1月18日に、ベルサール新宿グランドで勉強会の祭典「エンジニアサポートCROSS 2013」を開催しました。このイベントのレポートを2回に分けてお届けします。
「CROSS足りてる?」
「エンジニアサポートCROSS(以下、「CROSS」)」は、「複数の技術を身につけなければWebサービスは作れない=クロスしないと生きていけない」をテーマとした技術イベントです。このイベントでは通常のイベントのように「一つの技術についてスピーカー達が語る」ことはせずに、「複数の技術について複数のスピーカーおよび参加者が語り合う」ことを目指し、「交流=CROSS」を主軸に据えたイベントです。
イベントの概要は、イベント紹介の記事(前半、後半)をご覧ください。
レポートの前半となる今回は、プログラムの中から「次世代Webセッション」「スポンサーセッション(DeNA×グリー×Aiming:大企業・ベンチャーが語る「スクラム」開発)」を取り上げます。
次世代Webセッション
次世代Webセッションでは、大きな変化を迎えようとしているWebで「なにが起こっているのか」「どこに向かっているのか」この2つを軸とし、セッションオーナーの@Jxck_氏の声がけで集まった登壇者による、2つのパネルディスカッションを行いました。
2つのパネルディスカッションはそれぞれ、次のテーマで議論されました。
- プロトコル編:HTTP2.0やSPDYといった新しいプロトコルについて
- アーキテクチャ編:新しいプロトコルの登場に応じてアーキテクチャがどのように変化していくか
プロトコル編
プロトコル編のパネルディスカッションの登壇者は、清水一貴氏、小松健作氏、大津繁樹氏とセッションオーナーの@Jxck_氏です。
このセッションでは、HTTP2.0やSPDYといった今まさに注目を集めている新しい通信プロトコルについて語られ、100名の会場がいっぱいになるほどの盛り上がりでした。参加人数が盛り上がりを示しているように関心が高まっている一方で、必ずしもすべてのWebサービスが新しいプロトコルのメリットを得られるわけではない、という興味深い示唆がありました。
SPDYの特徴の1つは、1度張ったコネクション使いまわすことで通信を効率化することです。SPDYにより結果として高速化が目指せるものの、次のような問題があることを挙げました。
- 従来のHTTPでのステートレス性を活かした、ロードバランサによる分散構成による利便性を失ってしまう。
- 従来の高速化ノウハウによりチューニングされたWebページなどでは、かえって遅くなってしまう場合がある。
SPDYやHTTP2.0との関連技術についての議論の中では、次の小松さんの発言(動画中23:10くらい)が印象的でした。
「DNS、証明書、Proxy、SSL、RTT、3-way-handshakeなど、それぞれのキーワードはそれぞれ独立のレイヤーで扱いわなければならないということがインターネットの教科書に書いてあるのに、SPDYは全部まとめて扱わないと早くできないじゃん!って全部ひっくるめて新しい別の『Web』っていうレイヤーを作ってるよね」
この言葉は、このセッションのタイトルが示す通りWebが大きな変化を迎えている今、本来テキストを転送するというプロトコルから始まった従来のHTTPが、周辺のレイヤの技術も巻き込んで、大きく見直されはじめていることを表していると感じました。
アーキテクチャ編
前半のプロトコル編に続き、後半はこれら新プロトコルによるWebサービス・ソフトウェアなどWebがどうなっていくのか、について議論されました。
このアーキテクチャ編の登壇者は、江島健太郎氏、佐々木庸平氏、山本陽平氏、和田卓人氏とセッションオーナーの@Jxck_氏です。
序盤、山本さんの「RESTのプロモに成功しすぎて、RESTに従っていればよい、という思考停止に陥っている。(RESTに従っていればいいというわけではないから)もうちょっと頭を使いましょう」という言葉が会場の笑いを誘いました。
しかし、この話は一番最後に、江島さんの「(RESTやフレームワークを)覚えても新しいもの、自分が作りたいものを生み出せないんですよ、自分の頭で考えることをやろうよ。それが一番楽しいと思うんだよね」という答えによって締められていたことは、まさに、REST厨に染め上げられていた時代が変わりつつある時にこそ、原点に振り返って「考えること」の大切さを痛感させられるものでした。
また、セッション内では頻繁にRPC(Remote Procedure Call)という言葉が取り上げられていました。アプリケーションプロトコルであるHTTPというWebの通信の上で、結局こうして様々なトランスポートプロトコルが生まれている現状に対して江島さんを始め皆さん「みんなオレオレのRPCがやりたいんだよね」と語っていました。
これに対して和田さんは「結局のところ僕たちは自分の語彙でしゃべりいたい。HTTPはGETとPOSTとPUTとDELETEと後いくつかあるけど、4つしか無いのは耐えられない」と述べていました。これは、Googleがなぜ改めて既存のレイヤを打ち壊してSPDYを構築しているのか、にもつながるのではないでしょうか。また、江島さんが言及した「頭を使って新しいものを考えよう」というマインドと同義なのではないでしょうか。
