この連載では会社で「ポエム」を書くことについて語ってきましたが、今回が最終回です。改めて、「ポエム」を書き始めた経緯と狙いをおさらいしたうえで、これまで得られた効果と、我々が直面している問題を解説し、それを乗り越えた先にある理想像についてお話します。またこれから会社で「ポエム駆動開発」を始めるための留意点をお話します。
ポエムを書き始めて長い時間がたった
ピクシブで「ポエム」を書き始めて1年以上経ちました。
そのとき当時の筆者はピクシブ社内で「ポエム」を書くことをはじめましたという会社のブログで、
まだ動き出したところで、この活動が本当に成功と言えるかは、継続してポエムを発信し続けることがキーと思っています。 わたしとしては一番積極的に書いていって、公開できる事はこちらのブログでも紹介できればと考えています。
と述べていましたが、気がつくと日々活発に使われており、もはやポエムを書くプラットフォームは私たちにとって欠かせないものになっています。
元々の目的と成果
改めて当初の「ポエム」の目的をおさらいしておきましょう。
連載第2回で述べた通り、各自の意見を容易に発信できるような場を作ることが目的でした。そして、サービスに対する熱い思いを共有できるように、いつでも立ち返ることができるようにという「ポエム駆動開発」を会社で実現しようという狙いがあり、esa.ioを「ポエム」ツールとして導入しました。
そこから、連載第3回で紹介したように、拡大する組織の中で、担当や部署、時間を超えて、考えを述べ、意見を交わすことができるようになりました。さらには連載第4回で取り上げたように、気がつくとプロジェクト管理に、相互レビューに、リリース後の効果測定結果の共有にと、幅広い用途で賑やかに情報共有や議論を支える基盤として無くてはならないものになっています。
また、ツールの機能上、時系列で投稿を遡れるため、新入社員をはじめ新しくジョインしたメンバーが雰囲気をキャッチアップしやすい効果があり、時を超えた共有ができるようになりました。
これから解決したい問題点
このように「ポエム」によっていままで以上に組織の風通しがよくなり、よりよい文化が育まれたと考えています。しかし、「ポエム」によって解決できない問題が引き続き残っています。
問題をまとめると以下の3点があります。
- もっと想いを表現する
- 厳しい問いを発し合う
- 実現をリードする
これらは、いずれもポエムを綴ることに問題があるのではなく、ポエムを書く文化のおかげで、次に解決すべき課題が浮かび上がってきたものだと思っています。
高い成果を上げるためにはどうすればいいかが問題です。
1. もっと想いを表現する
1年で約千数百の投稿と合計約一万のコメントとスターというアクティブさで使われています。しかしきちんと伝わるかたちで全員が「ポエム」として考えを表現できているわけではありません。どうしても、個人ごとに文字での表現の得意不得意や、表現する意欲の違いなどがあり、全員が一律に「ポエム」を綴るのは非常に困難です。
とはいえ社内「ポエム」に限らず、表現する力は無くてはならない技術となっています。事業/サービスをリリースする際には、人の行動を変えるプレスリリースや、アプリストアの文章を書く必要があります。
そこで、より多くのメンバーが想いを表現できるようになるために、文章表現力と表現する想いを作り上げる力を育成することは、今後事業を伸ばすために必須ものと考えています。
2. 厳しい問いを発し合う
社内の仲間たちをみるに、それぞれ事業へのこだわりとユーザへの愛着をもったメンバーが揃っています。また優しさと共感力が強いメンバーが多いように感じています。「ポエム」上のやりとりにおいても、その傾向が投影されています。
これはすばらしいことではありますが、「ポエム」として提示された想いや考えに対して共感を示すだけでなく、本当に達成すべき事柄なのかどうか問いかけることで、アイディアを厳しく洗練させることにも必要と考えています。
3. 実現をリードする
これまでは、抱えていた想いを表現する場所として「ポエム」ツールを運用してきましたが、やはり想いを出すこととそれを実現することには深い溝があるように感じています。いかなるアイディアも実現してこそです。
ピクシブは創作活動を楽しくする事業を営んでいるおり、その実現としては、より広く深くヒットする事業を実現する必要があります。そこで、アイディアを実現させるために、出てきた想いを具体的なプロジェクトとして立案・推進していくアクションが必要と考えています。
問題を乗り越えた先にある将来の理想像
前述の問題が解消されたらば、もっと次々に新しい考えが表現され、優しくかつ厳しい議論で磨かれ、実現力に溢れたプロジェクトが立ち上がり、ヒットする事業が生まれる。更にそこから新しいアイディアが湧き出てくる。そのような流れ生まれるのが将来の理想像です。
