新しい年の始めに、Ubuntuで使用できるさまざまなデスクトップ環境について2018年に起こったことと2019年に起こりそうなことを紹介します。
新年のご挨拶
新年明けましておめでとうございます。本連載も11年目を迎えました。
本連載は事前に長期的な見通しを立てているわけではなく、数週間先の執筆者が決まっているかいないかが現状で、今後どのような記事が掲載されるのかはまるでわかりません。Ubuntuの変化、執筆者のその時の関心事、さらに大きな流れの変化、かなりこじつけの理由……などなど、記事となるきっかけもさまざまです。
そんなライブ感たっぷりの本連載を、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
2019年のデスクトップ環境
デスクトップ環境については、昨年年始の第503回でも取り上げました。今読むと予測が外れていたことも多いのですが、その言い訳をしても仕方がありません。昨年の内容と今年の内容はリンクせずに進めます。
筆者の個人的な懸念事項として、各デスクトップ環境の翻訳率の低下があります。そこで今回は翻訳方法もあわせて紹介します。
また、昨年紹介したUnity7と同じくデスクトップ環境ではないものの、昨年大きな変化があったBudgieデスクトップを取り上げます。Cinnamonについては除外することにしました。Ubuntuのリポジトリにもパッケージはありますが古いのと、Ubuntuの派生版であるLinux Mint用という性格が強いからです(※1)。
GNOME
昨年GNOMEにあった大きな変化は、GitLabへの移行でしょう。バグトラッキングシステム(BTS)と一体となったほか、マージリクエスト(GitHubでいうところのプルリクエスト)を使用することによりソースコードの変更がより容易になりました。
昨年の記事でも言及した「ファイル」(Nautilus)でデスクトップにアイコンを置く機能を削除する件は3.28から盛り込まれ、そのままだとGNOME 3.28を採用するUbuntu 18.04 LTSに影響を与えることになりました。しかし18.04 LTSと18.10では「ファイル」のバージョンを3.26のまま据え置くという対応をしました。次のバージョンである19.04では「ファイル」がバージョンアップし、拡張機能と組み合わせることによってデスクトップにアイコンが置けるようになる見込みです。問題はUbuntu Budgieなど「ファイル」を採用しているもののGNOME Shellを採用しないためにこの拡張機能が使用できない場合ですが、その対処方法は本稿の趣旨から外れるので詳細な解説は省略します。
今年起きる大きな変更は、アプリケーションメニューの削除があります。アプリケーションメニュー(図1)からハンバーガーメニュー(図2)に移動するという変更です。各アプリケーションごとの対応が必要になるためタイミング的に耳を揃えてとはならないでしょうが(未対応アプリケーションの救済方法も用意されています)、単純にマウスの移動が減るのでユーザーのメリットが大きいでしょう。
アートワークの変更も予定されています。
Waylandサポートの改善は、Waylandそのものの開発がスローダウンしているのが現状で、GNOMEもこの影響を受けるでしょう。また、そろそろGNOME 4.0へのロードマップも示されるのではないでしょうか。
翻訳
GNOMEの翻訳はDamned Liesというちょっと変わった名前(※2)の独自Webサービスを使用しています。翻訳ファイル(POファイル)をダウンロードし、手元で翻訳してアップロード、権限のある人(コミッター)がコミットするという流れになっています。
昨今は翻訳までWebサービスでやってしまう、あるいはGitHubやGitLabを使用してプルリクエストやマージリクエストを送って取り込んでもらうのが主流なので、やや古い方法で心理的な抵抗を感じるのは否めないように思います。
2019年1月上旬の翻訳率は開発版のGNOME 3.32で73%と、3/4を割っています。Ubuntu 18.04 LTSや18.10を使用していても英語のメニューをちらほら見かけてしまいますので、このあたりの改善を検討しなくてはならない状況に来ているように思います。
KDE
KDEはプロジェクトが細かく分かれており、総体としてはGNOMEよりも大きいので、全体的な方針というのは昨年も紹介したKDE's Goals for 2018 and Beyondのほかには見つけることができませんでした。
KDEを構成するKDE Frameworks 5、Plasma 5、KDE Applicationsはともにリリーススケジュールを公開しています。KDE FrameworksとPlasma 5は個別のページに掲載されており、KDE Applicationsは毎年4月/8月/12月のタイムベースリリースです。ただしKDE Applicationsはポイントリリースもあり、例えば18.12のリリーススケジュールとして公開されています。このあたりはUbuntuと同じです。
