Ubuntu Weekly Recipe

第871回Ubuntu 25.04リリース記念オフラインミーティング開催レポート

2025年の7月12日、グリー株式会社主催のもと、六本木にてUbuntu 25.04リリース記念オフラインミーティングが開催されました。今回はいつもと趣向を変えて、このイベントの様子をレポートします。

Puffin(25.04:左)とQuokka(25.10:右)のぬいぐるみ

3か月遅れのオフラインミーティング

Ubuntu Japanese Teamは主にグリー株式会社主催のもと、半年に一度Ubuntuオフラインミーティングを開催しています。

これはUbuntuが半年に一度4月と10月にリリースされるため、それに合わせてリリースパーティやりたいよねというのが、主な目的です。勉強会というよりはパーティという主体が強く、セミナーは開催するものの別に後ろでセミナーの邪魔にならない程度の酒盛りをしていてもかまいません。なんなら手持ちのデバイスを広げて黙々とハッカソンを行っても良いでしょう。そういう「ゆるめ」のイベントです。直近のオフラインミーティングの様子は次の記事等を参照してください。

新型コロナの流行に伴う各種イベントの自粛に伴い、2019年12月を最後にオフラインミーティング自体が開催されなくなっていたものの、2024年からは少しずつコロナ前と同じような体裁で復活しています。

ただ、今年に関してはスタッフ(というかUbuntu Japanese Teamほぼ全員)が公私に渡って多忙だったため、25.04がリリースされてから3か月以上経ってようやく開催となりました。もう3か月待つと25.10が出てくる時期に「リリースパーティ」と言われても違和感をおぼえるのは仕方ないでしょう。しかしながら3か月遅れたおかげで「25.10がどうなるのか」みたいな話もできるようになりました。実際のところオフラインミーティングは、Ubuntuを好きな人たちが集まれる口実を用意できればなんでも良いのです。これくらいカジュアルなイベントですので、ここずっと関東での開催が主体ですが、他の地域でもまたイベントを開催してみたいですね。

本記事ではそんな状況の元で開催されたイベントについて、セミナーの様子を中心に紹介します。ちなみにセミナーの雰囲気についてはYouTubeにも配信動画がアップロードされています[1]。またTwitterのイベント当時の#ubuntujpのツイートPosfieも参考になるでしょう。

Ubuntu 25.04のリリースノート読み合わせ

最初は毎回恒例のUbuntu 25.04のリリースノート読み合わせですYouTubeのリンクリリースノートのリンク⁠。

Ubuntu Japanese Teamでは毎回英語のリリースノートを翻訳して掲載している。Ubuntuのリリースノートを翻訳しているのは、日本だけかもしれない

Ubuntuのリリースノートは、そのリリースにおける最新機能だけでなく、インストールする際の注意事項なども書かれています。よって新規インストール・アップグレードする際は必ず一通り目を通しておくことが理想ではあります。ただし、残念ながら読みやすいとは言えない状況です。個々のコンポーネントの担当者が独自の判断で何を書くかを決めているため、場所によって情報の粒度や重要性がバラバラだったりします。

そこで、どうせみんなご飯食べながら聞いているだけだし、ここでリリースノートの中身をダラダラと紹介しようというのがこのコーナーの趣旨です。リリースノートを読んだと言える人を増やしておこう、と。ここで聞いた話が少しでも参加者の頭の片隅に残っていたり、Xへと投稿してくれたりすることで、次の長期サポート版においてトラブルを防げればなと願っています。

さて、今回のリリースもLTSの狭間の「中間リリース」であるため、更新の量はおとなしめです。本来こういうリリースのタイミングでアグレッシブな修正を入れたいところなのですが、だいたい間に合わなくて次回への先送りとなります。

今回のリリースノートはSteve Langasek(vorlon)への弔辞から始まっていますUbuntu Weely Topicsの記事⁠。Ubuntuの登場前後からUbuntuやDebianを深く使っている人であれば、一度はこの名前を目にしたことがあるでしょう。DebianやUbuntuのリリースマネージャーとして、特にUbuntuのリリースプロセスの改善に携わり、広く使われている多くのパッケージにも関わっています。そのような方が45歳という若さで病に斃れるのは、ただただ惜しまれてなりません。

その他の大きな話だと、リリースされて1か月も経っていないKernel 6.14を採用しました。さらにsystemdの更新によってSystem Vベースのサービススクリプト対応が非推奨となる(次のリリースで削除される)ことぐらいでしょうか。あとはだいたいいつもどおり新しいバージョンに更新されましたという話が続きます。あとARM64のデスクトップ対応が大きく進展していますが、これはあとの発表の伏線となります。

Linuxディストリビューションみんなで開発しませんか?

