こんにちは。グラフィックファシリテーターやまざきゆにこです。前々回から引き続き「絵巻物思考」の練習問題を用意しました。今回は特に[ネガティブな表情+セリフ]に絞って書き出してみましょう。とにかくホンネの見える議論は、みんなを、あなた自身を、ワクワク楽しい気持ちにさせてくれます!
なぜ、みんなの心は動かない?
次の4つはいずれも、話し手の伝えたい内容が、聞き手の心に響かなかったという実話です。部長がメンバーに、いくら素晴らしいビジョンを語っても伝わらない。営業マンがクライアントに、いくら商品の良さを説明しても買ってもらえない。そんなときに、聴き手であるメンバーやクライアントのホンネ[ネガティブな表情+セリフ]を想像して書き出してみましょう、というのが練習問題です。仮説で構いません。心の中ではどんな[ネガティブな表情+セリフ]をしているのか。彼らの本当の気持ちに思いをめぐらしてみると、彼らが行動変化を起こさない大きな理由が見えてきます。
- 練習1)未来の通勤が変わります!スマートコミュニティ
- 研究者や技術者が集まって、技術の進化をとても楽しそうに語り合っていました。「満員電車の通勤とは無縁の、田舎暮らしの生活を実現。会議で都内の本社へ出社するときは、ご近所さんと自動運転車をカーシェアして出かけていく。久しぶりに会った同僚と飲んで終電に乗り遅れても、ご近所さんと連絡をとりあって、自動運転車で安全に楽に帰宅できる。そんな移動手段が当たり前な時代になる」とのこと。しかし……後からそれを聞いた事業部の人たちはその未来に「いいね!」と即答できませんでした。逆に「ウ~ン…」と黙ってしまいました。なぜでしょう? 彼らのホンネ[ネガティブな表情+セリフ]とは?
- 練習2)部下の話を傾聴します!
- 40代~50代の管理職が50人ほど集まった研修の、その日のテーマは部下マネジメント。「傾聴」について講義を受けていました。管理職のみなさんの感想は「自分が日頃いかに部下の話を聴いていないかを実感しました」「今日から部署に戻ったら早速、部下の話を傾聴します」と意思表明までして研修は終わりました。しかし……結局、部署に戻った多くの部長はいつもと変わらぬマネジメントスタイルに戻っていました。なぜでしょう? 研修当日の管理職のみなさんのホンネ[ネガティブな表情+セリフ]とは?
- 練習3)当社は女性活躍を推進します!
- 会社が主催する「女性活躍推進プロジェクト」のキックオフに全支店から集められた80人の女性たち。彼女たちに対して、経営トップから次のようなコメントがありました。「当社は、女性にとって働きやすく、女性が活躍できる会社として、女性のキャリア形成を支援し、管理職への積極的な登用を進めます」。しかし……当の女性たちの目線は冷ややか、表情は曇っています。なぜでしょう? 彼女たちのホンネ[ネガティブな表情+セリフ]とは?
- 練習4)当社のクラウドサービスで御社のワークスタイルの変革を促進します!
- ある応接室の一室で、営業はパンフレットを広げて、クライアントにシステム導入後のメリットを述べています。「安心安全なクラウド型Web会議システムで、外出先からでも自宅からでも会議に参加できます。ワークライフバランスを実現します」「会議室を予約する手間も省けます。集合時間を調整する時間もストレスも軽減します。業務効率を上げ、生産性を上げます」。しかし……クライアントは腕を組んで眉間にシワを寄せて困った表情をしています。なぜでしょう? クライアントのホンネ[ネガティブな表情+セリフ]とは?
みんな本当はもっとホンネの議論がしたい!
さて、どんな[ネガティブな表情+セリフ]が描けましたか。冷めた反応の女性たちや何の行動変化も起きなかった部長さんたちのホンネは見えてきましたか? それぞれ実際の会議では、次のような絵を描いていました。
練習1)未来の通勤が変わります!スマートコミュニティ
ご近所さんとカーシェアする話は、どこかで聞いたことのある未来ですが、賛同が得られないビジョンがあったら、[ネガティブな表情+セリフ]から見直してみるべきです。
ある女性はこう言いました。「車内の空間では狭過ぎる。近過ぎてイヤ!」「夜はもっとイヤ。ご近所さんに酔ったところなんて見られたくない」「私だったら乗らない」。その言葉を聞いた他の人たちから「確かに!」と多くの共感がありました。
昨今、技術から発想するのではなく、未来のありたい姿から語り合おうという場がだいぶ浸透してきました。「人間中心発想」で「デザイン思考」を導入しようとか、「シナリオプランニング」「行動観察」「ユーザーエクスペリエンス」といった観点から、未来の新しい価値を見つけようというもの一般的な考え方になりつつあります。
それでもまだまだ絵に描いてみると、多くの会議では心からワクワクしない未来を平気で語っている。机上だけの[他人事]の議論が数多く存在しているとも言えます。
ビジョンにどこか心から賛同できないモヤモヤしたものを感じたら、ネガティブな気持ちをあえて探ってみてください。「自分だったら」本当に乗るか?「自分は」そんな未来を本当に心から望んでいるのか? [自分事]として、その状況を思い浮かべてみれば、ホンネの[ネガティブな表情+セリフ]も意外と簡単に書けてきます。
練習2)「部下の話を傾聴します!」
この研修の現場で、わたしは正直、ハートが描けずホトホト困っていました。
「本当にやるのかなあ」わたしの心の中の[ネガティブな表情+セリフ]は上の絵のとおりでした。
「傾聴」という言葉だけが一人歩きしていて、具体的な話は何も聴こえてこない。部長さんたちが「傾聴」「傾聴」と言えば言うほど、わたしの耳には「ケーチョー」「ケーチョー」とカタカナにしか聴こえてこなくなり、まるでカラスが「カーカー」と言っているようで……次のような絵になってしまいました。
- 「みなさん本当に部署に戻ったら、部下の話を黙って聴けますか?」
そんな私の問いかけに、その日はみなさん苦笑いしたまま、研修は終了しました。その後、行動変化が見られなかったその研修は、内容そのものの見直しがされたのですが、そのとき人事部との振り返りの中で、受講生のホンネは、次のようなものだったのではないかという話が挙がりました。
[ネガティブな表情+セリフ]に書けるホンネには、実行されない理由が見えてきます。
練習3)当社は女性活躍を推進します!
