1月25日、東京電機大学の東京千住キャンパスにて、HTML5 Conference が開催されました。本稿では、慶應義塾大学 環境情報学部長・教授 村井純 氏、Googleの及川卓也 氏、html5j代表の吉川徹 氏の基調講演が行われたオープニングセッションの模様をレポートします。
まず最初に、この基調講演がHTML5 Conferenceのオープニングセッションだったこともあり、会場担当の東京電機大学 未来科学部情報メディア学科 准教授 岩井将行 氏がこの後に登壇する村井氏との関わり、会場やその周辺の楽しみ方などを簡単に紹介しました。
その後、村井氏、及川氏、吉川氏がそれぞれ発表しました。
村井純氏「WEB AND THINGS」
松葉杖をついて登場した村井 氏。昨年の基調講演 で話した時には熱気に圧倒されたのを覚えていて、今日を楽しみにしていたそうです。
After Internetである“Web is Everywhere”
今回のイベントのテーマは“ Web is Everywhere” であり、Things(モノ)とWebというのが話題になると思っているとのこと。ちなみにCiscoは“ Internet of Everything” という言葉を使っています。
例えば、IoTなどの用途に利用できる開発ボードEdison がIntelから発売されました。このようなことも踏まえ、After Internetというか、高速インターネットがどこでもつながり、なんでも交換できるとすると、どんな社会ができるのかを考えないといけない時代だと言います。
そんな社会の一例として、村井氏自身が松葉杖をつくことになった出来事を紹介しました。
「先日、PTC'15 にて発表するためアメリカに行った時に、足の指を折ってしまいました。しかし、すぐに帰国する必要があったため、手術したくてもできない状況でした。そこで、ホテルの診療所で撮ったレントゲンのデータをもらい、大きなファイルサイズでしたが、すぐ日本に整形外科にメールで送りました。その結果、手術しないと直らないから準備しておくと診断医に言われ、国内に戻ってすぐ手術を受けることができました。フレッシュな状態でなかったり、アメリカで準備なく手術していれば、指を切って全身麻酔を使ってつなぐ必要があったかもしれず、もしそうなっていたらこの場に立つことはできなかった」( 村井氏)
この話を、数日前に開催されたIT総合戦略本部 でも紹介したとのこと。その際、村井氏は「こういうことが世界で自由にできるのが、デジタルデータが共通のグローバル基盤。今は地方創生とか言っても縦割りな物事が多い中で、横につなぐのが我々の使命だ」と話したそうです。
Internet of Thingsという言葉のもともとの由来
次に、Internet of Thingsという言葉のもともとの由来について紹介しました。
Wikipedia には、Internet of Thingsという言葉はKevin Ashtonが最初に使ったと言及されています。村井氏は当時のことを次のように話しました。
「W3Cの運営をMITと慶應義塾大学(Keio)でホストしていた経験をもとに、当時、KevinはMITで、私はKeioでそれぞれAuto-ID Labを作り、一緒に活動していました。そしてその時にinternet of thingsと最初に言ったのはKevinです。しかし、この時のコンセプトは、モノにRFIDをつけてWebのデータベース上でトラッキングできることを指していました。物流のネットワークなどでは製造者、小売り、顧客をそれぞれつなぐネットワークが全部異なります。その際、モノに対してユニークな識別子であるRFIDをつけることで、どれでもトラッキングできるという意味で、internet of thingsと言及しました。なお、ここでのinternetとはネットワークが相互接続しているという意味なので、小文字にしています」( 村井氏)
この話、internetworking of thingsは、センサネットワークをプロプライエタリ・プロトコルなZigBeeでつないでおき、ゲートウェイをTCP/IPにつなぐような形になります。つまり、ここで“ A gateway to the Internet” となり、キャピタライズされて大文字のthe Internetになると説明しました。
そして先に触れたEdisonを再度取り上げ、EdisonはフルスペックのCPU、Bluetoothなどが入っていて、Intelのアーキテクチャが動くことに言及。つまり、イーサネットのプロトコルが動いて、TCP/IPが利用できます。そうなってくると、「 Everything speaks HTML-HTTP/TCP/IP」になると述べました。インターネットによってモノがつながるようになり、すべてのモノが(サーバになりうるため)インターネットの主人公です。つまり、双方向のコミュニケーションできるようになってきます。それができるようになるのが今のInternet of Thingsだと指摘しました。これはKevinの言ったinternt of thingsとは全く違う話だと述べました。
