こんにちは。グラフィックファシリテーターのやまざきゆにこです。前回は、本音を言える安全な場をつくるために、あの手この手の仕掛けをご紹介しました。そしてあの手この手で本音が、特に不平・不満が聞こえてきたら、議論が[他責]から[自責]に切り替わっていくと、第18回で述べました。今回は、そんなポロッと聞こえてきた不平・不満を、実際に逃さずキャッチして、 [紙に定着]させることを実践してみましょう!というお話です。
ふつうなら書き留めない不平や不満こそ、聞こえてきたそばから、紙やホワイトボードの隅でいいので、みんなの見えるところに書き留めてみてください。参加者の発言の中から面白いぐらいにその不平や不満が減っていきます。消えていきます。逆に書き留めておかないと、いつまでたっても出来ない理由や愚痴が繰り返されてしまう。ネガティブな発言こそ紙に定着させるということが、会議の結論や決定事項のその後の実行力まで変えていきます。絵にできなくても、その文字のまま書き出せます。今日の会議からぜひ、まずはホワイトボードの隅に描きとめるところから始めてみてください。
不平・不満こそ[紙に定着させる]のススメ
まずは、私が不平・不満を聴いて描いた絵を紹介します。
左の絵は、ある研修で、現状の問題点について語り合う管理職の人たちから聞こえてきた「トップダウン」という言葉。社長の発言が、雷のように社員に向かって落ちているイメージの絵になりました。点線のフキダシの中は、社員たちが声に出しては言えていない、蓋をした本音、心の叫びです。
右の絵は、社長や本社の経営ボードからの命令が、一方的に全国の支店にメールで届いている様子を絵にしているうちに「アレヤレ!コレヤレ!」という指示のボールがどんどん投げつけられている絵になっています。 これらの発言の当事者である参加者たちは、机の上に模造紙を広げて、発言のまま、思いつくままに問題点を書き出していました。
書くものが尽きるまで書き留める
少人数のグループに分かれて1つの模造紙に、特に整理などしないで、現状の問題点をランダムに、おしゃべりしながら、言ったそばから書いていきます。このとき、安全な場であればあるほど、筆が進みます。そして参加者は結構、楽しそうです。トップダウンの社長に対して「最後まで話を聞いてほしい」「そうそう!」「たまには、ほめてほしい」「ほんとほんと!」と、書き漏らしがないぐらいに書いていました。
普段いえなかった不平・不満を吐き出して最初は盛り上がるのですが、1~2時間もすると参加者の手元のペンの動きは止まり始めます。そしてある人のペンは「会議が多すぎる」という文字をただ、ぐるぐるぐるぐる丸く囲みながら話を続けていました。
この「ぐるぐる丸囲みをする」という行為がポイントなんです! 新しく何か文字を書くわけでもなく、ただ、ぐるぐるぐるぐる。つまり、他にもう書くことはないんです。ついさっきもこの話をしていた証拠です。同じ話を何度もしているのです。これは、私の筆が止まるのと同じ現象です。普段なんとなく感じている「堂々めぐりの議論」というのを可視化すると、まさに紙の上のこんな“ぐるぐる”状態といえます。しかしここでは[紙に定着]させているおかげで、議論が行ったり来たりソレたりすることなく、次第に“ぐるぐる”とその「会議が多すぎる」に収束していきました。
じぶんの[他責]を俯瞰できると、始まること
実際、そのうちに研修ではこんな声が聞こえてきました。「不満ばかり言っていても何も変わらない」「会社のせいにしてないで、じぶんたちで変えられること考えよう」という[自責]の言葉。「できることから変えていこう」「そもそもどうしてこんなに会議が多いの?」「本当に全部必要?」という議論から「すべての会議を書き出してみよう」ということになり、具体的に会議と資料を大幅に削減することをみんなで決めることができました。
言葉を紙面に一度定着させると、発言がその人から切り離されます。すると、それはみんなのものになります。じぶんだけの個人的な不平・不満だと思っていたことも、「じぶんだけじゃなかった」「みんな思いは同じなんだ」ということを知ります。
そこで、一歩引いてそれらを俯瞰できるようになると、現状が手に取るように見えてきます。そしてそんな不平・不満が実は大していくつも種類がないということもわかってくるんです。(これはどの企業でも驚くことですが)これはものすごくみんなに安心感を与えます。ただ単純に知らないだけだったり、誤解が誤解を呼んだだけだったり。
グラフィックファシリテーションのように絵を描かなくても、文字だけで十分な気づきは得られます。ぜひやってみてください。ここまで研修の例を紹介しましたが、商品開発や新規事業のプロジェクトでも[ネガティブな発言をあえて紙に定着させる]ことをぜひオススメします。
自分の提案に対して耳が痛い指摘や異論、反論は、ホワイトボードの脇に書き添えるか、ポストイットに書いて貼っておく。できれば文字が消えない[紙に定着]させてください。聞き耳を立てて書き出してみると、実行を阻んでいる壁や上司の判断基準が見えてくることもあります。そのプロジェクトの意外な脆さにも気づける “感度”を磨くのにもいい練習になるはずです。
異論・反論から逃げない。聞き流さない。
「それって本当に必要なの?」「その機能があるとだれがうれしいのかなあ」「○○サービスがあったほうがいいよねえ」「でも△△部署が担当なので、無理なんですよね…」etc.