次はDebian JP Projectのほうから来た、よしのさんによるLinuxディストリビューションみんなで開発しませんか?ですYouTubeのリンク⁠。

Debianコミュニティで長く貢献している、よしのさん

よしのさんはCross Distro Developers Camp(XDDC⁠⁠」なるコミュニティにも所属しています。このコミュニティは何かというと、⁠Linuxディストリビューションごとに似たような問題を個別に解決するよりは情報共有しよう」ということを目的にしています。もともとは「camp」と名前があるように、開発合宿を志向して作られたコミュニティでもあり、年1回ぐらいで合宿も行っています。

合宿とは別に、月1回の頻度で「もくもく会」も開催しています。次回は8月10日(日)に開催予定です。私も参加します。場所は渋谷の幡ヶ谷駅そばですが、オンライン参加も可能となっています。なおオフライン参加の場合、入館の都合でコミュニティのSlackに参加しなくてはならない点に注意してください。

9/6(土)北海道旭川市開催のMiniDebConf Japan 2025のご案内

続いて同じくよしのさんによる9/6(土)北海道旭川市開催のMiniDebConf Japan 2025のご案内ですYouTubeのリンク⁠。

Debianでは年に1回、開発者が集まるDebConfを開催しています[2]。このDebConfは前半戦のDebCampと合わせてまとめて2週間、数百人の開発者が集まる大きなイベントです。今年も7月7日から7月19日までの期間、フランスで開催され、来年はアルゼンチンで開催されるそうです。

このDebConf自体は世界中で開催されていますが、前々から「日本でも開催してほしい」という要望があがっていたそうです。人員やお金の都合でなかなか手があげられていなかったのですが、やはり一度開催してみようと本格的に動き出したのがここ数年の話とのこと。ただしいきなり大きなイベントを開催するのは難しいので、まずは小さなイベントを重ねていこうとなって開催されるのが今回のMiniDebConf Japan 2025です。

MiniDebConf Japan 2025

場所が旭川市ですので、若干移動が大変ですが、将来DebConfを開催するための予行演習でもあります。世界中のDebian(とUbuntu)の開発者が日本に集まれる機会を作るためにも、ぜひ多くの人に参加していただけるとUbuntu側としてもうれしいです。

ちなみに発表者・スポンサーともに募集中だそうです。発表者は募集締め切りが7月20日と迫っているため、気をつけください。

Ubuntu 25.04をSurface Pro(11th gen)で動かしたい人生だった

次はたなかさんによるUbuntu 25.04をSurface Pro(11th gen)で動かしたい人生だったですYouTubeのリンク⁠。

Surface ProのUbuntu化にチャレンジされているたなかさん

Ubuntu 25.04ではARM64アーキテクチャー向けにUbuntuデスクトップを動かせるようになったのが、大きな新機能のひとつになっています。これはSnapdragon Xが搭載されたWindows on ARM(WoA)デバイスが増えていることが契機になっています。

たなかさんは秋葉原で安めのSurface Pro 11thのノートPCを買ってUbuntuを動かしてみたとのこと。このときの流れは第863回そのSnapdragon X搭載PCでUbuntuを使えますか? 〜Snapdragon X搭載PCへのUbuntu 25.04の対応状況に記事としてまとまっています。

記事のほうは「何がどう動かないのか」との情報を整理している状態ですが、発表ではこの記事の内容に至るまでの試行錯誤を説明していきます。この手のデバイスはまずブートローダーとカーネルを動くようにするところまでが一苦労です。

ちなみに試したのはゴールデンウィーク頃の話で、今ならUSBキーボード等も動くようになっている可能性はあるとのこと。また、最近流行りの「AI+PC」はまだAI部分の動作については、Ubuntuに組み込めるまでに至っていないため、その点も今後に期待ですね。