最後にJxckさんも言及していましたが、これまで自分の頭で考えるためにはまだまだまとまってなかった「次世代Web」の素材がこのセッションでみなさんに共有され、次世代のWebを考えるきっかけになったセッションでした。
- 参考サイト
- 参考ブログ
スポンサーセッション
CROSSでは、参加者にとってより価値あるスポンサーセッションを目指しています。その1つの姿が、スポンサー同士でのクロスセッションです。
テーマもエンジニアにとって関心が高いと思われるものを選定することで、スポンサー企業同士が敵同士になり優劣をつけるのではなく、企業の特色・目的・志向の差異を鮮明にすることを目指しています。
これにより、スポンサーセッション自体がエンジニアにとって価値があるセッションになると同時に、スポンサー企業が自社の通常のブランディング活動以上にエンジニアリングに対する取り組みをアピールする機会になり、エンジニアとスポンサー企業の両方に価値を提供できるようにと考えています。
今回のレポートでは、そのうちの1つを紹介します。
DeNAxグリーxAiming:大企業・ベンチャーが語る「スクラム」開発
このセッションでは、プラチナスポンサーでもあるDeNA飯岡幹雄氏とグリー林淳哉氏に加え、Aimingから小林俊仁氏を迎え、各社のスクラム開発への取り組みを伺いました。また、今回は幸運にもGoogle及川卓也氏に司会をお願いすることができました。
時間帯的に強力な裏番組にもかかわらず60名もの参加者が集まったのですが、このことはスクラムを始めとした開発プロセス改善の熱を参加者の皆さんも持っていると裏づけるものだったと思います。
このセッションでは各社のスクラムへの取り組みを伺った後、「プロセス導入時/運用時にハマったこと」「プロセス運用手段は、アナログ? それともデジタル?」「プロセスを運用する上で大切にしていることは?」「これから導入を進めようと思っている人へのアドバイス」といったテーマに対してディスカッションが行われました。
スクラム導入にハマったこと
スクラム導入時の話において、DeNA飯岡さんは「経営層が反対するからには理由があるので、スクラム以外の方法についても話し合って、納得するまで話し合った」という事例を紹介しました。最終的に専任のスクラムマスターを会社として支援してもらうところまで到達している点で、スクラムの導入の理想形であると感じました。
一方、Aiming小林さんから、導入時に一番注意する点として「合意形成が方法論にすり替わるのがよくある。予算と品質と納期のプライオリティの合意をとるツールがプロダクトバックログのはずなのに、その根本を差し置いてスクラムの話になると喧嘩になるため」と言及しました。サービスそのものの目的を逸らさないという意味でも本質的な課題に着目している素晴らしい示唆でした。
スクラムのツール
スクラムのツールとして、GREEではjiraを利用し完全デジタルで実施することで、プロジェクタに映し出し共有しながらサブタスクを登録することで迅速なプランニングを実施しているそうです。一方、DeNAではデジタルでは活性化されなかったコミュニケーションの機会を補足するために付箋を利用し、あえて一部アナログに引き戻しているとのこと。これにより、 デザイナーさんたちも巻き込めたそうです。企業ごとの特色が際立っているところだと感じました。
スクラムマスターのお仕事・スクラムマスターの育成
スクラムマスターの仕事として、「チームをドライブする」という大目的の上で、「記録を行い、チームの成長を可視化する」「一歩引くことで、第三者的な立場でチームの方向性のずれを微調整する」などの実践的な話や「付箋の発注」「各所火消しをしていた」など笑いを誘う話も見られました。
派生して質問のあったスクラムマスターの育成については、各社ともなかなか苦戦しているようでした。理由として、「スクラムマスターが認識されていない」「チームが失敗するとスクラムマスターの失敗で、チームが成功するとチームの成果になるので、評価されづらい」「ある程度社会人経験が必要とされるので難しい」という点が挙げていました。それに対して、「トップダウンで優秀な地頭で割り振るというのが好ましい」という意見や「最近のスクラムや運用改善の記事を社内全員チャットに投入し食いついている社員をピックアップする」という意見が出ていました。
質疑応答から
「どこまでチームに介入するか」という質問に対して、Aiming小林さんの「質問を投げかけ、解を出さない。出してしまうと、言われた側はやらされてる感が出るが、質問に対して解に気づいて自分で解決するとチームが成長する」という線の引き方を示しました。それに対し、司会の及川さんは「自分の中に持っているが出てこない答えを引き出してあげる、コーチングというソフトスキルをチームの中で徹底する」と述べていました。このまとめは参加者としてなるほどと腑に落ちるものでした。
また、スクラムの実践で自律的なチームではないシグナルとして「あの人たち」「プランナーの人たち」「上が」という呼び名を使っている、というのはわかりやすく、適用したくなるものでした。
前半まとめ
今回は、次世代Web、スポンサーセッションの2つを取り上げてご紹介いたしました。後半となる次回はパーティセッションのTech10セッションと、新しい試みであるCROSS VS、アンカンファレンスの模様をレポートしたいと思います。