2014年は、日本のソーシャルネット分野を牽引し、ソーシャルネットコミュニケーションの概念を浸透させた最大のサービス「mixi」が登場してちょうど10年目を迎えます。今年のソーシャルネットおよびソーシャルネットコミュニケーションがどうなるのか、展望してみます。
なお、技術的観点・利用シーンから観たソーシャルネット、ソーシャルWebの展望については、田中洋一郎(よういちろう)さんが「2013年のソーシャルWeb 」で取り上げていますので、そちらもぜひご覧ください。
ノンバーバル/ライトコミュニケーションがより一層強く――スタンプ文化が他のソーシャルネットにも
まず、ソーシャルネット全体を見たときに、とくにコミュニケーションでの観点で年々際立っているのが、「 ノンバーバル 」「 ライト 」の概念です。
この点については、一昨年、昨年の記事「2012年のソーシャルネットコミュニケーション 」「 クローズドとアーカイブに注目――2013年のソーシャルネットコミュニケーション 」でも紹介してきていますが、LINEの普及によって「スタンプ」の利用が進み、そして、Facebookが浸透させた「いいね!」ボタンの気軽さが、ユーザに浸透している結果だと言えるでしょう。
スタンプ(Sticker)は他のソーシャルネットにも
とくに「スタンプ」を利用したノンバーバルコミュニケーションは、LINEだけにとどまらず、他のソーシャルネットサービスにも派生しています。その1つは、Facebookメッセージにおける「Facebook Sticker」です。アメリカということで、スタンプではなく、ステッカー(Sticker)と表現されていますが、概念は一緒です。この感覚が、日本を越えて欧米のソーシャルネットコミュニケーションにも派生したのは、2013年のソーシャルネットにおける大きな動きの1つと言えるでしょう。
Facebook Sticker。2014年1月1日現在、44種類のStickerが無料で配布されている
他のサービスでは、同じく過去の記事で紹介しているクローズド型ソーシャルネット「Path 」でも、ステッカー(スタンプ)の提供を行っており、こちらは、Facebookと異なり、メッセージングだけではなく、ソーシャルネットコミュニケーション(他のユーザへのポストに対する反応)で利用可能にするなど、よりノンバーバルなコミュニケーションを推奨していると言えます。
Pathのステッカー。2014年1月1日現在、有料・無料合わせて50種類のステッカーがある。なお、Pathは年間プレミアム会員制度を用意しており、年間14.99USドル(1,500円)を支払うと、有料ステッカーや有料カメラフィルタを利用し放題となる
感情表現はどうなる?
一方のライトコミュニケーションに関しては、「 いいね!」の次の動きが見えてきました。その1つが、2013年12月にFacebook社内で行われたイベント において発表された「sympathise」ボタンです。
sympathiseとは、「 理解する」「 同情する」「 共感する」といった意味合いを持つ英単語です。今後開発が進み、実装されたとして、日本では単語の理解によって曖昧さが強まりそうな懸念はあるものの、これまで用意されていた「いいね!」が使いづらかった友人のポスト(ポジティブな内容ではなかったり、悲しい内容など)に対しての意思表示が促進されることが多いの予想できます。このボタンが実装されることで、ソーシャルネットコミュニケーションにおける感情の濃淡が表現できる ようになるのではないでしょうか。
前述のPathでは、すでに「いいね!」以外のボタン(アイコン)が用意されている。「 smiled」「 laughed」「 gasped」「 frowned」「 Loved」の5種類で、感情の濃淡が表現できるようになっている
画像や動画を通したソーシャルネットコミュニケーション
Pinterestの日本参入――インタレストグラフと画像の組み合わせの次
2013年の他のトピックとしては、写真共有型ソーシャルネット「Pinterest 」が日本法人を立ち上げ、日本への本格参入の動きが見えたことを挙げたいと思います。
詳細については、「 インタレストグラフの可能性とビジュアライゼーションの魅力――Pinterest日本代表、定国直樹氏に訊く 」をご覧いただくとして、こうした写真の共有については、これまであった写真共有サイトよりも、「 写真」「 画像」にフォーカスされている点、また、古くから利用されている写真共有型サービスと比較して、今はスマートフォンの登場・進化によって高品質な「写真」「 画像」を共有しやすくなった点の影響が大きくあると考えており、今後の日本での展開に期待しています。
また、こうしたインスタレストグラフ・画像を組み合わせたソーシャルネットの場合、コマースとの親和性が高いので、そこで生まれるコミュニケーションがどうなるのかも気になるところです。
動画を通じたソーシャルネットコミュニケーションも活発に