翻訳
KDEの翻訳は、Summitから翻訳ファイル(POファイル)をダウンロードし、翻訳した上でメーリングリストに投稿する流れのようです。
Xfce
Xfceは次の安定版である4.14がいつリリースされるのかがここ数年のトピックですが、Xubuntu Development Update November 2018によると10月末現在で83%の進捗率とのことです。またXfce & Xubuntu 2018 Year In Reviewによると今年中には4.14がリリースされるのかもしれません。
翻訳
Xfaceの翻訳はTranslationによると、Transifexで行われています。筆者の主観ですが、現状Xfceの翻訳状況は、記事中で紹介したデスクトップ環境の中では一番いいです。
LXQt
LXQtといえば、第542回で紹介したようにLubuntuが18.10からLXDEからLXQtに移行しました。
開発はゆっくりながらも着実に進んでいます。少なくとも機能的にはおおむね完成していると見ていいので、このくらいのリリースペースでいいのかもしれません。開発サイクルが早く、変化が大きいデスクトップ環境を使用したいのであれば、GNOMEやKDEを選択したほうがよく、LXQtを選択するユーザーはあまり変化を求めていないのではないか、という筆者の独断と偏見によるものであることはお断りしておきます。
翻訳
LXQtの翻訳はWikiによると、Weblateを使用しています。Weblateは筆者が知る限り最も簡単に翻訳を開始できるWebサービスです。ユーザー登録なしでも提案はでき、ユーザー登録すると保存(確定)できます。ユーザー登録もGitHubを経由することにより、簡単に行なえます。もちろん自分の責任によって翻訳が反映されてしまうということではありますが、誰がどう考えてもそうとしか訳せないものも多数ありますので、気軽に挑戦してみてはいかがでしょうか。
MATE
MATEは昨年2月に1.20がリリースされ、現在は1.22の開発中です。ロードマップも公開されていますが、Python3に移行することを除けばあまり大きな変化はありません。「Future releases」には大きな変更案が見られるので、いくつか実装されたら面白いのですが。
MATEもその成り立ち上変化を好むユーザー向けではなく、また内部的には古い部分もあったものの、大きな改修はおおむね終わったように見えます。とはいえぼちぼちGTK+4サポートも考えるべき時期に来ているように思いますし、また「Future releases」にある「AccountService」のサポートは、GNOMEのほかKDEやCinnamonでもできているので、未対応であることにより見劣りするのは事実です。この先どのような方針を取るのか、舵取りが必要そうです。
翻訳
MATEの翻訳はTransifexで行われています。ログイン後参加リクエストを出し、コーディネーターが承認すると翻訳できるようになります。特定のアプリケーションのみですが、筆者も翻訳に参加しています。
Budgieデスクトップ
Budgieデスクトップは厳密にはデスクトップ環境ではありませんが、昨年大きな体制の変更があったことと、UbuntuフレーバーのUbuntu Budgieがリリースされていることから、ここで紹介します。
前提知識として、BudgieデスクトップはSolusというLinuxディストリビューション用に開発が始まりました。その後プロジェクトが分離したものの、昨年5月からは再びSolusプロジェクトに合流しています。これも体制の変更の一つといえます。
より大きな体制の変更について、詳しくは該当のブログエントリ、これだと長すぎる場合は概要であるGitHubのBudgie-desktopページを見てください。要するにSolusプロジェクト(兼Budgieデスクトップ)創始者がプロジェクトから脱退したのはいいものの、スムーズに各種権限の移譲が行われたわけではないので、かなり混乱した状態になりました。もちろん現在はおおむね正常化し、そのまとめとして該当のブログエントリが公開されました。
Budgieデスクトップの最新版は本記事の公開時点で10.4であり、現在10.5を開発中です。遠からずリリースされるものと思われますが、次のメジャーバージョンアップ版である11からはGTK+4に移行する見込みです。当初はQt5への移行を宣言していましたが、その宣言していた当人がプロジェクトから脱退したため、方針を見直すことになったのです。
翻訳
Budgieの翻訳は現在Transifexで行われていますが、プロジェクト創始者兼Transifexコーディネーターが不在のため、いずれは変更されるものと思われます。現在の翻訳は諸般の事情で筆者によって一から行われたものですが、これを機に今後筆者によるBudgieデスクトップの翻訳を行わなくなるかもしれません。