もちろんそれは簡単な事ではありません。新しい考えを発想することも、それを的確に表現することにも、技術と場数が必要です。議論にしても常にうまくできるわけではありません。たくさんの失敗を重ねる必要があります。プロジェクトはそもそも不確定なもので、結果を出すこと自体が厳しいチャレンジです。ましてヒットさせる想いが強いくても、どれだけマーケットの読みが強くても、ヒットに到達するには数々の困難があるでしょう。
しかし、いずれも我々なら問題を乗り越え、理想に達成できると確信しています。なぜなら「ポエム」を綴る文化があるからです。
「ポエム」は想いが高まった時に溢れてきます。今までにない困難に突き当たった時、どう進めばいいかわからなくなった時、きっと「ポエム」を書いて皆に伝えて、問題発見と解決ができるようになると信じています。つまり、よりもっと想いを「ポエム」として表現し、「ポエム」と真正面から向き合うことによって、ブレイクスルーを見いだすことができるようになると信じています。
「ポエム」を綴ることはもはや目的ではありません。「ポエム」によって進むべき先を見据え、「ポエム」によってプロジェクトを開始し、「ポエム」によって問題を突破していくこと。つまり、実現への力として駆動することが、これからの改めて進めたい「ポエム」活用で、そのための仕組みと文化を築けるようになるのが組織的な成長だと考えています。
これからポエムをスタートするなら
「ポエム」を書くことを取り入れたいという事を耳にするようになってきました。これから会社で「ポエム」を取り入れようとする場合、下記2点に留意すると比較的スムーズに導入できると思います。
- 普段のコミュニケーションツールに流す
- 導入を推進する人が積極的に「ポエム」を流す
1. 普段のコミュニケーションツールに流す
普段のコミュニケーションツールに「ポエム」の更新情報が流せるかどうかが最も重要です。また単に更新が流れればいいだけではなく、更新したらば即他のメンバーが気づく事ができるのが要点です。ピクシブで利用しているesa.io以外にも、Qiita:Team、GitHubなどを使った事例を聞いたことがありますが、いずれも外部ツールにリアルタイムに更新通知を発信することができます。
そこで問題になるのはコミュニケーションツールです。ピクシブではidobataを利用していますが、他にSlack、HipChat、ChatWorkなどの著名なグループチャットツールにはWebHook機能が備わっており、esa.ioを始めとする各種ツールからの更新通知を流す事ができます。もしこれらのようなグループチャットツールを利用していない場合は、まずその導入を進めて、リアルタイムに同じ情報を確認できるコミュニケーション基盤を整えることに専念すると良いでしょう。
リアルタイムで通知を流すことができるかどうかはとても重要です。「ポエム」を書くツールそのもの以上に重視すべき部分です。「ポエム」はそれが読まれたのち、反応が生まれることで繋がっていきます。
2. 導入を推進する人が積極的に「ポエム」を流す
「ポエム」が「ポエム」を呼んで、徐々に活発になります。そのためには導入を推進する人から積極的に「ポエム」を流したり、コメントをつけたりして、盛り上げを図ると良いでしょう。
しかし、導入を推進する人自身には、頑張って書いていてもなかなか反応帰ってこずに辛い思いをするかもしれません。そういう場合は、直接感想を尋ねてみるとか、返事をコメントとして書くようお願いするとかで、自分に反応が来るように仕向けるのは一つの手かと思います。
またもし可能であれば、導入の推進を1人ではなく複数人で行って、互いに反応しあうようにするのも一つの手です。
連載のまとめ
今回がこの『会社で「ポエム」を綴ろう! ~ポエム駆動で理想を語ると社内の風が変わる!~』連載の最終回です。
この連載の各回一覧ページに、この連載について、下記のように述べました。
会社で「ポエム」を書く事によって、プロダクト開発が活発化する、考えや意見が互いに語られる、新しい取り組みがスタートするなど、組織のアクティブさを増す効果が生まれます。この連載ではポエムで開発を駆動させることの良いところ(と、良くないところも)について執筆します。ピクシブにおける事例として、どのように人や社内が変わったのか、順を追って過程を解説し、今後の展望についても述べます。
連載の中では、導入の経緯から具体的な使い方、人や社内が変化したところ、次に私たちが立ち向かうべき問題まで、出来る限りの事を書いたつもりです。
この「ポエム」綴るやり方に興味を持ったならば、今一度読み返していただき、ぜひ皆さんの会社やチームでも実践してもらえれば嬉しいです。
そして、その事例を公開していただき、想いを綴る場所がある事が当たり前になっていくと良いなと思っています。