ニコニコ動画を利用したコミュニケーションも注目したいものの1つです。ニコニコ動画は年々利用者数が増え、2013年6月時点で無料ユーザ(登録)数は3,415万人となっており、有料ユーザは200万人を突破したと発表されています。また、コムスコアの調査(2013年2月発表) において、ニコニコ動画は男女ともに最も高い割合が15~24歳と、とくに若年層に浸透している結果が出ています。
すでにニコニコ動画から生まれた有名人が登場するなど、新しいコミュニティ、ソーシャルネットコミュニケーションが生まれています。この先3年、5年と見ていったときに、ノンバーバルやライトとは異なる、動画を通じたソーシャルネットコミュニケーションがどうなるかに注目したいところです。
まとめ・アーカイブ機能に馴染み始めたユーザたち、その先は検索ではなくシェアに
昨年の新春記事「クローズドとアーカイブに注目――2013年のソーシャルネットコミュニケーション 」の中で、2013年のソーシャルネットコミュニケーションの要素として、まとめ・アーカイブの次に検索が求められると予測しました。しかし、実際はそれほど検索へのニーズが高まったようには感じませんでした。
一方で、まとめに対する意識が高まったように感じていて、先行者としてユーザ数を増やした「NAVERまとめ 」に加え、2013年は「Gunosy 」や「SmartNews 」といったまとめ(キュレーション)メディアが躍進した年と言えます。これ自体がソーシャルネットではありませんが、それぞれのメディアやサービスでまとめられた情報がソーシャルネット上にシェアされ、そこからコミュニケーションが発生するという動きは、2013年のソーシャルネットコミュニケーションの特徴の1つでした。この特徴から見えるのは、ライト(手軽)なまとめやアーカイブ情報に対する意識が高まった一方で、それを検索したり振り返ることは求めない、情報の消費 に加速がかかったということです。この動きは2014年も増えると筆者は予想しています。
ただ、ここで気になるのが情報の扱い、1次情報か2次情報かという点です。そもそもまとめサイト自体が新規の情報を発信するのではなく、世の中に増え続ける情報の中から、ユーザにとって有益あるいは興味がある(と思われる)ものを選別して提供する仕組みになっています。ですから、個人個人の発信とは根本的に異なるわけです。1つの仮説としては、インターネットが登場して個人が発信する場ができ、ブログやソーシャルネット黎明期における情報発信欲というのが薄れてきたことの裏返しかもしれません。
それでも、シェアしたり、いいね!を押すという行為があるのは、情報発信欲が薄れた一方で、承認欲求そのものが減っていない という見方ができ、ソーシャルネット上のコミュニケーションが数年前に比べて変化してきているのかもしれません。
表 筆者が考える1次情報、2次情報の分類
ソーシャルコミュニケーション 情報の分類
いいね!/イイネ!(他人のリンク、まとめ) 2次情報
いいね!/イイネ!(自分のリンク) 1次情報
コメント付きシェア(他人のリンク、まとめ) 1次、1.5次、2次情報
コメント付きシェア(自分のリンク) 1次情報
投稿(文章・写真など) 1次情報
自分だけのタイムラインの考え方
もう1つ、2013年から強く見え始めてきたのが、「 自分だけのタイムライン」という考え方です。その例の1つが、Twitterを中心とした炎上騒ぎ、いわゆるバカッターと呼ばれる行為と、それに対する当人の意識と周囲の反応です。
バカッターと呼ばれているたいていの行為は、社会的に認めてはいけないものばかりですし、実際問題、道義上問題があるものが多くあるでしょう。一方で、実際にその行為をしているユーザにとっては、「 あくまで自分たちの周りだけ」=「友人同士のコミュニケーションの一環」という思いが強いのではないかと筆者は思っています。結果、誰にも見られていない“ 「自分だけのタイムライン」が存在している” という誤った認識が、そのユーザにはあり、実際は、自分以外の誰かに見られている状況が、炎上につながっていくわけです。
この点については、先ほど述べた、情報発信欲が薄れていることにもつながっているのではないかと筆者は考えています。また、炎上騒ぎに関しては、当人以外の周辺ユーザが必要以上に騒いでいる部分が大きいとも感じていて、「 その騒ぎを見つけた自分の表現」という、承認欲求につながっているのではないかと思っています。
2014年は日本でソーシャルネットが登場してから10年目――The Next Decade
最後に、2014年のソーシャルネットコミュニケーションについて展望します。
2014年は日本のソーシャルネットが生まれて10年目の年
2014年は、日本のソーシャルネットが登場してちょうど10年を迎える年です。今から10年前の2月、日本最大のソーシャルネットとなったmixiが誕生しました。当時の日本では、Googleが開発したorkut というソーシャルネットサービスが、一部のアーリーアダプターに使われ始めていて、まだまだソーシャルネット(SNS)という概念が一般化していない時代でした(余談ですが、このorkutはGoogleの20%ルールで登場したサービスで、今もなお運営されています) 。