ネットワークがつながる時代に起こりうること
以降、村井氏は、これからの社会についての考察や、最近行っていることを話しました。
TVの双方向性
村井氏自身も見てみたら夢中になってしまったという、2013年のエミー賞をとったTVドラマ『HOUSE of CARDS 』 。この番組では、Netflixが視聴者のデータをビックデータ分析しつつ製作が行われました。例えば、「 視聴者がどこで止めたか」とか「何話で飽きた」といったデータをとったり、また、舞台や役者、シナリオに関するアンケートをとりました。それらをもとに番組を作った結果、エミー賞を受賞してしまったとのこと。テレビは一方向のメディアですが、ここでは視聴者と双方向性が出ています。それにより、視聴者が何を考えているかをNetflixが読めるようになると話します。
最近NetflixはPS3/PS4やAmazon Fire TV、Apple TVなどの裏側にいますが、その表側にいるAppleやGoogleなどはもっとデータをとれます。さらに、テレビ受像機などのセンサーであればよりデータをとれるはずだと話を広げ、ユーザに近づいたほうが多くのデータをとれるはずだと指摘しました。それにより、その時間にどのチャンネルを見ているのか、いつチャンネルを変えたのか、途中で見なくなったのか、といったトラッキングが行え、人間に近づいたデータをとれるようになると言います。また、いろいろな理由でTVにはカメラがついていませんが、もしTVにカメラがついてその正面のデータをとれるようになれば、ものすごい量のデータをとれること。ほかにも、家電ともつながってくることを取り上げました。
たくさんの人のデータが分かるようになると、必ずマーケティングが行われます。それに向かって、政府は今後の個人情報保護法を変えたりしているところだと言います。そのためには何を予想してるかを正確にする必要があるとし、村井氏は「何でも起こるようにしたいけれども、いずれにせよ、そういったことを分析して、新しいイノベーションを作ろうとする考え方は貴重だ」と述べました。そして『HOUSE of CARDS』は、新たなセンサーが取得した新しい情報を無限に使い、まったく新しいテレビ番組を行うことの走りみたないものだとまとめました。
新しいネットワークとのつながり
Internet of ThingsのTはモノですが、Vint CerfがJPLとNASAと行ったのがInterplanetary Internet (惑星間インターネット)です。これはInternet of Planetsと言えます。また、Vint CerfはTEDの講演で、Internet of Species という、動物の脳とビヘイビアをネットワーク化するようなものを話しています。後者は冗談を話しているように思うかもしれないけれどもと言及し、「 いずれにしても、なんでもつながることを前提に考えたほうが良い」と述べました。
デジタルファブリケーション
デジタルファブリケーションを行うために、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)では図書館に工作機器があります。脳を研究している研究室では、自分の脳を3Dプリントして1時間目の授業をしているそうです。隣の人の脳を見て「あなたの脳、小さいわね」という話をしながら、脳について勉強しているとのこと。
また、学生が3Dプリンタで作った3つの字が同時に書けるというすばらしい作品 を取り上げました。この作品を公開しているThingiverseは3Dプリント用のデータを共有するためのサイトなので、このデータを簡単にダウンロードできます。ダウンロードデータには作り方の解説した動画なども一緒に同報できます。これにより、誰でも複製が世界中で作れます。その結果、モノのソーシャルネットワーク、他の国でもすぐ作ってみる人が出てきます。この作品で言えば、3つの字が書けるように設計されているものを、5つ書けるように拡張にした作品が作られ、それをプレゼントしてもらったとのことです。応用した例として、防災用のバケツが足りないといった場合に、バケツを作ることもできると話しました。
もしスキャンしたイメージを世界中で自由に複製できるようになれば、物流はなくなり、税関はなくなり、税金も変わってくるとし、もしそうなればソーシャルインパクトがかなり高いと話を広げました。また、モノをつくりだすものがネットワーク上のデバイスになるとインパクトが大きいとし、その一例としてGoogle クラウド プリント を紹介しました。
