今回は、PoICを楽しく、長く続けるための、ちょっとしたコツについて考えてみます。
朝のマインドスイープ
私は朝、会社に着いてからの30分をカードを書く時間に当てています。カードの書き始めは、なるべくパソコンの電源を入れる前にします。カードを書くのを後回しにすると、そのまま夕方まで一枚も書かないで終わることがあるからです。小さくても良いので、朝の段階で「きっかけ」を作っておきます。
私の一日のカードの書き始めは「日記」です。日記は単なる記録なので、何を書こうか悩む必要が全くありません。その日の天気や、朝の出来事、睡眠の状況などを一枚の記録カードに書きます。
日記をカードを書いているうちに、「そういえばこんなことも考えた」と、連鎖反応のように頭に浮かんできます。これを一つ一つ、記録カードや発見カードに書いていきます。書いたカードは、ドックやicPodに入れていきます。野帳に書いた内容の転記もこの時に行います。
その日にやるべきことがあれば、GTDカードに書いて、他のカードとは仕分けておきます。一緒にすると埋もれてしまうので、机の上に広げておきます。そして、処理が終わったところでドックやicPodに入れるようにします。
この時間は、生活・仕事に関係なく、とにかく思い浮かんだことを全てカードに書いていきます。これをGTDの言葉を借りて「マインドスイープ」と呼びます。頭や心の中(マインド)を全て掃き出した(スイープ)段階で、仕事に取り掛かります。
野帳の使い方
野帳は第2回の連載で紹介しました。野帳は肌身離さず持ち歩き、思い立った時にいつでも取り出して書きます。私はいつもワイシャツの胸ポケットに入れて持ち歩いています。定位置を決めておくと、忘れた時にすぐ気付きます。
PoICの中の情報は、最終的には全てドックに集約されます。野帳を書く時は、カードへの転記を前提としているため、字や絵をきれいに書く必要はありません。ラフスケッチや、買い物リストなど、気楽にどんどん書き込んでいきます。
PoICの中の野帳は、あくまでも「一時的な記憶媒体」という位置づけです。野帳とカードに同時に属する情報はありません。野帳の情報は、カードに転記した時点で「捨て」となります。転記した情報には、ペンでチェックを付けておきます。
野帳とカードの連携
頭に浮かぶアイディアを、野帳を使って捕獲していくことは、PoICの中でも楽しい行為の一つです。その一方で、カードへの転記は滞りがちになることもあります。これを避けるには、いくつかのコツがあります。
- 暇を見つけてこまめにカードに転記すること
- カードを書ける環境ではカードに書くこと
- 「いま」の情報から優先してカードに書いていくこと
私は、野帳からカードへの転記は、朝のマインドスイープの時に一緒にやってしまいます。また、オフィスにいる時は、カードが手元にあるので、なるべくカードに書くようにしています。転記が溜まりすぎてしまった場合は、溜まった分は置いて、まず「いま」の情報からカードに書いていきます。そして溜まった分の転記は、時間がある時にします。
「いま」のアイディアは、過去の情報を元にしています。そうなると、溜まった分の過去の情報もやはり重要です。PoICの中の全ての情報は、将来何らかの形で役に立ちます。全ては必要な情報で、捨てるものはありません。
icPodをチャージする
icPodは、モレスキン・メモポケッツを改造した、情報カードホルダーでした(連載第2回)。通常は机の上に広げておき、書いたカードをどんどん入れていきます。そして、移動する時にゴムでとじ、かばんに放り込みます。したがって、通常は、icPodの中には自分の書いたカードだけが入っています。
外出が多いと、なかなかカードが書けないため、野帳に依存しがちになります。私の場合、出張に行くと、この傾向が高くなります。このような場合には、icPodのそれぞれのポケットに、10枚くらいずつ白紙のカードを入れていきます。私はこれを「icPodをチャージする」と呼んでいます。こうすると、外出先で、疲れてホテルに帰ったあとでも、icPodを取り出して「カードでも書こうか」という気になります。
本そのものを情報カードにする
