新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
LibreOfficeの2016年は、相変わらずアグレッシブに開発が進み、見えるところ、見えないところでさまざまな変化がありました。
また昨年は、久しぶりに(悪い理由で)Apache OpenOfficeが話題に登ったので、今回は詳細に解説することにしました。もちろんメインはLibreOfficeであることはいつもと変わりありません。
それでは、今年もしばしお付き合いください。
2016年のLibreOffice
まずは、2016年のLibreOfficeについて振り返ってみます。
リリース状況
LibreOfficeは昨年もたくさんのリリースが行われました。以下が一覧です。開発版は含んでおらず、あくまでリリース版のみです。
2月10日 |
5.1.0 |
2月16日 |
5.0.5 |
3月10日 |
5.1.1 |
4月7日 |
5.1.2 |
5月12日 |
5.1.3 |
6月23日 |
5.1.4 |
8月3日 |
5.1.5 |
8月3日 |
5.2.0 |
9月7日 |
5.2.1 |
9月29日 |
5.2.2 |
10月27日 |
5.1.6 |
11月3日 |
5.2.3 |
12月22日 |
5.2.4 |
合計13回と昨年の15回より減っていますが、単純にX.Y.7がリリースされなくなったからです。
5.1系列は既にサポート切れですが、Ubuntu 16.04 LTSのLibreOffice 5.1系列は2016年4月より5年間サポートが継続します。あるLibreOfficeのバージョンを長く使いたい場合は、このようにサポート期間の長いLinuxディストリビューションを使用するか、サポートサービスを購入する手があります。
John McCreeshさん死去
The Document Foundation(以下TDF)の設立メンバーであり、『Next Decade Manifesto』(次の10年のマニフェスト)の著者であるJohn McCreeshさんが1月16日に亡くなりました。
筆者はこのマニフェストを読んでLibreOfficeの成功を確信したので、あらためて読み直したいところです[1]。少なくとも6年間はこのマニフェストのとおりに進んできたことは、誇りに思うべきことでしょう。
大きな変更点
昨年、LibreOfficeに起きた大きな変更点や出来事を見ていきます。
CommonSalLayout
LibreOfficeは言うまでもなくマルチプラットフォームなアプリケーションですが、実はテキストレイアウトに関してはプラットフォームによって差異がありました。これを統一するように開発が進み、5.3からはその仕組みが取り入れられました。CommonSalLayoutというクラス名が使用されているため、ここではこの機能をそう呼びます。
CommonSalLayoutのメリットは、前述のとおりプラットフォームごとにテキストレイアウトの表示の差異がなくなること、プラットフォームごとに修正する必要がなくなり、メンテナンスが容易になることが考えられます。デメリットとしては、既存のドキュメントのレイアウトが崩れる可能性があること、使用できなくなるフォントがあることが考えられます。
少なくとも5.3では、環境変数“SAL_NO_COMMON_LAYOUT”の値に何かを指定することで、従来のレイアウトも使用できます。しかし、将来的にはソースコードから削除される予定のため、5.3がサポートされている今年中にはお使いのドキュメントの点検が必要でしょう。また、Windowsでこの機能をフル活用するにはWindows XPサポートを切る必要があるため、早ければ次のバージョン(5.4?)からWindows XPでは動作しなくなることもありえます。
新旧どちらのレイアウトエンジンを使用しているかは、[ヘルプ]–[LibreOfficeについて]で確認できます(図1、図2)。
OpenOffice.orgの呪縛から解き放たれ、メンテナンスが容易になる上に読みやすくなるので、歓迎すべき変化といえるでしょう。
MUFFIN
LibreOfficeは4.4の頃からユーザーインターフェースの変更を積極的に行っています。プルダウンメニューやサイドバーの項目を追加したり、ツールバーのアイコンの位置を変更したり、横に長いシングルツールバーを追加したりしていますが、いずれにせよこれまでの延長として変更が行われました。
5.3からはMUFFINというコンセプトが登場します。“My User Friendly & Flexible INterface”の略で、要するにユーザーの熟練度に応じて便利なユーザーインターフェースは違うので、いくつかの選択肢を用意しますということです。