ただ、モノを誰でも作れるようになった時に、Quality Control(品質管理) 、Intellectual Property(知的財産) 、Product Liability(製造物責任)の問題も重要だと話します(Product Liabilityとは「わたしがデザインしたもの。別の人のところでプリントしたら傷ついてしまった。これは誰の責任なのか?」というものです) 。頭文字をとってQIPと呼びますが、このQIPを社会的にどのように作っていくかも考えていく必要があります。それを解決して、村井氏は「日本中のコンビニに3Dプリンタがあるみたいなことをいまイメージしています。そういうことができないといけない」と述べました。
実際に、3Dプリンタで印刷したものに信用を与えられるのでしょうか? その答えを探るための事例として、最初にKevin Ashtonがすべての衣服にRFIDをつけると発表した翌日に新聞に出された意見広告を紹介しました。その広告は“ I'd rather go naked.” (そんな服を着るなら裸になったほうが良い)という意見が書かれたもので、プライバシーを主張する団体から発信されたものでした。つまり、RFIDでトラッキングできるということはプライバシーを脅かすため、この技術は発展してはいけないという意見です。また、村井氏たちはRFIDを3Dプリンタの中に入れて、それを埋め込んで印刷できるプリンタを作りました。このプリンタをネットワーク越しに使えば、個体の識別子が印刷したものにできます。それをスキャンすることでQuality Controlができるだろうと考えているそうです。村井氏は「ID、個体の識別子はすごく大事ということを覚えておいてください」と述べました。
現在の日本の状況
経済産業省の産業構造審議会で、IoTで社会創生をするという新しい会議を始めた時の資料をいくつか示しました。
次の図は、GEが作成しているグローバル・イノベーション・バロメーターという報告書で取り上げられているグラフです。これは、世界の中でイノベーションにデータを活用していると回答とした企業の割合を示しています。
村井氏はこの資料が怖いと言います。この図のx軸は国名で、y軸は同意度を示しているのですが、25ヶ国の平均がx軸で赤線が引かれている部分なのに対して、日本は右端の最下位です。そればかりか、全く同意しないという経営者も多いということです。そこで、「 明日出勤した時にトップのところに行って、当社は大丈夫なのかと、かけあってみてください」と述べました。
また次の図を取り上げ、IT技術者の数は日本は少ないこと。そして、IT技術者はユーザー企業やITサービス企業にいますが、アメリカの場合にはユーザー企業に多く在籍しているのに対して、日本はITサービス企業にいることを示しました。
村井氏は、ITサービス企業に勤めている人がユーザー企業に引っ越すと、日本は良くなるだろうと話しました。
グリッドコンピューティング
昔、PS3がグリッドコンピューティングでギネスをとった時のスライドを紹介し、これは夢があると話します。世界中のPSががつながって、並列処理でAIを動かしています。これは同じアーキテクチャだからできたことですが、これと同じことをWebでできないのだろうか?と参加者に呼びかけました。村井氏は「Webのアーキテクチャで、世界中集めてグリッドコンピューティングができると、現実は実は変わります。それもぜひ考えほしい」と述べました。
セキュリティは人間が握っている
授業で、IoTはこれだ!という次のスライドを作った時の失敗談を紹介しました。
この鉄人は頼もしいけど、「 良いも悪いもリモコン次第」という歌にある通り、セキュリティもきちんとしてIoTの世界を作ろうというメッセージを投げましたが、全然通じなかったとのこと。リモコンは人間が持っているんだから人間が大事だと、つなげたかったそうです。
AI
AI、自律ロボットについても簡単に触れました。データと人間とIoTとThings、もしかしたらAI。その上で作るのがこれからのインターネットだと考えているそうです。AIのブームはまだまだ続くとし、「 シンギュラリティが起こってAIに乗っ取られるのがSF映画ですが、やはりまだヒューマンセントリックである」と述べました。
まとめ
最後に村井氏は、WebとThingsはオープンプラットフォーム、オープンスタンダードあるとし、「 インターネットはHTMLとHTTP/TCPでつながって、すべてが参加できる時代。データフォーマット、名前、API、そして並列処理をできる環境に、ブラウザのプラットフォームになるのか。それが先ほどのAIに対する答えになるのではないか」と述べました。また、そういう技術について若い皆さんに議論してほしいこと、政府もIoTを研究しているし総務省もシンギュラリティの研究を始めているので今年は面白い年になるだろうと話しました。
次のイラストは、和波里翠さんによる村井氏の話のファシリテーション・グラフィックです。
及川卓也氏「Web技術の今後の展望」
