インターネット広告とテクノロジーの行方

第5回インターネットとメディアの融合 ─ クロスメディア

前回はインターネット広告配信と測定の仕組みについて説明しました。今回は「インターネットとメディアの融合 ─ クロスメディア」について考察していきます。

クロスメディアとは?

「クロスメディア」には明確な定義はないようですが、概して言うと、従来の4マス媒体に加えて、インターネットなどのデジタル媒体を活用して、生活者(消費者)とインタラクティブ(双方向)コミュニケーションを行う手法や考え方のことを指します。

図1 クロスメディアの概念
図1 クロスメディアの概念

よく取り上げられるクロスメディアの例は、企業のキャンペーン広告活動において、

  • テレビ
  • 新聞
  • 雑誌
  • 交通広告
  • 店頭広告
  • 携帯電話

に加えて、以下のデジタル媒体を総合的に活用して、生活者をウエブサイトへ誘導してコミュニケーションをとる、成果を測定するといった形です。

  • キャンペーンサイト(スペシャルサイト⁠
  • ブログ・SNS
  • ケータイサイト

大企業のキャンペーンのことだけを指すのではなく、身近なところでは、PCで目的地の地図を検索して、携帯へ転送して現地で確認する、携帯から現地近くのお店を探す(広告または検索エンジン)といった使い方もクロスメディアを活用していると言えます。

クロスメディアでは従来の紙媒体やテレビといった片方向のみのコミュニケーションだけではなく、インターネットへ誘導することで、消費者は広告の内容を確認できたり、プロモーションへ参加することで消費者は広告の内容を確認できたり、プロモーションへ参加することでブランドを経験することができ、広告効果を認知から体験へ変えることを目的としています。

メディアミックスとクロスメディアの違い

クロスメディアと似た概念で「メディアミックス」があります。

「メディアミックス」はもともと広告業界において複数のメディアを組み合わせて活用する考え方のことで、4マス媒体に広告費を割り振って計画を立て、広告の量やリーチマックスで訴求していこうというものです。

リーチマックスは個別の媒体ではなく、媒体の組み合わせ全体でリーチを最大化しようという手法です。

図2 メディアミックス
図2 メディアミックス

複数のメディアを活用する手法は同じなのですが、メディアミックスが広告主からの片方向のコミュニケーションによるマスアプローチなのに対して、クロスメディアは複数の媒体+インターネットを活用して、ターゲットである生活者とのコミュニケーションを重視して広告効果を訴求するところが大きな違いです。

図3 メディアミックスとクロスメディアの違い
図3 メディアミックスとクロスメディアの違い

なぜクロスメディアなのか?

なぜ、クロスメディアなのでしょうか? 生活者のメディアとインターネット利用の関係を見てみましょう。以下は日経広告研究所が2006年1月にインターネット利用者に対しての実施した調査結果です。

テレビ視聴とインターネットを同時に利用することがある21.4%
テレビCMの内容をインターネットで確認することがよくある10.1%
新聞記事の内容をその場でインターネットで確認することがよくある9.0%
新聞広告の内容をインターネットで確認することがよくある8.2%

上記に示されるように、テレビからインターネット、新聞からインターネットというように広告や商品・サービスの内容を複数のメディアを使って生活者は確認していることがわかります。

したがって、テレビや新聞広告はインターネットへ誘導するためのゲートウエイの役目を果たしていると言えます。

このように、生活者の行動に対応するために、ひとつの媒体のみで広告活動を完結させるのでなく、複数のメディアの組みあわせを最適化してマーケティング活動の効果を最大化することが重要であり、クロスメディアへの流れへつながっているといえます。

また、クロスメディアではウエブサイトをマーケッティングプラットフォームの基盤として広告活動を設計します。なぜなら、ウエブサイトに誘導することによって、広告の効果を数字で把握することができるからです。

図4 クロスメディアによるウエブサイトへの誘導
図4 クロスメディアによるウエブサイトへの誘導

ここで重要なことはウエブサイトへ誘導することで、以下に挙げたことが分かるということです。

  • 各媒体媒体からの誘導効果を把握
  • 誘導した後の成果(会員登録や、資料請求、商品購入)
  • ウエブに誘導した後の見込み客の行動

高度な測定機能を備えたシステムであれば、誘導後のサイト上での行動を把握することができます。

もちろん、そのためにはウエブの効果を測定できる仕組みが必要です(ウエブの効果測定については効果測定虎の巻をご参照ください) 。

これは今までの4マス媒体における広告活動ではわからなかったことです。クロスメディアを活用することにより、消費者の反応や行動(意見)を把握することができるというのは大きな違いです。

したがって、クロスメディアではテレビはテレビだけ、新聞は新聞だけを考えた広告ではなく、インターネットを含めた全媒体を考慮した広告戦略・デザインが必要になってきます。

クロスメディアでは、以下の点がより重要になってきます。

  • インターネットに誘導する仕掛け
  • 広告による「タッチポイント」⁠コンタクトポイント」を重視したプランニング
  • 誘導した後の仕掛け

「タッチポイントプランニング(コンタクトポイントプランニング⁠⁠」とは生活者の行動・購買に至るまでの適切な導線上に広告を配置する考え方です。

最近のテレビCMでは「つづきはWebで」⁠○○○○で検索」という形でウエブサイトの誘導を試みています。広告誘導にマッチしたウエブサイトのデザインはもちろん、誘導した後のフォローも大事です。誘導した後に、"いかに顧客に興味・関心を持ってもらうか?""持ったことをどう数値化して評価するか?"が重要です。