参照カードは、PoICの4カードのうちの一つで、「他の誰かの意見」を書くカードでした(連載第3回)。このカードを書く時は、一字一句間違えないようにしたり、ソースを明記したりと、他の3種類のカードに比べて、なにかと気を遣うカードでもあります。
仕事や勉強ならともかく、趣味で読んでいる本の場合は、「後で参照カードを取らなくては」と思うだけで、ゲンナリしてしまいます。そこで、趣味の本の場合は、なるべくフィルターの目を細かくして、最後に残ったものだけを参照カードに書くようにします。
例えば、
- 読む本は必ず買う
- 大事だと思うところに線を引く
- 線を引いたところをもう一度読み、大事だと思ったら線を加える
- 三回読んでやっぱり大事だと思ったら、星印を付け、カードに取る
といった工夫をします。本を読んでいる間に浮かんだアイディアや記録は、鉛筆やペンで余白部分にどんどん書いていきます。この時、連載第3回で紹介した、PoICの4つのアイコンを使います。
こうして本を読むと、本そのものが「自分の情報カード」になります。実際に参照カードとして取るものはほとんど無くなります。参照文はすでに文字として本に載っています。むしろ、余白に書き込んだ自分の発見や記録が、本当にドックに保存すべき情報です。
本に線を引いたり、書き込みするのに抵抗がある場合は、同じ本を2冊買って、線を引く練習してみると良いです。
長期スパンでの運用
朝のマインドスイープで5~10枚程度、その後も一日、思いついた時にカードを書くようにします。多い時には、一日に20~30枚書くこともあります。カードを書くことは、目の前に現れた蝶々を捕まえる感覚に似ています。思い浮かんだ時に書いているので、全く苦痛ではありません。
ドックの中には日に日にカードが貯まっていきます。このペースで書いていくと、半年ほどでドック一つ分のカードが貯まることになります。ドックの中に貯まったカードを眺めるのは、これだけでも楽しいことです。
2つ目のドックに入る頃には、自分の書くカードに「傾向」が見えてきます。カード間には、パターンが現れます。この頃から、カードを書くと同時に、カードを運用し、何かを生産することを意識します。例えば、ドックの中のカードをめくって、何枚かを抜き出し、ブログの記事を書きます。
そして、半年から一年に一度の頻度で、大規模なタスクフォースの編成を行います(連載第4回)。場合にもよりますが、この時、ドックの中のカードの1/3程度がタスクフォースに選ばれます。タスクフォースに選ばれたカードは、分類、再生産を経て、最後に「お役御免」となります。この「お役御免」のシステムにより、ドック自体の増え方は、カードの増え方よりもゆっくりとなります。
タスクフォースの編成後の運用は、残りの2/3からとなります。ドックに最後まで残るのは、何の変哲もない「日記」かもしれません。しかしそれも、2・3年経って、日記に関するタスクフォースを編成し、一冊の日記帳ができたところで「お役御免」となります。
PoICをカスタマイズする
PoICを使っていく中で、PoICを何に使おうか、どんな文房具を使おうか、色々なアイディアが浮かびます。それを、一枚一枚、「発見カード」に書いて、スタックします。
PoICで守るべきルールは、情報カードの書き方(連載第3回)、時系列スタック法(連載第4回)とタスクフォース編成(同)だけです。自分の生活・用途・目的に合わせて、PoICというシステムをどんどんカスタマイズしてください。
PoICを使って、目の前にあるPoICについて考えることは、「自分自身」や「生産性」のみならず、「情報」や「自然」とは何かについて考える機会を与えてくれます。
私の場合、PoICを使って直接的に生産性を上げたことよりも、PoICというシステムについて考えることで得られた、間接的な知識や知恵の方が、むしろ多いようにさえ感じます。
PoICについて考えることは、楽しくて当然かもしれません。なぜなら、このシステムは「生きている」からです。
最後に
この連載を通じて、私がPoICに関して書いてきたことは、プログラム言語で言えば「コンパイラの仕様」と、「Hello World!」の書き方だけです。100人いれば、100通りのPoICがあって然るべきです。
PoICがあなたにとっての「最強の生産システム」を構築する一助となれば幸いです。