続いて、Googleの及川 氏による発表です。及川氏はChromeの開発チームでBlink というレンダリングエンジンを作っているチームのまとめ役をしています。HTML5 Conferenceの基調講演には最初から毎年登壇していて、毎年同じような振り返りとこれからをテーマで話しています。そのためタイトルをつけるのも難しくきたので、今年は汎用的なタイトルにしたのとのこと。また、本イベントはスタッフの中でコスプレをする雰囲気があり、今年はスーツ&ネクタイのコスプレで会場に来たが誰にも指摘してもらえなかったと、笑いを誘っていました。
昨年のITトレンド
まずは、昨年のITトレンドを振り返りました。
IoT関連
今回イベント会場でも展示しているロボットとか、Edisonなどのシングルボードコンピューティングではあけれども最初からWiFiやBluetoothがついていて通信することが当たり前になっているデバイス、ウェアラブルデバイス、マルチコプターといったものが出てきています。つまり、以前から言われていましたが、IoTというものがITトレンド的にいっきに大きくなってきた年だったと言及しました。
検索数を一つの尺度として考え、Googleトレンドで「IoT」( 図中、青線)「 Internet of Things」( 赤線)を調べたのが次の図です。これを見ると、一昨年から昨年にかけて、大きく伸びてきていることが分かります。IT業界だけではなく一般的にも注目されつつあると考えていると話しました。
クラウド、コンテナ技術
クラウドといわれているものは昨年、低価格化が進みました。国内でもデータセンターが普及したり、Dockerなどのパッケージ/コンテナ技術を使って他のサービスに簡単に移ったりできるようになりました。またBaaSを利用することで、iOSやAndroidのモバイルアプリを作るときに、バスケット(カート)に必要になるものをプログラミングする必要がなくなります。いわゆる、インターネットをつながった形でのデバイスやアプリケーションがすぐにできるようになってきているという背景があります。また、OpenStackをはじめとしたオープンの技術もあります。こういったものがクラウドの本格的な普及を後押している現状があると述べました。
HTML5関連
さて、HTML5はどうでしょうか。昨年秋に、HTML5が標準としての勧告 になりました。ただ、ブラウザの実装者にとっては、はずみがつくような出来事ではないと言います。現実社会でもスタンダードになる前に使えるものは使われるように、ブラウザにおいても勧告前に追加されていて、すでに多くの人に使われている技術もあります。そして、宣言といった形で勧告があると説明しました。
例えば、昨年Chrome(Blink)の中に入った機能の一部として、Shadow DOM 、Costum Elements 、HTML Imports などのWeb Componentsと言われるWebをコンポーネント化して使うような技術や、デバイス連携の仕様などがすでに入ってきていると紹介しました。必要なものが充実してきていることが分かると話しました。
そして、Webをアプリケーションとして使うことを考えた場合に日本では、ブラウザしか動かず、ウェブアプリケーションしか動作しないChromebook が日本語キーボード付きで各社から発売されていること。またKDDIからは、Firefox OSが搭載されたスマートフォンFx0 も提供されていることを言及しました。
Webのモデルの変化
このようなITトレンドと言われているものを背景として、今年、それ以降、Webがどう変わっていくか、その考えを紹介しました。
自由度が上がり、複雑化したWeb
もともとWebは、HTML、CSS、JavaScriptなどをHTTPサーバ上に保存しておき、HTTPクアントからHTTPリクエストがあったときにHTTPレスポンス、つまりダウンロードされて、クライアントブラウザ(UA)で実行するという極めてシンプルなモデルでした。このような世界の時、キーボードやマウス、ゲームパッド、MIDI機器などの外部デイバスとの連携はクライアントサイドに接続されるだけという非常にシンプルなモデルだったと話します。
しかしIoTといったデバイスが出てきたことにより、Bluetoothでクライアント側で集約されたり、WiFiでインターネットのクラウドのサーバにつながったり、という連携できるようにもなりました。家庭内であれば、テレビやHDDレコーダーを赤外線を通してリモコン操作することや、Webから赤外線を触ること、そしてインターネットへの接続口を持っている消費者向け電気製品をWeb経由でコントロールすることも考えられます。
いくつもの選択肢がある状況において、例えば、認証や、クラウド経由のレイテンシ担保を考えると、大きなアーキテクチャをデザインする必要が出てきたと言及。つまり、いまのWebは自由度が上がった反面、全体の接続を考えたときの設定が非常に複雑になり、難しくなっていると説明しました。
