去る2007年9月21日に、Adobe ColdFusionシニアマーケティングマネージャーTim Buntel氏にAdobeが描くColdFusionの将来像について伺いました。
ColdFusionの日本における現状
Tim Buntel氏
酒井:
北米など諸外国と比べた時、日本ではColdFusionにいまいち人気がないと言うことはご存じかと思います。このような状況をどのように思われますか。
Tim:
まず認識していただきたいことは、Webの開発者の方はどこに行っても同じ問題に直面しているということです。つまり、これまでよりもより優れたアプリケーションを作らなければいけないし、アプリケーションはより迅速に開発できないといけないし、もちろんきちんとスケールアウトできるものでなければいけないわけです。従ってColdFusionを含むWeb開発のための言語が置かれている状況というのは日本特有のものではなく、全世界共通なのです。つまり、ColdFusionが日本市場であまり認知されていないのは日本市場が特殊であるから、と言うわけではないと思うのです。我々はColdFusionはどの市場にとってもよいソリューションであると思っています。私たちが今抱えている課題は、ColdFusionがMacromediaあるいはAllieから販売されていた時と比べて、Adobeという大きな会社から販売されることになったので、もう少し市場へのアプローチの仕方を変える必要があるかとおもっています。そのために、日本のアドビシステムズ株式会社には非常に優れたマーケティングチームがおりますし、ColdFusionの販売の仕方やマーケティングの仕方、価格付けなどについて変更を加えてきました。そうすることで、日本市場におけるColdFusionの認知度がもっと上がることを期待しています。
それからもう一つ、今現在Adobeの提供するプラットフォームでは様々なことが起こっているエキサイティングな状態であると思うのです。ColdFusionはAdobeが開発しているので、Adobe FlashベースのRIA(Rich Internet Application)をはじめとして、Adobe AIR、Flex、LiveCycleなどのAdobeが提供するプラットフォームとは相性がよいことは明白でしょう。そう言った観点から日本市場に対してColdFusionが持つメリットを訴求しやすいと思っています。
酒井:
ColdFusion 8日本語版をリリースしたことで、日本でColdFusion人気は出るでしょうか。
Tim:
もちろん、先ほど述べたようなベネフィットを持っているColdFusionを広く告知するため、あらゆる事を行っていくつもりです。そのために、日本のアドビシステムズ株式会社のマーケティングチームはより良いColdFusionのエコシステムを構築するために日々頑張っています。実は今回私が東京に来るのは2回目なのですが、私たち本社の人間も日本市場でColdFusionが広がっていくのを楽しみにしています。
他のアプリケーションサーバーとの違い
酒井:
他のアプリケーションサーバー、例えばASP.NETやJ2EEと比べたとき、ColdFusionの特徴となる点を教えてください。
Tim:
この連載を読まれている方はご存じの通り、ColdFusionはJava(J2EE)上で動いています。そして、ColdFusion 8からMicrosoft .NETと連携できるようになりました。つまり、ColdFusionか.NETか、あるいはColdFusionかJavaか、と言うように、ColdFusionはASP.NETやJ2EEと競合関係にあるものではなく、互いに共存できる製品であるといえます。また、ColdFusionが他のテクノロジーと共存できるという観点から、既に.NETやJavaを使用している企業でもColdFusionを併せて使うことは可能だと思います。
また同時に、ColdFusionはタグベースの言語を使用していると言うこともあり、.NETやJavaに比べてより簡単にプログラミングをすることが可能です。普段HTMLをコーディングしているようなデザイナーの方でも、ColdFusionを使ってプログラミングをすることが可能だと思います。それとは対照的に、C#やJavaを1から覚えなければならないと言うことになったら非常に大変ですよね。従って、ColdFusionではC#やJavaのように複雑なことを覚えることなく、ColdFusionが持つポテンシャルを存分に遺憾なく発揮できると言うことです。
他のライトウェイトランゲージとの違い
酒井:
最近では手軽に動的サイトを構築できるライトウェイトランゲージ(PHPやRuby on Rails)等が人気です。同じように手軽に動的サイトを構築できるColdFusionのアドバンテージは何でしょうか。
Tim:
変数を設定する、データベースを操作するなど、動的Webサイトを構築するための基本的な機能面では、ColdFusionと他のライトウェイトランゲージとでは特に差異はないと思います。しかし、例えば、画像を操作したり、グラフを描画したり、Microsoft .NETやExchangeと連携しようと思ったり、PDFファイルを操作・作成するなど、ColdFusionを買ったその日から使える機能を他のライトウェイトランゲージで行おうと思ったら、サードパーティのライブラリやソフトウェアを導入し、またそれらの使い方を勉強する必要があるかと思います。そう言う手間がかからないことが、一番目に挙げることの出来るアドバンテージです。ColdFusionでは、ColdFusionをインストールし、CFML(ColdFusion Markup Language)という言語さえ覚えてしまえば、ColdFusionがビルドインで持っている機能を全て活用することが出来ます。対してPHPやRuby on Railsでは、ColdFusionで出来ることと同じようなこと、たとえばグラフ描画やPDFファイル操作などをしようと思った場合、より多くの労力がかかることでしょう。
また、殊にColdFusion 8からは顕著に、ColdFusionはただ単に動的Webサイトを作るだけの製品という枠組みを超えて、RIAやPDF、モバイル、帳票を作るための機能が付け足されています。従って、開発者はColdFusionのCFMLを使って動的Webサイト構築の手法を学んでしまえば、先ほど述べたAdobe AIRやモバイルやAdobe Readerなど、Webブラウザ以外の環境に対してもColdFusionを使ってアプリケーションやソリューションを提供できます[1] 。それに対し、PHPやRuby on RailsはWebアプリケーションを作成することを主眼に置いているため、Webアプリケーションを作成すること以外のことは苦手です。
また、Ruby on Railsは、Ruby上で動く『Webアプリケーションを簡単に作成するために設計されたフレームワーク』です。それに対して、ColdFusionというのはフレームワークではなく、言語です。ColdFusion自体はもちろん簡単に使うことが出来る言語ですので、フレームワークを使うことなく開発することも出来ますが、すでに有志の手によって開発された様々なフレームワークの中から自分の使いやすいフレームワークを選び、それを使ってWebアプリケーションを開発することが出来ます。自分の使いやすいフレームワークを選べるというのはColdFusionの持つメリットであると思います。
ColdFusionの狙うターゲット
酒井:
日本ではどのような業界や職種の方がColdFusionをお使いになると思いますか。
Tim:
そうですね、例えば1つ挙げられるメジャーなターゲットは、RIAに興味は持っているけれども、JavaやC#などのサーバーサイドのコーディングの知識を持ちあわせていない方が使ってくださると思います。例えばFlashを使ってRIAを開発している方が、RIAのサーバーサイドのアプリケーションを構築しようと思ったときに、ColdFusionを使えばJavaやC#よりも簡単にサーバーサイドのアプリケーションを構築出来ると言うことが分かっていただけると思います。
それから、ColdFusionは一般企業において、いわゆるよくあるWebアプリケーションを作るのにも使っていただけると思います。Javaで6ヶ月もかけてWebアプリケーションを構築するよりも、ColdFusionで全く同じものを数週間で構築できた方がコストパフォーマンスは高いですよね。
また、今回ColdFusion 8日本語版をリリースするわけですが、私たちはそのリリースにあわせて、セールスパートナーやホスティング業者などと綿密に打ち合わせて、ColdFusionをフリーランスの方、システムインテグレーターの方、法人ユーザーの方など、より多くの人に届けられるように計画しています。
酒井:
日本ではこのような戦略をとられていますが、他の諸外国でも同じような戦略をとっているのでしょうか。
Tim:
ある意味、この戦略は日本独自のものであることは否めないと思います。というのは、アメリカの場合、既に数多くの幅広いColdFusionの販売チャネルを持っています。それに対し、日本ではColdFusion 8以前は法人ユーザーをメインターゲットにしたチャネルが主でした。従って、日本における販売戦略を変更したと言うことは挙げられますが、『 ColdFusionをより多くの人に使っていただく』という意味での戦略は、日本でも諸外国でも変わりありません。
ColdFusion 8の目玉機能
酒井:
ColdFusion 8の新機能の中でも、特に目玉となるものは何でしょうか。
Tim:
ColdFusion 8ではたくさんの新機能を盛り込んだので、その中でも何か特定のものを挙げるというのはなかなか難しいですね。そうですね、お客様から好感触を頂いている機能としてはPDFファイル周りの機能があります。これまで多くの人たちがPDFファイルの操作をしようとしてきましたが、それをするに当たっては高価なソフトウェアを購入する必要があったり、煩雑な操作を覚える必要がありました。ColdFusion 8ではPDFファイルを操作するための数多くの機能を盛り込みましたので、PDFファイル周りの様々な操作を、ColdFusion単体でより簡単に、そして今までよりも安価に行うことが出来るようになりました。
また、Ajax周りの機能も好感触を持っていただいています。ColdFusionのAjax機能はただ単にAjaxを他のプログラミング言語よりも簡単に扱うことが出来るようになると言うだけではなく、いままでAjaxというものに触れたことがない人にとっても簡単に使うことが出来るようになっています。また、Ajaxの開発はしたことがあるけれども、ColdFusionを使ったことがないと言う人にも、ColdFusionを使っていただける機会が出来たと思っています。
最後に、あまり語られることがないのですが、ColdFusion 8ではパフォーマンスが大幅に向上しました。ColdFusion MX 7を使っていたお客様が、既存のコードを一切書き換えることなくColdFusion 8上で既存のアプリケーションを動かすことで、劇的にパフォーマンスが向上したという例が多数あります。これの意味するところは、ColdFusion 8に移行することで、使用するサーバーの台数を減らせたり、ホスティングに使用している経費を節約することが出来るということです。このような理由からColdFusion 8にアップグレードするお客様も相当数いらっしゃいます。
Adobeの描くColdFusionの将来像
酒井:
最後に、Adobeが描くColdFusionの将来像を教えていただけますか。
Tim:
将来の計画に関してですが、我々は既に次のメジャーリリースを計画しています。ColdFusion 8のリリースの後にはアップデーターも計画しているのですが[2] 、アップデーターの後にはメジャーリリースが控えています。次のメジャーリリースで盛り込まれるであろうと皆さんに期待しておいていただきたいものは、他のAdobe製品群との連携強化です。例えばAdobe AIRを初めとして、他の製品ともより深く広範に連携強化を図っていこうと考えています。
まとめ
全8回に渡って、ColdFusionの持つ魅力をご紹介してきました。最終回の今回は、Adobeの方を迎えて、ColdFusionの持つベネフィットや戦略などを語っていただきました。
ColdFusion 8以前はエンタープライズマーケットをメインターゲットにしていたため、中・小規模のWeb開発ではなかなか用いられることのなかったColdFusionですが、この連載をご覧になっていただいた方は、普段はPHPやRailsなどを使って開発するWebアプリケーションでも、一度試しに使ってみるに値するような機能を持ち合わせていることが分かっていただけたかと思います。その上、PHPなどでは苦労するグラフ描画などもColdFusionでは手軽に行うことが出来ます(連載第4回 を参照のこと) 。ColdFusion自体は商用ソフトウェアのため、商用環境で利用するにはライセンスを購入する必要がありますが、開発や試用目的であれば機能制限のないDeveloper Editionを無償で使うことが出来ます(簡単な開発環境の整え方については第2回目 で触れました) 。是非Developer Editionをお使いになって、ColdFusionが潜在的に持つベネフィットや、ColdFusionを使ったWebアプリケーション開発の簡単さを体験してみてください。
この連載をきっかけに、ColdFusionを使っていただけるようになれば幸甚です。
参考リソース
ColdFusion-Style (日本のColdFusionユーザーグループ)
Adobe - エンタープライズ ソリューション セミナー情報
Model-Glue (MVCフレームワーク)
Mach-II (MVCフレームワーク)
Mach-II Japanese Website (Mach-IIの日本語情報)
ColdSpring (Dependency Injectionコンテナ)
Transfer (O/Rマッパー)
Reactor (O/Rマッパー)
Tim Buntel's Web Log (Flex Builderのシニアプロダクトマネージャー、元ColdFusionシニアマーケティングマネージャー)
Kristen Schofield's Blog (現ColdFusonのシニアプロダクトマーケティングマネージャー)
Forta.com (ColdFusionエバンジェリスト)
Coldfused? (ColdFusionチームのエンジニア)