新春特別企画

LibreOfficeの2018年振り返りと2019年

新年あけましておめでとうございます。

今回はオープンソースのオフィススイートであるLibreOfficeにしぼって昨年あった象徴的な出来事を、特に新機能に関することを中心にいくつか紹介します。LibreOfficeの魅力はなんといってもその巨大なコミュニティで、開発力も相当なものであることが理解していただけるはずです。

注意
本稿で記述している日付はJSTであったりUTCであったり、はたまたほかのタイムゾーンであったりするため、最大で1日程度の差があることをご了承ください。また多数リンクがありますが、中にはご覧になっている時点でリンク切れのものもありえます。こちらもあらかじめご了承ください。

2018年のLibreOffice

リリース状況

LibreOfficeは昨年もたくさんのリリースが行われました。以下が一覧です。開発版は含んでおらず、あくまでリリース版のみです。

リリース日 バージョン
1月31日 6.0.0
2月9日 6.0.1
2月9日 5.4.5
3月1日 6.0.2
3月22日 5.4.6
4月5日 6.0.3
5月9日 6.0.4
5月17日 5.4.7
6月22日 6.0.5
8月2日 6.0.6
8月8日 6.1.0
9月13日 6.1.1
9月27日 6.1.2
11月5日 6.1.3
11月5日 6.0.7
12月18日 6.1.4

このように昨年と同じく16回のリリースが行われました。ちなみに6.0.7は11月26日にサポートが切れています[1]⁠。

LibreOffice 6.0のリリースと新機能

昨年の大きなトピックは、LibreOffice 6.0がリリースされたことでしょうリリースノート⁠。5.0がリリースされたのが2015年8月5日なので、約2年半ぶりのバージョンアップになりました。とはいえLibreOfficeはタイムベースリリースであり、バージョニングはマーケティングの都合によって決定されています。

LibreOffice 6.0は正直なところ、バージョニングに見合う大きな変更点はないといっていいでしょう。そのぶん6.0(あるいはその前)の段階で開発中だった機能が6.1や6.2など、その後のバージョンで有効になるケースが見受けられました。これは過去にはない動向です。

具体的には次のような新機能が該当します。

  1. WriterのEPUBエクスポート機能(6.1)
  2. Calcのマルチスレッドサポート(6.1)
  3. BaseのバックエンドデータベースをFirebirdに変更(6.1)
  4. Baseのデータベースを従来のHSQLDBからFirebirdに移行する機能(6.2)
  5. ユーザーインターフェースの変更機能(6.2)

括弧内の数字は、実際に有効になったLibreOfficeのバージョンです。もちろん6.2はまだリリースされていないので、あくまで予定です。

充分に安定したという合意が得られないと機能を有効にしない[2]⁠、有効にしない場合でも次のバージョンは半年後にリリースされるので再検証する、という柔軟性は充分なテスターがいることを示し、プロジェクトがうまく回っているひとつの証左かと思います。

なお、1.の詳細に関して興味がある場合はUbuntu Weekly Recipeの「第534回 LibreOffice 6.1 WriterのEPUBエクスポート機能を使用する」を、2.に関しては筆者のブログ記事をご覧ください。

Qt/KDE5サポート

LibreOfficeはマルチプラットホームなアプリケーションですが、GUIのルック&フィールは各プラットフォームに合わせるべきです。とはいえ各プラットフォームごとに専用のルック&フィールを提供するウィジェットを用意すると大変です。そこでLibreOffice(とそのフォーク元であるApache OpenOffice、さらに前身のOpenOffice.org)ではVisual Class Library (VCL)というライブラリで抽象化し、プラグインとして実装しています[3]⁠。

例として、図1はUbuntu 18.04 LTSで起動したLibreOffice 6.2.0の開発版(RC1相当)ですが、デフォルトでGTK+3のVCLプラグインを読み込んでいます。これを環境変数でどのプラットフォーム(デスクトップ環境)でもないVCLプラグインに切り替えると、図2になります。各プラットフォームに合わせる重要性がよくわかります。

図1 Ubuntu 18.04 LTSでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ
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図2 Ubuntu 18.04 LTSで何にも該当しないVCLプラグインを読み込んでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ。ファイルダイアログもLibreOfficeで用意しているものになる
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本題ですが、LibreOfficeにおいてGTK+サポートは充分に行き届いているものの、KDEサポートは充実しているとは言い難い状況でした。LibreOffice 6.0まではKDE4のみのサポートで、Qt/KDE4はすでに公式なサポートは終了しているものの、Qt/KDE5のサポートは依然開発中でした。なおQt/KDE4とは異なりQt/KDE5はQt5とKDE5という別々のVCLプラグインとして用意されており、前者はUnix系OSでなくても利用できるように開発されています。