それから10年という月日が立ち、日本ではSNSという概念が一般化した後の、2007年の第1次Twitterブーム、2009年の第2次Twitterブーム、2010~2011年のFacebook登場、2012年のLINEおよびLINEタイムラインという流れが生まれています。この10年で、ソーシャルネットを通じて、次のような単語と概念が生まれました。
表 ソーシャルネットを通じて生まれた概念・単語
グラフ(つながり)
リアルグラフ
ソーシャルグラフ
インタレストグラフ
アイデンティティ(名前)
実名(ハンドルネーム)
匿名
自己顕示・承認欲求
いいね!/シェア
足あと
タグ付け
これらは、ソーシャルネットを表現する上で生まれた単語ですが、突き詰めていけば、ソーシャルネットにかぎらず、実際の社会、人と人とのコミュニケーションにも存在するものです。それらが、言葉として認識され、そして、コミュニケーションのインフラになってきたということは、ソーシャルネットが一般化してきた事実ではないかと思います。この状況を生み出した存在として、mixiが担ってきている役割は非常に大きかったと、筆者は改めて思います。
ソーシャルネット新世代登場
とは言っても、日本全国でソーシャルネットが使われているわけではありません。たとえば年齢が上の世代にとってはそもそもソーシャルネットを使わない数のほうが多いわけですし、今の20代より下の世代はLINEによるメッセージングコミュニケーションがメインで、ソーシャルネットを通じたコミュニケーションは行わないユーザが数多くいるかもしれません。
とくに、最初のツールとしてLINEに触れた世代とっては、mixiあるいはFacebookにまったく触れていない可能性があるわけです。そして、LINEを通じ、LINEタイムラインが初めてのソーシャルネットコミュニケーション体験だというユーザが今後増える可能性はあります。この点については、LINE株式会社CSMOの舛田淳氏が、2013年8月に開催された「LINE-Hello, Friends in Tokyo 2013- 」のプレゼンテーションでも触れており、mixiを知らない、次の、ソーシャルネット新世代が登場する時代になったと言えるでしょう。
ここで、mixi登場と同じく10年前の2004年11月に公開されたFlashムービーを紹介します。
30代中盤以降でWebやIT業界に携わっていた方であれば一度は観たことがあるかもしれない、「 EPIC 2014」に関するムービーです。これは、2004年当時、10年後となる2014年時点の架空の「メディア史博物館」が持つ視点を描いた内容であり、Googleニュースのような人気のあるニュースアグリゲーターやブロギング、ソーシャルネットといった技術の収束が与える影響、その結果、ユーザが仮定的な未来でジャーナリズムや社会に大々的に参加できることを扱った内容となっています。この中に登場する、「 Googlezon」というのは、GoogleとAmazonから生まれた造語で、インターネットにおける検索とレコメンドの組み合わせが与える影響の可能性について、架空のストーリーが描かれたものとなっています。
引用:2014年のメディア史博物館が作成した(という想定の)メディアヒストリー史ビデオ。2005年以降は仮想のストーリーです。2004年制作。( CC CC BY-NC-SA 2.1/表示-非営利-継承 2.1)
guided by Kensuke Suzuki, sociologist
2014年が、この内容どおりに近づいているかどうかというのは意見が分かれるところかと思いますが、筆者としては「人は興味以外のことは気にしなくなる」といった部分はそのとおりになってきていると感じていて、それがまとめ系メディアの登場であったり、上記で述べた自分だけのタイムラインの考え方なのではないかと思っています。
一方、Googlezonでは触れられていなかった、( 自分だけのタイムラインなどネット上の情報は)覗かれるという部分、また、ここ数年のスマートフォンおよびインフラの普及による、全活動時間のインターネット化というのは、EPIC2014では想定されていなかったことで、それが2014年のソーシャルネットコミュニケーションの実情になっていくのではないかとも思っています。
少し発散してしまいましたが、ソーシャルネット登場から10年、新しいサービスや技術の進化により、次の10年に向けた動きが見えてきました。それでも、ソーシャルネットを使うのは人であり、コミュニケーションの本質は人と人とのつながりです。これから数年は、このつながりにおいて、経験値の差というのが顕著に見え、ソーシャルネットコミュニケーションに影響を与えるのではないかとも考えています。
また、この先は、今の子どもたちが各種デバイスに触れる瞬間からソーシャルネットが在ることがあたりまえという仮定も考えられます。そのときにソーシャルネットが健全に使われるための環境づくり、たとえば使い方を含めた教育や考え方の共有ということが、ソーシャルネットの次の10年に求められていく課題ではないかと考えています。