最後まで人間に残される作業とは? 生成AIをスライド作成に活かすための基本(第3回)

1月24日に開催された『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則【生成AI対応版⁠⁠』刊行記念イベントでは、著者の松上純一郎氏(株式会社Rubato代表取締役)が、生成AIを生かした資料作成の基本について詳しく語りました。

イベントレポート最終回となる今回は、⁠生成AIを使いこなすために最も重要なスキル」について話された質疑応答の模様をお送りします。

第1回第2回記事はこちら

プレゼンの大枠づくりや構成チェックに活用

─⁠──⁠資料のストーリーラインを検討する上で、生成AIはどのようなユースケースが考えられるでしょうか?」という質問がきています。スライド全体の構成を考えるにあたって、生成AIはどのように活用できるのでしょうか。

本の中でまとめて解説していますが、少し分解していくつか挙げていきますね。

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たとえば「聴き手はこんな人で、こういうことに興味を持っています」⁠自分がこの資料で伝えたいことはこれです」⁠プレゼンを通じて、相手をこういった状態に変えていきたいです」というような情報を生成AIにインプットします。

すると、スライドの流れについて「どういったセクション分けにすればいいか」⁠個々のページはどんな内容で、スライドの見出しはこんな方向でどうか」といった提案をしてくれます。大まかなアウトラインができてしまうんですね。プレゼンの持ち時間や相手のポジションなどの情報も加えると、ボリューム感もちょうど良いものにしてくれます。

事前にインプットしていない情報は反映されないので、クオリティには限界もあります。出力されたアウトラインを見た時に「そういえば○○部長は、前回の会議でこういうことを言っていたな。じゃあ、もう少しこの部分を強調した方がいいな」といった感じで、人間によるチューニングは必要ですね。とはいえ、ストーリーラインの大枠づくりには十分役立ちます。

ユースケースとしてもう1つお伝えしたいのが、いったん自分でストーリーラインを作った後に、同じような要件で生成AIにもアウトラインを作らせてみて比較するやり方です。最初から生成AI頼みになると自分の能力が鈍る気もするので、チェックに使うのは良いですね。私もよくやっていますが、⁠あ、この視点が抜けてたな」と発見があります。

欲しい内容を「定義する力」が大事

─⁠──⁠─⁠生成AIを使いこなすためには、適切なプロンプトを入力するための言語化能力が必要と考えます。どのように身につければ良いでしょうか?」という質問もいただきました。

これは本当に……すごく大事なポイントを質問いただいたと思います。まさにそこが一番の課題なんですね。

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実際、同じテーマでもプロンプトを書く人によって、アウトプットの質が全然違ってきます。実はプロンプトを書く際には、論理的思考力がとても重要になってくるんですね。

中でも特に重要なのが、「アウトプットをどういう形で出力してほしいか」を定義できるスキルです。ざっくりと指示を出すだけだと、自分が求めている回答が出てこないんですね。

本日お話したExcel形式での出力第2回参照)でも、⁠表形式で、こういう列と行の見出しで出力して」と制約をつけて指示しました。⁠どういうアウトプットが欲しいのか」を明確にできる力が極めて重要なんです。もちろん言語化能力も大事ですが、まずは完成イメージを定義できるかどうかが肝だと思います。

どれくらいの細かさで情報を出してほしいのか、どんなポイントについてまとめてほしいのか、具体的な事例が欲しいのか、ざっくりと概要が欲しいのか、それらを踏まえて自分にできるアクションは何なのか……といった目的意識をはっきり持つことが重要です。

それを言語化できたら、生成AIを使いこなせるようになります。くり返しますが、まずは「欲しい回答のイメージをしっかり持てるかどうか」がとっても大事なポイントです。本書に収録したプロンプトも、アウトプットの形を細かく指定していますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

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ちょっと怖いことを言うと、使いこなせる人と使いこなせない人の差が、ますます広がっていくだろうと感じています。1人で何十人分もの生産性を上げられる人と全然生産性を上げられない人との差が、どんどん大きくなっていくはずです。ホワイトカラーは特にそうですね。

これは本当に恐ろしいことで……別に危機感を煽るつもりはないのですが。ある意味、ロジカルシンキングやアウトプットを想像する能力といった、ビジネスの基礎スキルみたいなものが、かえって重要になってきているんだなと感じています。

─⁠──⁠─なかなか恐い話でした……。この本を通して、生成AIからより良い回答を引き出すスキルを身につけていきたいですね。

そうですね。さらに深く学びたい方は、弊社Rubatoでもセミナーを開催していますので、ぜひ活用していただければと思います。

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書籍の内容は膨大なので、講座では骨格となる特に重要な部分をしっかりとお伝えして、演習も行います。本を全部読んで、どこが大事なのかご自身で整理するのは大変だと思いますので、本の効果をさらに上げる意味でもおすすめです。そのほか、Rubatoのnoteでも情報を発信していますので、興味のある方はチェックしてみてください。

ぜひ、今日お伝えしたことを、少しでも身近な業務の中で実践していただければと思います。

難しいことをする必要はありません。本のプロンプトをそのまま貼り付けて、実行してみるだけでも良いんです。それだけでも、生成AIの使い方が全然変わってくると思います。

いきなりエキスパートにはなれなくても、最初の一歩を踏み出さないと何も始まりません。

ぜひ、最初の一歩を踏み出していただければ幸いです。

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─⁠──⁠─松上さん、本日はありがとうございました。

どうもありがとうございました。

プロフィール

松上純一郎(まつがみじゅんいちろう)

同志社大学 文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。

米国戦略コンサルティングファームのモニターグループ(現モニターデロイト)で、外資系製薬企業のマーケティング・営業戦略、外国政府の依頼によるツアリズムのマーケティング戦略、外資系医療機器メーカーの主要管理指標(KPI)策定、国内企業の海外進出戦略の策定に従事した。

その後、NGOに転じ、アライアンス・フォーラム財団にて日本企業の新興国進出支援プロジェクト(バングラデシュやザンビアでのソーラーパネルプロジェクト、栄養食品開発プロジェクト等)や営業改善プロジェクトを統括する。

現在は株式会社Rubatoの代表取締役を務める。Rubatoにて企業に対しての経営コンサルティングを提供する一方で、提案を伝え、人を動かす技術を多くの人に広めたいという想いで、2010年より資料作成講座を開始。毎回キャンセル待ちが出る人気講座となった。現在は企業向け人材育成サービスや個人向けビジネススキルトレーニングに事業を拡大し、ビジネスパーソンに必要なスキルの普及と啓蒙に努めている。

2025年1月、累計5万部突破のロングセラーを6年ぶりにリニューアルした『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則 【生成AI対応版】』を上梓。他にも著書に『ドリルで学ぶ!人を動かす資料の作り方』(日本経済新聞出版社)、監修作に『この1冊で伝わる資料を作る! PowerPoint 暗黙のルール』(マイナビ出版)がある。