選択肢とは、従来と同じ(デフォルト)、ワイドディスプレイ向けのシングルツールバー、すでにおなじみのサイドバー(図3、図4)、そして全く新しいノートブックバー(図5、図6、図7)です。ひとまず5.3では、これらが条件付きで選択できるようになります。
条件付きとは、5.3の段階では「実験的サポート」という扱いであり、設定を変更しない限りは使用できません。[ツール]–[オプション]–[詳細]–[オプションの機能]の[実験的な機能を有効にする(不安定な可能性あり)]にチェックを入れ、[OK]をクリックしてください(図8)。
アドバイサリーボード
TDFのアドバイサリーボードは、言ってしまえば「口も出せばお金も出す」スポンサーです。2016年はCanonical、GNOME Foundation、KDE e.V.が加わりました。同時にAMDが姿を消しています。
リリースを読む限りではGNOME FoundationとKDE e.V.とは金銭のやり取りがなさそうですが、3者ともに非営利財団であることを考えるとむしろそのほうが自然といえます。
2015年には2団体加入して6団体脱退しているので、減少傾向にあるのは気になります。
その分は個人による寄付が重要になってきますので、皆様ご支援のほどよろしくお願いいたします。日本からだとPayPalによる送金ができないのが面倒ですが、これは法令に基づくものなのでどうしようもありません。ほかにもBitcoinなどでも寄付ができるのは面白いところでしょう。
LibreOffice Conference 2016 Brno
昨年もLibreOffice Conferenceが行われました。日本語によるレポート(前編、後編)がありますので、ご一読ください。
筆者としてはCommonSalLayoutの発表が興味を引きました。
日本での動き
昨年1月9日にLibreOffice mini Conference 2016 Osaka/Japanが開催されました。基調講演のレポートと、全体のレポートを読むことができます。筆者も参加しましたが、やはり基調講演はいろいろなことを思い出しました。
同じく12月10日にはLibreOffice Kaigi 2016.12が行われました。筆者は(懐の都合で)不参加でしたが、イベントレポート(前編、後編)が公開されています。
株式会社アシストが8月末をもってLibreOffice/Apache OpenOfficeの支援サービスの販売を終了しました。また、OSSオフィスソフトの推進団体であるODPGが、9月をもって解散しました。10月1日には「VISSEL ~LibreOffice Touch~」というイベントが行われました。いずれも筆者は部外者のため、詳細は存じ上げません。サッカー観戦とLibreOfficeに触れるイベントを一緒に行うことは、なかなかユニークな試みのように思います。
Ubuntu Weekly Recipeの記事
昨年はUbuntu Weekly RecipeでLibreOfficeについていくつかの記事を寄稿しました。ここで振り返ってみましょう。
今年も継続して掲載予定なので、Ubuntu Weekly Recipeもよろしくお願いします。
2016年のApache OpenOffice
次に、Apache OpenOfficeの2016年について振り返ってみます。
リリース状況
詳しくは後述しますが、Apache OpenOfficeは紆余曲折を経て10月12日に4.1.3がリリースされました。基本的には脆弱性を修正したリリースで、目立った変更点はありません。
2億回ダウンロード
一昨年の記事で、2014年9月27日に1億2000万回ダウンロードを達成したと言及しましたが、公式サイトのグラフによると11月18日に2億回ダウンロードを達成しました。
プロジェクトの終了危機から再始動まで
今思えば7月21日(日本時間では22日未明)「[REPORT] CVE-2016-1513 Security Advisory」と題したメールが始まりでした。要約するとCVE-2016-1513という脆弱性が発見されましたが、この日の時点では修正方法は存在せず、近日中にホットフィックス(バイナリパッチ)をリリース予定という内容です。
そのホットフィックス(4.1.2-patch1 Hotfix)は8月30日にリリースされました。Windows版以外は脆弱性を修正したライブラリとドキュメント、Windows版はそれに追加でバッチファイルのインストーラー付きという渋いものでした。脆弱性の公表からバイナリパッチのリリースまで1ヶ月以上かかっているのはすこし遅いですが、Apache OpenOfficeの開発力を考えるとやむを得ないと思ったことを覚えています。