このことは、双方向の非同期通信用のWebSocket が多くのブラウザに実装された時から出てきたと言います、WebSocketを通して独自のバイナリデータをやり取りするクライアントサーバを紐解いて何かを行う時、はたしてこれはWebなんだろうかという視点は結構哲学的なことで、Webは何ぞやという世界に入り込んでしまうと補足しました。プロトコルについても、HTTP/2 などのプロトコルが出てきているなか、自由度が広がっているという状況だと話しました。
Service WorkerによるWebクライアントの変化
また、最近はHTTPサーバはマッシュアップといような形で、他のサービスと連携しています。具体的には、JavaScriptなどを使っていくつものWebサービスを叩いています。単純な例を挙げると、Google Mapsが埋め込まれているサイトはGoogleのURLを叩いています。モデルとしては、ホストしている最初のHTTPサーバから他のサーバにつながっている形です。もしくは、一つのWebサーバの中でPHPやJavaなどで、他のサービスを取り込んでいるモデルになります。
こういった状況だったわけですが、Chromeの中に昨年末に正式に入ったService Workerという、一種のオフラインを賢しくした、ブラウザの中にインテリジェンシーの高いWebプロキシが入りました(Service Workerについては、及川氏自身がHTML5とか勉強会 での説明していたり、HTML5 Rocks で解説記事が読めたりできます) 。JavaScriptファイルをService Workerとしてブラウザに取り込むことで、バックグランドで自動で実行したり、独自にWebサーバからFetchしてリソースを取り込めるようになりました。
及川氏は、いままでWebサーバからGoogle Mapsを呼び出すといった、一つのオリジンの中で動いていたものが、Service Workerが動く世界では、Webクライアントであるブラウザ側で複数のFetchをかけて、ブラウザでそのロジックを組み立てて動作させるというようなモデルが実現されつつあると指摘しました。
そして、これは非常に自由度が高いものであり、おそらくいままでのWebのアーキテクチャとか、仕組みとか言われているものを大きく変えていく可能性を持っている技術だと話しました。
Web技術の汎用化
これらのWeb技術のもう一つの側面である利用分野について、次の図を示して説明しました。
一つは、従来からのWeb技術であるフロントエンド技術(図の赤い丸円)です。モバイルやタブレットの登場とともにUXの面で、Webが汎用化技術に変わっていくことになりましたが、いずれにしろWebサーバがあり、それに対する技術でした。もう一つが、Webサーバと関係のない、純粋にプログラマがアプリケーションを作るための技術(青い丸円)です。生産性の高さや簡単さを期待し、この分野でWeb技術が使われることが非常に増えてきていると言います。
つまり、Web技術とは呼んでいますが、従来からの歴史的な背景にみえるWebとはもう関係ない分野、例えばシングルボードコンピューティングの世界や、組込み系で汎用的にHTML/CSS/JavaScriptを使うという利用形態が増えてきています。結果、プログラマ人口が増え、それに伴い開発系のツールも増えていくため、このような大きな流れ非常に良いことだと話しました。
汎用化がもたらす視点
一方、もともとフロントエンドでのみを考えていたのものを、汎用化したアプリケーションに適用しようとした時に矛盾するような要求も出てくると言います。例えば、組込み系の機器を考えた場合、作られたもののバイナリサイズやメモリ使用量、バッテリの消費量などを見る必要性が出てきます。これらはモバイルの世界でも考えられるようになってきていましたが、より集中的に考えなければいけない領域が増えてきたと指摘しました。
また、HTML/CSS/JavaScript、そしてDOMはもともと、どのように文章をどのように書き、文章をどのように表示するところから始まっているため、もし汎用化された場合に技術として本当にこの流れで大丈夫なのだろうか、足りるのかという議論が進められていると言います。例えば、ウェアラブルコンピューティングの時計であるAndroid Wear は丸い形状です。そこに、矩形の形がベースになっているDOMのようなモデルはどれだけ合うのか、ということだと説明しました。DOMのなかでCanvas を宣言して好き勝手にレンダリングすれば良いのではないかと思うかもしれませんが、標準のほうではCanavsで自由勝手に、例えばエディタを作ることは止めてくれ、といった話があることを挙げました。DOMのイベントベースの部分でも、すべてのJSがどこまで有効だろうか、といった話があるそうです。