そんな中、6.1からほぼGTK+3をベースにファイルダイアログのみKDE5というVCLプラグインが開発されました図3⁠。ルック&フィールはほかのKDE5アプリケーションとは乖離があるものの、日本語の入力もGTK+3によるものになるという副次的な効果もあり、KDE5サポートが完成するまでの暫定対応としては悪くないと考えていました。

図3 Kubuntu 18.04 LTSでダイアログのみKDE5、そのほかはGTK+3のVCLプラグインを読み込んでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ。なおこのVCLプラグインは少なくとも6.2のTDFオフィシャルパッケージではビルドされておらず、このスクリーンショットは筆者の独自ビルドによる
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ところが6.2からは、Qt5とKDE5の両方のVCLプラグインがデフォルトでビルドされるようになりました図4図5※4⁠。図6はKDEでGTK+3プラグインを有効にしたスクリーンショットです。比較してみてください。

図4 Kubuntu 18.04 LTSでQt5のVCLプラグインを読み込んでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ
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図5 Kubuntu 18.04 LTSでKDE5のVCLプラグインを読み込んでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ
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図6 Kubuntu 18.04 LTSでGTK+3のVCLプラグインを読み込んでLibreOffice 6.2.0(開発版)を起動したところ
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Qt/KDE5サポートは、もともとミュンヘン市[5]のJan-Marek Glogowskiさんによって進められていましたが、LibreOfficeサポート企業のCIBも開発に参加したことにより、実用段階に達したと判断されたのでしょう。とはいえ残念ながら日本語が入力できないという問題が報告されています。その後Qt5のVCLプラグインで入力する機能が実装されましたが図7⁠、コミットログにもあるとおり初期段階で、さらなる開発が待たれます。

図7 LibreOffice 6.2.0の開発版でVCLプラグインをQt5にし、日本語を入力しているところ。文節の区切りが表示できておらず、違和感がある
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例としてQt/KDE5のVCLプラグインを取り上げましたが、ほかにもWriterの変更履歴保存機能やヘルプなど、いままであまり手が加えられてこなかった部分に関して大がかりな変更が継続して加えられています。

LibreOffice Conference 2018

昨年のLibreOffice Conference 2018はアルバニアのティラナで行われました。今回もレポートが掲載されています(有料⁠⁠。前出のQt/KDE5サポートの様子が記されたスライド資料も公開されています。

その後ティラナはLibreOfficeへの移行を発表しました。

日本での動き

日本でのコミュニティ活動は、筆者も所属するLibreOffice日本語チームが主体となっています。活動の様子をいくつか紹介します。

5月18日にLibreOffice Kaigi 2018が大阪で開催され、筆者も登壇しました。こちらもレポートが掲載されています(有料⁠⁠。

各地で行われているオープンソースカンファレンスにも積極的に参加しており、中には筆者がセミナーに登壇することもありました。また同じく各地で勉強会も開催されており、12月9日に開催された第8回九州LibreOffice勉強会は、台湾と韓国からゲストを迎え、興味深い発表がありました。このときのレポートが英語で公開されています。

日本国内で行われるイベントであってもThe Document Foundation(TDF)などのスポンサードにより旅費が援助されています。TDF自体はもちろん皆様による寄付で支えられています。

2019年のLibreOffice

改元対応

LibreOfficeで和暦を使用されている方がどの程度いるのかはよくわかりませんが、6.2では今年5月に予定されている改元に対応しています。もちろん平成31年1月の段階では新しい元号は公表されていないため、本記事の公開時点では仮対応です※6図8⁠。

図8 例として2019年5月1日を和暦にした。右側中央に例が表示されている
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時期的には、早ければ5月にリリースされる6.2.4から新元号に本対応するものと思われます。和暦を使用している場合は、6.2へのアップデートを早めに検討ください[7]⁠。

LibreOffice 6.2リリース

今年1月下旬あるいは2月上旬(おそらく後者)に6.2のリリースが予定されています。リリース直前に変更される可能性はありますが、大きな変更点として、さまざまなユーザーインターフェースに切り替える機能(ノートブックバー、あるいはMUFFINが有効になる予定です図9⁠。長い時間をかけて開発されただけあってだいぶ洗練されたものになっており、このユーザーインターフェースの変更によって何らかのパラダイムシフトが起こるのか、あるいは何も起きないのか、今後の動向に注目していきたいです。

図9 ⁠表示⁠⁠-⁠ユーザーインタフェース」「タブ」にしたところ。昨年の記事の図3と比較して、かなり変わっていることがわかる
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