組込みソフトウェア開発におけるスキルの傾向
前回に引き続きスキル診断結果について、いくつかの例から組込みソフトウェア開発における特徴的な傾向を見ていきます。
図1は組込みソフトウェア産業実態調査の回答から開発現場のスキルレベル別人数の平均値を見たものです。横軸のスキルの分類は、実際にはより細分化した項目で人数・スキルレベルを回答いただいていますが、おおまかな傾向を見るためいくつかの項目にまとめています。
「開発技術」は設計、実装、テストで担当される技術者やその保有スキルが異なる可能性が大きいため上流、下流(実装、テスト)と分けてみました。「管理技術」はプロジェクトマネジメントとプロセスマネジメントで分けています。各スキルレベルの合計が一致しないのは、設計を行わない(担当業務が異なる)、スキルレベル1に満たないなどの理由が考えられます。
このグラフから見られる組込みソフトウェア開発の大まかな傾向としてまず言えるのは、「管理技術」は高くないがそれに比べ「コミュニケーションやネゴシエーションなどの「パーソナルスキル」がかなり高いというものがあります。
「管理技術」はPMBOKの知識エリアを網羅的に問うているので敷居が高かったり、ある知識エリアはあまり必要がない、そもそも対象人数が本格的なマネジメントを必要とするほど多くないということもあるでしょう。そういった部分をコミュニケーション、ネゴシエーションで補っているのかもしれません。もちろん組込み開発の特徴である「擦り合わせ」の必要性や産物であるとも言えます。次は「ビジネススキル」が低い、特にレベル3以上の割合が他のスキルに比べ極端に低いということが言えます。「経営」や「会計」というスキルなので、現場の開発ではあまり要求されないスキルのようです。ただし、キャリアパスや現場の発言力といったものを考えると放置しておいてよいものか若干の危惧も覚えます。
さて、開発現場の肝たる「開発技術」についてはどうでしょうか。傾向的にはこんなものかなという感触ではないでしょうか。では課題は見えてこないでしょうか。「開発技術上流」を見ると実装、テストに比べ人数が少ない、レベル3以上の割合が低いと言えそうです。設計の重要性は今さら言うまでもなく認識されていますが、実態としてやはり質・量とも厳しい環境にあると言えそうです。
品質とスキル
次に品質の良し悪しがスキルの状況から見える例を紹介します。図2は品質の高低(不具合発生約2件/1,000ライン)が現れたグループ間のスキルの状況がどうであったか比較したものです。棒グラフでスキルレベルごとの全体に対する比率を示しています。そしてもうひとつ折れ線グラフを配しています。実線はレベル3以上を結んだもの、点線はレベル1を結んだものです。
前回のスキルレベルの定義を思い出してください。スキルレベル2が「自律的に作業を遂行できる」となっていました。スキルレベル1は支援を受けられないと作業を完遂できないレベルです。レベル2は自分のことで精一杯でレベル1を支援するスキルレベルではありません。レベル3以上で初めて支援できると考えます。品質の良いグループでは「開発技術(①)」、「ヒューマンスキル(②)」ともレベル1:レベル3以上がほぼ1:2になっているのがおわかりでしょうか。それに比べ品質の悪いグループでは同様の比較が1:1となっています。このように見ていくと、部門の保有しているスキルが品質にどのように影響するかということが具体的に把握できます。ただ闇雲に人を投入するのではなくスキルという裏づけをもったプロジェクト運営を実施しないと品質の維持、向上を図ることはできないということです。
今回使用した指標(スキルレベル1:スキルレベル3以上)を「育成比率」と呼んでいます。仮に育成比率が1:1の場合平均スキルレベルは2に近くなってしまいます。より品質を向上させるためには育成比率を1:2、さらに1:3と上げていくことが必要です。このように数値の裏づけを持った育成目標、計画を立てられるというのもスキル診断の大きなメリットです。
今回は品質について見てきましたが「生産性」についても同様の傾向が見られます。
まとめ
2回にわたりスキル診断について紹介してきました。スキル診断は人材マネジメントの起点です。ETSSを活用し、まずはスキル診断を計画してみてはいかがでしょうか。