助けて!XからWaylandに移行しないと新しいGNOMEが使えなくなっちゃう

次は村田さんによる助けて!XからWaylandに移行しないと新しいGNOMEが使えなくなっちゃうですYouTubeのリンク発表資料のリンク⁠。

村田さんは果たしてWaylandに移行できるのか

次のUbuntu 25.10ではGNOMEのXorgのサポートを廃止する予定になっていますUbuntu Weekly Topicsの記事⁠。これ自体は大きなトピックではあるのですが、現状ではほぼWaylandで困らないようになっているはずです[3]。また、Xorgでないといけない人は、Ubuntu 24.04 LTSを使い続ければ少なくとも2029年までは使い続けるので問題ありません。

ただ、村田さんはさまざまな事情により、現状のXorg依存な設定を25.10までに解決しないといけないとのこと。そこで今回は会場でさまざまな知見を得て、対応したいというのが発表の流れでした。

発表の中では、なぜXorgが必要になっているかについて、xclipとかxdotoolなどのツールとその使い方を例に紹介していました。さらにWaylandに対応した代替品はあるものの、それぞれの事情でまだ移行には至らないことも解説しています。他にも便利な使い方や設定の解説が多いので、それだけでも一見の価値はあります。

Plucky to Questing

最後はhitoさんによるPlucky to QuestingですYouTubeのリンク⁠。

hitoさんは初回のリリースノートの解説から2回めの登壇

Ubuntu 25.04がリリースされて3か月、次の25.10(Questing Quakka)の開発について、絶賛一進一退の攻防が続いています。25.10はLTSの一個前ということもあって、LTS向けのテスト機能が一気に投入される可能性はあります。とは言え18.04以降はLTSの一個前でもおとなしめではありました。25.04ではコードネームに「Questing(探求⁠⁠」なんて言葉を付けられるぐらい、大きめの変更が入る見込みです。

まず、coreutils(lsとかmkdirとかrmなどの基本コマンドが入っているパッケージ)がRust版になる見込みです。従来のcoreutilsで提供していたソフトウェアはgnulsのように接頭辞として「gnu」が付く見込みとのことUbuntu Weekly Topicsの記事⁠。さらにはsudoコマンドもRust版にするなんて提案もあるようですUbuntu Weekly Topicsの記事⁠。

他にもRISC-Vの命令セットの最低ラインをRVA23にあげる(より新しいSoCしかサポートしない⁠⁠、開発中も毎月月末にスナップショットリリースを出すなどの話も出ています。ひとつ前のセッションで話題になったXorgのサポート終了も大きな変更のひとつです。

Ubuntuサーバーに最初から入っているパッケージについても、コンテナ時代を踏まえて見直す方向に入っているようです。byobuも最初からはインストールされなく可能性もあるとのこと。

次のLTS(26.04)が出たらすぐに使いたい人は、今から25.10をチェックしておいたほうが良さそうです。

次は半年後、もしくは3か月後に

Ubuntuのオフラインミーティングといえば「からあげ」は欠かせません。いや、Ubuntuとからあげはまったく関係ないはずなのですが、歴史的経緯で日本においてのみ欠かせないことになっていました。

最近は「思ったよりも参加者が増えていないのに、からあげの量を減らし忘れた」とか「そもそも参加者が高齢化して油ものがきつくなってきた」なんて悲しい事情も出てきます。そこで今回は量を抑えめにして普通のオードブルだけにしてみました。

からあげには注力せずに、こんなオードブルーがたくさん用意された。オフラインミーティングでは揚げ物をものともしない若い人を常に求めている

またCanonicalからは、参加者向けの景品としてタオルとノート(アナログ版)のノベルティを提供していただきました。

Ubuntuカラーのタオル(左)、Ubuntuカラーの物理ノート(右)
じゃんけん大会の景品として本屋を駆け回って探してきた、今となってはレアかもしれない「実践Ubuntu[第2版]
グリーさんは相変わらずおしゃれな会場でした(左)、
YouTubeの配信ブースの様子(右)

次回は半年後(実質3か月後)「Ubuntu 25.10」のリリースパーティになる見込みです。果たして本当にcoreutilsとsudoのRust移行は達成できるのでしょうか。Xorgのサポート終了版GNOMEを取り込めるのでしょうか。

次のUbuntu 25.10も期待しましょう。

おすすめ記事

記事・ニュース一覧