前回の連載では、安易な解決策を作らないために、目に見えている現象面に捉われることなく、深く原因を掘り下げ、その因果関係を紐解いていく重要性をお伝えしました。
さぁ、いろいろと原因…らしきものが見えてくるころです。次はどうやって解決するのかとなりますが、それは問題・原因によって一意的に決まるものではありません。
今回は、“場面は無関心な現場”で「解決策を考えること」について書いていきます。
考える材料と考える習慣
第6回で、「無関心に与える考える材料」として、業務フローがぴったりと言ったことを覚えていますか?
無関心な現場でなくとも、いきなり「職場の問題点を出せ!」と言われてたいしたものが出てくることはありません。仮に重症な問題が出てくれば、「今までなぜ放置しておいたんだ?」と責任を問われ、言いだしっぺが討ち死にすることもあります。 "余計なこと"は言わなくなり、ますます無関心を助長させてしまいます。
考える材料として業務フローを用いることは、考える"材料"を現場に与えることと同義です。業務フローは考えを促進するための"ツール"になり得ます。
第5回では、業務フローを現場自らが書くことで、現場に主体性を持たせました。そして、問題を掘り下げて原因を見出すところまできました。
無関心な現場でも、ちょっとしたキッカケを与えてあげることで、少しずつ「考える習慣」は芽生えてきます。もちろん、トップの腹くくりも重要です!
業務フローを用いて解決策を考える
目に見えている“現象”、それを起こしている“問題”。問題を引き起こしている“原因”と原因同士の因果関係は、これまでの記事でお伝えしてきたことです。
原因が見えてきたら、いよいよ、「解決策をどうしようか?」という話になります。またしても、考えることが求められますが、すでに「なぜ?」の掘り下げを行っているので、安易な解決策にはならないはずです。
業務フローを見ながら解決策を考える際に、下記のポイントに注意するとよいでしょう。
- やたら業務フローが長い:ムダの温床(本当にそこまでいるの?)
- 前工程へのリターンパスが多い:後工程で手直しが発生。前工程のアウトプットの質が低い。チェック機能不全、未完全なものを後工程に流している
- 似たプロセスが何回も登場する:標準化、シェアードサービスしやすい
- 部門間のやり取りが1回で終わらない:1つのプロセスで終えるべきことを終えていない。何でもリアルタイム処理ではなく、バッチ処理的な業務はまとめて一気に行うことも必要
そのほか、部門として「何をどこまで行うのか」が明確になるので、組織構造の問題、情報共有、意思決定プロセスの課題なども発見することも少なくありません。
業務フローを用いた問題発見は『上流モデリングによる業務改善手法入門』に詳しく書いていますので、一度、ご覧になってみてください。
大事なのは、皆さんの目に業務フローからの情報を入れて、皆さんの頭で解決策を考えていくプロセスそのものです。
解決策の着眼点
解決策の着眼ポイントとして、下記が挙げられます。
- 「早く」 :簡略化できない?短時間にならないか?スピードが上がらないか?誰でも早くできないか?など
- 「安く」:業務をなくす・減らせないか?安いやり方はないのか?
- 「正しく」:精度を上げる、バラつきを減らす
- 「楽に」:判断が楽にするには?標準化できないか?誰でも楽にできるようにならないか?楽しくできないか?
現場への動機づけ
ここまでで、“現象”→“問題”→“原因”→“解決策…らしきもの”が、一連の関係性のもと、つながってきました。ただ、よほど現場が自信を持っていない限り、「これだ!」と言える解決策はなかなか出てこず、積極的に改善行動を起こすまでは至りません。
ここで、どのようにキッカケを与えるかを考えてみましょう。
無関心な現場で業務改善の旗振りを行う「とりまとめ役」だと思ってください。どのように働きかけを行い、現場に動機づけをすればよいでしょうか?
問題・原因を見出したのは誰か?
まず、誰が問題を見つけたかです。自分の業務は自分が一番知っており、ぶつくさ言いながらも自分で書いた業務フローをもとに、問題を見出したはずです(第5回)。そして、潜む問題が、いつ・どこで起こっているかなどを、業務フローを見ながら「誰が(who)ではなく、何(what)が悪いかという観点で考えました(第6回)。
トップも腹をくくり(第7回)、安易な解決にならないよう、問題と原因の関係、原因の深堀りを行いました(第8回)。
今さらですが、これらはいったい誰が行ったのでしょう?無関心な現場だろうがなんだろうが、ほかならぬメンバー自身ですよね?
