前回は収集ステップについてお話ししました。収集ステップを済ませたあなたの手元には、頭の中のことをすべて吐き出したリストがあります。GTDではこのリストを特別に「Inbox」リストと呼んでいます。今回と次回は、このリストにワークフローを適用して、実際に使えるリストにします。この手続きを「処理ステップ」といいます。
処理ステップについて説明する前に、一つ取り決めをします。これからInboxリストに収集した気がかりなことの一つ一つを、「仕事を成し遂げる技術」で表現されている言葉に合わせて『物』と呼ぶことにします。これは、GTDの原本では、『Stuff』という単語で表されます。
そもそも処理ステップって何をしようとしてるの?
あなたが収集した「Inbox」――これは人によっては、文字通り箱の中に集めた資料であったり、リスト化したものであったりすると思いますが、今回は「リスト」を前提とします。処理ステップとは、このリストに収集されたものを仕分けし、インボックスを6つのリストに導きます。大まかに言うと①やらないこと②やること③待つこと…に分けます。このようなリストに収集することで、行動の迷いをなくすのが大きな目的です。迷いがなくなれば、速やかに行動することができます。こうして、Inboxをあなたの第二の脳として機能的なものにするのです。
Inboxに集めた「物」を6つに分けるといっても、どう分けたらいいのかで非常に悩みます。そこでGTDではワークフローが準備されています。ワークフローとは、おおざっぱに言うとフローチャートなのですが、フローチャートに作業性を加味したものととらえてください。実際にはワークフローに沿ってInboxの「物」を振り分けていけばよいのですから、作業については大仰に考えないでいただいて、結構です。
GTDの正式なワークフローは以下のサイトを参照してください。
その他、gihyo.jpで提供されたワークフローもあります。
今回用いるワークフロー
今回は、連載用に独自のワークフローを準備しました。以下の図をご覧ください。
この、ワークフローが既存のものとことなっているのは以下の3点です。
- 「行動を起こす必要がある?」の分岐を三つの分岐に分けました
- 従来は、「行動を起こす必要がある」分岐は3つに分かれていましたが、それだけだと「このリストはどの行動に該当するのか」ということを一つ一つ思考しなくてはなりません。思考するというのは、結構時間がかかるものです。そこで効率化を考え、思考を排除しても分岐できるように分岐を増やしました。
- 各質問部分をイメージで表しました
- 絵で見るほうが瞬間的にわかりやすいためです。だんだん慣れてくると、ワークフローの質問事項を文字で理解するのが、億劫になってきます。そこで、瞬間的にも理解できるよう、質問の内容をイメージで表しました。
今回の説明は、連載用のワークフローの図を基に行いますので、もともとのGTDのワークフローの図に慣れている方も、お付き合いください。
Inboxリストとペンを用意しよう
あなたが前回作ったInboxリストと、ペンを用意しましょう。Inboxリストで使った色と違う色のペンだとなお良いです。ペンは、もしあれば、6色あるとよいのですが、なければ1色で結構です。6色のペンがある人は、ワークフローの図と同じように色分けしてください。
これからInboxリストにある『物』について一つ一つ、ワークフローに従って、その『物』のリストの行き先を決めます。リストの行き先が決まったら、その『物』の右端か左端に、マークしていきます。どのリストにどのマークをつけるかは、後ほど説明します。
このやり方は、gihyo.jpでも紹介されていますので、合わせてご確認ください。
今回のステップは決めるだけ
このとき、どのリストに分類するのか決めたら、専用のリストを用意してそちらに書き写したくなりますが、同じ作業に専念するため、今回は決めることだけを行います。
ワークフローを言葉=質問にしてみる
各質問部分を、言葉で表すと、下記のようになります。
- (1)それは何か?
- (2)そもそも不要?
- (3)そもそも実行できない?
- (4)今考えなくてもいい?
- (5)それって面倒?
- (6)次の行動は何?
- (7)この場で2分以内でできる?
- (8)待ちで作業なし?
- (9)期日が決まっている?
このフローは、(1)(6)以外は全てYesかNoで答えられるように、またイメージによって楽しくフローを使うように作っています。
早速、各フローのポイントについて、見ていきましょう。
ワークフローの判断のポイント
(1)それは何か?