エンゲージメント

米国では広告効果の測定に「エンゲージメント」という概念を取り入れる流れがあるようです。日本でも広告業界で「エンゲージメント」がキーワードとして浸透してきています。

「エンゲージメント」とは、広告訴求がターゲットである生活者にどのくらい興味・関心を呼び起こしたかを重要視して、数値化することだと言われています。

これまでは4マス媒体を中心とした広告投下量やテレビCMのGRPを過去の投下量や売上と対比させて予測・評価するモデルが多かったと思われますが、クロスメディアの登場で生活者とどのくらいコミュニケーションできたかを評価の尺度としようという流れになってきています。

企業サイトのメディア化とクロスメディア

クロスメディアの考え方を進めていくと、誘導先である企業のウエブサイトもひとつのメディアであると捉えることが出来ます。

自社のウエブサイトへ訪問した生活者はあらかじめ興味を持って訪問しているわけですから、非常にターゲティングしやすいと言えます。

これからのウエブサイトは会社概要や商品・サービス紹介だけではなく、生活者とのコミュニケーションをとるための基地として、構築することが競合他社との大きな差別化の要素になると考えられます。

クロスメディアで広告の未来はどう変わるか?

クロスメディアで広告はどう変わっていくのでしょうか?

テレビCMは崩壊したとか、費用対効果がわからないといわれていますが、連載第2回「インターネット広告のモデル」で示したとおり、未だにテレビCMは日本の広告費の30%以上を占めています(インターネットは6%)。生活者が信頼する情報源は1位は新聞、2位はテレビ、インターネットは第3位という調査結果もあるように新聞、テレビはまだまだ生活者の支持が高いのも事実です。

したがって、インターネットの登場で、テレビや新聞の媒体としての価値が下がっているわけではありません。

しかし、これまでの単一の媒体効果だけを狙った広告では生活者とコミュニケーションできなくなってきています。

この連載で何度が言及していますが、広告から生活者への片方向のコミュニケーションではなく、双方向のコミュニケーションを確立することが重要です。

つまり、生活者にとって、受動的な広告から能動的な広告への変化が求められるのではないでしょうか?

図5 能動的にコミュニケーションがとりたくなる広告へ
図5 能動的にコミュニケーションがとりたくなる広告へ

これからの広告は単一の媒体のみで完結するのではなく、各媒体全体で最適化するようにデザインすることが求められていくと考えられます。

そして、広告から誘導した後の生活者とのコミュニケーションにとって、インターネットが重要な役割を果たしていくでしょう。

クロスメディアの課題クロスメディアの課題

ここでは以下の3つをあげてみたいと思います。

1.目標設定

先に述べたように従来の広告では量の投下や視聴率といった指標が設けることが多かったと思われますが、クロスメディア時代では、生活者とどれだけコミュニケーションできるかが目標になります。誘導後の仕掛けとあわせて、数値目標を生活者を基準に定めることが必要です。

2.誘導後の測定

ウェブへ誘導すれば測定は可能ですが、何を測定するのかをあらかじめ決めておくことが必要です。 ウェブサイトの場合、PV数が指標とされた時代がありましたが、生活者とのコミュニケーションを数値化するのであれば、ユニークユーザ数や、リピートユーザ数、コンバージョン数や、ユーザステータス(購入者か非購入者か、会員か非会員か)を計測できるようにしておく必要があります。

また、生活者は広告に反応してすぐに行動を起こすとは限りません。AISASモデルで示されているように検索エンジンや比較サイト、新聞、雑誌、電車内の中吊り広告で訴求され、興味や関心が高まり、ウエブサイトを閲覧することが知られています。そのような生活者の行動を数値化する仕組みや、誘導した後の生活者に対してターゲティングする手法が必要となります。

これまではウエブサイト内はログ解析を代表とする測定ツールでサイト誘導後を分析して、広告は広告専門の測定ツールがすみ分けて利用されてきましたが、今後はこれらを統合化した機能(ツール)とその結果を評価・分析できる人材が求められるでしょう。

3.人材の育成

これからはクロスメディアを活用して総合的にキャンペーンをデザインする人材の育成が必要になってくるはずです。

広告に関しては広告会社(広告代理店)が企画・実行するのが当たり前の時代が続いていましたが、これからは企業自身や別の業態の会社がその企業のマーケティング全体を企画・実行(マネージメント)する時代になるかもしれません。

企業では宣伝部や、マーケティング部、顧客サポート、営業企画など部署が分かれており、インターネットの担当は広告宣伝部やマーケティング部が担当していることが多いと思いますが、今後は、広告と販売・顧客サポート活動を横断的に顧客とのコミュニケーションをマネージメントする人材の集まり(部署・チーム)が必要になるのではないでしょうか。

図6 求めらられる企業の機能と人材
図6 求めらられる企業の機能と人材

そして、それを支援するのが広告会社とは限りません。メソッドやテクノロジーを持った別の新しい形の企業か、いままでの広告代理の枠を越えて変化を遂げた次世代の広告会社なのかも知れません。

次回は、⁠行動ターゲティング」について考察したいと思います。

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