問題が出てきて、その原因を突き止め、ぼんやりとでも解決の糸口が見えてきた。過去に業務改善に失敗を経験して、「二度とやるものか」と思っていた人もいる中で、ようやくここまで漕ぎ着けたわけです。
「やればできるということ」と「小さな成功体験の積み重ね」は、個々人の自信につながりますので、もう少し前のことを見据えて進んでいきましょう。
コンサルティング会社や専門家がやってはいけない業務分析
ほとんどのコンサルティング会社は、現状調査から業務分析まで行ってしまいます。さらに、改善計画も細かく作成します。
しかし、業務改善そのものはコンサルティング会社がやってくれるものではありません。ところが、コンサルタントが調査・分析し、改善計画まで作り上げて、「実行するのはあなたがた現場です!」というパターンもかなり見られます。
一般に、コンサルティング会社はノウハウや独自のツールを山ほど持っているので、彼らからスキルやノウハウのトランスファーを受け、自分たちの糧にすると考えれば、支援を依頼することはプラスと言えます。
コンサルティング会社の多くは、一般にギャップ・アプローチという手法をとります(図)。「あるべき姿(As is Model)はAです、現状の姿(To be Model)はBです。したがって、このギャップが御社の課題であるCです」と、偉そうなことを言います。基本、終始、「べきだ論」に徹します。
ギャップ・アプローチと対極的なものがステート・アプローチです。「べきだ論」ではなく「ありたい姿論」です。どちらも大事であることは、第2回で述べました。それぞれ、ハード・アプローチとソフト・アプローチと呼びました。
現状調査から調査、分析までコンサルティング会社に任せてしまうと、「コンサルティング会社=業務改善をやってくれる会社」と勘違いします。この瞬間に、コンサルティング会社に依存してしまう構図ができあがります。これはよろしくない状態です。仮に我々が、「何でもかんでもやってくれ!」と言われたら、「それじゃ御社のためにならないですよ」とお断りすることになるでしょう。
自分や自社の業務なのに、他人に良くしてもらうという考え方がそもそもいかがなものか?と。人間の体の体質改善と同じで、健康を気にする人なら健康を害する前に自分の体を気にかけるものです。
少し遠回りをしましたが、コンサルティング会社が業務分析を行ってしまったらダメです。現場にやらせるのもダメです。一緒にやることがベストです。
自分でやるから意味がある
当社、株式会社カレンコンサルティングは、自社のアプローチを「プロセス共有型」と呼んでいます。お客様にやらせることはしない、逆に我々が全てを行うわけでもない。一緒に作り上げるプロセスを共有する。わかりやすく言えば、一緒に汗水流す過程(プロセス)を共有することを大事にしています。
自分でやるから意味があります。他人が作り、他人が調査・分析した結果を用いて、改善だけ実行するのはつまらないでしょう。
自ら業務フローを作り、現状調査を行い、問題発見、原因分析を行うことで、将来的に同じ改善が必要な場面に出くわしても、自分たちで解決できるようになります。
アナログ的な作業と場が重要
さて、解決策を考える場は意図的に仕掛ける必要があります。模造紙や付箋紙を使いながら、アナログ的にワイワイガヤガヤと進めます。
そのとき是非、自分たちで書いた業務フローを大きくプリントアウトし、じっくりと眺めながら進めてみてください。手元に何もないままディスカッションを行うよりも、はるかに地に足がついた有意義なディスカッションになるはずです。
また、ノートパソコンなどはあえて使わないで、「自分の業務」「自部門の業務」を前工程・後工程を受け持つ他部門の人へ伝え、抱える問題点と自分なりに考えた解決策を伝えましょう。自部門のアウトプットが、後工程でどのように役立っているのか?自分の担当業務で不備が残ったまま後工程に流すと、どんな手直しが発生し、どのくらい無駄なコストが発生するかなども、このアナログ的な場を通じて見えてきます。
相手の業務プロセスと、それを担当する担当者の顔と業務が一致すると、皆さん自身の仕事のアウトプットも高くせざると得ないでしょうし、何かあったときには一人で悩まずに、みんなで解決する。このような協力体制もアナログのメリットです。
カッコいい問題解決手法はいらない
解決策を論じる際には、我々も問題解決を効率良く進めるために、ロジックツリーをはじめ、様々な手法を取り入れます。MECEのような横文字が入るとカッコよく見えたりするので、つい真似をしたくなりますが、現場ではほとんど必要ありません。
ツールや方法論に走りすぎると、これらに頼り切ってしまったり、ちっともできていないのに、できたような気になってしまいます。その結果、どうしても小手先の対処療法ばかり出てきて、使い物にならないケースがほとんどです。
したがって、カッコいい解決手法よりも、現場が理解し進めることができる問題解決手法が望ましいです。是非皆さんも、アナログ的な場を持つことをオススメします。
自らPlan、自らDo!(考えたことを実行に移すために)
無関心な現場を当事者にするため、 "気づきのプロセス"と"自分が困るプロセス"の飴と鞭を使い分けてきました。そしてようやく、
- 自分でフローを作り現状調査を行う
- 自分で業務分析を行い、原因を見出す
- 自分で解決策を考える
ところまで来ました。
「自分で考え、自分で実行する」、その次は具体的なスケジュールを立てながら、細かくタスクに落とし込んでいきます。これが改善計画です。この改善計画も今回のテーマと同様に「コンサルティング会社や専門家がやってはいけないこと」です。なぜなら、改善計画を立てたら、やがては改善実行のフェーズに入ります。
「自らPlan、自らDo!」がポイントです。ここまで自分たちで問題発見から原因分析まで行ってきたので、「自分たちで作った計画は自分たちでやろうよ!」が原則です。
業務改善の初期段階から"当事者"としてしまうプロセスは、意図的にやらざるを得ない環境を生み出し、無関心な現場に対するレバレッジは非常に強いものがあります。
次回は、「タスクに落とし込み、改善スケジュールを立てる」というテーマで、実務寄りのお話をします。