ここの質問は、『物』について、今ひとたび考えなおすところです。
何かをしたい、といったような具体的な『物』もありますが、そうでないこともあります。収集した『物』が物理的なメモだったら、走り書きで何について書いていたのかわからない場合もあったりします。それにそもそも何のために書いたのか、自分で書いたにもかかわらず、解読の必要なものもあったりします。そういったことを含め、いったん立ち止まって、「はて、君は何だったかね?」と問い直すことが、私たち達には必要です。
家で実施している場合は、「これって、ダイレクトメールで捨ててもいいものだな」と、声に出してみるのもいいかもしれません。
以下に、私がこの場所でよく使う質問を3つ紹介します。
- 「そもそも何をしたいの?」
これは、本来の目的を思い直すための質問です。言葉に出てくる気がかりなことは、目的をすっ飛ばして、手段であることが多いのです。そして、それを実際に実行しようと思った時には、目的をすっかり忘れてしまうことがあります。それを、振り返って思い出します。
この質問をすることで、いいことがあります。提示されている手段以外にも、有効な手立てが出てくることがあります。例えば、「映画を見る」といったことがあったとして、そもそも何をしたいのか振り返ったところ、実は単に気晴らしがしたかっという場合があります。この場合、「映画を見る」でなくても、場合によっては「友人と一緒に食事する」だったり「スポーツクラブで運動する」だったりでもいいわけです。
- 「それをする前と後でどう変わるの?」
「大改造!!劇的ビフォーアフター」という、住居をリフォームするテレビ番組があります。ここでは、リフォームする前とした後で、どのように変化したかを視聴者に分かるように表現しています。通信販売でも、アイテムを使う前と使った後を表示することで、いかに効果があるかを説明しています。気がかりなことを解消することで、どのように変化するかを考えると、そのアフターの状態に向かいたい気持ちが、促進されるような気持ちになれます。それに、どこへ向かったらいいのかの、とっかかりも見つかります。
- 「終わった状態ってどんなイメージ?」
その『物』が完了した後の状態について、実際に頭の中で思い浮かべます。それが、その気がかりなことのゴールの状態になり、どこへ向かえばいいのか頭で理解していくことができます。
例えば、ちらかっていた文房具が、本来しまっていた場所にあることを思い浮かべてみます。かんたんな例ですが、これが終わった状態です。はじめは複雑な状態というのはイメージしにくいので、片付けるものがどこにしまわれているのか、ということからイメージしていくと、思い出しやすくなります。
今回紹介したこれらの質問は、私なりの馴染みやすい言葉で書いています。人によっては、ピンとこない場合があるかもしれません。その時には、自分なりの言葉で書き直してみてください。
GTDのワークフローでは、『物』を手にとって、いの一番に、考え直す作業を行うようにしていますが、フロー内の要所要所でも、悩んだ時に思い返してもいいかもしれません。
(2)そもそも不要?
この質問は、『物』について、そもそも必要かどうかを考えます。精神的な『物』が、この質問でYesになることは少ないです。ですが、物理的な『物』がYesになることは、よくあります。
例えば、郵便ポストに入ってあった、チラシの数々、同じくポストに入っていたダイレクトメール、テーブルの上に放ってあった空のタバコケース、解読不能なメモ書き、などがYesに当てはまりやすい『物』です。あなたにとって、保存しておく必要のないものは、ここでおさらば、ゴミ箱行きになります。
(3)そもそも実行できない?
この質問は、『物』について、行動が必要かどうかを判断します。
例えば、『物』が映画「俺達フィギュアスケーター(リンク先音声注意)」を見に行った時のチラシでした。私はこのチラシを見て、(1)の質問で、次のように思いました――「これって、この前見た映画のチラシだな。そういえばまだしまってなかったんだっけ。面白かったから取っておこうっと」――行動が不要だ、とはこういうことです。もちろん、人によっては回答は異なります。このチラシを見て、「見るの忘れたんだった!DVDが出たら真っ先に買いたい!」と思ったら、この質問はNoになります。
この質問に対して、展覧会に行って買ってきたムック、先日参加した料理教室のレシピ、日記のメモ、パスワードなどが、Yesに当てはまりやすい『物』です。
(4)今考えなくてもいい?
この質問は、『物』について、今注目して考えるべきかどうかを判断します。
いろいろ考えるべきことがあっても、今の現状ではとてもじゃないけれども手の回らないことでも、収集ステップで捉えられます。そこで、そういったものは、この質問でYesと答えることで、いったん頭からとり除いてしまいます。
あなたの脳みその中に、スポットライトの当たったステージがあります。ステージの大きさには限りがあります。『物』は、そこに立たせるべきものかそうでないか、言わばノるかソるかの判断のみが、この質問で重要になります。今はそんなステージに乗せるべきことじゃない、そう判断したならば、今回の質問はYesということになります。
例えば、『物』が「クロゼットを整理整頓する」でした。私は、この『物』を見て、(1)の質問で、次のように思いました――「そうそう、クロゼットが前から気になってたんだよね。真ん中にある衝立も傾いてるし、ゴミ袋がそもそも許容量オーバーだ、なんとかしたい! けれども今はそれを気にしたからといって、そこまで手をつけられる程時間があるわけでもないし、他の作業を優先したい! 今は考えるべきことじゃなーい! よし、Someday行きに決定だ!」――このように、「クロゼットを整理整頓する」は、Somedayリスト行きになります。
この質問でのポイントは、「Somedayリストに行くかどうかは、時間で決定しない」です。
今回GTDで理解してほしいことの一つに、GTDは「時間」を解放させることがあります。その『物』に興味が大いにあっても、これは取り組むには時間がなさそうだからといって、Somedayリスト行きにするのは勿体ないです。リストを移動させるのは、いつでも簡単にできます。後から移動させても遅くはありません。あなたの心のままに、注目したいものについては、次の質問へ向かわせて下さい。
(2)~(4)のまとめ:注目すべきでないことは全て取り除いた
(2)~(4)の質問は、気にしなくていいものを洗い出すための質問でした。(2)~(4)で、いずれかにYesと答えた『物』については、あなたはもう気にする必要がなくなりました。
ゴミを気にする必要がないのは明白ですし、行動を必要としない資料もやはり気にする理由がありません。Somedayリストも、今注目すべきことではない、とあなたが今決めたところです。当面は、気にする必要はありません。
これらの質問による判断は、いずれも、ある観点から要不要を判断しています。各質問に関する観点を、以下のようにまとめてみました。
- (2)そもそも不要?
→ 必要的要不要
- (3)そもそも実行できない?
→ 作業的要不要
- (4)今考えなくてもいい?
→ 注目的要不要
(2)と(3)はなんとなくわかると思います。(4)は「注目的要不要」とまとめています。これは、(4)の判断基準が、時間ではなく、あなた自身が注目することを許すかどうかに、かかっているからです。時間に依らないことを強調するために、このような言葉でまとめています。
次回説明する(5)以降は、当面あなたが注目しようと決めたことを、さらに分類するための質問になります。