっている大人気のNPO。ハーバードなどの優秀な卒業生が2年間、教師として恵まれていない地域へ派遣されます。その実績をマッキンゼーやゴールドマン・サックスなどの一流企業は高く評価し、採用へと繋がりやすくなることからさらにプログラムへの参加希望者が増えるという好循環がアメリカでは起きているようです。

特定非営利活動法人Teach For Japan代表理事の松田悠介氏
特定非営利活動法人Teach For Japan代表理事の松田悠介氏

このようにして教師を経験することで教室に変革を起こした人たちが、その後、他の場で社会に変革を起こしていくようになり、生徒の援助となるだけではなく優秀な社会変革リーダーの育成にも一役をかっています。日本での取り組みはまだまだ始まったばかりですが、Teach for Americaもこうした恵まれた状況が生まれるまでは10年かかったそうで、松田氏は「どんな家に生まれてもチャンスがある社会を創りたい」と決意をあらわにしました。

Hasnaの白木氏は、⁠宝石の鉱山の採掘では、発展途上国の子供が酷使されていたりする。どこの誰がどういう鉱山で採掘されたものかまったくわからない」という根深い問題があると言います。パキスタンのフンザ渓谷では、このようにして採掘された宝石が中国やアフガニスタンからきたバイヤーに買い叩かれ、村は貧困状態のままだったといいます。この問題を解決しようと現地のNPOが取り組みはじめ、今では現地で地元の女性が宝石を研磨しており、その宝石を使ってジェエリーを制作しHASNAで販売しています。女性の就労機会がまだまだ限られている地域において貴重な仕事の場ともなっているようです。

こうした社会的に意義あることを立ち上げようとする中で、松田氏は「経営者と苦しんでいることで共通していることも多い」と話し、IVSに参加することで得られたことが多かったようです。一方で民間とは異なり、まだまだスタッフの給与面では差があるのがNPOの現実。⁠民間でもスタッフに想いを伝えていくことを意識していると思うが、より重きを置いている」と想いに対する重要性を語ります。一方で、⁠NPOでも価値を生み出しているのであれば、民間と同じ給与を貰えるようになってもいい。想いだけでは持続性がない。想いを持っている人たちをいかに留めておけるか。生活の面でも持続的な組織づくりを逃げずにしっかりと向き合って実現していきたい」と、想いだけに頼らずに現実に向き合っていきたいと話しました。

このような三者三様の社会への取り組みに関する話を聴いて、心を新たにした経営者、IVS参加者の人も多かったようです。

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