そのため及川氏は、汎用化を訴求していく時に一種矛盾するような要件があるなかで、標準化や実装がどのように進むのかが一つ鍵になってくのではないか、と話しました。
実際のサイトの現状
ブラウザががんばったとしても、Webサイト自体が良くならない限り、良いユーザー体験を提供できません。いくつかの例を示しながら、日本のサイトの現状を紹介しました。
モバイル対応
日本の自治体1,742市町村をリストにして、スマートフォン対応しているかを確認してみたそうです(スマートフォンで全サイトにアクセスするのは大変なのでviewportを使っているかどうかでだいたい判断したため、間違っている可能性があるかもとのこと) 。その結果、茨城が非常に高くて6割くらいスマートフォン対応していましたが、まだ10%以下のところも非常多いと図で示しました。
また、47都道府県とアメリカの50州のスマートフォン対応も比較してみたところ、日本は38%、アメリカは75%だったと言及しました。アメリカのほうが対応度が高いけれども微妙なサイトも多かったので脅威に感じる必要はないが、多くの人がスマートフォンでWebを見る始めているなかで、この対応の遅れはあまり良くないと話しました。なお、企業サイトで見てもあまり変わらないそうです。
及川氏は、「 技術はすでにできているので、それをサイト、特に既存のサイトから使っていくようにしないといけない」と述べました。
Webパフォーマンス
今日は話さなかったがパフォーマンスは大事だとし、Googleが提供しているPageSpeed Insights を紹介しました。このサービスを使うことで、Webページのパフォーマンススコアと改善点を出してくれます。
PageSpead Insightsを使って日本とアメリカの代表的な株価指数、日経225とS&P500に含まれる企業の公式サイトを比較してみたところ、日本は55点、アメリカは67点と、やや日本のほうが少し弱い結果になったとのこと。企業の公式サイトは普通のコンシューマが訪れないため、多少新しい技術には遅れがちになるが、パフォーマンスやスマートフォン対応などは即座にユーザー体験に直結するものだと話しました。また、パフォーマンスはサイズに比例するため、いろいろなものを圧縮(minify)するだけで、すぐに良くなると説明しました。
及川氏は、「 ブラウザと言われているもの、Web技術が自身が新しくなり、使いやすくなってくるのと同時に、いままで持っているサイト、今後作るサイトのユーザー体験を上げることを、一緒に努力することが必要なのではないか。一言で言うと、がんばれニッポンというかたちにしたい」と述べました。
まとめ
最後に及川氏は、「 IoTなどの新技術を考えると、自由度は高まるけれども一方で複雑化する面もあり、いろいろなことを考えていく必要がある」「 例えばJavaScriptもECMAScript 6になってクラスが入ったりして大きく変わってくる。こういったことから汎用のソフトウェア開発技術としての進展もあるだろう」「 ブラウザ自体に新技術が入ったりパフォーマンスを上がったりしても、それだけでは救えないこともある。がんばれニッポンと言及したけど、日本に限らず、既存のWebサイトの底上げができると良い」と、まとめました。
次のイラストは、和波里翠さんによる及川氏の話のファシリテーション・グラフィックです。
吉川徹氏「カンファレスとコミュニティにまつわるお話」
吉川 氏からは、本カンファレンスとコミュニティについての発表がありました。
アクティビティ
はじめに、html5j の活動のうち、昨年の主なものを紹介しました。
HTML5 Conference
そして、忘れてはいけないのものとして、HTML5 Conference を挙げました。今回もたくさんの応募があり、前回と同じ10日で1,200名が埋まり、500名のキャンセル待ちという、嬉しい悲鳴を上げている状況だと話しました。
今年のテーマを“ Web is Everywhere” とした理由については、「 HTML5は十分普及して、もう普通に使えるものになってきたと言える。ではHTML5はこれからどうなっていくのかと考えると、HTML5はあくまで手段で、ツール。いろいろな分野、デバイスと結びいた時に、Webがこれからも変化を起こしてくことから設定した」と話しました。
また、今回はコミュニティを主役にしようと目指したそうです。各html5j部活動 などと一緒に、実行委員会を立ち上げてセッションや展示ブースを企画したとのこと。
ちなみに、html5j部活動は全19団体あります。昨年からあるものもありますが、新しくできたものとして、電子出版部 、グラフィックス部、昨日できたロボット部を挙げていました。
最後に、吉川氏は「コミュニティの雰囲気を感じつつ、今日のカンファレンスを楽しんでほしい」と結びました。