「ダメ出し」や「否定的な指摘」には、ついつい人は耳を塞ぎたくなるし、反射的に「できない理由」を並べて、なんとかその場を乗り切ろうとしてしまう。深く議論せずにさらっと流して終わらせてしまう。でも、その時はうまく取り繕ってみても、いざ他部署にプレゼンに行ってみたら、結局同じところを指摘されたり。だれかがなんとなく「脆いな」と感じて指摘したポイントは、必ず別のだれかにもまた指摘されたりする。
実際に、ある新商品開発のプロジェクトに毎週参加していたとき、私の筆は「同じ絵を確か以前の会議でも描いたな」といったことを何度も体験しました。その会議には毎週入れ代わり立ち代わり関係部署の担当者が出席して、まだ企画段階であるその商品案に質問や指摘をしていたのです。「この絵を描くのは4回目です」と伝えたこともあったほど、みんなどこかそのコンセプトの同じところに脆さを感じていたのです。
そして、プロジェクトを押し進めて行くことができるリーダーはそういった問いかけや一1メンバーのつぶやきに驚くほど敏感に反応します。異を唱えた言葉が抱いた違和感を無視せず、さらっと流すことがありません。そして、脆さに気づいたら徹底的に強固なものにするまで逃げません。議論の相手も離しません。そんな感度を磨くのにも、[紙に定着]させる練習は本当におススメです。
不平・不満、異論・反論もすべては「好き」の裏返し
そして、紙に定着させて俯瞰してみると、もう1つ面白いのは、その瞬間は否定的に聞こえた発言も、「そのプロジェクトがダメ」だと言っていたわけではなくて、ただ「なんとかしたい」思いから出た言葉だったんだと見えてくるところです。
これはグラフィックファシリテーションで描いた絵を振り返って見るときに私が感じることと全く同じ感覚です。「社長が最後まで話を聞かない」という不平・不満も、絵にしていくと、「じつは、みんな会社のことも仕事のことも社長のことも大好き。ただ、今はちょっとスネた子どものよう?」そんな表情に見えてくるんです。同時に、社長の似顔絵が、子供に思いが伝わらず寂しそうな親の顔に見えてきて思わず涙を描き足してみたり。
安全な場で明るく聞こえてくる不平・不満の会話からは、特に「現状をもっとよくしたい」という前向きな気持ちがしっかり伝わってきます。
ただ、そんな前向きな気持ちも、紙に定着させないと、ただ言い放って消えていく愚痴と変わりません。心の中だけ、もしくは独り言のようにつぶやかれる不平・不満は、何の変化も行動も起こしません。せっかくの「好きだから」「もっとよくしたい」「なんとかしたい」という気持ちも伝わらない。
そして、だれにも共感してもらえなかった言葉や、解決されないまま流された言葉は、結局また繰り返されます。誰かにわかってもらえるまで人は無意識のうちに言い続けます。もしくはまた黙って蓋を閉じてしまいます。
とにかく、まずは不平・不満や異論・反論こそ、(例えそのときの議題に沿っていなくても、それがどこまで大事かわからなくても、取捨選択は後でいくらでもできるので)余白に書き留めてみてください。[紙に定着]させて受け取ること。不平・不満、異論・反論は繰り返されなくなります。
そして、[紙に定着]させて、改めて「みんなで」「俯瞰」することで、堂々巡りの会議や、なんとなく収束しない、意思統一がはかれない、そんなだらだらと長引く会議を短縮してみてください。「できない理由」や「ダメ出し」「否定的な発言」をきっかけに、合意形成や決断を速めてみてください。紙に定着させることは、遠回りのように見えて、じつは未来への近道なんです。
ということで、第18回から会議を惑わす[他責な発言]について4回に渡って扱ってきましたが、次回はがらりと変えて、「お金のなる木」ならぬ、「お金のなる絵」について書いてみようと思っています。お楽しみに!
グラフィックファシリテーターのゆにでした(^-^)/