「女性活躍推進」というテーマの会議は本当に増えました。社外からロールモデルとなる女性を呼んでの講演会や、社内の先輩女性社員を囲んで話をする機会など、さまざまなプログラムが、あの手この手と用意されています。しかし、本気で彼女たちの活躍を応援するなら、まずは[ネガティブな表情+セリフ]を共有してあげてほしい。
次の絵は実際に、ある大手企業で「女性活躍推進プロジェクト」をお手伝いしたときに描けたものです。全支店から集められた女性社員80人のワークショップで、まずは思い切り[ネガティブな感情]の共有からスタートしました。
この共有はとっても盛り上がりました。各テーブルから笑い声が聴こえました。
「そうそう!」「わかる!」「わたしもそう思ってた!」
同じ[ネガティブな感情]を共有できると、必ずといっていいほど皆さん笑顔になります。みんなの心を一気に1つにするネガとは、本当にいいものです。
もちろん「愚痴って終わり」ではありません。この連載ではさんざんお伝えしていますが、ネガこそポジの裏返し。なんとかしたいポジがあるから愚痴も不満も出るわけです。ネガティブな気持ちを吐き出し切った先に、じぶんたちが心から望むありたい姿がこの日も見えきました。
- 「下駄を履かされたと言われないよう、だれもが認める実績をあげて管理職になりたい」
- 「男性陣たちも戸惑っているんですね」
- 「しょうがない! わたしたちがリードしてあげるか(笑)」
なんとも頼もしい声の数々でした。[ネガティブな表情+セリフ]にこそ、本当のポジ、自責に立ったハートが見えてきます。
練習4)当社のクラウドサービスで御社のワークスタイルの変革を促進します!
これは前回紹介した営業部門の悩み事です。営業がいくら提案してもクライアントの心がつかめない理由は、[ネガティブな表情+セリフ]を探れば見えてきます。
実際、営業戦略を話し合う会議では、システム導入のメリットをいくら聴いても、そのシステムを使って喜ぶ社員の絵が描けず、本当に困りました。「業務効率や生産性があがるとは具体的にどんな絵を描けばいいの?」という疑問が湧いてくるばかり。そこで描けたのは、ふと思い出した次の絵でした。それは、ある別の会議で海外出張の多い商社の方たちが、自分のパソコンに搭載されたWeb会議システムのアイコンを指差して話していたことです。
すると、この絵を見て、営業の方たちから失笑が漏れました。「確かにね!」「オレも嫌だね!」「喫茶店にいるときぐらい1人にしてほしい」という声も挙りました。
[ネガティブな表情+セリフ]を書くというのは、なんだか意地悪な気持ちになるかもしれませんが、その人をラクにしてあげられる魔法のツールでもあるのです。ビジネスライクな話ばかりではなく、みんな本当はホンネの会話がしたい。それは恐らくクライアントさんも同じ気持ちなのです。「本音はそうだよね」というところから始まると、クライアントの心も開いて、もしかしたら向こうから「大事なのは使い方だよね」「介護を理由に辞めていく人を引き留めることができるかもしれないな」なんて話を聞かせてくれるかもしれません。一方的に提案するのではなく、会話のキャッチボールから、営業チャンスが見えてくるのではないでしょうか。
多くの会議が陥っている「のっぺらぼう」なヒトの会話
4つの実話はいずれも、絵に描こうとしたら[人]が描ける話です。「ご近所さん」「部下」「女性」「社員」。けれどこうして「絵にならない」議論に多くの会議が陥ってしまっているのはなぜか。
その原因の1つは、それぞれの会議でもらった営業パンフレットや研修資料、未来ビジョンに描かれた絵にあると思いました。それは「人」は描けているのだけれど「表情がない」、次のような絵であることでした。
もちろん中には、きちんと洋服を着ていて、顔もあって、髪の毛も描けている絵もあります。しかし表情はいずれも1つです。
こうした絵からわかるのは、[人]の話をしているつもりでも、頭の中では表情が一つか、もしくは表情すらない「のっぺらぼう」のまま議論をしているのでは?ということです。つまり[情報の共有]はしているけれど[感情を共有]はできていない。だからその[人]の気持ちも、どこかつかみきれないでいるのでは。
相手にどうも伝わっていないなと感じたら、せっかく[人]が描ける話をしているのだから、もう一歩つっこんで[表情+セリフ]にまで落とし込んで話をしてみてください。特に[ネガティブな表情+セリフ]というホンネの見える話し合いは、[人]の心をつかむ近道になるはずです。
さて次回は、[表情9]にもう1つ便利な絵を追加します。究極の感情共有ツールといってもいいでしょう。それを使って、深く思いを共有できた組織や地域の実行力には目を見張るものがあります、という話です。お楽しみに。