Ubuntu 10.04 Lucid Lynxもリリースされ、この連休からUbuntuを使い始めるという読者の方々も多いのではないでしょうか。
今週のRecipeはゴールデンウィーク特別編として、これからUbuntuに触れる人向けに筆者が思ったことを綴ってみました。ぜひインストールの合間などに読んで、Ubuntuについて思いを巡らせてみてください。
なぜ今、Ubuntuなのか
2004年に生まれたUbuntuは、わずか数年でもっとも人気のあるLinuxディストリビューションに成長しました。Linuxディストリビューションは数多くありますが、なぜ今、Ubuntuなのでしょうか? UbuntuはLinuxカーネルを中心としたフリーソフトウェア[1]の集合体で、FirefoxやOpenOffice.orgなど、搭載されているソフトウェアそれぞれは他のLinuxディストリビューションとほとんど同一で、本質的な性能差というものはほとんどないはずです。
過去のLinuxディストリビューションは、開発者にとってはあまり本質的ではありませんが、エンドユーザにとって大事な箇所を少し見過ごしてきたきらいがあります。しかしUbuntuは、見過ごされがちだった「使いやすさ」や「見た目」という部分に対してきちんと向かい合い「使いやすいデスクトップOS」という答えを出しました。これは例えばLive CDから起動するグラフィカルなインストーラであったり、プロプライエタリ[2]なドライバをワンクリックでインストールできる仕組みであったりです。単なるLinuxディストリビューションではなく「使いやすいデスクトップOS」であることが、UbuntuがWindowsの代替として選択され得た大きな理由でしょう。現在ではUbuntuの登場により、他のLinuxディストリビューションも「使いやすさ」を目標に掲げ、そしてUbuntuと遜色ないレベルに仕上がってきています。これはUbuntuが使いやすさという目標を実現したことで、Linuxディストリビューション全体が良い方向に進んだとも言えるでしょう。
そんな「人にやさしいLinux」を最初に掲げたUbuntuを、是非一度体験してみてください。
UbuntuはWindowsではない
大前提として、UbuntuはUbuntuであり、Windowsとは全くの別物だということを忘れないでください。UbuntuではWebの閲覧やメールはもちろん、ビデオや音楽を楽しんだり、OpenOffice.orgでMS Officeの文書を開くことも可能です。このようにWindowsと同じような操作感でだいたい同じような結果が得られるため忘れがちですが、Windowsとの違いを意識しておくのはとても大切なことです。
UbuntuにはUbuntuのスタイルというものがあり、そこにWindowsのスタイルを無理矢理適用しようとするのは、多くの場合満足のいく結果にはなりません。
ソフトウェアの管理
Windowsでソフトウェアをインストールしようとする場合は、Googleなどで検索して配布元を探し、バイナリをダウンロードして自分で展開することが多いでしょう。しかしUbuntuでは、ソフトウェアはパッケージとしてUbuntuのリポジトリから配布されており、パッケージ管理ツールを使って導入する必要があります。UbuntuではFirefoxのようなアプリケーションも「Ubuntuの一部」であり、他のソフトウェアやライブラリ、ひいてはOS全体と協調して動くよう設計されていますので、そこにWindowsの手順を適用してしまうと、OS全体の協調関係を壊してしまう可能性も否定できません。
デバイスドライバの扱い
また、デバイスを追加した時、Windowsではデバイスドライバを開発元からダウンロードしてインストーラから導入するのが基本ですが、Ubuntuではフリーなドライバはカーネルが元々持っていますし、プロプライエタリなドライバであればやはりリポジトリから導入することになります。まれにWindows用のドライバをWineでインストールしてしまう人を見かけますが、これでは本来の目的は達成できません(デバイスは動きません)。目的はUbuntuでそのデバイスを動かすことで、Windows用のドライバを動かすことではないはずです。
アップデートポリシー
前述の通りUbuntuでは、Firefoxのようなアプリケーションも含めて「Ubuntu」です。ソフトウェアのアップデートはリポジトリから提供され、アップデートマネージャによってアプリケーション、ライブラリを含むシステム全体がアップデートされます。システム全体を最新に保てるこの仕組みはとても便利ですが、逆に言えば「リポジトリが用意したバージョンしかインストールすることができない」とも言えます。例えばUbuntu 9.10のOpenOffice.orgは3.1です。Ubuntuはリリース後にソフトウェアのバージョンを変えることはしないため、3.2のOpenOffice.orgがリリースされた現在でも、9.10では3.2を使うことが標準ではできません。
対してWindowsでは、アプリケーションのバージョンが上がった場合、ユーザが自分で新しいプログラムをWebサイトから取得してくる必要があります。Windows UpdateはあくまでWindowsのアップデートであり、ユーザがインストールしたソフトウェアまでは面倒を見てくれません。これは手間ですが、しかしユーザが自分でインストールするソフトウェアを選択することが可能という側面もあります。
これらはポリシーの違いですので、筆者はUbuntuのスタイルが楽で好きですが、どちらが良いとか優れているというものではありません。しかしながら、こういった「考え方の違い」を知っておくことは、とても大事です。
わからない時はWindowsの流儀を適用する方法を探すのではなく、「これをやりたいんだけど、Ubuntuではどうするの?」という視点を心がけると、Ubuntuをもっと上手に使えるかもしれません。
Ubuntuにこだわる必要はない
この連載でこういうことを言っていいものかとも思いますが、誰もがUbuntuを使う必要はないと筆者は思っています。Ubuntuに興味をもった方の中には、Ubuntuというブランドそのものではなく、自由なUnix系のOS、あるいはWindowsの代替という部分に興味を持っている方もいるのではないでしょうか。
Linuxディストリビューションは数多くありますが、これらはそれぞれ目指すところが違い、味付けも流儀もそれぞれ違います[3]。それなのに「Ubuntuしか知らない」というのは、とてももったいないとは思いませんか。ひょっとしたらUbuntuよりも自分にあったLinuxディストリビューションがあるかもしれませんよ。もちろん、他のディストリビューションを使うことでUbuntuのいいところを再発見するかもしれません。あなたには自分の意志でディストリビューションを選択する自由があるのです。
Ubuntuが特別ではなくなる日
UbuntuのBTS[4]には、有名なバグ#1というバグ[5]が登録されています。これは「Microsoftの市場シェアが大きすぎる」というバグで、Ubuntuはこの問題を修正するためのパッチとして、この世界に投入されました。
勘違いしないでください。これは「打倒Microsoft」という意味ではありません。無料で自由に使えるOSを用意することで、自由なソフトウェアという選択肢が存在することを、世界の人々に気づいてもらうこと。筆者はこのパッチの意味をそんなふうに解釈しています。
その思いが結実したのか、UbuntuはWindows、Macに続く第三のデスクトップとして取り上げられるほどに成長しました。Linuxディストリビューションの中ではおそらく、かなり「特別」な扱いを受けていると言えるでしょう。しかし、Ubuntuが目指しているのは「特別なLinuxになること」ではありません。
誰もがソフトウェアを自由に選び、使えるのが当たり前。Ubuntuでそんな世界を作るためには、いつかUbuntuが「特別な存在から当たり前の存在になる日」が必要なのかもしれないと、フリーソフトウェア業界の片隅で筆者はひっそりと思っています。