「働き方改革」が、だれも得しない独りよがりなお祭り騒ぎに?
私は、2016年に『職場の問題地図』を刊行してから、すでに200を超える企業・自治体・官公庁で働き方や生産性についてアドバイスをしてきたのですが、そのなかでよく耳にしたのが「働き方改革をしようとして、逆に無駄な仕事が増えた」という声でした。残業を減らすためにオフィスにドローンを巡回させるというニュースが話題になりましたが、だれも得しない。このように働く人たちのモチベーションを下げるだけの、ひとりよがりな施策がお祭り騒ぎのように展開されている職場も少なくありません。
一方で、自分たちが正しくラクして得する形で、中から変わっていける組織には共通点がありました。それは、今までの“あたりまえ”を疑って、不要な慣習や制度をなくしたり、変えたりしていることです。決して、新しいことをわざわざやるわけではない。
「働き方改革、ちょっと待てよ」と。今、“常識”としてやらされている仕事や慣習を、「本当に時代にあっているのか?」と一度考えるようなきっかけを創ったほうがいいのではないかと思ったんです。
今の時代に合わない制度や慣習の“妖怪退治”を
最近、大企業の転勤制度が話題になりました。転勤制度については賛否両論がありますが、「ダイバーシティ」「男女共同参画」「女性活躍推進」さらには「終身雇用崩壊」と言われているなかで、はたして、従来どおりの転勤制度を、従業員に拒否権や選択権もないままに運用し続けることがいいといえるのか?
転勤制度が悪いわけではありません。しかしながら、時代遅れになっている可能性もある。ゆえに、一度立ち止まって、社会の情勢や社員のライフスタイルの変化にあわせて変える必要がないか、思考してみる必要はあります。
- 「いま時代にあっているんだっけ?」
- 「当社のビジネスモデルで、いまそれ必要だっけ?」
- 「社内のファンを遠ざけていないっけ?」
いまの状態はだれも幸せになっていないのではないか? 組織の独りよがりになっていないか? と。このような、ヘルシーなアップデートが必要です。
どんな仕事も、生まれた当初は合理性があったのでしょう。しかし、時代の変化のなかで、気がつけばそれが悪気なく生産性やモチベーション、さらには社内外のビジネスパートナーとのコラボレーションの足かせになっていることも。「あたりまえ」とされているけど、じつは今はもう必要がない制度や慣習の“妖怪退治”を正しくしていってほしいのです。
「なぜ童話?」累計23万部突破の問題地図シリーズの成功体験とは
そのような想いをきっかけに執筆したのが、『仕事ごっこ』です。この大きな特徴として、各章の冒頭に童話風の物語を入れているのですが、その理由は2つあります。
1つめは、現在累計23万部を突破している問題地図シリーズの成功体験に裏打ちされているのですが、「堅苦しい本をわざわざ読む人が減っている」実感があるからです。音声や動画メディアの影響も大きいと思いますが、忙しいなか、難しい本を読む人は残念ながらそんなに多くはないなと。問題地図シリーズは、日頃本を読まない方が「これならわかりやすい」と興味を持って読んでくださった、あるいは職場で広げて「ここから改善していきたい」と上司や同僚に働きかけて実際に改善が起こった、などの評価を多数いただいています。本を読むハードルをさらに下げられないか? そう思い、「ラクに読める本の原点は?」と考えた結果、「童話」「絵本」にたどりつきました。『仕事ごっこ』という遊びごころのあるタイトルにしたのも、親しみやすさを出したかったからです。
2つめは、職場のリアルなやりとりをダイレクトにリアルに書いてしまうと、良くも悪くもトゲが出てしまうからです。最近、物事を擬人化することで問題を嫌味なく伝える手法が脚光を浴びていますが、同様に、童話の主人公にあてはめていたり、上司と部下を動物に置き換えることで、プププと笑いながら、アンヘルシーな現状をヘルシーな方向にもっていけるのではないかと。問題地図シリーズと伝え方を変えたかったのも理由の1つです。
「いつかは童話を書いてみたい」という気持ちもありました。島田ゆかさんの「バムとケロ」のシリーズが好きで、一時期は家のカレンダーも「バムとケロ」にしていました。
ちなみに、今回の作品『仕事ごっこ』で私が一番気に入っているのは、第5話の「オフィス戦団ビジキュアの憂鬱」です。私は1975年(昭和50年)生まれ。世代的にもヒーローものが好きです。この設定単独でのストーリーも構想していて、出版はもちろん、実写化やアニメ化などもできたら楽しいですね。企業内あるいは労働組合のイベントなどで、実演してもおもしろいかも!? どこかの放送局/プロダクションさん、いっしょにやりませんか? 私、喜んで脚本書きます(笑)。
景色を変えないと、本当の問題を言語化しにくい
童話にしたことで伝えたかったのは、「景色を変えてください」ということです。
「働き方改革」と堅苦しく言っても、なかなか本当の問題が言語化しにくかったりします。「新しい制度を作るよりも、いまあるムダをやめるほうがラクだし、より確実に成果が出る」発想は、なんとなく実感はあったとしても、普段の職場の景色では、なかなか本音で言えないと思うのです。たとえば、9時~5時の勤務時間の中で、堅苦しいオフィスにこもっていて、新しい商品のアイデアが出るのかと。だったら、普段着で外に出て、山の中でワイガヤしたほうが効果が出るのではないでしょうか。