時計の針を少し戻して、7月31日に「[DISCUSS] Process: Elect Next Chair of AOO Project Management Committee」というメールが発信されました。PMC(Project Management Committie) ChairのDennis E. Hamiltonさんからで、Chairを交代したいので立候補を募り、選挙をしたいという内容です。立候補者はなく、8月30日に「[NOMINATION REQUEST] Next Chair of AOO Project Management Committee」というメールで、再び立候補者を募るメールが発信されました。
そして迎えた9月1日、「[DISCUSS] What Would OpenOffice Retirement Involve? (long)」と題するメールが発信され、衝撃が走りました。タイトルのとおり長いのですが、ざっくり要約すれば、プロジェクトが活発とはいえないので終了するための枠組みが提案されました。確かにプロジェクトが活発とはいえず、PMC Chairが見つからないのであれば終了させるのも選択肢として俎上に載せるのは当然のことといえます。
同日、どうしてそのような提案をするに至ったのかの詳細を公表しました。CVE-2016-1513の通知が来たのは4.1.2のリリース間近の2015年10月20日で[2]、ソースコードで修正ができたのが2016年3月です。6月7日には報告者から同月中に詳細を公表する旨の連絡を受けており、交渉の上7月21日まで延期できました。しかしバイナリパッチの用意はしていたものの間に合わず、結局リリースできたのは8月30日になったことが説明されています。
この件について、9月3日に筆者のブログで報じました。筆者が知る限りでは国内最速です。週が明けた9月5日には各ニュースサイトでも取り上げられ、gihyo.jpの連載であるLinux Daily Topicsでも報じられました[3]。
その後プロジェクトの内外で喧々諤々議論が繰り広げられ、9月7日には一足先に4.1.3のリリースマネージャーが決定します。Apache OpenOfficeはリリースマネージャーがいないと新バージョンがリリースされないため、あとはPMC Chairが決まればプロジェクトの存続が決定します。
事前に提示されたPMC Chairの立候補締切は9月14日でしたが、ぎりぎり同日にMarcus Lange(marcus)さんが立候補し、9月19日には投票により次のPMC Chairになることが決定します。ここで正式に当面とはいえプロジェクトの継続が決定しました。翌日には「Stop the lazy season, start changing」という決意を表明しています。
そして10月21日には前述のとおり4.1.3がリリースされ、4.1.4のリリースマネージャーもすでに決定しています。
現状の分析
Apache OpenOfficeは現在でもたくさんのユーザーがいることはダウンロード数からも伺えます。では、開発状況はどうでしょうか。ここで1月から12月29日までのtrunkへのコミット回数を見てみましょう(図9)。
騒動が起きた9月には増えていますが、また減って12月に増えています。12月は主にビルドシステムに手を入れているためコミット回数が増えています。
9月以降に強力な開発者が加わったという事実もなく、Apache OpenOfficeの規模を考えれば12月にコミット回数が倍に増え、これが続いたとしても依然少なすぎることには変わりないので、事態が好転しているとはいえません。
2017年のLibreOffice
今年のLibreOfficeはまず、1月末あるいは2月頭(おそらく後者)に5.3.0のリリースが予定されています。LibreOfficeはタイムベースリリースのため、さらに次のバージョンもリリースされるでしょう。そのバージョンは順当に考えれば5.4ですが、そろそろ6.0の声が聞こえてきてもいい頃かもしれません。
今回は全く触れませんでしたが、Web版LibreOfficeであるところのLibreOffice Onlineの開発もますます進むことでしょう。
今年もレガシーからの脱却を推し進め、モダン化を行うとともに新しい開発者が参加しやすいものとなり、ますます開発が進むという好ループがきっと見られることでしょう。今から実に楽しみです。
2017年のApache OpenOffice
今年Apache OpenOfficeについて現段階で確実にいえることは、4.1.4がリリースされるくらいのものです。またメジャーバージョンアップ版である4.2.0(予定)もリリースが検討されるでしょうが、望みは薄いように思います。そもそも、4.1.xと大きな違いがあるわけではありません。
昨年のような騒動が起きないことを祈るばかりですが、その祈りが届くかは全く不透明です。