を実現したとのこと。まさにテクノロジー(科学)が魔術になっているというわけです。
また、ただテクノロジーが進化しただけではなく、これらを実現することは、ユーザにとってより使いやすいサービスになっていることでもあり、テクノロジーの進化がメルカリというサービスの価値をさらに高めているとしました。
“もっと出品しやすく”“もっと売れやすく”“もっと見つけやすく”するために、さらにテクノロジーをEvolution(進化)させるために、メルカリはテックカンパニーを目指していくことを、改めて強調しました。
とくに印象的だったのが、濱田氏がテックカンパニーであることの条件として“テクノロジーで世の中を変える”ということに加えて、“開発者たちにも使われるテクノロジーを生み出す”ことを取り上げていた点です。
そのために、これからは“人材への投資”“スケールする開発組織”“研究開発”に一層取り組み、「テックカンパニーとして世界を目指し、テクノロジーで世界をEvolutionさせます」とコメントし、最初のパートを締め括りました。
チームから組織へ、スケールするための組織戦略
濱田氏のオープニングトークに続き、今回もまたリレー形式によるキーノートがスタートしました。今回のキーノートは、株式会社メルカリ、Mercari US、株式会社メルペイ各社のCTOが登壇する、豪華な顔ぶれとなりました。
トップバッターは株式会社メルカリ執行役員CTO名村卓氏。昨年に続き、唯一の2年連続のキーノート登壇となりました。
名村氏のトークの中心テーマは“エンジニア組織の変化”。この1年で、メルカリに在籍するエンジニアは約3倍の350名までに増え(昨年は約120名)、この変化を「チームから組織になった」と名村氏は表現しました。
名村氏は、規模が大きくなることでさまざまなメリットが増える一方で、
といった課題が顕在化する危険性があることを指摘。この課題を克服するために、メルカリの組織が目指しているのが、“開発思想のダイバーシティ”です。具体的には、
- 多様な能力の活用(属人性にのみ頼らない)
- 想像力のある技術力を身に付ける
- 優秀な人材が育つ環境の組織づくり
の実現だと言います。
そして、それらの具体的な2つの戦略として、“スケールするための組織戦略”“スケールするための技術戦略”を採用しているとのこと。
スケールするための組織戦略として、これまではプロダクトごとにチームを作り、プロダクトマネージャを中心とした構成だったものを、EM(Engineering Manager)というポジションを新たに準備し、技術を見るTech LeadやPMとは別の、採用、育成、配属、組織開発を主業務に行えるようにしたそうです。
また、スケールするための技術戦略として、これまでも取り組んできた、プロダクト全体の“マイクロサービス化”を一層、強めると言いました。マイクロサービス化のメリットは、技術的に細分化することで開発スピードやメンテナンス性が向上するだけではなく、決断の範囲が小さくなることで、さまざまな場所で決断するシーンが増え、結果として、各プロダクトのオーナーシップの分散、エンジニアの決裁領域の増加につながるとしました。
そして、こうした取り組みにより「外的要因をふくめたさまざまな変化に対して“耐性”を持つシステムが実現できる」(名村氏)と、メルカリが今、採用する組織戦略・技術戦略の狙いと目的を説明しました。
最後に「テックカンパニーは進化する組織でなくてはなりません」と、組織の観点からMTC2018のテーマである“Evolution”につなげ、次のスピーカへバトンを渡しました。
機械学習という関数が生み出すもの
次に登場したのは、Mercari USのCTO、Mok Oh氏。名村氏のトークが、組織の観点から技術に迫ったのに対し、Oh氏のトークは、技術領域の、さらにコアの部分について、まるで大学講義のような内容で専門性の高いトークが繰り広げられました。
Oh氏のトークの中心はMercari USが取り組む“機械学習”について。Oh氏は“データと機械学習という関数で生み出されるもの”(Data×fML)という切り口で、今現在のMercari USの開発状況や、実際のデータ分析について解説を進めていきました。
メルカリでは、出品物間の相関であったり、ユーザ同士の相関、似たユーザの抽出を、機械学習をもとに予測しています。この“予測”という、インターネットエコノミーの分野において重要項目の1つについて「予測とは質問することである」とOh氏は定義しました。さらに、質問するための要素として、ビッグデータの活用、データサイエンスによる分析を行うわけです。
トークの最中、売れやすさと時間の相関関係やキャンセルの予測に関して、実際のMercari USのデータとともに説明し、さらに売りやすさを上げるためのアドバイスをメルカリから提案しているといった事例が紹介されました。
最後に改めて、Data×fMLの重要性と、メルカリではその技術を使って文化を醸成し、発見と交換を実現し続けていると強調し、締め括りました。
NEXT Mercari~Merpay&Mercari X
キーノートの最後は、2017年11月に設立されたばかりの株式会社メルペイ取締役CTOの曾川景介氏が登壇しました。メルペイは、メルカリの金融部門として
- 信用を創造してなめらかな社会を創る
- 新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る
をミッションに設立した子会社で、曾川氏は「お金がなくても使えるメルカリを作りたい」と、より具体的な目標を掲げ、トークをスタートしました。
曾川氏のトークで、何度も登場したのが“信用”という言葉。メルカリ経済圏において、信用≒貨幣として流通する一方で、「信用はとても抽象度の高い言葉」であるとし、どのように信用を創造するかがメルペイに求められていることと説明しました。現在、具体的な実現方法として、取引データを元にしたスコアリングの作成を挙げました。
曾川氏はもう1つのキーワードとして“価値交換”を取り上げました。二者間での価値の交換は困難な問題だとしながらも、「(前述の)“信用”と“価値交換”は非常に密接な関係にあり、それらを具現化するテクノロジーの1つとして、ブロックチェーンがあります」と、“信用”“価値交換”の解として、メルペイでは今、ブロックチェーンに取り組んでいるとのこと。
それが、現在、メルカリ内でのクローズドなプロジェクトとして取り組まれている「Mercari X」です。Mercari Xは同社内でのコンセプトモデルのため、ユーザ向けに公開されてはいませんが、信用創造、価値交換のためのプロトコルとして、開発が進められており、将来の実サービスに反映していきたいそうです。
Mercari Xとともに、もう1つこれからのプロダクトとしてメルペイが取り組む次世代決済インフラMerpayについても触れました。まだ具体的に公開できるものはないとしながらも、「少しでも早く皆さんに紹介できるよう開発を進めていきます」と、開発者サイドからのNEXTメルカリへの期待感を込めたコメントで、キーノートを終えました。
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以上、MTC2018からオープニングおよびキーノートの内容をご紹介しました。2017年のテーマである“NEXT”、そのテーマを受ける形で今回設定された“Evolution”というテーマ。わずか1年ながらも、サービスとしてのメルカリ、企業としてのメルカリの進化の裏側を垣間見ることができました。
登場した4名のトークを聞く中で共通して筆者が感じたのが“テクノロジーの重要性”、そして、“テクノロジーは人のために使うもの”というブレない理念です。ここで言う人とは、メルカリユーザでもあり、また、メルカリを開発するエンジニア、さらに、その関連テクノロジーに触れるすべての人を指します。
だからこそ、冒頭の濱田氏が述べていたように、メルカリはテックカンパニーを標榜し、目指し続けているのではないかと感じました。
最後に紹介されたMercar Xをはじめ、この先、既存のサービスの改善をはじめ、メルカリから生み出されるテクノロジーやプロダクト、文化に期待しましょう。
なお、キーノート後に、メルカリCTO名村氏、執行役員VP of Engineering是澤太志氏に別途インタビューする機会を得ました。その模様は後日お届けします。