実際、「業務合宿」のようなスタイルで、中長期的な経営方針やサービス企画をリゾート施設で集中検討する会社もあります。今回の本のテーマでもあるコラボレーション、コミュニケーションについても、書籍や講演などでいつも「手を変え、品を変え」とお伝えしていますが、分析的な発想で臨むより、エンタメのような要素を取り入れたほうが、自由な発想や意見が生まれやすいことは多々あります。この本をきっかけに、いつもの職場の景色を変えていってほしいと思います。
「仕事ごっこ」は「やりたくない仕事」ではない
- 「『仕事ごっこ』をなくすとは、やりたくない仕事をやめることでしょうか?」
そのように捉える方もいるのですが、それは誤解です。
よく槍玉に挙げられるのが会議ですが、会議が必ずしも悪いわけではありません。会議を重ねることで、正しく新しいアイデアが生まれるならば、やったほうがいいでしょう。
あるいは、修行のような事務手続きをなくして、そのぶん雑談を増やしていく。お互いを知ることで、信頼関係を築いていき、仕事をしやすくする。それはヘルシーなことだと思うんです。
- 「自社がどこで価値を出すのか?」
- 「どんな“らしさ”を評価していくのか?」
それを考え、話し合いながら、(その組織において)なにが「仕事ごっこ」で、なにが「仕事ごっこ」ではないのかを、主体的に判断していってほしいのです。
とはいえ、何を「仕事ごっこ」と疑えばいいのか、指針が必要ですよね。私は、「仕事ごっこ」を以下のように定義しています。
- 生まれた当初は合理性があったものの、時代や環境や価値観の変化、および技術の進化にともない、生産性やモチベーションの足をひっぱる厄介者と化した仕事や慣習
- コラボレーション、ひいてはその組織とそこで働く人の健全な成長を邪魔をする形骸化した仕事や慣習。あるいは、仕事のための仕事
ビジネスにおけるコミュニケーションやスピードの邪魔をするもの。ひとことで言うならば、「コラボレーションを邪魔するものをなくせ」です。
組織がアップデートされないと、従業員や取引先もアップデートされない
技術の進化に伴い、相対的にそれまでの仕事のやり方が陳腐化することはよくあります。たとえば、FAXは出たときは画期的でした。手書きしたものが一瞬で送れる手段はありませんでしたから。でも、今はどうでしょう。それにとって代わる電子メールがあります。そして、メールでさえ、今や
- 「ビジネスチャットを使うほうがいいのでは?」
- 「クラウドサービスを使うほうがいいのでは?」
などと、コラボレーションのスピードを阻害するものとして捉えられるケースも。
紙書類や事務手続きの嵐で疲弊する職場はまだ多いですが、最新技術で作業を代替することでスリム化できている自治体官公庁もあります。旧来の非効率なやり方を続ける企業は、新しいやり方を取り入れている他社に比べて、相対的に遅れをとることになります。結果として、コラボレーションできない残念な組織になってしまうのです。外を見る。技術に敏感になる。新しい知識を取り入れていく。そのような姿勢が求められます。
組織がアップデートされないと、その従業員やお取引先もアップデートされないことになります。大企業でも「45歳でリストラ」という話が話題になっていますが、特定の組織の“あたりまえ”にあわせて仕事をしていたら、ある日突然「あなたはいらないよ」と言われてしまう時代なのです。そんなときに、ほかの環境で仕事ができるかどうか。エンプロイアビリティ(雇われるに値する能力)があるか。ともすれば、組織と個人がなかよく共倒れになってしまう。だからこそ、「組織の発展」と「個人のキャリア」、双方の観点で「仕事ごっこ」をなくしてほしいのです。
「業務デザイン」の発想もあわせて、すべての人が本来価値にフルコミットできる社会へ
「仕事ごっこ」をなくすのとあわせて考えていただきたいのが、「業務をデザインする」という考え方です。
たとえば、問い合わせ対応。月末になると社員から経費の申請がくるが、ミスの差し戻しが多い。経理担当と社員、お互いの時間が奪われるけれど、仕方がないことだと割り切っている。社外の方から問い合わせやクレームがあれば、営業であっても、経理であっても、技術者であっても、「対応するのがあたりまえ」と考えて仕事をしている。そんな組織も少なくないのでは?
「問い合わせに対応するのがあたりまえ」の世界だと、毎回答えざるをえません。でも、
- 「そもそも問い合わせを減らす、なくすにはどうすればいいのか?」
という発想もあります。実際に、
- 「画面のデザインを直感的なものにしたら、操作のミスが減って、問い合わせが少なくなった」
- 「社内報や会社のポスターで操作法を掲示したら、問い合わせが3割減った」
といった事例もあります。まさに「デザイン(設計)」の観点です。私の著書の『業務デザインの発想法』でそういった観点を体系化してあります。
そもそもの問い合わせがなくなれば、その時間を利用者もスタッフも有意義に使えますし、ストレスもなくせます。余白の時間、自由な時間が増えることで、自分たちの本来価値を発揮するのことにより時間を使いやすくなります。
そんな観点で、「仕事ごっこ」をなくし、業務をリ・デザインしていってほしいと思います。
すべての人が本来価値にフルコミットできる社会に向けて!